平成22年度第33回校内放送指導者講座 講座3「番組講習」 放送部指導の 理念と基礎知識 ~映像制作活動を通じた人間教育をめさして~ 2010年12月26日 於・千代田放送会館 東京情報大学 伊藤敏朗 Ⅰ.映像制作実践から学ぶもの Ⅱ.放送部指導者の役割 Ⅲ.映像表現の基礎 Ⅳ.映像表現の基本概念 Ⅴ.番組構成の方法と課題 Ⅰ.映像制作実践から学ぶもの ~実践を通じて私が考えてきたこと~ 番組制作は、高度な創作活動であり、 豊かな人間教育となるものである 映像でふりかえる私の教育観の変遷 (教師としての‘学び’ ‘成長’ ) 大 崎 弘 和 君 伊 野 商 高 → → 森 下 故 克 郷 彦 に 君 新 設 高 さ 知 れ 東 た 工 C 高 A T 宝 V 局 塚 に 造 同 形 期 大 入 社 情 報 大 高 知 の N コ ン で 良 き ラ イ バ ル だ っ た 同 い 歳 の 2 人 プロジェクト(仕事)の順番 夢をみて プログラムして 実行する -西和彦(アスキー創業者) 夢をみて: 放送部活動の理念と目標をもって、 プログラムして: 準備怠りなく日々の鍛錬を重ね、 実行する: しっかり現場に行き最後まで完成させる 映像番組制作はこのプロセスを学ぶことのできる、優れた、また手頃なプロジェクト学習 番組制作を 体系的で短時間に教える難しさ 必要な知識や技量は複合的で体系化しにくく絶対性がない 創作に「決まりごと」はない、学習者のレベルや情熱で教え方も異なる ある人にとっては難しく、ある人にとっては易しすぎる 教える内容はしばしば矛盾して聞こえる 三脚・フィクスが基本 v.s. 臨機応変なカメラワーク 映像番組は常識・良識に訴えるもの: 観客の常識的で一般的な目で評価される 従って、そのノウハウも「わかりきった当たり前のこと」に見える それが当たり前でないから教えるのだが、聞く側はあまり有り難味を感じない 番組制作は実践を通してしか学べない 実践・作例と理論を交互に示して 初めて納得できる 丁寧にやれば数10時間を要し、 飛ばしてやれば何のことやらわからない しかし・・・ 短い時間の短い言葉の中でも伝わるものはある(ハズ) 今回、「これだけは伝えたい」ポイントをまとめてみました ・・・案の定、膨大に・・・これからの指導のよすがに 伊藤敏朗HP http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/ Ⅱ. 放送部指導者の役割 1. 理念と目標を示す 夢をもつて学習者の成長を支援する 2.安全と倫理を確立する 安全で真面目な部活動文化の構築 3.活動を支える環境整備につとめる 管理と運用 4. 時間と作品を大切にする文化を形成する 締め切りを守る日程管理/保存やパッケージにも力を注ぐ 5. フィードバックから学ぶ機会を多く持つ 作品は公表し多くの人々の批判から学ぶ 指導内容の言語化・体系化/指導者の背中を見て育つ 1.理念と目標を示す ~夢をもって学習者の成長を支援する~ 1.1 放送部活動の目的 「優れた作品を作ること」ではなく、「人を育てること」 • 映像のプロではなく教育のプロとして、夢を抱いて、 生徒の成長のための触媒になる • 学習者(生徒)とメディア(社会)との出逢いの触媒 社会や人生の面白さ・難しさ・楽しさを知り、生きる力を涵養する 学習者(生徒)が生涯を通じて学ぶ態度を育む ・ 作品とは具体的なもの 具体的な「行動力」「実行力」を身につけること 1.2 メディア教育活動の目標 「メディア・リテラシーの育成」 「コミュニケーション能力の獲得」 番組づくりを通じて社会や地域に目を向ける体験 • 時間的、空間的な連続性の中で自分が生かされていることを知る カメラやPCの操作スキルより、 生身の人間としてのコミュニケーション能力獲得 • 取材力=挨拶、笑顔、聞く力・話す力、遅刻欠席しない習慣 外界にアンテナをむけ、問題や面白さを見いだす知性と感性を育成 番組化・作品化=テーマを抽象化し一般化する力 • 人間の背骨となる知性と教養を、人間としての総合的な輝きを伸ばす • 顧問の口ぐせ:「本を読め」 1.3 顧問の役割 「ハナシをつける」 「ペーパーを作る(残す)」 「日程・工程管理に目を配る」 • • • • • 学校活動として(校長・教頭に)ハナシをつける 取材先のどこに「ハナシ」をつけるのかを見通す 必要な文書(ペーパー)を作成し、ハナシをつける 制作過程や反省を記録(ペーパー)に残す 生徒に「ペーパー」の意味・価値・威力を教える • コンテスト等の締切りから逆算し、無理無駄のない 活動・制作日程を策定して、日程行程を監理する 2 安全と倫理を確立する ~安全で真面目な部活動文化の構築~ 2.1 安全の確立 • 学校内外での実践活動に潜む“危険”を認識する • 安全の基本:慌てない、忘れない、走らない 2.2 倫理の確立 • メディアを使ったおふざけやイジメを許さない • 規律ある部活動文化(遅刻欠席せず約束を守る) • 作品や機材を大事にする文化の構築 ‘若者の文化・気質・体力’への理解とダメ出し 3 活動を支える環境整備につとめる ~管理と運用の要諦~ 精神主義では戦えない・念写で作品は出来ないし、 カメラだけあっても作れない *場所・機材・予算を確保し、よく使いこなし、合理 的・機動的に運用するノウハウを身につける 3.1 ドキュメントを整備する 3.2 機動力を高めるための管理・運用方法(移 動・運搬方法も含めた)の確立 顧問の口ぐせ:「片付けろ」「なぜ片付けなければならないのかというと」 3.1 ドキュメントを整備する (まず本棚を作る) • 本棚は頭脳・司令塔・設計図 活動に関するもの・・・ 活動規則、日誌、名簿、コンテスト情報、教科書等 管理に関するもの・・・ 機材リスト、取り扱い説明書、保証書 作品に関するもの・・・ シナリオ、取材ノート、諸情報 作品そのもの=貴重な作品であり教材でもある (テープやDVD,BDの保存) 3.2 機動力を高めるための管理・運用 方法(移動・運搬方法も含めた)の確立 保管することが目的なのではなく、現場へ飛び出 す機動力を高めるために管理する 顧問の口ぐせ:「さぁ行こう」 「さぁ行こう」のとき、ストレスのない体制 いつでも取り出せるテープ、充電されたバッテリー、クリーニングテープ 管理するとは、「名前をつけ、リストを作り、片付け る」ことである 「片付けは(後始末ではなく)、次のプロジェクトの 最初の行動」である 3.2.1 落とし物、忘れ物、探し物は事故のもと、 労力の無駄 3.2.2 移動・運搬方法を考える 高性能で良い物でも重くて嵩張れば運べない 生徒の交通手段(自転車・バス・電車)で搬送できる形状・梱包 • 移動撤収の際に忘れ物をしにくいパッキング • 取材現場で荷物の展開の方法(現場を散らかさずに行動す る方法)も訓練する • 訓練は、学校外に出かけるつもりで行う。