1 ブータン概観

ブータンの
良い所
①現代の政治
民主化プロセスの独自性
特にアジアでは,経済発展をしてから民主
化へとシフトしていった国々が多い。しかし
ブータンはその逆を行っている。IMF(国際
通貨基金)の統計によれば,ブータンの11
年GDPは約14億ドル,ひとり当たり2000
ドル程度。経済規模では“最貧国”に位置
する国がすでに民主化しているというのは,
世界でもまれな例です。
第3代国王ジグメ・ドルジ・ワンチュク
1952年
段階的に絶対王政から立憲
君主制へ移行すべきとの方
向性を示した(トップダウンの
民主化の開始)。
1971年
国際連合への加盟を実現さ
せた。
第4代国王ジグメ・シンゲ・ワンチュク
2006年に長男の現国王に譲
位し,国王を退任した。現在は,
自由に行動できるようになっ
たことで,民衆の生活を自らの
目で見るため,国内を巡り歩い
ている。
• 開明的な国王として知られる。国民総生産(GNP)で表される経
済的・物質的な豊かさではなく,「心の豊かさ」による幸福(国民
総幸福量(Gross National Happiness GNH))を目指すべきである
という国家ビジョンを打ち立て,国際社会に大きな衝撃を与えた
。
• 第3代国王からの,国王の権力縮小をさらに推し進め,民主
化や近代化政策を推進し国の発展を導いた。とくにトップダ
ウンの民主化は,世界史史上,大変異例である。
私たちは世界で2周遅れの
ランナーであってもいい
国のGNPを競うより,国民が幸せであってほしい
第4代 ブータン国王
第5代国王・ケサル・ナムゲル・ワンチュク
2006年,26歳で王位継承した後,
数年間はインド以外の外遊はせず,
国民との対話及び国内情勢把握の
ため,国内各地を巡幸した。
• 英国オックスフォード大学留学中
に「日本・ブータン協会」を自ら設
立した親日家。 2011年3月12日 東
日本大震災の翌日に国王主催の
「供養祭」を全国で挙行し,18日に
は義援金100万ドルを,日本に贈
った。
•2011年11月,結婚したばかりのペ
マ王妃とともに震災後初の国賓と
して来日,被災地のほか,東京・京
都などを訪れた。
②豊かな自然
標高差
土地利用への影響
万年雪,氷河の覆う地域(高山地域)
高山地域
高山地域の産物
冬虫夏草
国獣・ターキン
ヤク
針葉樹林(冷涼地域)
農業地域(温暖地域)
農業地域(温暖地域)
広葉樹林(温暖~亜熱帯地域)
マンゴー(亜熱帯地域)
自然保護地域,国立公園
市場で様々な作物を売る農家の人々
リンゴ
トマト
様々な果物
市場で様々な作物を売る農家の人々
ワラビ
米
市場で様々な作物を売る農家の人々
ヤクのチーズ
③教育
ある学校の4年生~8年生(中2)の時間割
幼稚園段階からのディスカッション教育導入
低学年からすべての教科を英語で教える
上級生が年下の子供の面倒を見る体制
真剣な授業への取り組み
ディグラムナムジャ(Driglam Namzhang)の精神
「ディグラムナムジャ(Driglam Namzhang)の精神」は学
校でも学ぶ礼儀作法で社会人としての基本的マナーのこ
と。「Drig」は調和,「Lam」は身のこなし,「Nam」は秩序・
制度,「Zhang」は保持を意味する。教養のある人間の振
る舞いに関する規則や規律の事で,着物の着方,食事
作法,挨拶・振る舞い,儀式,寺院への入り方,などが細
かく定められている。
④保健・医療
2011年の現代医療施設の実態
医師:181人
病院:31
診療所:181
民間病院: 38
現代医療施設の分布
• ブータン国内では現代医療も伝統医療も医療費は
基本無料(外国人旅行者を含む)。ガンなどの手術
費用も無料。治療できない難病の患者は国費で隣
国インド,タイの病院に送られる。
現代医療の総合病院
伝統医療の医師(アムチ)
伝統医療の現場
伝統医療は,チベット医学と
インドのアーユルヴェーダ医
学の両方からの影響を取り
入れ,ブータンの風土に根ざ
して発展したもの。薬草など
による治療を行う。
アムチの薬草による結膜炎治療
現代(西洋)医療と伝統医療が併存
2008年公布憲法の9条には国の健康政策について『
政府はすべての国民に対して,近代医療・伝統医療
の両方において,無料の医療サービスを提供する』と
いう規定がある。この条文のポイントは2つあり,1つ目
はすべての医療サービスは無料だということ。2つ目
は,現代(西洋)医療と伝統医療が対等にお互いを補
完しあうものとしていることである。伝統医療も現代医
療と同じく,すべて国の管理下に置かれ,目下のとこ
