C.T.ホーングレンほか、渡邊俊輔監訳 『マネジメント・アカウンティング』 ~ Introduction to Management Accounting 明治大学経営学部 鈴木研一ゼミナール 担当 坂元謙太 池戸聡 第9章 マネジメントコントロールシステムと責任会計 内容 • マネジメントコントロールシステムの基本概念 • 管理可能性と業績評価 • 非財務的業績尺度 • マネジメントコントロールシステムの未来 はじめに • これまでの章において‥ 管理会計上の多くの重要な技法について説明してきた • ABC • 差額原価・収益分析 • 予算管理 • 差異分析など これらの技法は、何れもそれ自体で有用である • しかし、これらの技法は、1つのシステムに統合されれば、より一層効果 的なものとなろう。 マネジメントコントロールシステム • 計画とコントロールに関する意思決定を行う • • 従業員を動機づける 業績を評価する ↓ こういった情報を収集・活用するために、 論理的に統合された一連の技法のことをいう マネジメントコントロールシステムの目的 • 組織の目的を明確に伝達する。 • マネージャーや従業員が、組織目的を達成 するために自分たちに要求されている特定 の行動について理解できるようにする。 • マネジメントコントロールシステムが環境の 変化に対応できるようにする。 マネジメントコントロールシステムの構成要素 (図表9-1) 計画の作成とその実行 目的、業績尺度、目標の設定 フィードバック と 学習 What do we want to achieve ? How do we set the direction ? 評価と報酬 追跡と報告 Are we encouraging the right behavior ? How much progress are we making ? What is getting in our way ? マネジメントコントロールと組織目的 • 適切なマネジメントコントロールシステムは以下のことを容易に行えるよ うにする。 意思決定のプロセスの支援・調整 組織成員の動機づけ 収益ドライバー、コストドライバー水準の予測 予算管理 業績評価 • マネジメントコントロールの中心問題は、マネージャーの意思決定や業績 向上への動機づけ(業績評価も含む)を組織目的に合致させることであ る。 目的、業績尺度、目標設定の手順 トップマネジメントは、組織全体の目的と業績尺度(α)、それに目標を設定する またこれらは、その目的を達成するために必要な「クリティカルプロセス」と一致している トップマネジメントとクリティカルプロセスマネージャーは、 「重要成功要因」とその業績尺度(β)を設定する またこれらは、「特定の行動(目標)」と一致している クリティカルプロセスマネージャーとその下位のマネージャーは、 「それぞれの行動(目標)」に対する特定の業績尺度(γ)を設定する (図表9-2) 目的・目標・業績尺度の設定 • (図表9-2)より、トップマネジメントによって、組織全体の目的(goal)、 業績尺度(performance measure)、目標(target)が設定されていること が分かる。 • これらの目的によって、組織が市場でどのような位置を占めるかについ ての全体的な計画を作成するための骨組みが与えられる。 • しかし業績尺度を伴わない目的は、マネージャーを動機づけられない。 ↓ 方向性を明確にし、なおかつマネージャーを 動機づけられる業績尺度を設定しなければならない。 クリティカルプロセス(critical process) 重要成功要因(key success factor) クリティカルプロセス(critical process) 組織目的の達成に直接影響を及ぼす一連の行動 重要成功要因(key success factor) 組織目的を達成させるために適切に行わなければならない行動 • 目的とそれに関連する業績尺度は非常に幅広いので、実際にマネー ジャーや従業員を導くには曖昧すぎることも多い。 • その結果、トップマネジメントはクリティカルプロセスと重要成功要因を特 定する。 事例(Luxury Suites) • 大規模な豪華ホテルチェーンであるLuxury Suitesでは、以 下のような目的と業績尺度を採用している。 