日語誤用分析 (大学院) 4月11日(月・一)~ 担当 神作晋一 第6章 文法を教えることに効果 はあるのか 1.意識的に得られた知識と無意識的な知識とは 2.意識的な学習はコミュニケーションに役立つ知識に なるか 3.教室での学習の役割 4.理解可能なインプットだけでは習得が難しいもの 5.目立ちやすさや余剰性は母語によって異なる 6.教えたことがそのまま習得されるわけではない 7.教室でのインプットに注意を払おう 8.インプットからしか習得できないもの 9.習得環境による教室の役割の違い 第6章 文法を教えることに効果 はあるのか クラッシェンの理論 「理解可能なインプットのみで言語が習得され る」 「意識的に学習した知識は習得された知識に 変わることはなく、自然なコミュニケーションで は役に立たない。 教室で外国語、特に文法を学習することに 効果があるのか。どのようなものか。 1.意識的に得られた知識と無意 識的な知識とは 1.意識的に得られた知識と無意 識的な知識とは クラッシェンの理論 意識的に学習された知識は習得に結びつか ない。 例:英語「三単現の-s」、日本語「『は』と『が』 →教室で教わっても自然なコミュニケーション ではできない。 母語の習得場面 1.意識的に得られた知識と無意 識的な知識とは 「暗示的知識」 implicit knowledge 習得 「明示的知識」 explicit knowledge 学習 無意識的な知識 母語話者が母語について持っている知識 意識的に学習され、分析や説明ができる知識 (明示的知識が)役に立つのか (役に立つなら)どのように役に立つのか →論点になっている 2.意識的な学習はコミュニケーシ ョンに役立つ知識になるか 2.意識的な学習はコミュニケーシ ョンに役立つ知識になるか 「ノン・インターフェイスの立場」non-interface 「インターフェイスの立場」 「学習」と「習得」の間にはインターフェイス(接点) がない立場 →学習された知識は習得に役立たない 自動化モデル 第二言語学習の知識は必ず意識的に学習された ものから始まる 両極端なもの→ 2.意識的な学習はコミュニケーシ ョンに役立つ知識になるか 両極端なものなので、多くの研究者は中間の 立場をとっている。 例:「学習」された知識でも練習したり何度も使っ たりすることで「習得」される 例:「学習」された知識はインプットからの自然な習 得が起こるための助けになる →「学習」された知識もなんらかの形で役に立つと 考える 3.教室での学習の役割 3.教室での学習の役割 「教室習得」 「自然習得」 教室に通ったり教科書などを使ったりして第二言 語を学ぶこと 生活や社会での自然なコミュニケーションを通して 第二言語を学ぶこと →「混合環境」にいる 程度の問題 (教室習得でも)教室の外で学習 (自然習得でも)本で勉強することも 教師が教えたこと以外の自然習得も起こる 3.教室での学習の役割 これまでの研究の成果 教室での指導は 習得の順序や発達の道筋を変えることはないが、 習得の速度を速め、最終的に習熟度へ導く 教室外でも自然なインプットが豊富にある場合に、 特に効果が高い。 3.教室での学習の役割 これまでの研究の成果 教室での学習は インプットの理解だけでは気づきにくい形式や規 則への気づきを促進 学習者の注意を言語形式に向けさせる効果 「学習された知識はインプットからの自然な習 得の助けになる」 明示的知識(学習された知識)は今まで気づかな かったインプットに気付かせてくれる効果がある 3.教室での学習の役割 今後の研究の焦点 教室での学習でどのように学習者の気づきを 促すか。 どのように言語形式に注意を向けさせるか ⇒具体的には第7章で 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの インプットの理解だけでは気づきにくい形式や 規則への気づきを促進し習得を助ける しかし インプットやインターアクションがあっても習得 されにくい言語項目もある ⇒言語項目とその要因 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの ■目立ちやすさ(際立ち:saliency) よく(際立って)聞こえるものとそうでないもの 言語形式の音素の数、母音の有無、ストレス(強 調:アクセント)が置かれているかなど 文頭・文末>文中 日本語:終助詞の「ね」や「よ」など 気づきやすさ Drinkingの-ing⇒音素も多く、母音も入っている Drinksの-s⇒音素も一つで、母音もない 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの ■目立ちやすさ(際立ち:saliency) 例:「~だけ」と「~しか」 英語only ⇒「しか」は聞かない? 