学校内だと忘れ物をすぐ取りに 行けてしまうが、校外では致命傷になることを知る • 実践的機動力をどう確保するか(そうでなくても生徒は余計な 荷物を抱えている。テニスラケットを持って現場に来るプロはいないが高校生に はあり得る話しである。どういう持ち物で行動するかは大きな課題となる) 3.2.3 機材や用品に名札ラベルをつける ・各機材、用品等に細かくテプラなどで明記する。 ・同じ機材(ex.バッテリ等)には通し番号をつける ・学校の連絡先(住所・電話番号等)もできるだけ明記 3.2.4 機材リストを作る ・取扱説明書や保証書は一箇所に集めて管理する ・高価な機材は製造番号を控える(紛失後の探査にも有効) ・購入価格を記録して生徒にコスト意識を持たせる (生徒も予算管理に参加させる) さぁ行こう を可能にする運用 保管と移動を容易にし 忘れモノ・失くしモノを防ぐ 機動力のある管理 4.時間と作品を大切にする 文化を形成する 4.1時間・日程を守って有言実行する 4.2収録した素材(データやテープ)の紛失や誤 消去を防ぐ習慣いつどこで何を収録したもの か表示(記録)する • テープ:誤消去防止ツメを「SAVE」にする習慣づけ カメラに入れる前にラベルをつける習慣を • データ:二重三重のバックアップをとる 外付けHDD、BDなどに 4.3 作品のパッケージ/ポスター/チラシを作る 作品への愛着や執着があってこそ向上できる 5.フィードバックから学ぶ機会を多くもつ 練習/実作/フィードバックの機会を増やす 経験値を高める/番組制作体験の数を増やす • 簡単で短い練習から、複雑で長いものへ経験重ねる • 短い作品(数カットからなる1分に満たない程度のもの)から初め て、長い作品へと訓練と体験を積んでいく • 短い作品でも、その中にNGカットが(ほぼ)ないこと • 短いなかでも、映像と音声の構成があるものを作る • 身近な教材やお手本から学ぶ (先輩や高校生たちの作品が一番の教材になる) • NGから学ぶ、NGの教材をたくさん残しておく • プロジェクトは最後まで完遂させる • 出来が悪くても一度はとにかく完成させる それから作り直す 試写・発表・修正 そして成長 • • • • • • • 練習はいくらやっても練習 実作をし、失敗することからしか学べない 間違いはないか/わかりやすく伝わるか 取材の協力者や関係者の声を聞く 第三者からの評価に耳を傾ける 修正したり、フィードバックを次回作に生かす Nコンだけでなく、さまざまな機会に応募 (主催者もジャンルも長さも異なるコンテストにもい ろいろとチャレンジしてみる) ・自分が落選していても発表会に参加する いろいろな作品を見比べたり話しをきく Ⅲ. 映像表現の基礎 必要な機材をそろえ、正しく使い、性質をよく知っておくこと ~“とる”は「撮る」と「録る」である~ 1 カメラ 2 三脚 3 カメラワーク 4 照明 5 録音 6 編集 1.カメラ 1.1 1.2 1.3 1.4 カメラの何を操作するのか フォーカス ピント ズーム 画角とパースペクティヴ 露出 感度(+NDフィルタ)、シャッター速度、絞り 色温度 これらが適正になるよう、オート/マニュアル機能を適宜使い分ける いつどの機能をマニュアル操作するか、使えるようにしておく ビューファインダーと液晶パネルを使いわける 液晶パネルは屋外では使いにくい/ビューファイダーは視度調節を忘れない 1.1 フォーカス ピント 「被写界深度」という概念で理解する =「被写界深度」とは、ピントがあっているとみなすことができる「深さ」のこと 絞りを絞ると被写界深度は深くなる 絞りを開けると被写界深度は浅くなる 画角が広角だと被写界深度は深い 画角が望遠だと被写界深度は浅い また、CCDやフィルムが大きいと被写界深度は浅くなる=携帯電話付カメラはピン ボケが生じにくく、一眼レフでは背景をボカした表現がしやすいという違いになる オートフォーカスを上手に使う 人物の背景に縞模様(レンガ模様の壁や本棚、ブラインド゙等の直線が繰り 返すパターン)が背景にあると、そっちにピントが合ってしまうことが多い マニュアルフォーカスでは、撮りたいものを最大アップにして ピントをあわせてから適切な構図に引く(被写界深度の性質) 広角だとすべてにピントがあっているように見える (広角からすぐアップにするとボケることが多い) 1.2 ズーム 画角とパースペクティヴ 画角:画面の見渡している角度(正しくは対角線画角) 広角 ワイド(w) :広く撮れる 望遠 テレ(T)狭角 :遠くのものが大きく撮れる 曖昧な指示:「大きく撮れ」=広く撮れということ?アップにしろの意味? やや的確な指示:「寄る」「引く」 ワイドコンバージョンレンズ(ワイコン)は必需品 画角の違いで遠近感(パースペクティヴ)が変る 広角 遠近感(パースペクティヴ)が強い 望遠 遠近感(パースペクティヴ)が弱い ズームで「寄る」のか、カメラ位置が「寄る」のかでは表現が違う 画角(正しくは対角線画角のこと) 広角(広い) wide 標準 望遠(広角に対して狭角) Tele telephotographic LensWork http://space.geocities.jp/kawananoriyuki001/syouten.html#4tu より 遠近感( perspective) 広角(遠近感が強い) wide 望遠(遠近感弱い) Tele http://www.asahi-net.or.jp/~qb3k-kwsk/3dcg/know/layout/oyaji/oyaji01.htmlより 広角レンズ カメラの場所から広く撮れる ・被写体を大きく撮るには、 近づく必要がある ・被写体はカメラを意識してしま う ・躍動感や主体感が生まれる ピントがボケにくい 手ブレが目立ちにくい ・パースペクティヴが強い (近くのものは大きく/遠くのも のは小さく撮れる) 望遠レンズ 離れた場所から大きく撮れる ・カメラを意識させずに撮れる ・静的で突き放した雰囲気が 生まれる ピントがボケやすい 手ブレが目立ちやすい ・パースペクティヴが弱い (近くのものも遠くのものも あまり大きさが変わらずに 撮れてしまう) LensWork http://space.geocities.jp/kawananoriyuki001/syouten.html#4tu はじめての3DCGカメラ教室http://www.asahi-net.or.jp/~qb3k-kwsk/3dcg/know/layout/oyaji/oyaji01.html