PEACE Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education Module5 : 呼吸困難 呼吸困難 シナリオ 64歳 女性 胃癌術後に右肺転移で再発 数週間前から徐々に増悪する呼吸困難 を訴えている 咳嗽を伴っている 不安が強い 臨床疑問 評価 呼吸困難はどうやって評価したらよいです か? 治療 くすりは何を使ったらよいですか? ケア・説明 どのように療養の環境を整えたらよいです か? メッセージ がん患者において、呼吸困難は頻 度が高い症状である がん患者のQOLを下げる重要な症 状である 呼吸困難は緩和が困難な症状の1つ である 目的 この項目を学習した後、以下のことが できるようになる 呼吸困難の評価 呼吸困難の薬物療法 呼吸困難の非薬物療法・ケア 背景 ~定義~ 呼吸困難の定義 「呼吸時の不快な感覚」という主観的な症状 呼吸不全の定義 「酸素分圧(PaO2)≦60Torr」という客観的な 病態 呼吸 困難 呼吸 不全 背景 ~疫学~ 呼吸困難の有病率 がんの種類・病期によるが、21~90% 予後 呼吸困難が出現してからの平均予後 :≦6ヵ月以下 背景 ~病態生理~ 呼吸困難の病態生理 1) 認知/ 感情的 要素 呼吸運動 横隔膜や呼吸補助筋の運 動の増加 2) 大脳皮質 化学的効果 低酸素血症、高炭酸ガス 血症を末梢化学受容器で 感知 3) 離 神経機械的乖 中枢神経からの要求と呼 吸にかかわるフィードバ ックが合致しないとき 感覚器 受容体 呼吸中枢 (髄質/橋) 呼吸筋 背景 ~病態~ 肺実質の病変 肺癌・肺転移、癌性リンパ管症、肺炎・無気肺、 喘息・COPDなど その他の胸郭の問題 気道狭窄、胸水、気胸、腹水、神経筋疾患 など その他 SVC症候群、心不全、心嚢液貯留、肺塞栓、貧血、 不安 など 背景 病態 ~病態~ 治療 頻度が高いもの がん性リンパ管症 肺転移 肺炎・無気肺 胸水・腹水 心不全 貧血 ステロイド 抗生剤 ドレナージ 利尿剤、輸液の減量 輸血 頻度が低いもの 気胸 気道狭窄 喘息・COPD 心嚢液貯留 上大静脈症候群 不安(パニック障害) 胸腔ドレナージ 放射線治療・気管ステント 気管支拡張薬・ステロイド 心嚢ドレナージ 放射線治療・上大静脈ステント 抗不安薬・SSRI 呼吸困難の評価 ① 呼吸困難評価のゴールドスタンダードは、患 者の主観的評価である ※ 呼吸回数・酸素飽和度の異常は必ずしも伴わない!! 以下の質問を行う 「どれくらい生活に支障がありますか?」 「息切れに関して一番つらいことはなんですか? 」 「息苦しさを10段階で教えてください」 呼吸困難の評価 ② 呼吸困難以外の症状 (咳・痰・不安など)の 聴取 既往歴・喫煙歴・職業歴の聴取 身体所見 (聴・打診)、呼吸数、酸素飽和度 など 治療可能なものを除外する 採血・血液ガス分析 胸部レントゲン 必要に応じて、心エコー・胸部CTなど 呼吸困難の治療ステップ ステロイドの 使用は効果と予後を 考えて !! 抗不安薬を追加 治療目標を相談 モルヒネの定期投与 • 呼吸数≧10回で眠気を許容できる 範囲で20% / 1~3日ずつ増量 ステロイド モルヒネまたは 抗不安薬の頓服 酸素 輸液 500-1,000 mL 以下に減量 咳・痰の対処 STEP1 STEP2 STEP3 呼吸困難の治療 まず、治療可能な原因の除去を考慮 肺炎に対する抗生剤治療 胸水・心嚢液のドレナージ 気道狭窄に対する放射線治療・ステント SVC症候群に対する放射線治療・ステン ト 心不全治療 輸血による貧血の補正 呼吸困難の治療 ステップによらずに考えること 酸素 低酸素血症を合併する場合 低酸素血症がなくとも、使用後評価で患者が楽になる場合 輸液の減量(胸水、気道分泌、肺水腫による 呼吸困難を緩和) 生命予後が数週間以下と考えられる患者 500~1,000mL/日以下に減量 咳・痰に対する処置 呼吸困難の治療ステップ STEP1 : 与を検討 原因によりステロイド定期投 +モルヒネ・抗不安薬の頓服 モルヒネは呼吸困難に効果が証明されている薬剤である モルヒネを使用しにくい場合はコデインか抗不安薬を投与 する STEP2 : モルヒネの定期投与 全身状態のよい患者では重篤な副作用を生じない 呼吸不全合併患者では傾眠を生じることが多い STEP3 : 抗不安薬の追加 不安を抑制することによって呼吸困難を緩和 呼吸困難の治療 Step1 ~その1~ 呼吸困難時の頓服 オピオイド 塩酸モルヒネ(オプソ®) 5mg 0.5~1包 リン酸コデイン 20mg 1錠 塩酸モルヒネ注 0.2ml (2mg) 皮下注 抗不安薬 アルプラゾラム (ソラナックス ® ) 0.4mg 0.5錠 ロラゼパム (ワイパックス®) 0.5mg 1錠 呼吸困難の治療 Step1 ~その2~ ステロイドの定期投与 漸増法 ベタメタゾン(リンデロン®) 0.5mg/日から開 始し、0.5mgずつ4mg/日まで増量する。 