キャンパスの都心回帰 ~都市と大学~

名古屋学院大学 伊沢ゼミ
社会全体
工場等制限法
地価の下落などによって都心部の居住人口などが
回復する現象をいう。
大学の場合
都心にキャンパスを置いていた大学が郊外へ移転。
しかし、キャンパスを再び都心へと戻す動き。
又は、都心部にキャンパスを新設する動き。
1950年代後半
都心部に工場や大学が増加し、人口が増大。
・様々な過密都市の弊害が深刻化
・都市機能の混乱を招く恐れ
⇒産業及び人口の過度の集中防止
人口集中の要因である工場や大学等の新設を制限
《《首都圏・近畿圏で工業等制限法が制定 》》
1960年代後半(愛知県)
・都市への過度な大学集中回避
・地域間格差の是正
《《名古屋市を含む大都市への大学立地も制限》》
1990年代以降
文部科学省は都心部の空洞化といった現象を問題視
既存キャンパスにおける校舎高層化による
学部新設や定員の増加を認める。
2002年
※工場等制限法の廃止※
都心部でのキャンパス新設・増設の制限がなくなる。
こうした背景もあり、より都心部への
移転・新設がしやすい環境に
大学名
実施時期
移転前
移転後
名古屋学院大学
2007
愛知県
瀬戸市
名古屋市
熱田区
愛知工業大学
2010
愛知県
豊田市
名古屋市
千種区
愛知大学
2012
愛知県
三好市
名古屋市
中村区
愛知学院大学
2014
愛知県
日進市
名古屋市
北区
名城大学
2016
岐阜県
可児市
名古屋市
東区
Q.都心部へ移転することでプラスになる?
*志願者数増加
最大の利点
*偏差値上昇
志願者数増加でより優秀な学生を確保
*企業説明会
キャンパスで行う際、企業が集まりやすい
*講師
実務者の非常勤講師を呼びやすい
名古屋学院大学総志願者数
8000
7000
移
転
公
表
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
2003年
2007年
2012年
2013年
2014年
旺文社「パスナビ」発表データから作
成
《学生確保が最優先となり大学間の競争が激化》
●本学のどのような点に関心を持ちましたか?
希望する学部学科がある
952
交通アクセス
408
キャンパスの環境
343
教育内容
282
留学制度
209
就職・キャリア支援
194
入試偏差値
186
ノートパソコン配布
184
部活動、サークル活動
176
歴史(伝統)
94
建学の精神
83
情報教育・IT環境の充実
81
先輩からの誘い
33
キリスト教主義
30
名古屋学院大学2012年度入学者アンケート
⇒関心をもった理由
「希望する学科・学部がある」
次に多いのが「交通アクセス」
交通アクセスの良さを売り
に
広域から受験生を集められ
る
*ブランドイメージ
都会が持つ集客力やそのブランドイメージは軽視できない。
多くの大型商業施設、交通の便が良いため移動も楽。
様々なイベントの開催。
*知名度上昇
都心にあることで情報発信も効率的に。
移転の際にも大きく宣伝することもでき、マスコミにも取り上げられやすくなる。
*就職活動
就職活動が有利にはたらく。
大企業の多くは都心に本社を構えているため何度も説明会やOB訪問できる
そのことから、採用に関して情報が多く得られ有利。
また、交通費の観点からも有利と言える。
文部科学省:「大学の教育研究が地域に与える経済効果等に関する調査研究」
◆地価上昇
◆4つの効果
(例)東京電機大学
東京都足立区の千住キャンパスへ
移転。
・周辺商業地の繁華性向上
社会
貢献
教育
・店舗の新規出店の動き
研究
5%の地価上昇
消費
学生に対する教養・専門教育
学生に対するキャリア教育
(インターンシップ、就職相談等)
社会人に対する教育(社会人向けプログラム等)
人材の質の向上
人材の安定的な供給
所得増加、税収増加
所得:約370億~670億円
税収:約12億~18億円
民間企業との共同研究・受託研究
民間企業に対する技術移転
大学発ベンチャ
企業:16億~25億円
生産誘発額:26億~39億円
民間企業における研究、開発力の強化
民間企業における研究成果の事業化の促進
産業基盤の強化
地域住民等に対する学習機会の提供
(公開講座、後援会、セミナー、シンポジウム、施設開放)
高大連携事業の実施
(高校における出前授業の実施等)
高度医療サービスの提供
(付属病院による診療等)
地域の行政課題への取り組み
(地方公共団体に対する助言)
・地域の教育力の向上
・地域医療体制の整備
・行政改革の推進
教育・研究活動に係る消費
教職員・学生の消費
大学の管理運営に係る消費
交流人口増加に伴う消費
経済活動の活性化
332~448億円
経済効果からも
大学移転には
大きな利点がある!