http://www24.big.or.jp/~antares/photo_gallery/camera/camera18.html より 遠くから望遠で大きくして撮るか 近くに寄って広くして撮るか 広角(背景が広く撮れる) wide 望遠(対象をクローズアップできる) Tele 背景や状況との関係をどのように見せるか 広角 望遠 背景の状況がよくわかり被写界深度は深い 被写界深度を浅くし対象を浮き上がらせる wide Tele ズームとフォーカス マニュアルフォーカスの場合:撮りたいものを最大 アップにし、ピントをあわせてから適切なサイズに引く 広角だとすべてにピントがあっているように見える(広角からアップにするとボケること多) 望遠で撮ると 被写体が大きく撮れる/手ブレが目立ちやすい ピントがボケやすい/背景がボケて主体が浮かび上がる カメラが離れていて自然に撮れる/カメラとの間に邪魔が入る パースペクティブ(遠近感)が弱い) 広角で撮ると 被写体を大きく撮るには、近づく必要がある ピントがボケにくい/手ブレが目立ちにくい 被写体はカメラを意識してしまう/躍動感や主体感がある パースペクティヴが強い(近くのものは大きく/遠くのものは小さく撮れる) 1.3 露出 露出=画面の「明るさ」に直接関わる 露出の3要素 感度(ゲイン)+(ここではNDフィルターも) 露出時間(シャッター速度) 絞り(アイリス) オート露出でいい時もあるが 逆光や明るい背景の時は人物の顔が暗くなってしまう 単に「明るさ」のマニュアル調整だけでも効果あり いざというときには「逆光補正ボタン」も使える 露出が適正でないと 露出アンダー 露出オーバー カメラの「オート露出」には限界があるので、マニュアルで操作できるようにしておく 液晶パネルでは露出がわからないことが多い(特に屋外では)ので ビューファインダーでよく確認する(ビューファインダーの視度調節を忘れずに) 写真はWikipedia Wikipedia:百科事典向け写真撮影のガイド 露出とは何かより 1.4 色温度(単位:ケルビン) http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/lamp/collortemp.htmより ホワイトバランス:オートにまかせるか、マニュアルで調整するか マニュアルでは画面一杯に白紙等を撮り、それを白だとカメラに認識させ ることで、その場所の光源の色のもとでの正しい発色の撮影ができる 太陽光を白色とすれば、白熱電球(タングステン電球)は赤く、 蛍光灯は緑(ほか)である 白熱電球を白色とすれば、太陽光は青い 晴天の日を白色とすれば、曇天の日は青い • 現実の多くの場所はカクテル光/状況に応じてWBをとる 1.4 色温度(単位:ケルビン) ホワイトバランスって何だろう?オリンパスイメージング http://www.olympus.co.jp/jp/support/cs/DI/QandA/Basic/s0012.htmlより 白熱電球を白色とすれば、太陽光は青い 人間は頭の中で色を補正して認識している 太陽光を白色とすれば、白熱電球(タングステン電球)は赤い ホワイトバランス(WB)をとる(オートでもマニュアルでも)ということは、 カメラにその場所の色温度を認識させ、人間が頭の中で描い ているような発色をさせること 2.三脚 2.1 三脚操作の基本 ・脚と雲台(ヘッド) ・組み立てと収納、搬送の方法 ・石突きの使い方 ・カメラとのバランス調整 ・振動を伝えないv.s.遊びを持たせ常に微調整 2.2 三脚と手持ちの切り替え ・手持ち時のホールドの仕方 ・ビューファインダーに目をつけて安定させる方法 目から放して液晶パネルに移行する方法 ・手持ち撮影~さらに移動撮影 カメラの「ふわふわとした」ハンドリングのコツ 腰の入れ方、すり足の仕方、手首のスナップ 3.カメラワーク カメラ(&画角)が動かないカメラワーク: フィックス、フォーカス、フレームイン・アウト その他 カメラが動くカメラワーク: パン、フォローパン、スィッシュパン、ティルト、ズーム、 ドリー(移動)、クレーン ・・・それぞれの「意味性」を理解する 三脚使用、フィックスが基本(失敗しにくい) フィックスとフォローが基本 (フィックスが基本、フォローはそれに次ぐ基本) 手持ちで振り回すカベ塗りパンは番組に使えない 下手な例、使えない例を皆で見て教材にする ビデオカメラは手持ちができるように作られている しかし、手持ちで作品に使える絵を撮るのは至難・経験が必要 基本はフィックス。ただし、頑迷に固定して撮ればよいわけでもない カメラを動かしたいときは なぜここでパンを使う必要があるのか考えて行う 「スタート」と「エンド」の構図を決める 撮影者の体の姿勢を整える フィックス-サインカーブで加速し減速する-フィックス “パン”はできるだけ“フォローパン”になるように 歩く人をフォローパンする・人に歩いてもらって状況を説明する フォローパンは被写体がカメラの前を通り過ぎるとき加速する (角速度と線速度の違いを理解する) ズームだけでは使う機会は少ない 特にセンター・ズームは滅多なことでは使わない パン・ティルト・ズームを同時に行う(カメラワークの腕を鍛える) 「9マス練習法」 黒板に3列3行のフレーム1~9を描き、ある番号から番号へと パン・ティルト・ズームの練習をする 4.照明 見えるべきものを(自然に)見せる技術 3点照明(キー、フィル、タッチ)+ホリゾントが基本だが ドキュメンタリーでは、現地にある光源や光の状態を活用 光のある場所で撮る(照明の難しい場所を避ける)が基本 照明の難しさと楽しさを知る • • • • • • 使いやすいハンディライトなどを組み合わせて使う ビデオでは、ただ煌々と照らしても不自然になりやすい 真正面-トップライト-逆光 それぞれの難しさを知る バウンス光を活用する(被写体と反対側の壁を照明) レフ板や白い紙・板はとても有効 蛍光灯や水銀灯のフリッカー(ちらつき:シャッター速度を調整100分の1シャッ ター速度で多くは解決) • 暗くするのも照明の仕事 3点照明 1 キーライト 初心者はとりあえず3方向からのライティングと考えてよい メインとなる光源で形をつくる 3 タッチライト 立体感や質感を出す 2 フィルライト キーライトの影を和らげる 3点照明の完成 最近ではLED式のハンディバッテリーライトや 蛍光灯照明を使って ビデオ撮影に適した柔らかくて自然なライティングが可能に (蛍光灯照明の自作例などがインターネットで紹介されている) 携帯可能な柔い材質のレフ板(本来 は写真用)も役に立つことが多い *本来のレフ板は剛性でないと動画には使え ないが、揺れないよう注意深く使えば有用なこ とが少なくないというほどの意味である http://www.light-grafica.com/compact_led/index.html?gclid=CO3iopHJhqYCFUmMpAoddD-KpA ほかより 5.