第7回 ID・名乗り・匿名性

意図する情報・無意識の情報
2010年9月4日
折田 明子
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科講師
[email protected]
twitter: oritako
(c) 2010 Akiko Orita
1
oritako 自己紹介
–
–
–
–
–
コンピュータ音楽と作曲やってました。
日本IBM(半年で退職。。)
IT戦略会議→IT戦略本部のかばんもち(慶大助手)
民主党公認候補で衆院補選に立候補→落選
その後大学で博士号取得、教員など。。
• 関心領域:
– 情報社会・学
– ID・プライバシ・ユーザの行動
• 趣味:
– #akoyaku 百人一首、古今集、カール・ポパーまで
140文字で超訳してます
(c) 2010 Akiko Orita
2
本日の流れ
• 意図しない情報発信
– 隠しているつもりでも
• 匿名性と名乗りとID
• オンラインと実空間
• おわりに
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3
ばれた。。。
Protected アカウント。。
公開アカウントからReTweetされる
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4
友達関係から。。
?
?
○○さんの知り合
いってことは…?
?
?
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5
ごはん食べながらついったー?
• 「いつ」投稿したか・投稿の有無
• 蓄積し一覧する
• 投稿した内容に関係なく
http://www.xefer.com/twitter/
6
意識的な情報と無意識な情報
• 意識的な情報発信
– ブログを書く・Twitterを書く・写真を載せる
– 位置情報を自分から提供する
– クリックで評価する
• 無意識な情報発信
– サイトにアクセスする (アクセス履歴)
– 投稿「していない」こと・「いつ」投稿したのか (時刻情報)
– 他人からの言及
– 位置情報が付加される
これらがIDに
リンクされ
識別される
• モバイルデバイスの利用
– 常に携帯する・身体性
「いつ」「どこ」という実空間情報の提供
しかも利用者は無自覚
(見かけ上匿名だし!)
7
Twitterの場合
意図的に提供
無意識に提供
他者によって
提供
静的情報
動的情報
名前
ユーザ名
居場所
ウェブサイトへのリンク
自己紹介
顔写真
フォロー数
自分が編集するリスト
(位置情報タグ)
※同意した場合のみ
投稿内容
投稿という行為
@による言及
お気に入り登録
(位置情報タグ)※
フォロワー数
他人が編集するリスト
(位置情報タグ) ※
時刻情報
投稿したアプリケーション
投稿しないこと
@ で言及される
お気に入り登録される
8
Twitter では本名ですか?ハンドルですか?誰にも
分からない名前ですか?
匿名と名乗りとID
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9
「匿名」志向の日本人利用者
ブログ運営での匿名/実名 (性別、複数回答)
女性
男性
2.4
2.5
実名
6.6
5.2
実名を推測可能なハンドル
16.5
16.1
ハンドルネーム(実名への配慮なし)
ハンドルネーム(実名への配慮あり)
56
26.4
匿名
出典:インターネット白書2007
0
10
20
30
62.1
35.3
40
50
60
出典:総務省『ブログの実態に関する調査研究』2009
ここでいう「匿名」とは特定の仮名と
一度しか利用しない匿名が区別されて
いない
ブログ運営においては「ハンドル」が主流
(匿名のブログって一体何か?)