組織目的 宿泊客の期待以上のサービス 業績尺度 ・ 顧客満足指標 ・ 反復利用回数 売上高の最大化 ・ 客室稼働率 ・ 室料 ・ 固定費控除前利益 イノベーションの促進 ・ 1年間に導入された新製品・サービス ・ 従業員からの提案件数 解説(Luxury Suites) • Luxury Suites で「顧客の期待を上回るサービス」という目的が採られて いる場合には、「サービスを生産・提供する」というプロセスがクリティカル プロセスとされる。 • トップマネジメントとクリティカルプロセスのマネージャーが、下位目的、 すなわち重要成功要因と、それに関連する業績尺度とを設定する。 • 「サービスを生産・提供する」というプロセスにおける重要成功要因の1つ の例は「タイムリーさ」である。 • タイムリーさを測定する業績尺度の例としては、「チェックインにかかる時 間」「チェックアウトにかかる時間」「宿泊客からの注文に対応するのにか かる時間(例えば電話に応答するまでの呼び出し回数)」などが挙げられ る。 留意事項 • 重要成功要因及び関連する業績尺度によって、マネージャーはより焦点 を絞ることができる。 • しかし下位のマネージャーや現場の従業員には行動の方向性を示すこ とができない。 • こうした方向づけを行うべく、クリティカルプロセスのマネージャーは、下 位のマネージャーと協同して目標を設定する。 短期的に観察可能な目に見える特定の行動(活動) 留意事項 • 様々な目標の釣り合いをとることがマネジメントコントロールの重要な側 面であるが、しばしば以下のようなことが起こる。 重要成功要因の無視 誤った業績尺度の強調 マネージャーのトレードオフへの直面 • (例)営業部長は、顧客からの問い合わせに対する応答の目標水準を下 げることにより、従業員満足度を向上させられるかもしれない。 • こうした行動によって、従業員の満足度指標は改善されるが、顧客の不 満は増えるかもしれない。 バランスをとることが難しい。 マネジメントコントロールシステムの設計 • 組織の要請に合致するようなマネジメントコントロールシステムを導入す るには、システム設計者は、以下のことを行わなければならない。 企業をとりまく制約条件の認識 責任センターの識別 コストと便益の比較 目標一致 従業員の努力を引き出すような動機付けの提供 組織構造の中での機能 • あらゆるマネジメントコントロールシステムは、組織目的に合致していな ければならない。 • 図9-1で見たように、計画を作成し、それを実行することは、マネジメン トコントロールシステムの第2の重要な機能である。 • 計画作成(予算編成)の主な目的の1つは、組織内のあらゆるマネー ジャーが、組織目的に適した行動をとらせるようにすることにある。 組織構造の例 • マネジメントコントロールシステムは、組織構造(organization structure) に適合していなければならない。 • 組織構造の例として、以下のようなものが挙げられる。 生産、販売、支援部門など、主に職能別に編成されている組織 製品や地域ごとに利益責任をもった事業別に編成されている組織 両組織の混合形態として編成されている組織 責任センターの識別 責任センター(responsibility center) マネージャー、マネージャー集団、従業員などに割り当てられた一連の活動 • (例) 1郡の機械設備と機械加工という作業は、現場監督者にとっての 責任センターとなる。製造部門全体は、製造部長の責任センターとなる。 最後に、組織全体は社長にとっての責任センターとなる。 • 経営責任が従業員グループによって共有されている組織も見られる。 ↓ これは様々なマネージャーが意思決定をする際に、企業の所有者の観 点から行うようにし、創造的な意思決定を促進し、失敗に対する恐怖(無 関心)が意思決定を支配することを防ぐためである。 責任会計(responsibility accounting) それぞれの目標に対して、主たる責任を負っている組織単位を識別し、 業績測定と目標値を設定し、組織単位、すなわち責任センターごとに業 績報告書を作成すること。 • 有効なマネジメントコントロールでは、現場の各マネージャーに、一連の 活動と業績尺度が与えられる。そして図表9-1のように、(1)活動の成 果と(2)マネージャーが結果に及ぼした影響が、追跡・報告される。 • このようなシステムは、トップマネジメントにとって魅力的なものである。な ぜなら、トップマネジメントが意思決定の権限を委譲し、計画とコントロー ルに専念できるようになるからである。 