録音 5.1 マイクの基本を知り正しく使う マイクの機能や性能、性質をよく知る 原理と構造の違い エレクトリックコンデサマイクとダイナミックマイク 指向性 無指向性、単一指向性、狭指向性 電源供給方法 電源要不要、ファンタム電源・プラグインパワー 種類・形状 ハンドマイク、ガンマイク、タイピンマイク 有線・無線 有線マイク、ワイヤレスマイク 付属品や録音用品を使いこなす マイクグリップ、ブーム、ジャマー、ケーブルなど 規格や特性をよく知る 出力、イコライザ、マイク径、マイクスタンド径など 5.2 発言や状況を明瞭に録音する ・カメラ内蔵マイクは使わず、外部マイクを使う ・可能な限り撮影とは別に録音マンが担当する ・ヘッドフォンで聞きながら録る ・マイクはできるだけ近くに置き、音源に向ける ・ノイズの混入や発生を防ぐ 適切な風防:ハンカチ、ジャマ-、ムートン マイクの握り方:マイクブームは威力がある スタッフのたてる声にも注意が必要 伊藤敏朗のHPに『マイクの種類とチェックポイント』をまとめましたので、ご参照下さい http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/manual/14.htm 6.編集 編集は新たな創造だ 6.1 ノンリニア編集機の機能を使いこなす シーケンス毎に編集をし、シーンとシーンをつなぎつつ編集することが望ましい (そこそこのスペックのPCでないとストレスの多い編集になる・・) 6.2 映像の編集 絵とナレーションを一致させながら/ちぐはぐな絵はストレス • 仮ナレーションを録音し、これに絵を貼っていく作業だとスムース 編集作業に入る前に仮にでも最後までシナリオを書く 設計図(シナリオ)なしに家を建てる(編集する)のは無謀で無駄 • マッチショットとジャンプショットの違いを意識 ・ カットの長さ ドキュメンタリではあまり短いカットだと落ち着かない(1.2秒以上は必要) • 編集ソフトのイフェクトを多用しない フェードイン(F.I.)、アウト(F.O.)、ディゾルブで十分であることが殆ど 露出や色をフィルターで見やすく修正する 6.3 音の編集 ナレーションとインタビューの‘聞こえ’を第一に考える ナレーションは1日で録音する(日をかえると調子が合わない) ナレーションの間やピッチも編集する(スピードコントロールを使ってもよい) ナレーションもステレオで録音する (まろやかさ、温かさが出る)・・・これは好み 現場の生の音の雰囲気や迫力を活かす 臨場感を失わずに場の雰囲気などを表現をする 音の連続性に注意して編集する 状況がわかる音も録っておく=音を録っているときはスタッフは黙る 現場音と編集で当てる音(ナレやBGM)とのバランスが命 音と絵は「時に一体」、「時に別々」のものとして編集する 音のズリ上げ・ズリ下げ・こぼし: ドラマでは、前のカットの音を、次のカットに 「こぼす」ことでスムースなつなぎができることが多い オーディオフィルターを適切に使う イコライザ、パンポット、ノーマライズ背景の 音も聞かせるか絞るか考えて調整する ノンリニア編集機上の絵と音の編集方法 1本のV&Aトラ ックで絵も音も 編集する方法が 一般的だが 複数のV&Aトラックで絵と 音をズラしたり重ねたりし て編集すると作品としての 完成度が高まる むしろこちらが基本である 6.4 音楽の編集 フリー音楽集の活用/BGMでメリハリをつける/盛り上げるところは盛り上げる 音楽そのものを編集し、とくに音楽の尻と番組の尻を合わせるのが効果的 BGMで素材を台無しにしない/音楽はなくても良い 6.5 テロップの編集 字体、色、縁取り、マットなどの工夫、長さ しゃべり言葉は全部字幕にするのではなく要約で 耳で聴くだけでは判りにくい言葉・専門用語等はテロップで示す 6.6 図表やイラストの作成と利用 必要に応じ図表やグラフ、イラスト等を作成して使用する 小さな文字を詰め込まない/ 「セーフティゾーン」内に収める 6.7 編集に要する時間の管理/工程監理 多くの場合撮影よりも編集のほうがはるかに時間を要する 締切りから逆算して行程を監理する マシントラブルや、修正のための時間も確保する 必要なスタッフ 必要な機材 1 撮影機材(カメラ) &三脚 2 録音機材(外部マイク) &ヘッドフォン 3 照明機材(ハンディライト、レフ板) その他撮影現場で必要なもの ・ドキュメント類(シナリオ等) ・記録メディア(テープ、カード等) ・付属品:バッテリ、充電器、ワイコン、ケーブル ・搬送用品:カメラバッグ、三脚ケース ・メンテナンス用品等:ヘッドクリーニングテープ、 レンズクリーナー、ブロワー、暗幕 ・サプライ用品: 筆記具工具文房具・懐中電灯 ・その他プロパティ:傘、ビニルシート、椅子等 ・その他、特機・操演・美術・衣装・メイク用品等 4 編集機材 PC+ソフト、TVモニター+スピーカ 1 2 3 4 5 6 7 8 ディレクター (+AD) インタビュア カメラマン カメラ助手 録音マン 照明マン(+照明助手) 記録係 編集 ・こう考えると映像制作には8人ぶん以上のスタッフ の仕事があると考えておいたほうがいい ・実際にはこれらを1人~5-6人でこなすことが多い ので誰が何の役を兼ねているのかをよく理解する ・自分の担当でなくても、口と手をだし、協力しあう Ⅳ. 