漸減法 ベタメタゾン(リンデロン®) 4~8mg/日を数 日投与し、効果認める場合は漸減し、効果の維 持できる最小量 (0.5~4mg/日)で継続する。 ※ ステロイドは予後と効果のバランスを考えて使用する !! 呼吸困難の治療 Step2 モルヒネの定期投与 開始量 塩酸モルヒネ(オプソ®) 5mg 3包 分3(8時間ごと) モルヒネ 20mg/日内服 モルヒネ 5mg/日 持続静注 または 持続皮下注 オピオイドが投与されている患者では20%増量 呼吸困難時のレスキューを設定 内服・坐剤の場合は1回分追加1時間開けて反復 可 注射の場合は1時間分を早送り30分開けて反復可 呼吸困難の治療 Step3 抗不安薬をオピオイドに追加 内服 アルプラゾラム (ソラナックス®) 0.4mg 1~3錠 分1 ~3 ロラゼパム (ワイパックス®) 0.5mg 1~3錠 分1~3 坐剤 ジアゼパム(ダイアップ®) 4mg 1~3個 分1~3 ブロマゼパム(セニラン®) 3mg 1~3個 分1~3 持続静注・皮下注 ミダゾラム(ドルミカム®) 2.5mg/日から開始 眠気が許容できる範囲で5mg/日まで増量 呼吸困難の治療 効果判定とコンサルテーション 治療目標の設定 呼吸困難を取り去ることが目標であるが、時に難 しいことがある 呼吸困難と傾眠に対する患者・家族が満足できる ことを目標とする コンサルテーションのタイミング 原因が特定できない場合 モルヒネの投与・増量が適切か判断できない場合 モルヒネ開始後も呼吸困難が緩和できない場合 ケア・説明 環境調整 • 低温、気流(外気、 うちわ、扇風機) • 酸素をしながら動 ける部屋の整備、 • ナースコール・薬 を手元に 姿勢の工夫 • 起座位 • 機能している肺を 上にする 酸素の使用 • 酸素療法の使用 法を指導し不快 感に対処 • 酸素吸入中は乾 燥するので、いつ でも水分を取れる ようにする ケア ・説明 不安への対応 呼吸困難に伴い不安が増強し、不安により呼吸困難が悪化 することがある 可能な限り側に付き添うことも検討 頓服の抗不安薬の使用も検討 睡眠の誘導:睡眠の重要性を指導する 眠ってしまっても、呼吸が止まることがないこと、常に呼 吸状態について観察することを伝え、安眠を促す リラックス・気分転換 注意転換、リラックスにつながることなどを話し合う FAQ 酸素マスクをいやがっています 酸素は実際に低酸素血症を改善しているか 改善が見られない場合には中止を検討する 嫌がる原因を探索し、その改善をはかる 臭いが苦痛 患者の気に入るにおいを水やマスクにつける 圧迫感・束縛感がある フェイスマスクの吹き流し オキシマイザー(経鼻のリザーバーマスク)を使用する 安静時は経鼻カニュラに労作時はマスクに 口渇感口腔ケア FAQ モルヒネをはじめる時の説明の仕方は? モルヒネの効果を説明する モルヒネは、がん患者および非がん患者における 呼吸困難に対して、緩和効果が認められている モルヒネの中毒に対する不安を除く 中毒は、全身状態が不良であっても起きない 呼吸不全では傾眠になる可能性を説明する 呼吸不全の患者では呼吸数を低下させたり、傾眠 で苦痛を和らげることを目標とする場合がある シナリオに戻ると … 労作時の酸素飽和度が90%まで低下しており、 胸部レントゲンで癌性リンパ管症と診断 酸素 2L/minで開始し、ベタメタゾン 8mg/ 日を開始した 呼吸困難時には塩酸モルヒネ 2.5mg内服を 頓服とした 呼吸困難は改善した まとめ 呼吸困難は主観的な症状である 治療可能なものかを評価する モルヒネは呼吸困難に効果が証明され ている薬剤である 不安への対応が有用である 環境整備などのケアが重要である
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