日本の都市を対象とした概観:日本の都市 再開発,スラムクリアランスの歴史と現状 • 都市計画の段階的発展と都市政策 の対応 • 戦争,戦災の影響 • 都市貧困層の居住地区形成の特徴 • 都市貧困層による都市社会運動 • 研究・調査から実践へ:居住支援, 生活支援の試み スラムクリアランスの歴史 1. スラム=貧困層の低水準住宅地区のこ とをさす。都市病理的な意味は含めな い。 2. 日本の都市貧困層 A:被差別部落民(総人口の1%) B:日雇い労働者 C:零細工場労働者 D:朝鮮人(最大400万人1944年), 沖縄人(40万人) スラムクリアランスの歴史(続き) • • • 被差別部落民:封建時代から 被差別部 落,地理的な固定 工業化にともなう1900年代より,都市貧 困社会の登場(都市細民) 都市下層社 会を対象にした多くのルポルタージュ 低水準住宅地区の大量の登場(都市計 画不在の時期,日本の都市計画法1919 年制定) 木造長屋(1階建て,後に2階建 て), スラムクリアランスの歴史(続き) • 1911年に日本で最初の都市細民調査 • 1920年代,社会調査の熱狂 都市細民 • 1921年,日本初の都市細民調査(東京,大 阪,名古屋,京都,神戸,横浜) • 1923年関東大震災(東京,横浜)後に,震災 復興事業(1923年から1930年まで),火災消 失地区の大規模な,土地区画整理事業(大 都市改造) スラムクリアランスの歴史(続き) • 国営の住宅会社の登場 1924年「同潤会」, 内務省社会局のバックアップ(1920年より) • 1925年,全国都市不良住宅地区調査 • 1925年 同潤会による,実験的なスラムクリアラ ンス 東京 鉄筋アパート3階5棟 • 1927年 不良住宅地区改良法 スラムクリアランスの歴史(続き) • 1928年から1941年にかけて,東京,大阪, 名古屋,横浜,神戸で17地区,4000戸余り のスラムクリアランス • 1919年都市計画法施行以降,1920年代後 半から郊外では,土地区画整理事業が一 斉に展開,郊外にスラムは生まれず,イン ナーシティに集中 スラムクリアランスの歴史(続き) • 1937年の日中戦争以後,社会事業や都市内 都市計画事業は事実上中止(特に1939年以 降) • 1943年,インナーシティの建物疎開,7万世帯, 30万人分の建物が強制的に都市から撤去 • 1945年3月9日から8月14日までの,米軍によ る都市爆撃,110都市,250万千世帯,1000万 人分の建物焼失(40%の市街地を失う) 都市貧困社会の様相 • 部落(被差別部落民),木賃宿街or簡易宿所街 (日雇い労働者,都市雑業層),朝鮮人街,水上 生活者 • 都市貧困社会の不満の爆発,1918年の米騒動, 都市街頭での大規模都市騒擾 • しかし,ベースは,上からの政策,都市社会政策 の登場,内務省社会局,および大都市政府 特 に大阪市 • 1919年からの都市社会事業は注目に値する • 職業紹介所,無料宿泊所,市営住宅,託児所, 質屋,市民館,方面委員(民生委員),大量の社 会調査 都市貧困社会の様相(続き) • 全国水平社1923年 被差別部落民の運動 結社,住宅改善要求よりも,差別糾弾路線 が主流 • 水平社運動に対抗して,内務省社会局は, 1925年より融和事業10ヵ年計画,小規模 の部落内,スラムクリアランス開始 • 朝鮮人には,内鮮融和事業,無料宿泊所 の提供 戦後の都市改造,都市再開発 • 1946年から1959年にかけて,戦災復興事 業 110都市に。戦災焼失地の土地区画整 理事業,区画的にはまったく新しい市街地 に変貌 • この事業過程において,大量の不法占拠 住宅地がインナーシティエリアに発生,ス ラムの復活 • このスラム:都市雑業層,部落民,朝鮮人, 沖縄人の割合が高かった。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • 1951年に,公営住宅法の成立,第1種住宅, 第2種住宅 後者は,低収入世帯をター ゲットに but スラムクリアランスではない • 1955年に国営の住宅供給会社の日本住 宅公団が設立,郊外のニュータウンにア パートを大量に建設 5000人から15万に規 模まで 大阪の千里ニュータウン13万人, 1959年より開発開始 ホワイトカラーを対 象。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • 部落民の動き:全国水平社を継承して,1946年 に部落解放委員会,後の部落解放同盟が結成。 1950年代はじめから,経済更生運動と,住宅要 求運動をはじめる。 • 部落のスラムクリアランスの開始,1952年から • 低額予算でなかなかクリアランスがすすまない ので,1958年より全国的な要求闘争。政党的に は社会党,共産党が支持 • ようやく1960年に住宅地区改良法が制定され, スラムクリアランスに対する,国家資金の投下が 可能に。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • 国家的プロジェクトとして,全国40部落を対象に, スラムクリアランス事業が始まるが,2年でストッ プ。自民党系列の対部落解放同盟対策 • 部落解放同盟は,こうした上からの対策に対抗し て,もっと大規模は国家予算を投下した,総合的 部落改善国家事業を要求。