映像表現の基本概念 1 カット(ショット)とシークエンス 2 カメラユビキティ カメラはどこにでも存在でき、かつどこにも存在しないという黙契 3 イマジナリーライン 登場人物の間にひいた仮想線(位置関係の混乱を避ける概念) 4 サイズとアングル 5 構図 1 カット(ショット)とシークエンス • カット カメラの収録がスタートして止まるまで (クリップ:PCの中での一続きの動画データ=カットと同じことも違うこともある) ・カットのつなぎ方にはマッチカットとジャンプショットがある ドラマでジャンプショットは避けるべき、ドキュメンタリでは場合による • シークエンス 番組中の一つの場所や状況 通常、幾つかのカットが集まって一つのシーンとなる なぜカット(ショット)は必要なのか • 現実を区切りって取り出すことで、現実の本質や真実を可視化 する方法 • 監視カメラの「記録」と、作品としての「表現」は違う • 表情や体温が表現できるようにカメラは動きまわる必要がある 2 カメラユビキティ • カメラはどこにでも存在でき、かつ、どこにも存在 しない/カメラは物語を物語るために、最も適切 なポジショニングを行う(行わなければならない) 原理1 カメラはどこにでも存在でき、かつ、どこにも存在 しない 原理2 カメラの存在は、物理的な制約を受けない 原理3 カメラは出演者にとっても無きものである 原理4 カメラの視点は観客の意識の視点、すなわち物語 の視点に一致する 伊藤敏朗のHP『Camera Ubiquity~カメラの遍在性~ 』も、ご参照下さい http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/ITO/lib/lib2003/ubi/ubi_index.html 3 イマジナリーライン • カメラをどこに置いてもどこから撮ってもいいか? • イマジナリーライン:登場人物の間にひいた仮想線 • このラインを越えない場所にカメラを置くことで、場 の全体と登場人物位置関係を混乱させないことが できる • イマジナリーラインは、金科玉条ではない (ことにドキュメンタリでは) ウキペディアhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%83%B3%E5%AE%9A%E7%B7%9Aより A B C 4.サイズとアングル 4.1 サイズ ロング-フィルフィギュア-ニー-ウエスト-バスト-アップ-クローズアップ 寄る(アップ側)、引く(ロング側)・・・ズームでも移動でも 曖昧な言葉「ズームする」→正確に「ズームアップ」、「ズームバック」 曖昧な言葉-ミドルショット(ロングよアップの間・・・曖昧だが便利でよく使われる) 4.2 アングル(ローアングル-ハイアングル) 高さのアングル ハイ-目高-ローで 4.3 サイズとアングルを変えながら撮る 正面から-右から-左から ロングで-ミドルで-アップで カメラ(三脚)の高さを的確に変える ロングショット バストショット(胸上) ウエストショット(腰上) ニーショット(膝上) フルフィギュア(全身) フルショット (全身+若干の周囲) ビッグクローズアップ(局所) クローズアップ(顔一杯) アップ(首上) バストショット(胸上) 5.構図 5.1 的確な「構図」で情報を整理して伝える 構図が伝える情報-その意味や感じ ・被写体の大きさ(サイズ) ・カメラの位置(アングル)=カメラの場所・高さと角度 ・被写体と背景(バランス)=構図における情報整理力 構図における情報整理力 主体となるものが、どういう状況に置かれているのか、構図の 中で示す(ドラマとは「状況との葛藤」である) 場所(周囲の状況と被写体)/名称(看板など) 時間や季節/周囲の状況(人出や車の通り) 大きさ(人との対比など) 5.2 被写体:主体と状況 構図とは「フレームの中の情報整理術」 • 画面の中心から周囲まで見渡して「ノイズ」になるもの を引き算する術 • 奇異な印象を与えない(頭の上を電柱が突き刺している ような構図にしない) • フレームであることを意識させないフレームづくりをする • 物語が伝えようとしているものに寄り添ったフレーム 取材対象に近づかないうちから撮ることも懸命な方法 スタッフや機材(三脚など)が映りこまないほうが好ましい 5.3 バランスのとれた構図でハリのある「絵」を撮る • 正対した構図(均等のバランス) • 左右のバランス(斜めにしてリズムのあるバラ ンス) • 前後のバランス(奥行きのある構図、手前に 「ナメる」構図の作り方) • 動きのバランス(動画像と静止画像のバランス は異なる) • 動くもので演出する構図 正対した構図(均等のバランス) 左右不均等のバランス(斜めにしてリズ ムのあるバランス) 前後のバランス(奥行きのある 構図、手前に「ナメる」構図の 作り方) 5.4 人物撮影の基本(ウエストショットより寄る場合) 基本1:目の高さ「3分1ルール」 人物の目の高さが、画面の高さの上から「おおむね3分の1」にあるように撮る ここぞというところでは、頭を切るほどアップ:「3分の1ルール」は変わらない 3分の1ルールから外れるのは、その背景を見せたい時だと考える 基本2:目線の先の空間はあけ、頭の後ろをあけない 寄りのサイズは迫力があり説得力がある 寄りのサイズは、ピントも構図も難しい 相手は動く=カメラをゆるくフィックスしつつフォロー/手や体の動きも見逃さない ロングインタビューでは2台のカメラで撮るのも効果的 表情がよく見えるように 適切な照明(基本的に順光)のもとで、適正な露出で撮る(屋外だけでなく、室内でも 注意。窓が背景のときなど)/カメラの場所や高さをこまめに変えながら撮る 背景の意味性を考えて撮る 人物の目の位置をおおむね上から3分の1のところに置く (カメラのアングルを微調整する)と構図が安定することが多い 頭の上が空くと不安定になる 頭の上が詰まりすぎても窮屈になる 見ている方向の構図を空ける 頭の後ろが空くと不安(定)になる やはり「目の位置が上から3分の1」「見ている方向を空ける」構図が安定する 寄っても引いても「3分の1ルール」「見ている方向を空ける」を守れば安定する 寄っても引いても「3分の1ルール」「見ている方向を空ける」を守れば安定する まとめ: ドキュメンタリーの取材力 目の前の出来事 その本質を観察して、これを他人に伝えるためには、自分が 何をすれば、どう行動をすればよいか、判断して実行する 状況と人物-人物と人物-の関係をわかるように撮る そこはどんなところで、人物は何をして、誰と関係しているのか どこで、誰が、いつ、何を、なぜ、どのように行い発言しているか どこから撮ればよいのか 前に廻りこんで前から撮る(基本) 「前に廻りこむ勇気」を持つ その勇気の裏付けとなるものを持つ サイズとアングルを変えながら撮る 迷ったら1正面/ロング-2右/ミドル-3左/アップ カメラの場所や高さを適切に変えながら撮る(目高だけではダメ) いつからいつまで(何秒)撮るのか 伝えたいところが撮れるまで撮る 迷ったら、1カットで10数える=音の連続性を録る 前に廻りこんで前から撮る サイズとアングルを変えながら撮る 1正面/ロング-2右/ミドル-3左/アップ 1カットでは10数える 音の連続性をとる(撮る・録る) 会話が続いている途中でアングルをかえたいときは 音を連続させるため、カメラを止めずに、 カメラ位置をかえたり、サイズ・アングルを変えることはある 編集の際、音を生かして、絵は別アングルを上から貼る 物語りをつなぐ・転換するための’捨てカット’ ’雑感’も必要 対象に近づきすぎる前に場所の状況がわかるショット 季節や場所を感じさせるショットをとっておく 撮影日の間隔が空く時も、「自分は今、作品づくりに入ってい る」ということを忘れないで、周辺の状況をカメラに収めておく Ⅴ.