従って、システム設計者は、責任会計の考え方を適用して、業績尺度と 目標を設定し、各組織単位すなわち責任センターごとに業績報告書を作 成するのである。 コストセンター(cost center) マネージャーがコストに対してのみ責任を負っている責任センター。 • コストセンターの財務的責任は、原価管理と原価情報の報告である。 • 部門全体が1つのコストセンターである場合もあるし、部門の中に複数の コストセンターが含まれている場合もある。 • コストセンターの数をいくつにするかというのは、コストと便益を比較して 判断する問題である。 ↓ つまり、計画・コントロール・業績評価のために、コストセンターを細かくし て得られる便益は、報告のために多くかかるようになるコストを上回るか、 を判断しなければならない。 利益センター(profit center) コスト(費用)だけでなく、収益にも責任を負っている責任センター。利益 センターは、収益性に関する責任を負っている。 • 責任センターがサービスの対価を受け取っている場合、利益センターは、 非営利組織にも存在する。 • (例)Western Area Power Authority(WAPA)は、米国西部の電力会社 に動力を販売することによって、操業費用を回収することが義務づけられ ている。 • WAPAは、本来、費用を全額回収するという目標をもった利益センター である。 • 利益センターは、全て収益と費用の両方に対して責任を負うが、全ての 利益センターが利益を最大化するように求められるわけではない。 投資センター(investment center) 利益額だけではなく、投下資本に対する利益額の大きさによって、業績 が測定されている責任センター。 • 実務では、投資センターという用語は余りもちいられてはいない。 • むしろ、収益と費用に対する責任センターは、投下資本に対する責任を 負っている場合でも、いない場合でも区別せずに、利益センターと呼ばれ る。 業績尺度の設定 • ほとんどの責任センターは、複数の目標をもっており、業務予算許容額、 利益目標、所要投下資本利益率など、財務的に表現される目標は、与え られた目標の1部に過ぎない。 • 同時に達成すべき他の目標は、元来、非財務的な尺度によってしか測定 できない。 • 適切に設計されたマネジメントコントロールシステムでは、業績尺度を作 成し、報告を行う際に、財務的な目標と非財務的な目標の両方について、 同じように機能する。 業績尺度がもつ属性 • 優れた業績尺度がもつ属性として、以下のようなものが挙げられる。 1 2 3 4 5 6 7 8 組織目的に関連付けられている。 長期的な視野と、短期的な視野のバランスがとれている。 重要な行動や活動が管理されているかどうかを反映している。 マネージャーや従業員の行動を反映する。 従業員にとって分かりやすい=単純であること。 マネージャーや従業員の業績評価や報酬算定に用いることができる。 適度に客観的で、測定が容易である。 継続的、定期的に用いられる。 財務的尺度と非財務的尺度 • 財務的尺度と非財務的尺度は、どちらも重要である。 • しかし、財務的尺度は会計システムから容易に入手できるため、会計担 当者やマネージャーは、利益や原価差異などの財務的尺度に、注意を 払いすぎることがしばしばある。 • しかし、マネージャーは、非財務的な業績尺度に配慮することによっても、 業績を適切にコントロールできる。 • 非財務的業績尺度はタイムリーであり、測定が容易で、分かりやすく、ま たサービスを提供する組織末端の従業員の行動に深く関わっている。 ↓ そのため、業績目的を達成するよう従業員を動機づけるのに有効。 非財務尺度の重要性 • 非財務的業績がよくない場合、その影響は、かなりの基盤が失われるま で、財務的尺度には表れないことが多い。 • 財務的尺度は、先行指標がない限り、実態に対して余りに遅れがちで、 充分に役立たない。 その結果・・・ • 現在、多くの企業では、活動が実際に行われてから収益や費用について 検討するのではなく、収益や費用を発生させる活動自体の管理に力を注 ぐようになっている。 • 通常、優れた財務的業績は、優れた非財務的業績の後に続いて現れる。 業績の測定・報告 • 計画とコントロールのプロセスにおいては、全ての階層のマネージャーと 従業員の間の効果的なコミュニケーションが成り立っていることが重要で ある。 • 組織学習から財務的な強みをもたらすことも必要である。 