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分枝カット法に基づいた
線形符号の復号法に関
する一考察
堀井 俊佑
松嶋 敏泰
平澤 茂一
早稲田大学
研究背景

対象とする問題
無記憶通信路に対する2元線形符号の最尤復号



LDPC符号・ターボ符号に対しては,確率伝搬法が幅広く用いられている
近年,線形計画法に基づいた復号法に関する研究が盛ん(LP復号法)
LP復号法の性能
整数解が得られれば最尤であることが保証される
 計算量は一般的に,確率伝搬法より多い
 復号誤り率も,確率伝搬法より劣ることが多い
⇒復号アルゴリズムを改良する研究が多く存在

関連研究と本研究の目的
分枝限定法に基づく復号
[Yang et al.]
Adaptive LP (ALP) 復号
[Taghavi et al.]
LPの計算量削減
分枝限定法を利用
逐次的に不等式を問題に組み込む
逐次的に等式制約を問題に組み込む
不等式の候補を増やすことで,
最尤復号が保証される
復号誤り率が改善
組合せ
本研究
分枝カット法に基づく復号という形で一般化
分枝限定法とALPの組合せ.
逐次,等式制約・不等式制約を問題に組み込む.
最尤復号が保証される.
[Draper et al.] によって提案されている復号法も分枝カット法の1つと見る
ことができる
線形符号の最尤復号問題
(通信路は無記憶を仮定.AWGN等)
最尤復号問題
(1)
最適化問題の形に変換
(2)
従来研究:LP復号法

LP 復号法
(6)




得られた解が整数解ならば,その解は最尤解である.
従来研究:Adaptive LP 復号法

必要な不等式を逐次問題に組み込んでいく
Adaptive LP (切除平面法)
不等式が見つかる
新たな不等式が無い.
最後に解いた最適化問題の最適解を出力
※途中で見つかった不等式をカット(切除平面)と呼ぶ.
探索する不等式の範囲が(6)式であれば,出力はLP復号法と同じ.
従来研究:Adaptive LP 復号法

不等式の探索範囲を広げることで,



新たなカットが見つかれば,復号誤り率が改善される場合がある.
ただし,計算量も増大する.
符号の場合,パリティ検査式の排他的論理和をとることで,冗長なパ
リティ検査式(RPC)を構成できる.
[Taghavi et al.]によるRPCの探索アルゴリズム
• Step1: ALPの結果得られた解を とする
• Step2:タナーグラフから,整数解のノードを取り除く
• Step3:得られたグラフ上でランダムウォークもしくは探索によりサイクルを見つける
• Step4:サイクルに含まれるパリティ検査式の排他的論理和をとる
• Step5:パリティ検査式がカットを生成すれば終了.そうでなければStep3に戻る.
上記を決められた回数だけ行う.回数が多ければカットが見つかる確率が
大きくなるが,計算量が多くなる.
従来研究:分枝限定法に基づく復号



LP decoder の出力が,非整数ならば,等式制約を加えて解きなおす.
復号の過程は,木で表現できる.
各ノードは,LPとその解,目的関数値を保持.根ノードには(6)のLP.そ
の他のノードは,親ノードのLPに等式制約を1つ加えたLPが対応する.
分枝限定法
Step.1:
Step.2:
Step.3:
Step.4:
従来研究:分枝限定法に基づく復号

復号過程の例:
最尤符号語
分枝限定法の計算戦略

探索の仕方には,幾つかの選択肢がある





深さ優先探索
幅優先探索
評価値優先探索
ヒューリスティック探索
etc
※[Yang et al.]では,深さ優先・幅優先のみ

子問題を生成する際に,どのビットに整数制約を入れるか(分枝変数の
選択)によってもアルゴリズムの性能は大きく変化する.
親ノードのLPの最適解において,値が0.5に最も近いビット
 対数尤度比が最も大きいビット
 ループが多く解消されるビット
 etc.

※[Yang et al.]では,(6)のLPの最適解が,0.5に
近い順.これだと,子ノードのLPが親ノードのLP
と変わらない場合が生じる.
分枝カット法に基づいた復号

分枝限定法にカットの探索を組み込む
Step.1:
Step.2:
Step.3:
Step.4:
分枝カット法の計算戦略


分枝限定法と同様,探索の仕方・子問題の選択に自由度がある.
その他に,「カットの候補となる不等式の集合」の取り方に関する自由度
がある.
不等式の集合を多く取っておけば,1つ1つのLPを解く時間が大きくなるが,
探索ノード数の減少が見込める.
 符号語であることを保証するためには,全ての不等式を満たす整数ベクトル
が符号語であることが条件
 以下のようにすると,[Draper et al.]のアルゴリズムが復元される




探索方法は,幅優先探索
子問題の生成は, 「親ノードの最適解が0.5に近いビット」に等式制約を入れる.
不等式の探索範囲は(6)式
実験

探索の仕方の違いによる,探索ノード数の差を見る
分枝限定法・子問題の生成法は[Draper et al.]のもの
(60,30)-正則LDPC符号を使用

評価値優先探索が一番少ない.


実験

評価値優先探索では,リストのソート作業が入るので,ノード数の比較だ
けでは公平でない.計算時間で比較.

グラフの形が,探索ノード数と殆ど変わらない.ソートにかかる時間に比
べて,LPを解く時間の方が支配的.
実験


分枝変数の選択戦略の違いによる差を見る.
分枝カット法.探索方法は評価値優先探索
5000
4500
0.5に最も近いビット
4000
3500
対数尤度比の絶対値
が最大のビット
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
3
3.5
4
4.5
5
5.5
6
実験

分枝限定法と分枝カット法の違い
探索方法は評価値優先探索.子問題の生成法は[Draper et al.]のもの.
カットの候補となる不等式集合は元のLP(分枝限定法と同じ探索)

分枝カット法のほうが早い(LPとALPの差が出ているのみ.)

実験


分枝カット法におけるカット探索範囲の違い
探索方法は評価値優先探索.子問題の生成法は[Draper et al.]のもの.
[Taghavi et al.]のRPC探索アルゴリズムを使用.(最大繰り返し回数10回)
1200
40
35
RPC無し
30
根ノードのみRPC
全ノードでRPC
25
RPC無し
1000
根ノードのみRPC
全ノードでRPC
800
20
600
15
400
10
200
5
0
0
4
5
6
4
5
6
まとめと今後の課題




分枝カット法に基づいた復号法というアルゴリズムの枠組みを
提案した.
いくつかの従来の復号法がこの枠組みに含まれることを示し
た.
ノードの選択・分枝変数の選択・不等式の探索範囲などを変更
することで,より良いアルゴリズムが得られることを示した.
符号の構造を活用したより良い計算戦略の提案が今後の課題
である.
付録

(6)式の制約を満たさない⇒符号語にならない
符号語が(6)式を満たさないとする
⇒N(j)において,Sに含まれるビットは1,それ以外のビットは0
⇒対応するベクトルはj行目のパリティ検査式を満たさず,符号語にならない.

符号語でない整数ベクトル⇒(6)式を満たさない
符号語で無ければ,パリティ検査式を満たさない行jが存在する.
⇒以下を満たすVが存在する.