1965年に政府は,部 落への特別施策施行を容認 • 1969年に,同和地区(部落)改善特別措置法を 制定。10年間の時限立法。大規模なスラムクリア ランスと,社会福祉施設の建設がはじまる。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • 1960年の住宅地区改良法は,被差別部落の改 良の他に,不法占拠住宅地区,応急仮設住宅 (戦後直後)を事業対象地区とした。いわゆる戦 後のスラムはこの事業により,1970年代中ごろま でに,なくなる • 高度成長期のスラムは,大都市郊外の,木造賃 貸アパートの集積エリアに登場(1960年~75年) • 1960年には,都市改造法も施行。これは都市内 の,駅前の戦後闇市地区のクリアランス,そして 大規模商業ビルの建設が主であった。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • この他に,日雇い労働者の簡易宿所地区のクリ アランス事業も,大阪で行われた。1970年。 • しかし,1970年代までに土地の私有権がきわめ て強大なため,一般市街地での都市改造事業は ほとんど行われなかった。 • 駅前や繁華な商店街では,1969年施行の都市 再開発法により(1961年の都市改造法の改正 版),より広大な地区のクリアランス事業が行わ れるようになった。駅前再開発という表現に代表 される,都市更新事業であり,全国的に広まる。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • 朝鮮人は120万人,在日朝鮮・韓国人,在日コリ アンの集住地区は,いくつかあるが,住環境改 善に対しては,日本国籍を持っていないので,自 力自助で住宅更新をはかってきた。 • 1959年からの北朝鮮への帰国によって,生活改 善をはかることもひとつの選択肢であった。 • 朝鮮スラム,朝鮮バラック,不法占拠バラックは 現在では,ごく少しのみ残っている。 • 同和地区のスラムクリアランス事業は,結局1969 年から2001年までの間実施。ほぼ部落スラムは なくなり,公営アパート地区に変貌。昔の面影は なくなる。しかし差別は残る現状。 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • 1970年代の中ごろから,インナーシティの 危機,大都市の既成工場の操業停止,空 洞化 ,人口減少,高齢化。 • 跡地での住宅の再開発は部分的に進行し たが,1980年代後半からのバブル経済で, 大量の民間マンションの建設が始まる。イ ンナーシティの民間資本による再開発 • 一方で,スラムクリアランス型ではない,修 復型の小規模な建物更新をめざす,まち づくり運動の登場 戦後の都市改造,都市再開発(続き) • こうした流れを受けて,1996年に密集市街地改造事業 がはじます。個別建物の更新がメイン。大都市内イン ナーシティと,1960年代開発の郊外を対象とする。 • ひとつの救世主:狭小敷地の木造3階建て住宅,かなり 安い価格での持ち家一戸建て取得が可能に。 • 1997年の公営住宅法の改正 ある種の公営住宅の福 祉住宅化が一歩進むと共に,家賃の応益負担も導入。 • 手ごろな低家賃木造住宅が枯渇し始め,低収入・高齢 者にとっては,選択肢が狭まってきた。 • 高収入高齢者には,介護施設や特別養護老人施設が。 都市社会の現状と運動の指向 • 同和地区も住環境改善事業がほぼ完了した ので,つぎは,急速に高齢化の進む同和地 区での,高齢者や弱者に対する,福祉支援, 居住支援,生活支援を,重視し始める。 • 1995年の阪神淡路大震災での復興事業で, 多くのまちづくりボランティア,NPOが育ち始 める。 • 1990年代中半より,急速に野宿生活者問題 は浮上しはじめる。 都市社会の現状と運動の指向(続き) • 全国で3万人ほどの野宿生活者,大阪で は1万人が,路上で暮らし始める。 • 住所を持たないために,生活保護などの 既存の社会福祉システムが効かず • 2002年にホームレス特別措置法が10年時 限法で成立 • 1970年代にほぼ消えていた,無料宿泊所, シェルター,そして新たに自立支援セン ターなどが,大都市で建設される 都市社会の現状と運動の指向(続き) • 野宿生活者クリアランスをめぐって,人権問題 として,活発な支援活動が見られるようになる • 1997年のNPO法の成立により,まちづくりNPO も大量に生まれる。 • はじめて,生活支援,居住支援を組み込んだ, NPO主導のまちづくりがはじまる。 • 個人的には,脱野宿生活者の単身男性(平均 55歳)の就労自立,生活自立の支援活動,情 報発信を,インナーシティを拠点に行っている。 小括 →1960年以前スラムと1960年以後スラム 前者は,都市雑業型スラム,後者は工場労働,サー ビス産業型スラム,前者には,朝鮮人も含まれる。後 者には沖縄出身者が含まれる →被差別部落 1969年から2001年までの特別措置法の威力は大 → 1970年代中ごろに前期型スラムは日本の都市か らはほぼ消滅。後期型スラムは,木造賃貸アパート 問題に。高齢単身,あるいは,外国からのニューカ マー,ホームレスの問題として。
© Copyright 2024 ExpyDoc