1 組織学習からもたらされる結果は、継続的なプロセスの改善 2 継続的なプロセス改善により、顧客はそれらを高く評価し、結果として、 製品・サービスに対する需要が増えることになる 3 製品・サービスを提供するためのコストが下がり、需要が増えれば、 財務的な強みが生じる 4 財務的な強みは、例えば製品の収益性、営業利益の尺度などにより 測定される。 成功する組織の要素と達成指標 (図表9-3) 財務的な強み 営業利益などの尺度によって決定 顧客満足 製品・サービスに 対する需要増加 顧客プロセス改善 サイクルタイム、欠陥率、活動原価などの尺度 組織学習 研修時間、従業員離職率、従業員満足度などの尺度 留意事項 • 重要なのは、成功する組織は、「学習→プロセス改善→顧客満足→財務 的な強みの獲得」で終わらないということである。 ↓ 財務的な資源から得られる便益は、継続的な学習や、継続的 プロセス改善を支援することによって、組織に再投資される。 • 効果的に作成された業績報告書によれば、マネージャーに与えられた目 的・目標と業績とが比較される。 • そしてマネージャーはその指針を得ることができ、組織全体が目的とそ の達成度合いを理解でき、組織は変化を予測し、変化にすばやく対応で きるようになる。 成功する組織の要素と達成指標 (図表9-3) 財務的な強み 営業利益などの尺度によって決定 顧客満足 再 投 資 再 投 資 製品・サービスに 対する需要増加 顧客プロセス改善 サイクルタイム、欠陥率、活動原価などの尺度 組織学習 研修時間、従業員離職率、従業員満足度などの尺度 バランストスコアカード 財務的業績尺度と業務的な業績尺度とをうまくバランスさせ、業績と報酬 とを結びつけ、組織目的が多様であることを、明示的に示した業績報告 システム。 【バランストスコアカードの長所】 • 現場のマネージャーが、彼ら自身の行動と結びついた非財務的業績尺 度と、組織目的に関連した財務的業績尺度との関係を理解できる。 • 図表9-3に示した成功する組織の、4要素のそれぞれに着目しているこ とであり、このことが組織学習を促進させる。 ↓ マネージャーが、自分のとった行動の結果と、自分の行動が組織目的に どのように結びついているかを学ぶのに有効である。 Luxury Suites Hotelsのバランストスコアカード 構成と尺度 目標 結果 新しいサービスによる収入(100万ドル単位) $50 $58 売上高による収入 $75 $81 顧客満足率 95 88 ブランドロイヤリティ率 60 40 改善の回数 8 8 チェックインとチェックアウトにかかる時間の平均 15 12 従業員の再研修率 80 85 1人当たりの研修時間 30 25 財務的な強み 顧客満足 顧客プロセス改善 組織学習 (図表9-4) 解説(図表9-4) • このスコアカードは組織全体のものである。 • バランストスコアカードには、組織成功のための4要素全てについて、業 績測定尺度が設けられている。 • 組織には、様々なスコアカードが見られ、実際、それぞれの責任領域に 独自のスコアカードがあってもよい。 • 日常的な業務のみに従事している現場責任センターのスコアカードでは、 4要素のうちの1つしか取り上げられていないかもしれない。 • あらゆる業績測定尺度がスコアカード上になければならない、というわけ ではないのである。 重要業績指標(key performance indicator) 組織目的の達成を促進する指標のこと。 • (例)Luxury Hotels のトップマネジメントは、「顧客の期待を 上回ること」を組織目的として採用した。 • そうなるとバランススコアカードには、この目的に関連した重 要業績指標が、少なくとも1つは記載されなければならない。 ↓ 顧客満足指数、ブランドロイヤリティ指数、改善件数、チェッ クイン、及びチェックアウトの平均サイクルタイムなどの業績 尺度は、いずれもこの目的に関連したものである。 コストと便益の比較 • マネジメントコントロールシステムの設計者は、組織の必要性を考慮しな がら、様々な代替案の各々についてコストと便益を比較する必要がある。 • 完全無欠なマネジメントコントロールシステムなどは存在しない。 • しかし、あるシステムが合理的なコストで業務上の意思決定を改善するこ とができるならば、そのシステムは他のシステムよりも優れたものである と言えよう。 