社会システムデザイン総論 小川一仁 [email protected] ※今回スライド全体の事前配布をしま せん。終わり次第webにupします。 1 実験します • 最初に以下の状況を思い浮かべて下さい。 • AさんとBさんがいます。 • Aさんはウサギを狩りに行くか、鹿を狩りに行 くかを選べます。 • Bさんも同様です。 2 実験します • ウサギは一人でも狩ることができますが、鹿は2 人で協力しないと狩ることができません。 • 今、ウサギを狩ると一人あたり2点もらえるとしま す。 • 鹿を狩ると、一人では狩ることができませんので、 その場合は0点(もう一人はウサギを狩りに行っ てるので、2点)、2人で狩る場合にはそれぞれ3 点もらえるとします。 3 実験します • 選択は同時にするので、事前の相談はでき ないとします。 – 後で設定を変更します。 • 誰と一緒に狩りに行くかもわからないとします。 – 合コンみたいなもの?だと思って下さい。 4 実験します • 以上のお話を表にします。 Aさんの選択↓\ ウサギ狩り Bさんの選択→ 鹿狩り ウサギ狩り 2(Aさんの得点), 2(Bさんの得点) 2, 0 鹿狩り 0, 2 3, 3 5 実験します • 今から記入用紙を配ります。 • Aさんになったつもりで、ウサギ狩りに行くか 鹿狩りに行くかを決めて、○をして下さい。 • 書けたタイミングでこちらから合図しますので、 記入用紙を前に送って下さい。 6 実験結果 • ウサギ狩りに行く人:163人 – 理由(一部抜粋) • 相手に影響されずに確実に2点もらえるから。 • 必ず点がもらえる方がうれしい。 – 囚人のジレンマみたいな事ですか? • 奈良県民なので鹿を殺せない。 • 鹿が4点なら鹿にしたのですが・・・。 • 一緒に鹿を狩った場合にけんかになりそうなので。 7 実験結果 • 鹿狩りに行く人:75名 – 理由(一部抜粋) • • • • リスクがあっても、より高いポイントを取りたい。 二人でウサギ狩りに行くよりポイントが高い。 二人でわいわい楽しめる(??) 協力して狩りをすることに意味がある。 • 相手も同じように鹿狩りに行くと予想して、私も鹿狩り ♡ 8 実験結果からわかること • 社シス総論受講生全員で狩りに行くと何が起き るか? – あなたがウサギ狩りを選んだ場合、162/(162+75)= 68.4%の確率でペアになった人と一緒にウサギ狩り に行くことになる。(当然だが)31.6%の確率でペアに なった人と一緒に鹿狩りに行くことになる。 – あなたが鹿狩りを選んだ場合、163/(163 +74)= 68.7%の確率でペアになった人と一緒にウサギ狩り に行くことになる。(当然だが)31.3%の確率でペアに なった人と一緒に鹿狩りに行くことになる。 9 実験結果からわかること • あなたがウサギ狩りに行く場合に得られるポ イント=2 • あなたが鹿狩りに行く場合に得られるポイント =0×0.68+3×0.32=0.96 10 実験します • 2回目も同じように行います。 – ただし一回目の結果を参考に、さらに自分のポイ ントを最も大きくするように行動することを心がけ て下さい。 • 記入用紙に記入できたら、こちらの合図で前 に送って下さい。 11 実験結果 • ウサギ狩り: 177人 • 鹿狩り: 57人 12 リスク支配と利得支配 • ウサギ狩り:他人が何をしようとも2の利益を 獲得できる。 – リスクに対して強い – ※正確な定義はより専門の講義で出てくるかも 知れない。 – リスクを考慮して行動する結果得られるのは、2 人ともウサギ狩りに行く=リスク支配均衡 13 リスク支配と利得支配 • 一方、利益が最も高くなるのは、2人とも鹿狩 りに行くこと=利得支配均衡 • 利得支配均衡では、補完性が観察される。 – 2人で力を合わせると、1人ではできなかったこと が可能になる。 • 1人で鹿は狩れないが、2人だと狩れる。 14 現実の例 • 一人ずつでは持ち上げられない荷物を二人 同時に持ち上げる。 • 一人では終わらない仕事を二人で片付ける。 • 1社では完成されられないプロジェクトを2社 協同で実施する。 15 一言言っておくと・・・ • 社会科学では現実をありのまま見ることは殆 どありません。 • 殆どの場合、モデルを作って、説明したい事 柄を抽象的に表現します。 – そうしないと、説明したい事柄の背後にあるメカニ ズムが見えてこないからです。 • 特に経済学はその傾向が強く、さらに世の中 の一見関係のなさそうな事柄同士をつないで 共通性を議論します。 16 一応言っておくと・・・(2) • 例えば・・・どこが一緒? – 大相撲の八百長と企業間の長期取引。 – 昇進とゴルフトーナメント。 – パラサイトシングル(古っ!)とマフィアのお兄さん の生活パターン。 – AKBと宝塚歌劇 17 リスク支配と利得支配 • 実験結果から見るに、皆さんはリスク支配均 衡に引っ張られました。 – というのは、理論的にはリスク支配均衡の方が選 ばれやすいため。 • 進化ゲーム理論の予想による。 • 進化ゲーム理論については、学部生の時に学ぶこと はほとんどないので「へーそんなもんなんや」と思って おいて下さい。 18 リスク支配と利得支配と制度設計 • 基礎的な制度設計をしてみよう。 • 目的=利得支配均衡が実現するためには、 どのような制度を作ったらいいか? 19 リスク支配と利得支配と制度設計 • 選択前に話し合い? – 話し合いの結果を忠実に実行させることができる か? • 話し合いの結果の忠実に履行させる制度設計を考え ないといけない=もう一段上の制度を考えなければな らない。 – 同じ相手と繰り返し意思決定するなら可能かも知 れない。 – 今回はやりません。 20 リスク支配と利得支配と制度設計 • 意思決定に順序を付ける? – 最初の人が鹿狩りを選ぶと、二人目の人も鹿狩 りを選ぶだろう。 – 最初の人がウサギ狩りを選ぶと、二人目の人も ウサギ狩りを選ぶだろう。 – 最初の人の行動は何で決まるだろうか? 21 リスク支配と利得支配と制度設計 • ともあれ、実際にやってみましょう。 • 教卓から見て左半分の人が先手。先手の人 の結果を見て、残り半分の人が選択。 22 リスク支配と利得支配と制度設計 • 1回目結果 • 先手:ウサギ狩り • 後手:ウサギ狩り • 2回目結果 • 先手:ウサギ狩り • 後手:ウサギ狩り 29 29 鹿狩り 56 鹿狩り 68 鹿狩り 鹿狩り 23 リスク支配と利得支配と制度設計 • 最初の人の行動はリスク回避的かどうか。 • Q1:必ず10000円もらえる • Q2:確率50%で20000円もらえるが、確率 50%で0円もらえる • 皆さんならどっち? 24 リスク支配と利得支配と制度設計 • 最初の人の行動はリスク回避的かどうか(そ の2)。 • Q1:必ず10000円もらえる • Q2:確率25%で40000円もらえるが、確率 75%で0円もらえる • 皆さんならどっち? 25 リスク支配と利得支配と制度設計 • リスク回避的な人は、先手になったときにウ サギを選択する可能性がある。 • どうですか? 26 制度設計の仕方 • (結果を見ずに書いていますが)、順序をつけ るだけで、鹿狩りに行く人が増えたはず・・・。 • 順序をつけるって、簡単な変更ですよね? 27 制度設計の仕方 • 現状を少し入れ替えるだけでうまくいく例。 • 臓器提供意思表明 – 意思表明カードのみ・・・なかなか記入してくれな い。 – 運転免許証の裏、健康保険証の裏に記載スペー ス記入しやすい 28 制度設計の仕方 • 貯蓄させるための方法:貯蓄って難しい! – アメリカで実施されているSMarT • あらかじめ毎月の預入額を設定 • 給与が上がった場合、手取額を変更しないように預入 額が自動的に増加 • 入社後に推奨プランとして提示され、特に意思表明が ない場合、このプランが選択される。 – 脱退、再加入は任意。 29 制度設計の仕方 • 少しの制度変更で、人や企業の行動を変え、 社会をよりよい方向に導く。 • Nudgeという。 – Nudge:他人をツンツンつついて、注意を促す、の 意。 • Nudgeに基づいた発想で制度設計がなされる 傾向が多くなっている。 – 発展途上国での貯蓄推進方策とか。 30 参考資料:一部 • セイラー&サンスティーン,『実践行動経済学』, 日経BP, 2008 • 中島隆信, 『大相撲の経済学』, 東洋経済新報社, 2003 • レヴィット&ダウナー, 『ヤバイ経済学』, 東洋経済 新報社, 2007 • 依田高典, 『行動経済学』, 中公新書2009 31
© Copyright 2025 ExpyDoc