当院における 急性中耳炎の 起炎菌とその臨床像 (インフルエンザ菌vs肺炎球菌) つちだ小児科 土田晋也 08.4.20 近畿外来小児科学研究会 目的 • 小児急性中耳炎の2大起炎菌は 「インフルエンザ菌」と「肺炎球菌」 • 起炎菌の差によって、その臨床像 に違いがないか自験例で検討した 対象 • 07年4月~08年3月の1年間に、 新鮮な耳漏あるいは鼓膜穿刺 液を培養できた • 急性中耳炎34症例、47検体 検体採取法 • 耳漏清拭後に気密耳鏡で加圧し、新た にしみ出してきた耳漏 • 鼓膜穿刺後に気密耳鏡で加圧し、しみ 出してきた穿刺液 ※穿刺は高熱あるいは耳痛を伴い、かつ、血液検査結果から 抗生剤静注が必要そうな急性中耳炎に対しておこなった 耳洗浄→培養の手順 ① ② ③ ④ 処置用スペキュラ • 鼓膜穿刺時に有用 • • • 穿刺針は18Gサーフロ針を 2.5cmくらいで曲げて使用 処置用孔から穿刺針を挿入 マクロビュー観察下に穿刺 スペキュラが長く焦点距離が深い! ピントをあわせ直して下さい • • 穿刺後、送気球で風圧をかけ て確実に中耳貯留液を排液さ せる 十分に排液された状態で、中 耳貯留液を培養に提出 ※スペキュラ口径4.25mmと大きい。十分 に耳垢除去してからとりかかる 薬剤感受性試験 • 微量液体希釈法 • 肺炎球菌 – ペニシリンGに対するMIC(μg/ml) – 0.06以下 PSSP、0.12~1 PISP、2以上 PRSP • インフルエンザ菌 – β-ラクタマーゼ試験およびABPC or AMPC/CVAに対 するMIC(μg/ml) – 1以下 BLNAS 、2 low-BLNAR、4以上 BLNAR、 BLPAR、BLPACR 急性中耳炎 1 STEP AOM 中耳炎の診断 AOM あるいはOME 中耳貯留液が前提 AOMの診断: 急性発症の 症状や所見を1つ以上認める 急性症状: 耳痛,耳漏 急性鼓膜所見: 明らかな発赤 明らかな膨隆,水疱形成 STEP 2 発熱と年齢による 重症度判定 Low Risk High Risk 群: ① 3-12 ヵ月児 ≧38.5℃ ②12-36 ヵ月児 ≧39.0℃ Low Risk 群: 上記以外 ≧36ヶ月は熱の程度に関 わらずLow Risk群とする High Risk AOMでない OME 抗菌薬なしで経過観察 症状の消失 3 STEP 4 STEP 5 STEP 菌血症の疑い WBC≧15,000/µl (Neut≧10,000/µl) 菌血症の疑いあり 血液培養±鼓膜穿刺液培養 +抗菌薬静脈内投与 菌血症の疑いなし ⇒ STEP 3 へ 急性期以降の管理 中耳貯留液の消失まで経過観察 7日,14日,1カ月,2カ月,3カ月,6カ月 耳痛があるとき アセトアミノフェン 10~15mg/kg/回 イブプロフェン (2歳以上) 5mg/kg/回 STEP 3 抗菌薬なしで経過観察 鎮痛剤のみで2~3日間の経過観察 耳漏例では7日間は外耳処置のみで 経過観察 症状の悪化 4 STEP 2~3日以降も症状が持続するとき 経過観察中に症状が増悪するとき 経口抗菌薬の投与 ① AMPC 60~90mg/kg/日,5日間投与 ② 効果が無ければ他の抗菌薬へ変更 症状の悪化 STEP 5 耳痛や発熱が抗菌薬終了後も持続, あるいは抗菌薬投与中に増悪するとき 乳様突起炎等の合併症の疑い 鼓膜切開+貯留液の培養 +抗菌薬(CTRX)の静脈内投与 培養結果 耳漏 35検体 ブ菌 モラキセラ インフルエンザ 菌 9 1 47検体 2 19 菌なし 10 肺炎球菌 8 混合感染2検体: インフルエンザ菌2+ と 肺炎球菌1+ インフルエンザ菌1+ と モラキセラ1+ 3 穿刺 12検体 6 16 感受性結果 BLNAS 耳漏 18検体 16 low-BLNAR 2 BLNAR PISP BLPAR BLNAS 3 穿刺 9検体 6 BLNAR PISP PSSP 培養結果のまとめ • 耳漏培養はインフルエンザ菌が多い • 穿刺培養は肺炎球菌が多い • しかし、耐性菌の割合は検体が耳漏 でも穿刺でもかわらない 年令、性別 月令 男:女 インフルエンザ菌(16例) 22±12ヶ月 9:7 肺炎球菌(8例) 17±10ヶ月 3:6 検体採取時の体温 高熱: 3-12 ヵ月児 ≧38.5℃、12-36 ヵ月児 ≧39.0℃ 平熱: 全年令 ≦37.4℃ 高熱 微熱 平熱 インフルエンザ菌(19) 2 4 13 肺炎球菌(8) 5 2 1 マン・ホイットニ検定 p<0.01 急性中耳炎の発症から治癒まで 上出洋介 「内視鏡画像による急性中耳炎・鼓膜アトラス」 穿刺 肺炎球菌 耳漏 インフルエンザ菌 経過中の耳痛or耳痛徴候 耳痛あり 耳痛なし インフルエンザ菌(19) 6 13 肺炎球菌(8) 5 3 フィッシャーの直接確率法 p=0.14 耳漏性状 膿性 漿液性 インフルエンザ菌(19) 14 5 肺炎球菌(8) 3 5 フィッシャーの直接確率法 p=0.09 急性中耳炎の発症から治癒まで 上出洋介 「内視鏡画像による急性中耳炎・鼓膜アトラス」 穿刺 肺炎球菌 耳漏 インフルエンザ菌 耳漏性状 膿性 漿液性 インフルエンザ菌(19) 14 5 肺炎球菌(8) 3 5 膿性 漿液性 インフルエンザ菌(3) 1 2 肺炎球菌(6) 2 4 穿刺例(9) 抗生剤投与 あり なし 変更 インフルエンザ菌(19) 8 11 1(7日後にAMPC) 肺炎球菌(8) 8 0 0 フィッシャーの直接確率法 p=0.02 耳漏持続期間 耳漏持続(日) インフルエンザ菌(19) 4.7±1.9 肺炎球菌(8) 5.2±2.4 反復・遷延 反復: 1年間に4回以上のエピソード 遷延: 1ヵ月後も鼓膜所見が改善なし(セミホットイアーなど) 反復・遷延 インフルエンザ菌(16例) 11(69%) 肺炎球菌( 8例) 4 (50%) フィッシャーの直接確率法 p=0.32 臨床像のまとめ • 肺炎球菌による急性中耳炎は耳痛を伴いやすく 急性型 なのか・・・ • インフルエンザ菌による急性中耳炎は耳痛も伴 わず緩慢型 なのか・・・ -抗生剤なしで経過観察できることも多い • 検体採取法によって起炎菌の偏りがあったため、 臨床像の差が「起炎菌の違い」のせいなのか 「炎症ステージの違い」のせいなのか判断しづ らかった 「肺炎球菌」の鼓膜所見 R L 「肺炎球菌」性中耳炎 鼓膜所見 R L 「肺炎球菌」性中耳炎 鼓膜所見 R L 「インフルエンザ菌」性中耳炎 鼓膜所見 R L 小児科外来における中耳炎 リーダー ー共同調査してみませんかー 土田晋也(小児科医)、アドバイザー 岩永康成(耳鼻科医) 耳鼻科医と私たち小児科医とでは、扱う中耳炎の病態が違っていると思いませんか? 耳鼻科(特に病院耳鼻科)に は、一握りの難治例が繰返して受診することが多い。一方、治療の必要のない中耳炎や単発の中耳炎は、私たち小 児科医がみている。なのに、私たち小児科医がみている中耳炎に関する前方視的・共同調査は皆無です。中耳炎は 初心者という方も大歓迎です。いっしょに「小児科外来における中耳炎の共同調査」について考えてみませんか。
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