大学名
実施時期
移転前
移転後
立正大学
2002
埼玉県
熊谷市
東京都
品川区
上野学園大学
2005
埼玉県
草加市
東京都
文京区
東洋大学
2005
埼玉県
朝霞町
東京都
文京区
芝浦工業大学
2006
埼玉県
さいたま市
東京都
江東区
東京芸術大学
2006
茨城県
取手市
東京都
足立区
共立女子大学
2006
東京都
八王子市
東京都
千代田区
工学院大学
2006
東京都
八王子市
東京都
新宿区
法政大学
2007
東京都
小金井市
東京都
千代田区
東京家政大学
2007
埼玉県
狭山市
東京都
板橋区
大学名
実施時期
移転前
移転後
東洋学園大学
2007
千葉県
流山市
東京都
文京区
跡見学園女子大学
2008
埼玉県
新座市
東京都
文京区
日本大学
2009
埼玉県
さいたま市
東京都
千代田区
國學院大学
2010
神奈川県
横浜市
東京都
渋谷区
帝京科学大学
2010
山梨県
上野原市
東京都
足立区
二松學舎大学
2010
千葉県
柏市
東京都
千代田区
東京家政学院大学
2011
東京都
町田市
東京都
千代田区
青山学院大学
2012
神奈川県
相模原市
東京都
渋谷区
武蔵野大学
2012
東京都
西東京市
東京都
江東区
東京歯科大学
2012
千葉県
千葉市
東京都
千代田区
帝京平成大学
2013
千葉県
市原市
東京都
中野区
実践女子大学
2014
東京都
日野市
東京都
渋谷区
東京工芸大学
2014
神奈川県
厚木市
東京都
中野区
大学名
実施時期
移転前
神戸国際大学
2002
東大阪大学
2003
大阪大学
2004
大阪府
平安女学院大学
2005
滋賀県
大阪総合保育大学
2006
立命館大学
2006
京都府
神戸女子大学
2007
神戸学院大学
2007
神戸夙川学院大学
2007
兵庫医療大学
2007
兵庫県
神戸市垂水区
移転後
兵庫県
神戸市東灘区
(六甲アイランド)
大阪府
東大阪市
吹田市
大阪府
大阪市北区
守山市
大阪府
高槻市
大阪府
大阪市東住吉区
京都市
京都府
京都市
兵庫県
神戸市須磨区
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
兵庫県
神戸市西区
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
新設
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
新設
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
新設
新設
大学名
実施時期
移転前
森ノ宮医療大学
2008
新設
甲南大学
2009
兵庫県
同志社女子大学
2009
関西国際大学
移転後
大阪府
大阪市住之江区
神戸市
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
京都府
京田辺市
京都府
京都市
2009
兵庫県
三木市
兵庫県
尼崎市
関西大学
2010
大阪府
吹田市
大阪府
高槻市・堺市
大阪成蹊大学
2012
京都府
長岡京市
大阪府
大阪市
佛教大学
2012
京都府
京都市
京都府
*京都市
同志社大学
2013
京都府
京田辺市
京都府
京都市
*印:より中心部の駅前に移転
大学名
実施時期
神戸国際大学
2002
東大阪大学
大阪大学
平安女学院大学
大阪総合保育大学
立命館大学
神戸女子大学
移転前
兵庫県
神戸市垂水区
2003
新設
◆神戸の大型再開発で作られた
2004
大阪府
吹田市
2つの「人工島」
2005
滋賀県
守山市
◆繁華街の三宮から電車で10分
新設
2006
◆教育施設、研究関連施設や
2006
京都府
京都市
医療関連企業なども
移転後
兵庫県
神戸市東灘区
(六甲アイランド)
大阪府
東大阪市
大阪府
大阪市北区
大阪府
高槻市
大阪府
大阪市東住吉区
京都府
京都市
2007
兵庫県
神戸市須磨区
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
神戸学院大学
2007
兵庫県
神戸市西区
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
神戸夙川学院大学
2007
新設
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
兵庫医療大学
2007
新設
兵庫県
神戸市中央区
(ポートアイランド)
《大阪市内へ都心回帰できない?》
大阪市内には、キャンパス型大学の
立地に適した、概ね1ha以上の
駅に近い交通至便な土地が少ない。
⇒都心回帰が困難なのが現状
(数少ない大学が移転・新設)
より都心部に近い周辺のまちに移転
大阪市行政も他の大都市に比べ、
市内に大学が少ないことを重く考え
移転誘致の政策をしている。
©関西大学
※ 名古屋学院大学は2007年に移転 ※
◆学生・大学双方の利にかなう都心回帰。
なぜ東海は関東・近畿に比べ、
後れを取ってしまったのか?