10
70
インターネット利用時に不安なこと
平成21年末
平成20年末
70.6
ウイルスの感染が心配である
67.2
69.9
71.2
個人情報の保護に不安がある
58.6
61.7
どこまでセキュリティ対策を行えばよいか不明
40.4
40.4
電子的決済手段の信頼性に不安がある
セキュリティ脅威が難解で具体的に理解できない
33.3
33.7
違法・有害情報が氾濫している
32.5
35.5
15.4
15.6
認証技術の信頼性に不安がある
知的財産の保護に不安がある
7.8
7.9
送信した電子メールが届くかどうかわからない
6.9
9.2
2.1
その他
1.5
0.2
無回答
0.1
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
(出典)総務省「平成21年通信利用動向調査」
11
個人情報保護の対策
世帯における個人情報保護対策の実施状況
平成21年末
平成20年末
69.3
何らかの対策を実施
70.4
23.0
何も行っていない
23.7
7.7
無回答
5.9
0.0
10.0
20.0
30.0
40.0
50.0
60.0
70.0
80.0
世帯における個人情報保護対策の実施状況(複数回答)
平成21年末
平成20年末
46.7
掲示板等のウェブ上に個人情報を掲載しない
45.2
37.4
軽率にウェブサイトからダウンロードしない
35.3
26.7
懸賞等のサイトの利用を控える
26.7
25.0
クレジットカード番号の入力を控える
24.5
19.0
スパイウェア対策ソフトを利用
18.4
2.0
その他の対策
(出典)総務省「平成20年通信利用動向調査」
2.2
0.0
5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 50.0
12
携帯ブログ利用の動機と不安 (N=444)
多重回答・一般携帯 (N=265)スマート (N=179)
利用動機
• 情報取得目的
– お得な情報の取得(44.6%)
– クチコミ情報の取得(43.9%)
– 友人の様子を知る(38.7)
• 情報発信目的
– 自分の行動や情報の記録
(44.8%)
– 友達に知らせたい (24.5%)
– クチコミ投稿 (7.4%)
利用の不安
• 不安の大きいもの
– 迷惑メール・詐欺メール(48.2%)
– 個人の特定 (35.8%)
– クレジットカード・銀行口座の悪用
(30.4%)
• 不安の少ないもの
– 健康状態がわかってしまう
(5.4%)
– 買い物をしたことがわかってしま
う(7.7%)
– 自分が買ったものや内容がわか
ってしまう(9.5%)
KDDI総研&慶應義塾共同研究 モバイルデバイス利用者調査(2009)より
携帯ブログに登録する情報
登録している情報
発信している情報
• 多いもの
–
–
–
–
–
• 多いもの
ハンドル(ネットのみ)(67.6%)
年齢 (55.0%)
趣味 (47.5%)
生年月日(45.5%)
血液型 (45.3%)
• 少ないもの
– 電話番号 (4.5%)
– 所属 (8.8%)
– 実名 (9.2%)
– 日々の行動 (61.5%)
– 旅行の記録 (34.5%)
– 情報発信しない (28.2%)
• 少ないもの
– 購入・取引記録 (5.9%)
– 健康状態 (9.7%)
個人情報として
認識されているか
KDDI総研&慶應義塾共同研究 モバイルデバイス利用者調査(2009)より
「個人を特定されたくない」不安を持つ層 (N=159)
自分から提供する情報
• 多くが公開している
–
–
–
–
–
–
ハンドル(ネットのみ) 78.0%
日々の行動 68.6%
年齢 61.0%
趣味 55.3%
血液型 52.2%
旅行の記録44.0%
• あまり公開していない
–
–
–
–
–
電話番号 6.3%
実名 8.2%
ブログを書かない 8.2%
プロフ登録しない 7.5%
所属 10.1%
利用する動機
• 多くの人の動機
– 自分の行動や情報の記録
53.5% (44.8%)
– クチコミ情報の取得 53.5%
(43.9%)
– お得な情報の取得 51.6%
(44.6%)
• 少数の動機
– クチコミを投稿する 13.2%
(7.4%)
KDDI総研&慶應義塾共同研究 モバイルデバイス利用者調査(2009)より
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15
位置情報の提供に無自覚?
一般携帯 (N=265)スマート (N=179)
「今いる場所の情報が知りたい」が「位置情報サービスを知らない」 (28.2%)
(知りたくない→ 45.6% ) カイ二乗検定1%水準で有意
「オトクな情報」「穴場的情報」では有意差なし
KDDI総研&慶應義塾共同研究 モバイルデバイス利用者調査(2009)より
匿名とは
• 「匿名」
– 自分の名前を隠して知らせないこと。また、本名を隠して
ペンネームなどの別名を使うこと(大辞泉)
– ラテン語:An (無) + onym (名前)+ ity (抽象名詞語尾)
• オンラインの匿名性
– 視覚的匿名性 (Visual Anonymity)
– 程度を持った状態
– 二元的にオン・オフに切り替えるのではなく程度を持つ連
続的な変数(Nunamaker,1991)
– コミュニケーションの参加者が、メッセージの出所を不明・
不特定なものとして知覚する度合い(Anonymous(Scott),1998)
17
陥りがちな二項対立
匿名であるべき!
