1 通風の簡易設計手法構築に向けて (通風性状に関する新しい知見と 通風計画に関する提案) 独立行政法人 建築研究所 環境研究グループ 研究員 西澤 繁毅 2 通風といえば… 「風を通して涼しさを得る」 通風:外部風を室内に導入し、室温・ 体感温度を低下させる環境調整手法 →自然エネルギーの有効利用 →冷房負荷・換気動力の削減 森鴎外・夏目漱石旧居(明治村) 有効性は経験的に広く認め られている。 3 通風といえば… 定量的には未解明な部分が多く、効果が不明瞭なまま 計画・設計されているのが実状。 外部風の風向風速の大きな変化により、通風環境を定 量的に把握することが難しい現状 季節、時間、地域、周辺の状況に応じて 大きく風向風速が変化する風 通風の効果は? 快適性(体感温度) 室温(排熱) 省エネルギー性 通風利用を促すためにも、定量的な評価に基づく通風 設計手法の確立が必要 4 本日の発表内容 ・ 通風環境の概略 ・ スケール毎のトピック ①室内気流性状 ②開口部の流量係数の性状 ③風圧係数 ④外気条件 ⑤開口配置計画 ・ 通風環境の簡易評価・設計手法の展望 5 通風環境について ・ スケールに応じて通風環境の特徴を定量的に把握 →4つのレベル毎に代表する要素で定量的に検討 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 6 通風環境について ・ 室内の通風の経路(通風輪道)・速度分布は、在室者の快 適性、室温の低下に直接的な影響を与える 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④室内 ↓ 気流性状 ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ④ ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ 7 通風環境について ・ 開口配置計画→通風経路を確保 ・ 流量係数→開口部の抵抗を評価 ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ③ ③ ④室内 ↓ 気流性状 8 通風環境について ・ 周辺の状況(敷地条件)は、通風の駆動力となる風圧に大 きな影響を与える 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ① ①外界 ↓ 気象条件 ④ ② ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 9 通風環境について ・ その地域の気候条件=風速風向、外気温湿度、日射量等 は、通風に有利か否か 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ① ④ ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 10 室内気流性状について ・ 室内の通風の経路(通風輪道)・速度分布は、在室者の快 適性、室温の低下に直接的な影響を与える 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④室内 ↓ 気流性状 ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ④ ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ 11 通風実験用風洞概略 吹出口 View point View point ターンテーブル 実大建物モデル (W=D=5.6m, H=3m) Fig. 1. Section and plan of BRI’s cross ventilation laboratory wind tunnel 12 室内気流性状(風向0°) Opening A 通風量:8,200m3/h (換気回数120回/h) 袖壁 Opening B 可視化画像 室平均空気齢:38.4秒 気流分布と局所換気効率 13 室内気流性状(風向45°) Opening A 通風量:7,000m3/h (換気回数100回/h) Opening B 可視化画像 室平均空気齢:26.5秒 気流分布と局所換気効率 14 室内気流性状(風向0°) Normalized concentration [-] 室平均濃度減衰 1 0.8 b d f Ave. 0.6 e 0.4 1. 0.2 1. 0 0 局所空気交換効率分布 a c e g 20 n 40 60 80 Elapsed time [s] 100 120 1 d 濃度減衰 室平均空気齢:38.4秒Opening 15 室内気流性状(風向45°) 室平均濃度減衰 n 1.17 1.42 d 3.27 1.47 2.78 a e 1.37 2.00 3.16 1.28 b 1.45 1.05 f 1.17 0.95 1.11 1.06 c 0.97 g 1.15 1.15 Normalized concentration [-] Opening A 1 0.8 0.6 =n/<>= 1.37 局所空気交換効率分布 b d f Ave. 