母語話者の会話で「だけ」>「しか」となっている (上村1997:上村コーパス) 聞こえにくい理由 ⇒「だけ」:濁音「だ」、「3人だけ?」 ⇒「しか」:無声子音(shとk) 母音の無声化 ※「しか~ない」(否定との呼応、複雑) ※あまり ~ない 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの ■余剰性・冗長性(redundancy) どうしても必要な要素 それがなくても意味の伝達ができる「余剰な」要素 例:three apples 青の部分だけで分かる 例:きれい(だ)と)思います。 余剰性の高い言語形式は気づかれにくい Cf.「~いいだと思います」 指定の助動詞、判定 詞 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの ■使用頻度 頻度が高い⇒習得されやすい 頻度が低い⇒習得されにくい 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの 使用頻度の影響の例 「何について話しているのですか」 A:What are you talking about? B:About what are you talking Aと答える人が多いが 実はBの形式の方が諸言語に多い フランス語:De qu'est-ce que vous parlez? スペイン語:De qué está hablando 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの 使用頻度の影響の例 実際の調査ではAの方が習得されやすいという 結果 A:What are you talking about? B:About what are you talking Bの方が「普通」だが、使用頻度の影響でAに 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの 使用頻度の影響の例 使用頻度の多さ(偏りから) 「かたまり」として認識 独自の体系を形成 ⇒インプットの使用頻度に敏感→影響がある 条件が同じという注釈つき 目立ちにくさ、余剰性なども考慮 4.理解可能なインプットだけで は習得が難しいもの ■そのほかの要因 その形式の形や意味の規則性 (例外が少ないかどうか) 意味の複雑さや持つ意味の多さ 同音異義語の多さ 5.目立ちやすさや余剰性は母語 によって異なる 5.目立ちやすさや余剰性は母語 によって異なる 母語による違い 例:単数と複数 イギリス人にとっては(区別がないことに)驚き 「ひとつ」「たくさん」などの副詞でわかる 複数形の-s、三単現の-s 「なくてもいいんじゃな い?」 5.目立ちやすさや余剰性は母語 によって異なる 母語に近いものがあるかどうかが影響 →母語にないルールは気づきにくい 例:「電気がついている/つけてある」 →インプットの理解だけでは難しい →似たような概念があれば困難ではない 例:「ある」と「いる」 有生性(生物か無生物か) 例:英語 whoとwhich itの使い方 例:中文 「他/她/它」の使い分け 6.教えたことがそのまま習得さ れるわけではない 6.教えたことがそのまま習得さ れるわけではない インプットだけでは習得されにくい形式 →気づきにくいことを気づかせる →そこから知識を得る →習得を促進 教室で教えたことがすぐに習得されるわけ ではない →(言語形式を教室で教えること)その後の習 得につながる道を用意するもの 6.教えたことがそのまま習得さ れるわけではない 例:フランス語母語話者の英語文法項目の指導 疑問文と副詞の指導とテスト 直後と5週間後のテスト:両者とも効果が続く その後↓ 副 詞:1年後のテストでは消えてしまった 疑問文:6か月後のテストでも指導の効果が続く この結果の差は? ⇒その後インプットがなかったり使ってなかったから ではないか 6.教えたことがそのまま習得さ れるわけではない 言語習得は足し算式のものではない ⇒新規の項目は習得プロセスのスタート ⇒教えた項目をどうフォローするか、その後の学習 者のインプットに注意を払うべき 挙動不審 7.教室でのインプットに注意を 払おう 7.教室でのインプットに注意を 払おう 教師によるインプット ティーチャー・トーク:teacher talk 学習者が分かるように調整された話し方 例:初級のクラスでは既習語彙・文型を使用 シンプルにしすぎないように 例:「『~んです』無ししゃべり」 どこへ行ったんですか/どこへ行きましたか ※「のだ」の意味 7.