番組構成の方法と課題 1. 2. 3. 4. 5. 6. 企画 構成の技術 ナレーション 現場の取材力 インタビュー テンプレートを超えて 映像番組制作の手順 例) 5分のドキュメンタリー作品を作る場合(ニュースではなく) 1 プレプロダクション (リサーチと企画、ロケハン、シナリオ) 2 プロダクション(取材・撮影) 3 ポストプロダクション (シナリオ・構成・編集・仕上げ) (4) 上映(発表)とフィードバック ~他者からの批評・感想から学ぶ 1 プレプロダクションにおける 企画の方法 1.1 ドキュメンタリー番組に求められる3つ のポイント 1.2 素材(テーマ)の発見、選択 1.3 アプローチとスタイルを検討する 1.4 実現可能性を検討する 1.5 レトリックで番組を面白くし、そのねら いを明らかにする 1.1 ドキュメンタリー作品 に求められる3つのポイント • 正確であること 間違ったり偏ったりした情報を発信しないこと • テーマ(哲学)があること 作品を作り、公開する意味があること、社会的敷衍性のあること • エモーショナルな抑揚があること 感動や面白さがあること (横田安正さんの著書『ドキュメンタリー作家の仕事 リアリティを探せ!』フィルムアート社(2004) をもとに、一部伊藤の見解も加えて概念整理しました) 1.2 題材とテーマの発見、選択 テーマが大事というけど、それってどうやって見つけるの? テーマってなんだろう? 個別の事象を通じて一般化・抽象化された哲学とか教訓とか利益とか 「大げさにいえば、これって人類全体にとってのこういうことだ!」 周囲に目をむけて素材やきっかけを探す • • • • 家族や友人の口コミ、新聞の地域面や地域広報誌、インターネット 部員を班にわけてアイデアコンペを行う どういう作品にするか(ポイント) 素材とテーマが悪ければ番組にならないと諦めるのも一法 料理の仕方、「切り口」「アイデア」を考える 高校生らしい切り口とアイデア/高校生らしさって? 作り手の姿が作品に投影される • • 観客は作品を通して作り手(生徒や顧問)の姿を見ている そこに共感や感銘が生まれる 題材 • 校内 • 校外 • 催し • 人物 • 事件 • 事物 切り口やスタイル テーマ 抽象性 哲学 社会性 意義 • 裏側にある‘深いい話’ を浮き上がらせよう • 謎かけをして謎解きする • 自分で体験してみました • これはびっくり • これってどう思う? • 過去とこんな繋がりが! • この人は実はこんな人 だったのか • やっぱり私はこの学校・ 町・家族が好きと納得 テーマがあり、それにふさわしい切り口やスタイルで番組にするだけでなく、 切り口やスタイルをもって素材にアプローチすることによってもテーマが生じる 1.3 アプローチとスタイルを検討する その作品内容に様々な角度で関わる人にアプローチする 「関係者リスト-相関map」を作って誰にアプローチするか考える 「光」の当て方が多様なほど、その姿が浮かびあがる 関係性の開示 作り手を作品の中でどのように出現させたり感じさせたりするか • 作り手やナレーターが出てくるか・こないか • 作り手がどう名乗るか/ 私は、私たちは~と語るのか、語らないのか • 対象にどう関与しているか・してないか / それを明らかにするのかしないのか 主語は誰なのか 主語が全部、高校生でなくてはならない決まりはないハズ 「私は、この道端で二百年、人々の往来を見てきた地蔵で 1.4 実現可能性を検討する その作品は実現可能なのか? ・自分たちの技量や機動力は、取材対象と噛み合っているのか ・実現性が乏しく実力と噛み合わないところから がアイデアの始まりである ・実現の方法を探ってテーマや対象を絞る/アプローチ を変えることで、新しい切り口やアイデアが得られる ・大きなテーマの一部だけを抽出して象徴させたり、部 分的なことや派生的なことに着目する 1.5 レトリックで番組を面白くしながら 番組のねらいを明らかにする方法 • レトリック(修辞法)とは 彼は酒を飲む&仕事ができるという二つの事実の 併記は、ねらいが不明 「彼は酒を呑むが、仕事ができる」 「彼は仕事ができるが、酒を呑む」 この番組でいったい何を言いたいのか • 何をどう伝えるか、レトリックを正しく用いて、ねら いが伝わるようにする • 作り手(自分)の立場・考え方を明らかにする • Aがいい、Bがいい、AもBも両方いい(一長一短) • 第3者の意見も聞いて客観的に見つめ直し修正 する • 最初のアイデアにこだわらず、客観的に突き放し て再構成する 2. 構成の技術 2.1 「KJ法」から「串ダンゴ」へ 2.2 スタイルとレトリック 三幕構成(スリーアクト・ストラクチャー) と起承転結 2.3 ドラマティックな脚色 2.1 「KJ法」から「串ダンゴ」へ ・要素を切断/小片にして(ポストイットに書いて)ボードに貼る/近接・類似の ものをグループ化していく 「カード操作による発想法 http://www.crew.sfc.keio.ac.jp/lecture/kj/kj.html より KJ法の成果はツリー構造に整理され ることが多い.論文やレポートはこれ でよいが「物語」にはなりにくい 長さやジャンルにもよるが一般的な5分程度のドキュメンタリーでは 映像表現は「串ダンゴ」構造になる ・セグメント(ダンゴ)を順番に並べて 串を刺す(串ダンゴ)にする ・番組の時間は一方向だけに流 れる(シーケンシャル)強制的 冗長性をもった表現方法であ る ・それぞれの具(節)を「そこで」「いよ いよ当日」「ところが」「実は」「思わ ぬことに」「意外なことがわかりまし た」などのターニング・タームで上 手につなぐ(おしゃべり上手な人の 話し方)ことで物語りを物語る 「串団子」の問題点や限界 • 映像番組は、一方的な時間の流れに乗ったシーケ ンシャルで、強制的冗長度をもった表現 構成の順番がメッセージそのものとなる 何をどういう順番で伝えるかが、かなり決定的 • 映像番組は、一方的な時間の流れに乗ったシーケ ンシャルな表現である • ものごとを委細漏らさず正確に伝えることは苦手 • 感動や感銘を与えたり、態度を変容させたり、審美 性を味わうことには優れる 「串団子」的修辞(映像的単純化)の問題点 • 映像番組は、一方的な時間の流れに乗ったシーケンシャルで、強制的冗長度をもった表現 ・映像番組の構成/レトリックは、AかBかと単純な二元論に陥りやすい。 ・「映像の面白さ」とは、現実には割り切れないことを、寓話的に二元化し、白黒 つけるカタルシス。単純化されたハレの世界。相手を痛罵する差別の世界。 プロパガンダにこそ向いている危険なメディアでもある。 ・現実の世界にはそんな切れ味も面白さもない。その現実を見通し、生きていく 力こそが本来は大切なもの。 ・KJ法で大事なのは、物事の複雑さを複雑なまま認識すること。それを、串ダン ゴ的に単純化に用いるは本来誤用。 ・本当の世界は単純な二元論ではなく、複雑にからみあっている。(恋愛映画は ハッピーエンドで終わるが、結婚して家庭生活が始まってからのほうがどれ ほど・・・) ・映像の外の世界の豊かさに触れることのほうが本来大事。映像の外の世界で の人間を鍛えるということに重きをおかなくてはならない。 ・若者らしい正義感や問題意識の芽生えを素直に育てていくことと、現実の割り 切れなさとを、同時に教えたり学んだりすることが大事。教師の役割はここに。 2.2 スタイルとレトリック A.「三幕構成」 • スリーアクト・ストラクチャー(ビギニング-ミドル-エンド) • 全体を三つに分けて構成する方法、アリストテレス に由来、ギリシャ劇的構成法 • それぞれのターニングポイントごとに、物語がひとつ大きく展開 • ストーリー全体、それぞれのアクト、それぞれのシーン、それぞれの 言葉にも3つのアクトを設ける • 大から小までスリーアクト・ ストラクチャーの入れ子構造 によってストーリーを構築 ・ 作品世界から観客を離さない 感情抑揚のコントロール(心電図) B.「起承転結」 • 起承転結:4行から成る漢詩の絶句の構成 京都三条糸屋の娘 : 起句 (唄の出だし) 姉は十八 妹は十五 : 承句 (説明) 諸国大名は弓矢で殺す : 転句 (話が一転) 糸屋娘は眼で殺す : 結句 (話にオチがつく) • 転句の「ひねり」がテーマとなり好まれる面あり オチをつけるための仕掛け(上げといて下げるといった方法) 感情の抑揚・面白さが生まれテーマ性が生じる ・情緒的(非論理的)かつ作為的な方法ともいえる 2010年10月24日 産経新聞WEB版 2010年10月24日 朝日新聞WEB版 作業を終えたトナカイは 「心の汚れが落ちた気がします」 と満足げだった。 何ら根拠も論理性もないが、「こうでもいわないとオチがつ かない」という気持ちもわかる.単なる報道より、テーマ性・ 作品性・面白さの追求にやや傾いた記述の例といえる. 番組に「テーマ性」を感じさせるのは、えてしてこのような、 (つまらない)ヒネリのもたせ方になりがちだ. 2.3 ドラマティックな脚色 「序破急」・「起承転結」の物語構成への応用の例 序 破 急 /\ /\ /\ 起 承 転 結 /\ /\ /\ /\ 発 端 展 開 葛 藤 クライ マックス 大団 円 『夢の卵:夢の学』 http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Stage/7253/ および 『大阪シナリオ学校 エンターテイメント・ノベル講座(再録)』 http://www.ne.jp/asahi/kanbe/musashi/idea.html ほかから一部に加筆・修正して掲載させて頂きました 発端-展開-葛藤ークライマックス-大団円 ドラマの場合 刑事モノ 恋愛モノ 難病モノ 成功モノ 1発端 事件発生 出会い 2展開 捜査 仲良くなる 発病 3葛藤 暗礁に 喧嘩、衝 突 4クライマックス アリバイを崩 誤解、別 す れ 5大団円 出逢い 絶望 目標と挑 戦 努力と喜 び 挫折 大手術に 克服・打 賭ける 開 解決!逮 仲直りして 治るか死 捕 結ばれる ぬ 達成!成 功 発端-展開-葛藤ークライマックス-大団円 ドキュメンタリーの場合 部活動モノ 学校モノ 地域モノ 1発端 部活に入る 歩道に自転車 美化にとりくむ 人々 2展開 成果が出ない 事故が発生 メンバーは皆 高齢者ばかり 3葛藤 仲間が辞める 自転車通学 若者が花壇を 禁止か 壊してしまう 4クライマックス 徹夜で取り組 分離帯の提案 若者に美化運 む 動を呼びかけ 5大団円 文化祭で大好 皆で整然と登 皆が力あわせ 評 校 て美化 「ドラマチック」に構成することの適否 ○平凡なものごとに「葛藤」や「危機」を持ち込んでドラマを作っていいか すでに終わったことを遡って原因・山場・解決を物語る術 火のないところに煙を立てるような マッチポンプ・法螺吹・山師・扇動家の才覚 v.s.芸術家・時代の語り部・タレントの才覚(紙一重) ○ここで論理性や思考力が育まれるし、問題意識も目覚める 事件は現場で起きているが、作品は編集室で練られる 情報術は型(フォーム)に落とし込む(インフォームする)術 情報(インフォーメーション)とはある意味で、型に落とし込むことで伝わり、理解さ れる性質がある ステレオタイプ化でもあり、危険でもあるという問題意識も 忘れないこと 3.ナレーション 3.1 ナレーションの文字数 • • • • 5分番組のナレーションの「文字数」は? 1分 400文字×5枚=2000文字 しかし、ナレーションで埋まった番組からは感銘を受けない 映像番組とパワーポイントのプレゼンは違う • 番組の中では絵と音が物語ることが大事であり、ナレーションが 勝ってしまうと、素材の良さを消してしまうことになる 映像とナレーションのバランス • 少なくとも半分は対象の絵と音で勝負 • ということは400字詰×2.5枚以内で語りきる必要がある 文字数としては実にわずかなものにすぎない この中に構成とレトリックを盛り込む=言葉を研ぐ! 3.2 文章表現と映像番組のナレーションは違う 短いセンテンス、耳で聞いて理解できる内容と展開 N「 『千葉市子どもたちの森公園』は、平成 19年、千葉市若葉区源町の住宅街近くの 林地を利用して開設され、 通称「こどもり」 と呼ばれて親しまれています。 ここでは地域の有志メンバーが結成した 『自然遊び若葉の会』が、公園の環境維持 や運営に携わることにより、『自分の責任 で自由に遊ぶ』というプレーパークのコン セプトを実現しています。」 N「『千葉市子どもたちの森公園』、通称『こどもり』」 N「千葉市若葉区源町の、住宅地の中に残された森 の一角に、3年前、オープンしました」 N「公園の運営にあたっているのは、『自然遊び若葉 の会』のメンバー」 N「公園の環境を支え、見守っている地域の有志の 人たちです」 N「『自分の責任で自由に遊ぶ』、プレーパークの子 どもたちの姿を追いました」 3.2 文章表現と映像番組のナレーションは違う N「『千葉市子どもたちの森公園』、通称『こどもり』」 N「千葉市若葉区源町の、住宅地の中に残された森の一角に、3年前オープンしまし た」 N「公園の運営にあたっているのは、『自然遊び若葉の会』のメンバー」 N「公園の環境を支え、見守っている地域の有志の人たちです」 N「『自分の責任で自由に遊ぶ』、プレーパークの子どもたちの姿を追いました」 映像が思い浮かぶように(映像にあわせて)お話しとして物語るよう なナレーションを書く必要がある.