室平均空気齢:26.5秒 0.4 0.2 0 0 Opening B a c e g 20 40 60 80 Elapsed time [s] 濃度減衰 100 120 16 移動拡散の状況(風向0°) 通風量:8,200m3/h (換気回数120回/h) 流入空気が移動する状況 (CFD解析による濃度減衰計算から) 気流分布と局所換気効率 17 移動拡散の状況(風向45°) 通風量:7,000m3/h (換気回数100回/h) 流入空気が移動する状況 (CFD解析による濃度減衰計算から) 気流分布と局所換気効率 18 開口部 ・ 開口配置計画→通風経路を確保 ・ 流量係数→開口部の抵抗を評価 ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ③ ③ ④室内 ↓ 気流性状 19 流量係数とは ・ 流量係数:開口部を通過する風の通りやすさを示す係数 実開口面積のうちの通風に有効な面積の比 Q Q A 2 Pw Pi / AV Cpw Cpi Q:通過流量[m3/s] A:開口面積[m2] P:圧力[Pa] Cp:風圧係数[-](添字w:外壁面、i:室内) V:基準風速[m/s] →通常、開口部の流量係数はα=0.6程度の一定値として扱われている。 →実際は一定値ではない→通風量算定に大きな誤差を生む要因の一つ →流入出角度による影響が大きいことが判ってきている。 20 矩形開口の流量係数 ・ 矩形開口(幅860mm×高さ1,740mm, 壁厚さ100mm)の流量係数 ←流入側 開口面に 1.0 垂直に流入 Inflow C ondition D ischarge C oefficient 0.8 通常の流量係数は 約0.6で一定値扱い 流出側のばらつきが 大きい 流出側→ Outflow C ondition 開口面に 垂直に流出 0.6 W ind A ngle 270° 0.4 W ind A ngle 75° 0.2 開口面に並行になる 0.0に従って小さくなる 0 30 60 W ind A ngle 90° 90 A irflow 3D A ngle in the Opening, 120 xyz 150 in D egree 180 21 引違窓の流量係数 ・ 引違窓(幅1,690mm ×高さ1,170mm)の流量係数 ŽŠ º O ‘ ¤ ŽŽ OŒ Ÿ ’³ ‰ ´ ¹” g • ‘—Œ ¬ (v3 “‚ x ) — ¨ ¬ “ ü Š o “p x ŽZ ’ è xy -¨ 180 xy ¨+180 —¬ o B A 42 ・ 流入側で左右非対称な分布 →窓サッシの形状の非対称性に由来 xy —¬ “ ü745 W=1,690 1 Ž “º à ‘ ¤ ※網戸ありの流入出角度は網戸なしで代用 流出側 流入側 流出側 流量係数[-] 0.8 0.6 0.4 全開網戸なし 全開網戸あり 25cm 網戸なし 25cm 網戸あり 0.2 通常の流量係数は 約0.6で一定値扱い 0 -180 -135 -90 -45 0 45 水平方向流入角[] 90 135 180 22 日射遮蔽部材の通風性能 ・ 開口部付属物設置時の通風 性能+日射遮蔽性能の把握 レースカーテン 簾 23 建物周辺→風圧係数 ・ 周辺の状況(敷地条件)は、通風の駆動力となる風圧に大 きな影響を与える 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ① ①外界 ↓ 気象条件 ④ ② ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 24 風圧係数(1) ・ 独立状態での風圧係数 →正面と側面・裏面の風圧係数差 0.6~1.0以上 東西北面 -0.5~-0.1程度 日本大学 丸田研究室 作成 N 南面(正面) 0.5~0.8(壁中央) 測定模型 25 風圧係数(2) ・ 稠密な住宅地内での 戸建住宅の風圧係数 →0.1~0.2でほぼ均一 →風圧係数差がない 流れの向き 風向は南だが、下流側にあたる 北面で風圧が高い(0.2程度) 日本大学 丸田研究室 作成 測定模型 26 風圧係数(2’) 流れの向き 27 開口(2Fホール上) 開口(居間・食堂上) 風圧係数(3) ・ 屋根面を変更 →棟換気口付片流れ屋根 →風圧係数差:0.1~0.2を確保 N 片流屋根棟換気口位置 -0.0~-0.1程度 南面(正面) 0.1程度 日本大学 丸田研究室 作成 28 外界→気象条件 ・ その地域の気候条件=風速風向、外気温湿度、日射量等 は、通風に有利か否か 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ① ④ ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 29 18~28℃の風向出現頻度 日中:7時~20時 夜間:21時~6時 ①通風条件の風向出現頻度と平均風速 北 全日 日中 夜間 北 全日 日中 夜間 風向出現頻度 西 東 風速 風向出現頻度 西 東 風速 6% 3m/s 4m/s 8% 6% 3m/s 4m/s 8% 南 南 東京 つくば 30 気象条件 ②冷房度日の削減と卓越風向 ④ 風速[m/s] 風向: 3 最頻風向とその平均値 →ベクトル図 2 1 ③ 0 30 かけて積算 コンター図 28 気温[℃] ① ② 25 24 ①24~28℃の範囲で、 ②風向毎に、 ③(外気温-24℃)と ④風速の積を積算する → 風向別のポテンシャル 20 15 0 3 6 9 12 時刻 15 18 21 ○算出にあたっては以下を想定 a.28℃以下で通風利用 b.冷房負荷発生の基準は外気温24℃ c.