実名だと自由に
意見を言えない。
身の安全も守ら
れない
実名であるべき!
匿名性によって身元が秘匿される
Social Cue(社会的手がかり)の減少
自己開示の促進
・内部告発や相談の障壁が下がる
・プライバシーの確保
ステレオタイプの回避
機会の平等化
例:いじめ相談
好ましい影響
実名なら発言に
自信を持てる。
誹謗中傷も起こら
ない
脱抑制的コミュニケーション
集団極性化
・違法行為の障壁が下がる
背景やコンテクストの不足
・必要な背景情報が得られない
例:ネットいじめ
好ましくない影響
同じ特徴が異なる文脈で違う影響をおよぼしてるだけ
18
ネット上のIDとその表出
• 本人(非)到達性(Un-)Traceability: 基本情報
などによってある人物がだれであるかを特定で
きるかどうか
• リンク可能(不能)性(Un-)Linkability : 複数
の行為が同一人物であると関連づけられるかど
うか
(Nissenbaum,1999),(Pfitzmann &Hansen,2010)
• 匿名性のレイヤ:誰の観点から見た匿名性なの
(谷口ら,2006) (折田,2009)
か
19
1. 本人到達性「誰なのか」
• 「戸口に立つ」(Nissenbaum,1999)
• 本人到達性
匿名化
– 本人の特定を避けるために実名および特定につながる情
報(基本四情報など)との関連付けを秘匿する
• 到達性の程度を決める要素 (Kobsa,2003)
– ユーザの数・規模
• 例:満足度アンケート
– 多様性
• 例:男性が一人だけのグループ、全員女性のグループ
– 対象に対する事前知識
• 例:A氏とB氏/O氏とT氏
• 例:誰とつながっているか Follow/Follower
20
Twitterと本人到達性
• 意図せず提供する事前知識
– 誰とフォローしあっているか?
• 相互フォローしている人たちを洗い出す
• ○○クラスタ?
– 誰にリストされているか
• 実名は隠しているけれど「SFC関係者」リスト
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21
2.リンク可能性「同一人物なのか」
低い匿名性
高い匿名性
投稿
投稿
投稿
行動
匿名希望
投稿
匿名希望
投稿
匿名希望
購買
行動
投稿
投稿
匿名希望
匿名希望
仮名
仮名
同一人物かどうか識別できる
同一人物かどうか識別できない
リンク可能性
リンク不能性
Pfitzmann&Hansen (2010), 大谷(2008)
22
Twitterとリンク可能性
• 日々の投稿! - > 同一人物として蓄積されて
いる
– 投稿する・しない
– いつ投稿する
– 投稿している内容
• プロフィールとのリンク
– 別のサイトとのリンク
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23
こう思われてきた匿名性
実名や現実(リアル)に誰だかわかる
実名
匿名
実名や現実(リアル)に誰だかわからない
24
24
二つの軸で分類する
実名や現実(リアル)に誰だかわかる
本人到達性
同
一
人
物
だ
と
わ
か
匿名
ら
名無しさん
な
匿名・使い分け
通りすがり
い 志向
(N=126, 24.3%)
消極的実名志向
(N=126, 24.3%)
実名
リ
ン
ク
可
能
性
筆名
ハンドル
ニックネーム
一貫した仮名
志向
(N=266,51.3%)
同
一
人
物
だ
と
わ
か
る
実名や現実(リアル)に誰だかわからない
折田明子「ネット上のCGM利用における匿名性の構造と設計可能性」 情報社会学会誌Vol.4 No.1
25
25
IDとは
• ID
– 身分証明、IDカードなど
• Identity
– 同一であること。他のものではなく、本人であること。
– ラテン語:Identias: Identi (同じ) + ty (形容詞)
– 自己が環境は時間の変化にかかわらず、連続する同一の
ものであること。主体性、自己同一性 または 身分証明(
大辞泉)
• Identifier (identify)
– 識別子 (同定する)
26
匿名性とレイヤ:名乗りとID
匿名性による自己開示と、IDによる行動集約
名乗り
ユーザ間
ID
サービス登録
ID
身分確認
実名
匿名
仮名
ユーザ登録
IP Address
登録無し
Email Address
クレデンシャルレベル
支払い情報
身分証
27
オンラインと実空間
(c) 2010 Akiko Orita
28
例:ケータイで毎日ランチについて書く
• こんな情報を提示している
– 時刻・時間: その場で書いて投稿する
(←→自宅に帰ってからパソコンに向かって投稿)
– 場所:店の住所、写真のジオタグ
– 写真:何人分か?性別は?好物は?