事例(Citicorp) • Citicorp の会計政策担当者は次のように述べている。 「非常に入り組んだマネジメントコントロールシステムを何年間か使って みたところ、そのシステムから得られる便益に比べて、そのシステムを運 営するためのコストが高すぎることが分かった。」 • そのため、Citicorp ではより単純で不正確ではあるけれども、コストのか からないマネジメントコントロールシステムを再び導入することになった。 従業員の動機づけ • 最小のコストで最大の便益を得るには、マネジメントコントロールシステ ムによって、目標一致と従業員の努力が助長されなければならない。 • 個人あるいはグループが組織目的と同一の目的をもつときが目標一致 が存在している状態である。 目標一致(goal congruence) 従業員が自分の利益のために行った意思決定が、組織全体の目標達成に 寄与するような状況 • 目標一致が確保されている場合には、従業員が自分の利益のために働 き行った意思決定が、組織全体の目的の達成に役立つものとなる。 従業員の努力 • 従業員の努力がほとんど足りない場合に、目標一致が達成されている場 合もあるし、その逆もあり得る。しかし、両者を同時に達成するには報酬 が必要となる。 従業員の努力(managerial effort) 組織目的や、組織目標の達成のためにとられたあらゆる意識的な行動。効 率と有効性の上昇をもたらす。作業監督、計画立案、思考など活動も含む。 • 図表9-1で示したように、マネジメントコントロールシステム設計上の課 題は、組織目的の達成に役立つ行動を、従業員にとらせるような目標、 業績測定システム、報酬システムを設定することである。 事例(1) • ある組織では、従業員の能率と有効性の継続的な改善を組織の下位目 的として設定していた。 • しかし、従業員たちは継続的な改善が成功した結果、標準はより厳しく、 作業速度はより速くなり、従業員の解雇が行われると感じていた。 • 従業員たちは、継続的な改善が必要であることには同意していた。 • しかし、何らかの報酬が与えられて、継続的改善のために努力をするこ とが、従業員自身の利益になるという状態がもたらされない限り、継続的 改善活動に従事することは期待できないであろう。 事例(2) • ある学生が大学で履修登録をした。彼は、管理会計について勉強しよう と考えていたからである。 • この学生と大学当局は同一の目的を持っているが、目標が一致している だけでは充分でない。 • 大学当局は、学生が努力するように成績評価制度という形で報酬も取り 入れた。 • 成績評価は、昇給、昇進、その他の報酬のために用いられる業績報告 書と同様の業績評価の一種である。 事例(3) • 業績評価は、目標一致や努力を増進させるために、広く用いられている 手段である。 • その理由は、ほとんどの人間は、自分個人の利益と結びついたフィード バック情報を受け取る時に、より適切に行動する傾向があるからである。 • Allen – Bradley Co. や Corning のように、品質向上を重要な下位目的 としているメーカーでは、品質目標をトップマネジメントのボーナス算定の 計三要素としている。 • Corning でも、全工場の従業員と品質インセンティブ契約を結んでいる。 動機づけの際の注意 動機(motivation) 目的達成のための努力や、行動を引き起こす意欲。 • 目標一致と努力促進のために、マネジメントコントロールシステムの設計 者は、従業員の動機づけについてよく考えなければならない。 • システム設計者の仕事は、多くの人が考える以上に複雑で、構造化しに くく、人間行動による影響を受けやすいため、従業員個人の利益を組織 目的と合致させなければならない。 ↓ システム設計者は、システムごとに異なる動機づけの影響に注目すべき マネジメントコントロールの難しさ • 責任会計、予算管理、予算実績差異分析をはじめとする、あらゆるマネ ジメントコントロールの手段は、従業員の行動に有効な影響を与えなけ ればならない。 • しかしマネジメントコントロール手段は、従業員を罰し、非難し、あら捜し をするための後向きなものとして認識され得る。 肯定的な見方 否定的な見方 従業員の意思決定を改善するのに有効 従業員の抵抗による無力化 事例(Moscow Cable Company) • 動機づけの与える影響を事前によそくできなかったために、どのような問 題が引き起こされるのかを理解するために、 Moscow Cable Company の例を考えてみたい。 • 同社のマネージャーは、銅の作業屑は当初予算が$100,000であっ たのに対して、実際には$40,000しか生じなかった。 • 中央政府の高官は、この工場が作業屑を予算どおりに出さなかったとし て、$45,000の罰金を科した。 • これにより、作業屑を管理しようとする製銅会社のマネージャーの動機に どのような影響があっただろうか? 管理可能性と財務業績の測定 • マネジメントコントロールシステムにおいては、管理可能な事象と、管理 不能な事象=管理可能費と、管理不能費を区別することが多い。 • マネージャーは、責任センターの業績にほとんど影響を与えられない場 合でも、業績を説明するには、もっとも適した地位にあることが普通であ る。 管理不能費 管理不能費(uncontrollable cost) 一定の期間内で、責任センターのマネージャーによって影響されないコスト • (例)通販部門の担当部長は、労務費、発想費、注文のとり間違いとその 修正、顧客満足には責任を負うことができる。 • しかし、業務を支援する情報システムのコストには、影響を及ぼすことが できないので、それについて責任を負うことはない。 管理可能費 管理可能費(controllable cost) マネージャーの意思決定や行動によって、影響を受ける全てのコスト • (例)通信販売業務の情報システムのコストは、通販部長にとっては管理 不能であるが、情報システム部長にとっては管理可能である。 • 「管理可能」という言葉は、ある意味では誤った名称である。なぜなら完 全にマネージャーの管理下にあるコストなどないからである。 • しかし、完全には「管理可能」でないとしても、マネージャーの意思決定に よって、影響されるあらゆるコストを指すのに広く用いられている。 管理可能費と管理不能費のまとめ • 管理可能費と管理不能費の区別は、情報を提供する際に有益である。 • 定義上、マネージャーの行動によって影響されないのが管理不能費であ るため、完全に管理不能なコストは、マネージャーの意思決定や行動に ついては何の情報も提供しない。 管理可能費の報告は、マネージャーの業績を示す 管理不能費は、責任センターのマネージャーの業績評価を示せない • (例)Procter & Gamble や Upjohn では、いくつかの事業部でABCを導 入した経験がある。 • ABCを試験的に導入したのは、ある潜在部門で管理可能費を識別する ためであり、その結果、大幅な戦略上の変化が導き出された。 貢献利益 • 多くの企業では、貢献利益アプローチによる利益句低と責任会計とを結 び付けている。 • すなわち、これらの企業では、コストビヘイビアだけではなく、管理可能性 の程度による分類も行って報告書を作成している。 • 図表9-5に、衣料食料品スーパーである Barleycorn, Inc. が様々な組 織単位(ゼグメント)の事務的な業績測定に用いた貢献利益アプローチを 示す。 ゼグメント(segment) 個別に収益と費用を測定できる責任センター Barleycorn, Inc. の貢献利益アプローチによる セグメント別損益計算書 • 図表9-5より、マネジメントコントロールシステムが、次のことを同時に 明らかにするために設計されていることが理解できる。 コストビヘイビア 管理可能性 マネージャーの業績 責任センターの業績 解説(図表9-5) • a行は、貢献利益、すなわち売上高から全ての変動費を控除した額を表 している。 • 貢献利益は、短期的に勝つ同僚が増減した場合に、利益がどう変化する かを予測するのに特に有用である。 • まねーじゃーは、売上高の増減額に貢献利益率をかけることによって、 すぐさま変化を予測できる。 • (例)西部事業部の貢献利益率は、$180÷$900=0.2である。 ↓ • 従って、西部事業部で精肉売上高が$1,000増えると、販売価格、単 位当たり操業費用、1号店と2号店でのセールスミックスが変わらなかっ た場合には、利益は$1,000×0.2=$200増加することになる。 解説(図表9-5) • (例)1号店のマネージャーは、地域内の広告活動、固定給与の一部には 影響を及ぼすことができるが、他の広告活動や固定給与などについては、 影響を及ぼすことができない。 • さらに、精肉部門のマネージャーは、事業部レベルでも店舗レベルでも、 店舗の減価償却費や、社長の給料にはまったく影響力をもたない。 = 図表9-5では、管理可能性によってコストを分類している • あらゆる階層のマネージャーは、ゼグメント全体の貢献利益について説 明を求められるが、マネージャーが責任を負うのは、管理可能貢献利益 (controllable contribution)だけなのである。 留意事項 • ゼグメントマネージャーにとっての管理可能貢献利益を算出する際には、 貢献利益から管理可能固定費を控除することに注意したい。 • こうした管理可能固定費は、通常、地域内広告宣伝費や、固定給与の一 部などの自由裁量費であるが、マネージャー自身の給与は含まれない。 • その他の固定費(b行とc行の間に示された管理不能固定費)は、報告書 を細分する際に配賦されない。 ↓ これらの項目は、組織階層を下っていっても、管理可能費とならない 事例(図表9-5) • 西部事業部長の管理可能固定費となるのは$160,000のうち、彼の 部下(青果部長、製造部長、精肉部長)にとっての管理可能固定費となる のは、$140,000である。 • 残りの$20,000は管理可能費とはならない。 • これらは、西部事業部にとっては管理可能であるが、それより下位のマ ネージャーにとっては管理不能である。 • 同様に同じ行に示されている$30,000は西部精肉部門には跡付けら れているが、それぞれの店舗には割り振られていない。 自由裁量権 • 多くの組織では、マネージャーに変動費と固定費のトレードオフを処理す る自由裁量権を与えられている。 • 管理会計は、トレードオフの結果を反映させようという意図の下に採用さ れる業績尺度である。 • (例)変動材料費や変動労務費を節約するために、マネージャーは多く恩 コストをかけて、自動化、品質管理、従業員の研修プログラムなどを導入 するかもしれない。 • 更に、広告宣伝、研究開発、販売促進などについての意思決定は、販売 活動および貢献利益に大きな影響を与える。 ↓ 管理可能貢献利益の計算においては、これらの費用も考慮される 留意事項 • 図表9-5で、どの費目がどのコストに分類されるかというのは、それほ ど明瞭なわけではない。 • (例)補助部門のコストを他の部門に配賦する時には、常に管理可能性 の判断が問題となる。 店舗マネージャーは事業部の本部で発生するコストを負担すべきか もしそうならいくら負担すべきか、どのような基準で負担させるべきか 管理可能貢献利益を計算するのに、店舗の減価償却費や、備品など のリース料はいくら控除すべきだろうか • それぞれの組織で、最小のコストで最大の便益が得られる方法を採用す べきである。 • こうした状況は、厳密な規制に従わなければならない財務会計とはまっ たく異なる。 セグメントの貢献利益 • 図表9-5のc行のセグメント貢献利益(contribution by segment)は、b 行のマネージャーの財務的な業績とは異なり、セグメント自体の財務的 な業績を表そうとしたものである。 • 他者によって管理可能な固定費には、コミッテッドコストと自由裁量費が 含まれている。 コミッテッドコスト 自由裁量費 減価償却費や固定資産税 セグメントマネージャーの給料 • これらのコストは、セグメントに跡づけることはできるが、本来はより上位 のマネージャーにとってのみ管理可能となる費目である。 配賦されないコスト • 図表9-5では、d行の直前に「配賦されないコスト unallocated cost 」が 示されている。 • 配賦されないコストの例 トップマネジメント関連の費用や法務 税務などの本社サービス部門の費用 等 • これらのコストを配賦するのに説得力のある因果関係(活動基準の理由 づけ)が見出せない場合には、多くの組織では、こうした費目は各ゼグメ ントに配賦しないほうがよいと考えられている。 留意事項 • 貢献利益アプローチによって、財務業績を測定するさまざまな方法の相 対的な客観性が明らかにされる。 • 貢献利益それ自体はもっとも客観的である。 • 報告書を下に降りていくにつれて、より主観的な配賦が多く行われるよう になり、測定される貢献利益や利益尺度は、議論の余地が多く残るもの となる。 • こうした論争によって、マネージャーの関心は組織全体のコストに向かい、 組織全体のコスト管理が促進される。
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