(映像とセットになって伝わる) ・長くて難しい言い回しを使うと、観客の注意力がナレーションにい ってしまい、ストレスとなり、絵に対する注意力がそがれてしまう. ・文章としては、やや説明不足なくらいでちょうどいい.その分の情 報は観客が絵から汲み取るということで観客の満足や喜びが生じる ・上の例は、これに見合う絵があって成立する映像番組のナレーショ ンであり、ラジオニュースのナレーションとしてはこれではダメである. ・「文章」「映像番組のナレーション」「ラジオのナレーション」は、それぞ れ異なる表現方法であることを理解しなければならない. 4.現場の取材力を鍛える 4.1 必要な素材を集める • ナレーションやテロップに頼らず、絵と音でね らいを証明するための証拠を集める • 現場でとってきた素材に力があれば、事実を 淡々と伝えるだけでも良い作品になる • 後知恵や加工は(ナレーションや構成)は控 え目でよい • 現場での撮影・録音技術を練習し、訓練し、 鍛え抜いておく 映像に力がないのにナレーションが 「すごい」「素晴らしい」と連呼しても白けるだけ 映像で説得する/説得力のある映像を見せる A選手はすごい=その能力を映像で比較したり、 解析して見せる B君は努力している=汗や苦しい表情、長時間の 密着で見せる C町のこれが問題だ=C町の人々の表情と言葉 を聞かせる • ナレーションにふさわしい、噛み合った絵を見 せる・噛み合わない絵は、観客には大げさで あったりストレスであったりする 写真提供:東京情報大学石井政弘教授 菊池 雄太卒論「コーナーキックの比較分析 」より 新産業住宅株式会社のホームページ http://www.shinsan.com/as_co_reform_idx/file_name/di9009063909より http://www.setuyakudiet.com/diettaiken/beforafter.htmより 4.2 よい取材に必要なこと • • • • • • 現場に行って事実をきちんと見られること 取材対象とのよき人間関係が構築できること 挨拶・服装・態度・礼儀がきちんとしていること ハナシが通っていること 観察し、発見し、抽象して考える力があること 時間をかけて密着すること • 現場での撮影・録音技術を練習し、訓練し、鍛 え抜いておくこと(わかりやすく、力のある絵と音 をとってくること) • とるべきものの前に出る度胸と愛嬌があること 4.3 現場における取材力 目でとる(撮る) ・大事なところに顔を向ける (発言者にカメラとマイクを向ける) 耳でとる(録る) ・話しの内容に耳をそばだて、反応する 口でとる ・事前に考え、現場でもさらに考え、 頭の中でナレーションを流しながらとる(撮る・録る) “つぶやきながら”とる 足でとる(フットワーク) 現場に行く、居合わせる 観客の目と耳になってわかりやすくとってくる =後ろ姿ではなく、前に周り込んでとる 対象に正面から踏み込む・踏み出す力 (好奇心・勇気)をふるってとる(撮る・録る) 鼻でとる ここはもっと面白そうだ、というところに 鼻を効かせてつっこんでいく 顔でとる、あるいは看板でとる プロは「NHK」「TBS」という看板でとっている やってほしいことを「やらせる」風圧を備えている 当然ながら「やらせる」は「ヤラセ」という危険にもつながる やってほしくないことをやらせない風圧が必要なこともある 5. インタビュー 5.1 インタビューのスタイルと方法 用途や目的に応じたスタイルと方法を選択する 物事や心の本質に迫る「ロングインタビュー」 事実を証拠立て再構成する「トーキングヘッド」 人々の一般的な反応や感覚を示す「サウンドバイト」 インタビューの対象と周囲の環境の情報整理 (インタビューの背景) 5.2 インタビューの技術 • 何をどういう順序で質問して何を聞きだすか (言わせるか) • 事実から抽象へと聞き出す • 過去から現在、未来への順番に聞く • 良いこと楽しいこと、問題なこと苦しいことを 聞き出す。 • インタビュアーの聞き出す力(演技力)が大事、 伊藤敏朗のHPに『 番組インタビューの理論と方法』をまとめましたので、ご 参照下さい http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/manual/10.htm 5.3 インタビューで聞き出す (語ってもらう・言わせる)もの • 最終的に社会的敷衍性を導き出す、そういう キーワードを仕込んでおいて相手に言わせる • 最後、「あなたにとって○○とは」ともっとも抽象 的で一見つかみどころのない質問をする • 「深いい話し」を聞き出すなら、YES/NOでしか 回答できないような質問はしない 例:「ステージに立って緊張しませんでしたか?」 →「しました」「しませんでした」としか返事のしようがない 「ステージに立った時、何を考えていましたか?」 • →多様な返事が貰える 6. テンプレートを超えて • あらかじめ設定した物語りに添って材料を集めテ ンプレートに落としこんで作る番組制作は容易 「構成」術は、ある種の型(テンプレート)に落とし込む(インフォームする)術である • 情報(インフォーメーション)とはある意味で、型に落とし込むことで 伝わり、理解される性質がある • ステレオタイプ化であり、危険もあるという問題意識を忘れない 伊藤敏朗のHP『ニュースの構成~2つのテンプレート~』も、ご参照下さい http://www.rsch.tuis.ac.jp/~ito/edu/news_template/news_template_index.html 課題 番組は虚構なのか? 番組制作は事実に関わり歪めてよいのか? 「真実を浮き彫りする」のか、「事実を歪める」のか 番組を作ることじたいが事実に関与すること 事実に関与することで人間形成をしていこうとしている 作品に作り手の姿が透けて見えてくる 作り手の真摯な態度があれば、信に足る作品となる (なければ虚しいものとなる) 作品をよくすることは、作り手である人間をよくすること 作品創作と人間教育 両者一体の学びの場:映像制作教育
© Copyright 2024 ExpyDoc