外部風速に比例して削減可能な冷房負荷は増大 24 31 冷房負荷削減ポテンシャル 日中:7時~20時 夜間:21時~6時 ①通風条件の風向出現頻度と平均風速 [℃h(m/s)] 北 800 全日 600 日中 夜間 400 200 西 0 東 南 東京 西 [℃h(m/s)] 北 500 全日 400 日中 300 夜間 200 100 0 南 つくば 東 32 開口部 ・ 開口配置計画→通風経路を確保 ・ 流量係数→開口部の抵抗を評価 ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ③ ③ ④室内 ↓ 気流性状 33 通風量の試算(1) ・ 換気回路網計算プログラム‘Ventsim Ver.2.0’を使用して通風 量を計算 5 2 3 1 階から 1 0 3 0 523 363 81 19 6969 1060. 5 1818 17 ” [ŒË 23 4090. 5 60 29 86 585 個室1 ŒÂ Ž º ‚E P 18回/h 24 608 個室2 ŒÂ Ž º ‚E Q 22回/h 608 499 ‰Ÿ “ ü ‰Ÿ “ ü ‰Ÿ “ ü 20 600 個室3 ŒÂ Ž º E ‚ R 23回/h 630 1212 674 • Ö Š ƒ z ƒ [ ‹ ‘ Ö 81 2階 29 ・ 欄間開口を利用した 夜間の通風想定 →外壁開口と室間開口 上部の欄間開口を開 ・換気回数20回/h程度 ・通過風速:0.4m/s程度 欄間開口 (高さ0.3m) 34 通風量の試算(2) ・ 外壁の欄間開口開放、室間の欄間開口を閉鎖 ・ 室間を閉じると… 1 7 0 1 階から 3 3 5 170 400 44 16 6969 1060. 5 1818 14 ” [ŒË 56 4090. 5 85 31 23 92 個室1 ŒÂ Ž º ‚E P 6回/h 134 92 個室2 ŒÂ Ž º ‚E Q 3回/h 92 36 ‰Ÿ “ ü ‰Ÿ “ ü ‰Ÿ “ ü 13 92 個室3 ŒÂ Ž º E ‚ R 5回/h 31 →換気回数:20回/h→5 回/h程度に減少 →通過風速: 0.4m/s→0.1m/s 程 度 に減少 123 1212 208 • Ö Š ƒ z ƒ [ ‹ ‘ Ö 44 2階 欄間開口 (高さ0.3m) 35 まとめ 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③ ③開口部 ↓ 流量係数 開口配置・面積を設定 開口配置計画 ④室内 ↓ 気流性状 通風量を算定 気流性状を検討 36 37 気象条件 ①通風条件の頻度と卓越風向 風速[m/s] 風向: 3 最頻風向とその平均風速 →ベクトル図 2 1 0 コンター図 30 気温[℃] 28 25 18℃~28℃の時間数をカウント 20 18 15 0 3 6 9 12 時刻 15 18 21 24 3~4割の時間帯で 通風が可能 38 マクロな流れ 3 V=70.4m 3 V=70.4m V =0.80V 2 V=70.4m3 Q20=5150m3/h 3 3 V =0.50V Q20=2180m /h /h Q221=0m3/h Q12=5150m 3 Q21=310m3 /h Q01=11040m /h 3 Q01=11040m /h Q10=5890m3/h Q=9780m /h 3 Q12=2490m /h 1a) 風向0,V1=0.2V 3 Q10=8860m /h 3 V=70.4m V2=0.50V Q20=2180m3/h 1b) 風向0,V =0.5V 1 3 Q21=310m /h Q =11040m /h ・通風量の8割が空間の Q =2490m /h 半分を通り過ぎる Q =8860m /h V =0.50V 3 01 3 12 3 1 Q=9780m /h 3 1=0.20V V V1=0.20V V1=0.50V 3 V=70.4m V2=0.80V Q20=7420m3/h 3 Q =4410m /h V =0.50V 20 2 3 3 Q21=0m /h 3 Q12=7420m /h 3 Q =4410m /h Q21=0m /h 12 3 10 1b) 風向0,V1=0.5V → 残り半分の空間には2 割しか流入しない Q10=2360m3/h 2a) 風向45,V1=0.2V Q10=5370m3/h V1=0.50V3 V=70.4m 3 V2=0.50V Q20=4410m /h 2b) 風向45,V 3 1=0.5V Q21=0m3/h Q12=4410m /h ・通風量の5割強が空間 Q =5370m /h の半分を通り過ぎる V =0.50V Q=9780m3/h 3 10 1 風向45,V1=0.5V →2b)残り半分の空間に、5割 弱が配分される マクロに見た空気移動の状況 39 ①外界→気象条件 ・ 気象データ(拡張アメダスデータ)から、その地域の特性を 検討する 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 40 ②建物周辺→風圧係数 ・ 周辺の状況(敷地条件)は、通風の駆動力となる風圧に大 きな影響を与える 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 41 ③開口部 ・ 開口配置計画→通風経路を確保 ・ 流量係数→実験による詳細な検討 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状 42 ④室内→気流性状 ・ 室内の通風の経路(通風輪道)・速度分布は、在室者の快 適性、室温の低下に直接的な影響を与える 日射遮蔽、採光、断熱遮熱、… ④ ① ② ①外界 ↓ 気象条件 ②建物周辺 ↓ 風圧係数 ③ ③開口部 ↓ 開口配置・面積 流量係数 ③ ④室内 ↓ 気流性状
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