ろ民間の医療サービスは存在しない。
急性の病気や外傷には現代医療(西洋医学),風邪,
下痢など軽い病気や,リウマチ,高血圧など慢性的な
病は伝統医療(チベット,ブータン医学)にかかる傾向が
ある。また若年者は現代医療に,高齢者は伝統医療に
頼る傾向がある。
現代医療を支える医師・看護師
海外からのボランティアスタッフも
現代医療の現場
人工透析
動物医療
•飼い犬,猫,鳥,
牛などの家畜,捨
て猫・犬,野生の
馬や鹿……どんな
種類でも,どんな
病気でも,怪我で
も無料。
世界で唯一の「禁煙国」
• ブータンでは2004年12月(第4代国王の時)から,
環境と健康を重視して,国を「禁煙国」とする世界
初の政策がとられている。
• 現在,公共の場所での喫煙およびタバコの販売が
違法となっている。
• 外国人は,入国に際して一人1カートンの持込が
許されているが,200%の税金が請求される。ま
た喫煙場所も人目に触れないプライベート空間,ホ
テルの自室に限られる。
• 2011年からの新禁煙法では,警察が家の中を捜
査することが許されており,たばこを販売した人や
,税関を通過した証明のない外国のたばこを所持
している人は実刑判決(禁錮5年)を受ける可能性
がある。
予防接種の普及率
医療費
GDP
⑤伝統への取り組み
伝統工芸
13のブータン伝統工芸協会が,伝統工芸の維持・保全に
関する教育プログラムを定期的に実施している。
全生徒に義務付けられる母語・ゾンカ語の授業
仮面舞踊
王立舞踊歌劇学院(文化局傘下) - 教育訓練のほか,
仮面舞踊,民俗舞踊,宗教音楽,民族音楽,民話に関す
るテーマおよび無形価値の保全・振興を国レベルで行っ
ている。
地域の祭り
地域文化担当官が,地域の祭りの企画のほか,地域レベルで無
形文化遺産の保護にあたっている。
学校の制服に採用が義務付けられる民族衣装
公的な場で着るフォーマルな服装は民族衣装
民族舞踊
⑥信仰
世界で唯一チベット仏教(ドゥク・カギュ派)を国教とする国家
学校では毎日の各授業前に短時間,瞑想する。また毎朝
礼で読経,放課後お祈りを行う。
子供たちは心を落ち着かせて勉強に専心できる
町や村の各所には,マニ車が置かれる
マニ車は内部には経文
がセットされていて,そ
れを1回回すことによっ
てそのお経を1回読んだ
ことになるというある意
味便利なもの。大きさは
大小さまざまで,お寺以
外の宗教関係施設や道
路沿いなど様々な場所
で目にすることができる
。川のある場所では水
流でひたすら回り続ける
マニ車もある。
人々は,町や村の各所にある仏塔(チョルデ
ン)を,日々訪れる
毎日の日課と
して多くの人
が訪れる。基
本的に周囲を
時計回りに周
回することで
徳を積むこと
ができるとされ
る。
仏教の「足るを知る」の教え
•ブータンのチベット仏教では,「足るを知る者
は富む」とされる。そのため「周りに困ってい
る人がいたら,自分だけ幸せにはなれない」
ため常に助けあう。そして「人生は業でつな
がり,それに反することはできないけれど,最
善を尽くして,あとは「あるがまま」を受け入れ
る。GNHもこの教えからきているものである。
街にはやたらと野犬が多い。よく見ると首輪がない。
人々は,仏教の教えで
ある「輪廻転生」を信じ
ている。そのため蠅も
蚊も殺さない。とくに犬
は必ず人間に生まれ
かわると信じられてい
るため,野良犬が基本
である。
Relation(友情)の壁画
ゾウの上にサル,サル
の上にウサギ,ウサギ
の上にキジが乗ってい
るこの絵は,町や村の
建物や寺院など各所
でみられる,仏教の中
の「友情と尊敬のシン
ボル」である。
祖母の手を引く孫
仏教の教えに根ざした暮らし
ブータンにおいて仏教は,政治・経済・社会の中心に位置し,民
衆の日常生活の隅々にまでふかく浸透し,ブータン人の世界観・
価値観を形成している。仏教の教えを基盤にした生活が営まれ,
人々は少しでも良い境遇で次に生まれ変りたいと願い,「祈るこ
と」と
「徳を積むこと」に心を傾ける。
ブータン社会には,社会が発展していくのにプラスにならない階
級制や身分制度はない。奴隷制も,1950年に廃止されている。ブ
ータン社会で大切にされていることは,ゾンや公共施設へ行くと
きにはスカーフを着用する年長者や僧を優先する祝い事の際に
スカーフをプレゼントする年長者や僧に挨拶をする,と言った伝
統的なエチケットと,自然への畏敬と共生,人々への愛,互いに
助け合い・わかちあう,などの仏教の教えに根ざして暮らすことで
ある。