チームメンタルモデル

安全を創出する看護師チーム
のチームワークに関する研究(計画)
九州大学大学院人間環境学府 博士後期課程
三沢 良
2015/9/30
1
本研究の目的
医療現場の看護師チームにおいて、
安全パフォーマンスを促進する
“組織”、“チーム”、“個人”の3つのレベル
の要因 が及ぼす影響の検討
・ 従来は,組織レベルと個人レベルのいずれか
に着目した研究がほとんど.
・ チームレベルの要因が検討されることは少ない.
・チーム研究で精力的に検討されてきた
“チームメンタルモデル”の概念を適用
2015/9/30
2
本研究の枠組み
組織要因
チーム要因
管理方針
報酬システム
機器・設備
研修
インシデント
ワークロード
チームメンタル
モデル
・
・
2015/9/30
規範
今回の発表の焦点
類似性
正確さ
安全
パフォーマンス
遵守
支援
創出
命令的
記述的
3
安全パフォーマンス
Griffin & Neal (2000, 2002)
「産業現場における安全を確保するために、作業員
に求められる行動」
○ 安全遵守 (Safety Compliance)
安全規則に従う,作業手順を正しく守る,
設備を適切に使用する..など
○ 安全参与 (Safety Participation)
同僚に対する援助、職場改善に関する提案、
安全啓発活動への参加..など
2015/9/30
4
タスクワークとチームワーク
チームワーク研究では、
チームの従事する活動は二つに大別される
○ タスクワーク
課題,ツール,機械,システムとの相互作用
○ チームワーク
メンバー同士の対人的な相互作用
(情報交換、活動の相互調整、支援)
2015/9/30
5
チームワークの3つのレベル
古川 (2004) :
レベル 1 : 円滑な連携、協力、ホウレンソウ、
情報共有、円満な人間関係
レベル2 : 役割を超えた行動、役割外行動、
新規行動
レベル 3 : 創発的なコラボレーション、
知的な相互刺激、情報練り上げ
2015/9/30
6
安全パフォーマンス(本研究)
Level 1 : 安全遵守行動 (Safety Compliance Behavior)
安全確保のために定められた作業手順,規則,装置・設備の
使用方法を正しく守る行動
Level 2 : 安全支援行動 (Safety Backup Behavior)
同僚への援助や助言の提供および要請を通じて、チームと職
場の安全確保に貢献する行動
Level 3 : 安全創出行動 (Safety Create Behavior)
職場や職務遂行方法に関する現状の問題点を改善する提案
を行い、安全性をさらに向上させることを目的とする行動
2015/9/30
7
安全パフォーマンス(本研究)
Level 1 : 安全遵守行動 (Safety Compliance Behavior)
安
全
の
維
持
・
向
上
に
積
極
的
“決まりごとを守る”
(自分にできること)
Level 2 : 安全支援行動 (Safety Backup Behavior)
“同僚を助ける(助けてもらう)”
(他者にできること)
Level 3 : 安全創出行動 (Safety Create Behavior)
“改善を提案する”
2015/9/30
(職場・環境にできること)
8
パフォーマンス分類の比較
本研究
Griffin & Neal
(2000, 2002)
伝統的
TW研究
安全遵守
安全遵守
タスクワーク
安全支援
安全参与
安全創出
2015/9/30
チームワーク
古川 (2004)
レベル1
レベル2
レベル3
9
安全遵守は、なぜ大事?
規則、設備を設けても
作業手順や使用法が守られなければ、
事故防止機能は発揮されないから
規則に従わない => 違反、不安全行動
安全規則,安全設備
・・・ 事故防止の機能
2015/9/30
10
安全支援は、なぜ大事?
チーム作業では
一個人の失敗が引き継がれ、事故に
つながる可能性があるから
スノーボール・モデル (山内・山内,2000)
チーム・エラー (Sasou & Reason,1999)
発見・指摘・訂正の回復過程
メンバーが互いに助け合うことが肝要
2015/9/30
11
安全創出は、なぜ大事?
現在の職場デザインや職務遂行手続きが
必ずしも最善とはかぎらないから
安全=有害事象が起きていない状態
=>最善かどうか判断がつかない
インシデントの発生 => 対策が不十分
問題点の発見と改善は継続して実施する必要
2015/9/30
12
チームメンタルモデル
チームのメンバーによって共有された知識の心的表象
(e.g., Cannon-Bowers et al., 1993; Klimoski & Mohammed, 1994)
相互調整、チームメイトの行動・要求に関する予
測を可能にする
いつ、どのような行動が求められるのか、がわかる!
=>スムーズなチーム活動
優れたチームワークの発揮
2015/9/30
13
チームメンタルモデル研究の知見
研究者
課題
メンタルモデル
主な結果
Mathieu et al. F-16
(2005)
シミュレーション
タスク、チーム
タスクモデルの類似性が
プロセスを促進
Marks et al.
(2002)
戦闘ヘリ、戦車
シミュレーション
チームの
相互作用
類似性が支援行動、相互
調整を促進
Marks et al.
(2000)
戦車
シミュレーション
チームの
相互作用
類似性がコミュニケーション
を促進
タスク、チーム
チームモデル、タスクモデル
の類似性がプロセスを促進 14
Mathieu et al. F-16
(2000) 2015/9/30
シミュレーション
二つの指標:類似性と正確さ
○メンタルモデルの類似性
メンバー間でメンタルモデルが共有されている程度
操作的には、
個々人のメンタルモデルが一致している程度
一致していれば、必要な行動の正確な予測が可能
2015/9/30
15
メンタルモデルの類似性
チーム
メンタルモデル
一致している程度
(類似性)
個人の
メンタルモデル
チームメンバー
2015/9/30
16
二つの指標:類似性と正確さ
○メンタルモデルの正確さ
メンバーの共有する知識の正しさ
操作的には
専門家のメンタルモデル(エキスパートモデル)と
一致している程度
適切な行動をとるには、知識が正しくなければならない
(単に共有されるだけでは“適切”な行動はとれない)
2015/9/30
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メンタルモデルの正確さ
チーム
メンタルモデル
エキスパート
モデル
専門家
個人の
メンタルモデル
一致している程度
(正確さ)
チームメンバー
2015/9/30
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チームメンタルモデルの測定法
・Cognitive mapping
・Pathfinder
・ネットワーク分析(UCINET)
・多次元尺度構成法(MDS)
タスクワークやチームワークに関する概念・
構成要素の関連度を測定
概念図やネットワークとして把握
2015/9/30
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Pathfinderによる測定例(Cooke et al., 2000)
Pilot’s relatedness ratings (1 = related, 5 = unrelated)
Route
Weather
Inst.check
Take off
Reach alt.
Route
0
-
-
-
-
Weather
1
0
-
-
-
Instrument check
2
1
0
-
-
Take off
3
2
1
0
-
Reach altitude
4
3
2
1
0
Navigater’s relatedness ratings (1 = related, 5 = unrelated)
Route
Weather
Inst.check
Take off
Reach alt.
Route
0
-
-
-
-
Weather
1
0
-
-
-
Instrument check
1
3
0
-
-
Take off
3
1
1
0
-
Reach altitude
2015/9/30
1
1
1
1
0
20
Pathfinderによる測定例(Cooke et al., 2000)
Pilot’s Pathfinder Network
Navigater’s Pathfinder Network
Route
Reach alt.
weather
Route
Instr.check
Instr.check
Take off
weather
Take off
Reach alt.
2015/9/30
全9本のリンク中,2本が共通 類似性=.22
21
従来のTMM測定法の問題点
(e.g., Kraiger & Wenzel, 1997; Webber et al., 2000)
・測定方法に関する合意がない
・測定を実施するコストが高い
(回答に時間がかかる、配布・回収が面倒)
・方略的知識が把握できない
宣言的(declarative): 概念や要素,およびそれらの関係に関する情報
手続き的(procedural): 活動を行うためのステップとその順序に関する情報
方略的(strategic): 目標を達するための行動計画,問題解決の基盤となる
情報
“どのような行動をとることが有効か?”
2015/9/30
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Webber et al.(2000)の測定手法
シナリオを提示し、そこに描かれた場面でとる行動の
有効性を、リッカート形式尺度上に評定してもらう
・専門家の援助を借り、シナリオを作成
・各シナリオ場面で,効果的な行動と効果的でない行動の
リストを専門家に作成してもらう
・専門家の援助のもと、行動の数を適切な量に減らす
・“正確さ”の基準を設定するために,専門家に質問紙へ回答
してもらう
2015/9/30
23
Webber et al.(2000)の測定手法
今はバスケットボールリーグの優勝決定戦のハーフタイムです。
あなたのチームは25点負けています。
もしこの試合に勝てば、あなたのチームが優勝です。
もし負ければ、相手チームが優勝します。
この状況でとることが可能な行動として、以下のものがあります。
各行動について、チームが成功する上での有効性を答えてください。
全ての行動について回答をお願いします。
-3=非常に成功の妨げになる、0=成功の助けにも妨げにもならない、
+3=成功にとって非常に重要である
1.あきらめる
2.基本に忠実になる
3.挑発する
4.審判へクレーム
5.相手チームのミスを祈る
6.時計を止めるためにファウル
2015/9/30
7.プレスを強くする
8.より攻撃的なプレイ
9.集中力を高める
10.何も変えない
11.3ポイントシュートを狙う
12.控え選手を入れる
24
Webber et al.(2000)の測定手法
○ メンタルモデルの類似性
・チームごとに回答の一致度を算出
r wg (within-group agreement) (James et al., 1984,1993)
1項目
rwg
複数項目
 S2 
 1   2 
 E 