⇒現在の大学の都心回帰の流れで、
最初に都心へ移転を行ったのが2002年の立正大学。
愛知の大学で最初に都心回帰を行ったのが、
2007年の名古屋学院大学。
順位
都道府県
大学数
1
東京都
138
2
大阪府
56
3
愛知県
51
4
兵庫県
42
5
北海道
35
6
福岡県
34
7
京都府
33
8
埼玉県
29
8
千葉県
29
8
神奈川県
29
文部科学省「平成26年度学校基本調査」
…関東
…近畿
…東海
関東、近畿は他地域に
比べ大学数が非常に多い。
周囲の都府県に学生を
取られまいと競争が激化。
*関東・近畿の場合
大学数の多い都府県が
隣同士で固まっている。
⇒競争意識が高い
*東海の場合
反対に愛知県のみ。
周囲に競争相手がいない。
⇒競争意識が低い
都
道
府
県
別
他
県
へ
の
流
入
率
旺文社教育情報センターHP「平成26年度
都道府県別
大学・短大進学状況」
都
道
府
県
別
他
県
へ
の
流
出
率
旺文社教育情報センターHP「平成26年度
都道府県別
大学・短大進学状況」
地元進学率
70.6
①愛知県
68.4
②北海道
64.6
③東京都
56.9
⑤宮城県
54.8
⑥大阪府
53.8
⑦沖縄県
53.1
⑧広島県
49.8
⑨京都府
45.5
⑩熊本県
(%)
全国1位
63.5
④福岡県
0
10
20
30
40
50
60
70
※文部科学省「平成26年度学校基本調査」を元に作成
80
県外への流出が少ない=地元志向が高い
「都心回帰しなくとも学生が集まる」
競争意識が低くなり、関東と近畿よりも
後れを取ったのではないか。
◆被説明変数:地元大学進学率(=地元志向)
各県の大学進学者/地元大学進学者
◆説明変数
鉄道駅数
駅数が多いほど交通の利便性が良くなり
地元の大学を志望する傾向になるのでは。
地元に就職先企業が多くあるため、
求人倍率
県外に出るよりも地元に残ったほうが
就職の心配も少なくなるのでは。
所得が高ければ県外にも出ることが可能。
所得
低い場合は地元に残るため、
地元志向にも関係しているのではないか。
説明変数
係数
(t-値)
修正済決定係数
県民所得
7.52
(0.79)
0.0004*
(1.97)
0.32**
(2.34)
10
-0.04
鉄道駅数
求人倍率
サンプル数
0.24
0.33
-
駅数が多いほど交通の利便性が良くなり
鉄道駅数
求人倍率
地元の大学を志望する傾向になるので
は。
奨学金など家庭を
補助する制度があるため、
地元に就職先企業が多くあるため、
所得は相関関係がない。
県外に出るよりも地元に残ったほうが就
職の心配も少なくなるのでは。
所得
所得が高ければ県外にも出ることが可
能。低い場合は地元に残るため、地元志
向にも関係しているのではないか。
愛知県は地元志向に相関のある、
鉄道駅数:全国4位
求人倍率:全国2位
鉄道駅数・求人倍率の好条件が揃っているため、
地元志向が高くなり愛知県の都心回帰を遅らせたと考える。
今後、18歳人口が減少してくと共に、愛知県内の学生も減少し
地元志向に頼っているだけでは大学間競争に勝てないため、
他都府県からの学生流入を増やす必要がある。
そのため関東、近畿と同じように都心の魅力的な大学立地を
目指し、都心回帰が必要となる。
・文部科学省「平成25年度学校基本調査」『e-Stat 学校基本調査』(2013.12.20)
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
・国土交通省「国土審議会(近畿圏整備分科会)」『国土交通省 近畿圏整備分科会』
http://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/kinki/kinki_.html
・江口忍「止まらない大学の都心回帰~キャンパスが流出する郊外自治体への影響はきわめて大きい~」『共立総
合研究所』(2014.7.9)
http://www.okb-kri.jp/cyousa/research.html
・中日新聞「駅地ッ!通学圏広がり便利に キャンパス 都心回帰の動き」『中日進学ナビ いまドキッ!大学生 メ
インニュース』(2014.7.29)
http://edu.chunichi.co.jp/gakusei/?p=5832
・リクルート進学総研「18歳人口・進学率・残留率の推移(エリア別分析)」『リクルート進学総研』(2013)
http://souken.shingakunet.com/research/2014/06/18-960b.html
・清丸恵三郎「大学の都心回帰ラッシュの舞台裏と経営事情」『Bussiness Journal』(2012.12.28)
http://biz-journal.jp/2012/12/post_1230.html
・日本経済新聞「首都圏の大学、都心回帰広がる 通学の利便性で受験生獲得」『日本経済新聞』(2013.1.17)
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO50656830W3A110C1L71000/
・厚生労働省「職業安定業務統計」
www.nea.or.jp/5/roushi/r_03.xls
・総務省統計局
www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y0314a00.xls
www.stat.go.jp/data/nenkan/zuhyou/y0230000.xls
・22年版 地域交通年報:運輸政策研究機関
http://uub.jp/pdr/t/e_10.html
・文部科学省「大学の教育研究が地域に与える経済効果等に関する調査研究」
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/itaku/1311183.htm
・関西大学
http://www.kansai-u.ac.jp/index.html
・みずほ信託銀行「不動産トピックス」(2006.10)
・大阪市港区役所教育委員会事務局戦略会議(2014.04.23)
・リクルート進学総研「カレッジマネジメント」(2010.7-8)