教室でのインプットに注意を 払おう 使う表現を必要以上にコントロールしない インプットにふれる機会を作る 教えたもので話す>分かるように話す 簡略化されたインプットの功罪 理解の助けにはなる(+) 言語習得には貢献しない(ー)、 必要なインプットにふれる機会の減少(ー)、 自然な使用からは程遠い言語表現(ー) ⇒理解可能なインプットは「すべての語彙や表現が 理解できるインプット」ではない i+1 7.教室でのインプットに注意を 払おう 教室外には未知の表現や語彙がたくさん 理解できるものばかりでは進歩しない 教室でどのようなインプットをしていくか ⇒教室でのインプットやインターアクションが貴 重である。 ⇒教室での言語使用の工夫 8.インプットからしか習得できな いもの 8.インプットからしか習得できな いもの インプットの中で無意識に学んでいくもの ⇒明示的知識の限界 「文法指導は単純な規則には効果があるが、 複雑な規則には効果がない」 例:三単現の-sは単純、冠詞(a the)は複雑 ⇒明示的に教わっても効果がない Cf.日本語「お~」と「ご~」 8.インプットからしか習得できな いもの ⇒明示的知識(文法指導)の限界 言語の研究者が説明できることは一部だけ ⇒教えられることはまたその一部 例:「は」と「が」、「と」「ば」「たら」「なら」、「~ んです(のだ)」の無数の研究 教師の限界 インプットの中で自然に学ぶしかない部分 が多い 8.インプットからしか習得できな いもの 文法的な正しさとは別の要素 Native-like selection(母語話者らしさの選択) ○I want to marry you.(あなたと結婚したい) ×I want marriage with you.(結婚がほしい) ×It is my wish that I become married to you.(結婚が望みだ) ×の部分は奇妙な言い方 (ジョークとしてとらえられることもあるが…) 8.インプットからしか習得できな いもの 「直感」のような知識 母語話者は母語習得の過程で身につける 第二言語話者もインプットからしか得られない 文法や語彙をたくさん覚えてもそれだけでは 十分ではない ⇒自然なインプットに大量に触れる 9.習得環境による教室の役割 の違い 9.習得環境による教室の役割 の違い 教室学習の役割の違い(国内と海外) 「第二言語としての日本語」 JSL学習者 (JSL=Japanese as a second language) 日本で、コミュニケーションとしての手段(学習に は有利) 「外国語としての日本語」 JFL学習者 (JFL=Japanese as a foreign language) 海外など日本語使用のない環境(大多数) 9.習得環境による教室の役割 の違い JSLとJFLの違い ⇒まだ一般的な定説は出ていない 要因はちがっている 教室外での日本語使用 インプットの量と質 アウトプットの必要性 正確さの志向 モチベーションMotivation(動機づけ)の違い 9.習得環境による教室の役割 の違い JSLの学習者 教室外でも日本語に多くふれている ⇒教室以外でのインプットが多くなる 例:学習者自身へのもの、周辺でのやり取り ⇒教室外での習得やインプットからの気づき を得られるように考えてみる。 教室でしかできないこと、教室だからできること 例:経験の共有など 9.習得環境による教室の役割 の違い JFLの学習者 教室外での日本語(インプットやインターアクショ ン)は少ない ⇒インプットから気づきを得、明示的知識がし習 得を助けるのは(JSLと)同様。 ⇒インプットに注意を払う 自然なインプットに触れる機会を増やす 自習教材: 動機づけ:ドラマやアニメ、日本人と交流 教室の中で、学んだことに触れられるインプット を増やす。 ※教室がより重要 第6章のまとめ 1.教室での指導 まとめ 2.明示的知識 インプットの理解だけでは気づきにくい形式や規則 への気づきを促進し、学習者の注意を言語形式に 向けさせる効果があり、学習された知識はインプット からの自然な習得の助けになる 3.インプットの継続 習得の順序や発達の道筋を変えることはないが、 習得の速度を速め、最終的に習熟度へ導く 教えた後、インプットに触れなければ学習効果は続 かない 4.インプットからしかできないもの 文法指導の限界がある
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