– 同行者は? @で言及
• この情報が数日・数ヶ月積み重なる
– 「3日も書いていない。何かあったのか?」
– 毎週水曜日は遅めのランチを渋谷近辺で食べる
• ランチ「なう」 と ランチ「だん」
29
睡眠:自分で意識的に記録する
http://www.hayaoki-seikatsu.com
意識的に記録する情報を、蓄積し、傾向を見せる
30
睡眠:Twitterのパターンから推測する
http://www.sleepingtime.org/
投稿時刻、タイミングから推測する
31
オンラインと実空間とID
「どこの誰か」=本人到達性よりも
「同一人物か」=リンク可能性が重視される
ネット上の別人格ではなく、現実の生活とのリンク
• 二つの解釈
– 楽観的:「誰なのか」がわからなくてもよい
– 悲観的:いったん別の情報と関連づけられると、芋づる式に個
人が特定されうる。
オンラインコミュニケーションから、実空間とライ
フログへ
32
楽観的:IDで識別された実空間情報の活用
• 「誰なのか」は明かさずにサービスを受ける
– 毎朝9時に○○駅を通る人にクーポンをサービス
– 「この本を買った人はこの本を買っています」
– 性別も名前も明かさない
• 自分が自分のために情報を使う
– 毎日のライフスタイルの蓄積に合わせたサービス
– ほかのユーザの「データ」だけを使う
• 自分と他人のためになる
– 天気予報、渋滞予想
33
例:ウェザーニュース
有料会員登録の後、「リポーター」になる
夏には「ゲリラ豪雨防衛隊」
34
悲観的:とりかえしがつかない時代
• 個人は大量に自分の情報を提供している
– 意識的な情報・無意識な情報
– 他人によって自分の情報が浮かび上がる
– IDにリンクされる情報
• オンラインに存在するデータを個人が扱える
– クラウドコンピューティング
• データとストレージと処理能力がもたらされる
– Open Government など活用の道筋
– 意図を持った情報集約
• デジタル情報は揮発しない
– 揮発すると「思い込んで」使っていないか?
35
自分の情報を把握しきれない
• Facebookのプライバシポリシ
– SNSどころか米国憲法より膨大
• 公開される情報の種類と公開対
象の変遷
– 利用者は把握しきれているのか?
2005
出典:2010.5.12 New York Times
2010
36
まとめ
• Twitterから見えてくるモノ
– オンライン(ネット上)・オフライン(実空間)を問わず集約さ
れ・蓄積される行動
– 「実名」を隠していても「仮名」ですよ
• 一つのIDに蓄積される
– 意図せずとも互いに役立てる
• データの集積と識別するID
• 利用者視点の匿名性とサービス視点のIDの違い
– 利点を活用し、欠点を低減するサービス設計、利用方法
(c) 2010 Akiko Orita
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二つ宣伝
• 情報社会学会主催 http://www.infosocio.org/
第3回知識共有コミュニティワークショップ
2010年12月18日(土) 龍谷大学 開催
(10月8日 論文〆切)
第3回楽天技術開発シンポジウムと東西共同企画あり
招待講演: 長尾真 国立国会図書館館長
• ドレスデン工科大学 Pfitzmann教授編纂
Anon Terminology v0.34 日本語リスト 公開
(c) 2010 Akiko Orita
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