株式の譲渡制限 譲渡承認手続 1. 手続 譲 渡 前 譲 渡 株 主 145① みなし承認 2週間内に書面による (不)承認決定通知なし 取 得 者 みなし承認 40日間書面による条件決定通知なし (買取指定の場合のみ) 承 認 請求 136 決 通知 139Ⅱ 140 請 1 条件 求 号 決定 有2 号 不 り ハ 通知 譲 渡 後 145②、規26①② 定 承 請求 137 139Ⅰ 認 請1 譲受人に譲渡 142 通知* 141 通知 144 価 格 決 定 買 譲取 渡人 に 139Ⅱ 求 号 139Ⅱ 無2 号 通知 しハ 譲渡の効力不発生 *指定買取人からの通知 2 2. 留意点 ① 定款に定めを置くことで承認の決定機関を変更できる が、解釈上、より下位の機関に決定権限を委譲すること はできない(権限分配論の派生) ② 一人会社株主が譲渡制限株式を譲渡する場合には、 所定の譲渡承認決定がなくても株式を有効に譲渡でき る(最判H5.3.30百-18) ③ 譲渡制限株式に担保権(質権など)を設定する場合に は会社の承認は不要。担保権を実行して株主権が移転 する段階で承認請求(譲渡担保をどう扱うかについては 争い有り) ④ 譲渡承認請求の撤回は、条件決定の通知(会414)の受 領前は自由、受領後は会社の同意が必要 3 IV. 承認のない譲渡制限株式の譲渡の効力 a. 当事者間では株式譲渡の効力は有効に発生するが、 会社との関係では効力を生じない(相対説。最判 S48.6.15百-19) b. 当事者間においても、会社との関係においても譲渡の 効力は生じない(絶対説) 当事者間では株式譲渡の効力は有効に発生するが、 会社に対しては譲渡を対抗できない ⇒現行法は、会社の承認がない限り名義書換請求不可(会 134)と規定しているので、当事者においても会社との関 係でも譲渡は有効であることが前提で、c説に近い。 c. ※ただし、会社が名義書換未了株主の権利行使を認める ことは許されないと解すべきか。 4 契約による譲渡制限 I. 契約による譲渡制限の可否 一定の範囲では認められると解されている i. 肯定の根拠 ① ② ii. 契約自由の原則(当事者の合意があるのでよい) 会社からの離脱を縛る実際上の必要性が生じる場面がある 否定の根拠 ① ② 株式譲渡自由の原則の潜脱 弱い立場の株主が不利な立場に置かれる可能性が高い II. 会社との契約による譲渡制限 通説は原則として無効だが、株主の投下資本の 回収を妨げない合理的な制限であれば例外的に 有効と解する 5 III. 株主間契約による譲渡制限 原則として有効(契約自由)だが、譲渡自由の制 限の潜脱となる場合には例外的に無効 IV. 従業員持株制度 1. 制度の概要 ① 従業員に対して会社が奨励金を支出するなどして取得 を支援 ② 従業員は従業員持株会等を通じて株式を購入(購入し た株式の譲渡の可否や議決権行使方法などは持ち株 会規約で定められる) ③ 退職したときには、持株会規約に従い株式を処分(保 有できる会社もあれば取得時の価格で売り渡す規定の 会社もある) 6 2. 制度の問題点 i. 制度の趣旨 従業員持株制度は経営者による安定株主工作であり、奨励金の支 出は会120違反なのではないか ⇒福利厚生目的であれば利益供与にはあたらない ii. 退職時に売渡しを強制する条項の効力 持株制度のなかには、退職時には指定価格で指定された者に株式 を売り渡すことを強制する条項が含まれることが多い。この規定の 効力如何 3. 強制売渡条項の効力 ① 売渡しの強制 ・・・必ずしも株主の不利益ではない(閉鎖的会 社の場合は特に) ② 売渡先の指定 ・・・閉鎖的な会社においては株主構成の維持 の利益が考慮されるから必ずしも不当ではない ③ 取得価格での売却 ・・・売却価格の事前の合意自体は(算定 が合理的であれば)違法ではない。キャピタルゲインの取得を 否定する内容であれば無効の可能性(最判H7.4.25百-21) 7 譲渡制限による影響 全部譲渡制限会社=非公開会社(会2⑤参照) • 持株比率維持の利益 授権資本制度不採用 新株発行決定機関は株主総会(会113Ⅲ) 新株発行無効事由拡張 相続株式に対する売渡請求(会162) • 少数株主権行使要件等の差異 6ヶ月保有要件なし 公告は不可 新株発行無効の訴えの提訴期間伸張 • 経営機構のローコスト化 取締役会設置義務なし 取締役・執行役資格を株主に制限可 取締役・監査役の任期伸張可 特別支配株主による売渡請求 特別支配株主の売渡請求 I. 当事者・対象 1. 売渡請求権者 • 特別支配株主=総議決権の9/10以上を有する株主 ※株主は原則として単独でなければならないが、当該株主の100% 子会社等の「特別支配株主完全子法人」保有株式は合算可 2. 売渡義務者・売渡対象株式 • 特別支配株主以外が保有する株式・新株予約権・新株予 約権付社債(自己株式、自己新株予約権除く) 3. 法的性質等 • 売渡請求は、会社の承認等を条件とする形成権 II. 手続 1. 通常の手続き ① 特別支配株主から会社に対して売渡条件を示して売渡 請求を対象会社に通知(会179の2Ⅰ) ② 対象会社の取締役会(非設置会社では取締役)がこれ を承認するかどうかを決定(会179の3ⅠⅢ) ※種類株式の場合は種類株主総会決議も必要(会322Ⅰ①の2) ③ 会社は承認後、取得日の20日前までに株主、新株予 約権者、質権者に売渡条件を通知(会179の4) ④ 会社において売渡請求に係る事前開示(会179の5) ※株主に対しては必ず通知(同条2項括弧書き) ⑤ 効力発生日に特別支配株主は株式取得(会179の9) ⑥ 会社は効力発生日後遅滞なく事後開示。効力発生日後 6ヶ月間(非公開会社は1年)(会179の10) 2. 差止め手続等 ① 特別支配株主は売渡請求を撤回できるが取締役会(非 設置会社では取締役)の承認が必要(会179の6) ※一部撤回は不可 ② 売渡株主に差止請求権(会179の7) ※差止事由は①法令違反、②通知期間等不遵守、③対価の不当 ③ 売渡株主に価格決定申立権(会179の8) ④ 売渡株式等取得無効の訴え制度新設(会846の2以下) 当事者は売渡株主と特別支配株主 管轄は対象会社本店所在地を管轄する地裁 認容判決には対世効はあるが遡及効なし II. (現時点における)主要な論点 1. 特別支配株主の代金支払遅滞と解除の可否 • 売渡請求によって売買契約が成立し、効力発生日に売渡 株主の義務は自動的に履行される。これに対して特別支 配株主が代金支払を遅滞した場合に売渡株主は履行遅 滞解除可能か ⇒条文上は解除を禁じる規定はないが、制度趣旨からすれば、原則 として取得無効の訴えのみを認めるべきとの見解あり 2. 取締役の善管注意義務 • 売渡し・撤回の承認に際して会社の利益と売渡株主の利 害が衝突する可能性あり。この場合、取締役はどのよう に振る舞えばよいか 3. 不当な目的による締め出しの効力
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