2015/9/30
E  A 1 12
2
2
rwg ( j)
 

j 1  S E

2
2
2
2
j 1  S E  S E
 
2
 
一様分布のもとで期待される分散
Aは尺度の選択肢数
2

25
Webber et al.(2000)の測定手法
○ メンタルモデルの正確さ
・メンバーの回答と専門家の回答平均値の差(絶対値)を算出
・行動別に算出した上記の得点の平均値を算出
=>個々人の“正確さ”得点
・チームごとに個々人の“正確さ”得点を平均
=>チームとしての“正確さ”得点
2015/9/30
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医療現場で検討を進めるにあたって
○ 安全パフォーマンスとそれが行われる場面の特定
・安全遵守行動
与薬や処置手順の遵守、ダブルチェックの規則遵守、
感染予防のための手洗い...など
・安全支援行動
仕事を多く抱えた同僚への支援、間違いを起こしている
同僚へのフィードバック...など
=>観察、インタビュー、インシデント事例などから特定
※安全遵守に関しては、場面想定法は難しいか??
2015/9/30
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医療現場で検討を進めるにあたって
○ 安全パフォーマンスとそれが行われる場面の特定
・安全創出行動
カンファレンス? =>業務改善,見直しの機会になりうるのか
インシデント発生後の病棟内での意見交換、対応
日常場面での改善提案
=>リスクマネジメントを徹底している病院での
インタビュー?
2015/9/30
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医療現場で検討を進めるにあたって
○ エキスパートモデルの設定
“正確な”メンタルモデルを持つ対象の選定
<モデル病院の看護師>
・リスクマネジメントを徹底している
・収集したインシデントを活用している
・事故防止研修を積極的に実施している
=>場面設定、行動リスト選定への援助を依頼
2015/9/30
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