問題提起

バイリンガルの光と影
内モンゴルにおける言語問題
地域政策科学専攻博士後期課程1年
哈申格日勒(ハスンゲルン)
はじめに
研究背景:
1 バイリンガル状況では、少数者言語はより勢力のある
言語に同化される(消滅の危機)
2 内モンゴル語は漢語(中国語)とのバイリンガル状況で
あり、漢語の影響を強く受けている
3 危機言語として認識されてない
↓
研究目的:内モンゴル語の実態を明らかにする
危機言語とは
概念:1世代あるいは2世代のうちに,話し手が絶
えてしまうだろうと危惧される言語
重要な決め手 :両親や祖父母の言葉を子供たち
が母語として習得し,かつ日常的に使っている
かどうか
言語の危機度:Krauss(1992):
宮岡・崎山2002
①「絶滅寸前の(moribund)」言語:
子供がすでに母語として習得しなくなった言語=20~50%
②「消滅の危機に瀕した(endangered)」言語;
子供がまだ母語として習得しているが,21世紀末までに①になる
可能性ありと考えられ言語=40~75%
③「安泰な(safe)」言語;
将来にわたって確実に話されつづけるだろう言語=5~10%
内モンゴル自治区の位置
モンゴル国
内モンゴル自治区における民族別人口の推移
(単位:万人)
2500
2000
1500
総人口
漢族
モンゴル族
1000
500
0
1953年
1964年
1982年
1990年
2000年
出典:国勢調査に加筆
少数民族自治区における民族別人口の割合
(2000年現在)
自治区
人口
総人口
内モンゴル自治区
2384万人
寧夏回族自治区
588万人
広西チワン族自治区
4889万人
新疆ウイグル族自治区 1965万人
チベット自治区
274万人
割 合 %
漢 主体少
族 数民族
80
17
79
20
62
32
41
45
6
93
出典:2000年の国勢調査に加筆
二つのモンゴル語
発音・文法は同じ / 文字が異なる
モンゴル語
モンゴル国
内モンゴル自治区
キリル文字
(ロシア文字)
伝統的縦文字
モンゴル文字
Монгол
キリル文字
(ロシア文字)
伝統的な
モンゴル文字
言語教育形式
モンゴル語中心教育:
モンゴル語で各教科を教え,
一科目多く漢語を学ぶ
漢語(中国語)中心教育:
漢語で各教科を教え,
一科目多くモンゴル語を学ぶ
内モンゴル小中学校のモンゴル語学習者推移 (単位:%)
小学校
初級中学
高級中学
1947年 1957年 1963年 1979年 1990年 1996年
モンゴル語中心
78
64
77
73
57
52
漢語中心
2
2
5
9
4
3
モンゴル語中心
66
76
61
55
47
漢語中心
23
10
21
6
4
モンゴル語中心
62
57
47
60
52
漢語中心
25
22
20
11
8
*1996年(1957)モンゴル語を母語として習得している者:小学校=55%
(66%),初級中学校=51%(89%),高級中学校=60%(87%)となり、
小中学校の平均割合=55%(81%)
出典:岡本雅享1999『中国の少数民族教育と言語政策』 社会評論社p.228 丁文楼主編
2002『中国少数民族双语教学研究与实践』民族出版社p.179 ~181頁 に加筆
内モンゴルにおけるモンゴル族の言語使用状況
(1982年)
内モンゴ ル族の語 (%)
漢語のモ
ノリンガル
12%
モン ゴル語と漢語の
バイ りン ガル37%
モンゴル語の
モノリンガル
51%
*モノリンガル:一言語使用者
出典:岡本雅享1999『中国の少数民族教育と言語政策』 社会評論社p.211に加筆
方言対立:
生活形態:
東部:農業中心 ⇔ 西部:放牧中心
⇓
東部:借用語(漢語に由来)の増加
西部:借用語は「醜い方言」と嫌われる
⇓
モンゴル語への劣等意識の拡大
民族帰属意識の弱化
考察結果:
①モンゴル族生徒
45%:モンゴル語を未習得。
55%:モンゴル語が第一言語とは言えない。
②モンゴル族全体
12%:モンゴル語が出来ない。
49%:モンゴル語が第一言語ではない可能性
③東西方言対立
モンゴル語東部方言への劣等意識の拡大
民族帰属意識の弱化
言語的危機を促進する要因
① 1999年「西部大開発政策」:
都市化傾向
漢族の増加(西部地域)
② 2000年「定住化政策」 :
伝統的な生活形態の破壊
結論:内モンゴル語の実態
内モンゴル語は
「消滅の危機に瀕した言語」
である
ご清聴ありがとうございました