新聞(2) 新聞の現場と新聞ジャーナリズムの役割

新聞(2)
新聞の現場と新聞ジャーナリズムの役割
1.新聞に書かれていること
2.取材する現場
3.取材される現場
4.技術革新と新聞の現場
5.新聞ジャーナリズムの役割
6.参考文献
1.新聞に書かれていること
マスメディアの機能=「ニュース」を伝えること。
⇒新聞に書かれていること=「ニュース」?
ニュースとは、
「ある報道機関の受け手にとって重要であるか、あるい
は関心が高い出来事について、報道機関が新たに知
り得たことの報告」(Fuller, 1996)
・我々人間は社会的環境を理解し、社会的環境に適応
するために必要な情報を得たいと思っている。また、
情報を得ること自体に喜びを感じる。
・しかし、自分ひとりの力で情報を収集することは無理
である。
⇒マス・メディアから発信されるニュースに頼る。
1.取材する現場
(1)ニュースの収集方法
・各新聞社が自社の記者のみで、世界中のあらゆる分
野のニュースをカバーすることは無理。
・新聞発行のためには、時間的制約(締め切り時間)も
ある。
←①通信社の利用:自社の記者ではカバーしきれない
分野や地域のニュースを契約した通信社から配信
される記事を利用することで補う。
②編集局の分業化:多くの人々が関心を持つ分野
(政治、経済、事件・事故)に優先的にニュース担当
を割り振る。(→図1)
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③記者クラブへの記者の配置:ある特定のニュー
スソースを定点観測するために配置された複数
の新聞社の記者の集まり。
現在、中央官庁のほぼ全て、各都道府県庁・県
警本部、民間企業の業種別団体などに置かれ
ている。
→“官”への直接取材と情報公開の実現
しかし、次のような問題もある。
・ニュースソースによる情報操作
・記者の主体的な取材、ニュース選択ができない
・記者クラブによる情報の独占
・記者と官との癒着の温床となる
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・「記者クラブ」は自然発生的に明治期に誕生した。
・戦後、日本新聞協会によって記者クラブの位置づ
けは、「親睦・社交」(1949年)→「相互啓発・親睦」
(1978年)→「取材拠点」(1997年)と変遷。
・2002年には「新見解」として「公的機関などを継続
的に取材するジャーナリストたちによって構成され
る取材・報道のための自主的な組織」とされた。
←インターネットの普及により記者が公的機関内
に常駐する機会が少なくなるであろう。
3.取材される現場
日本のマス・メディアでは、近年「人権」の問題がクロー
ズアップされている。
(1)犯人視報道
事件の「容疑者」が裁判で“有罪”となる前に、事件報
道の中であたかも「犯人」であるかのような印象を読者
に与えること。
←・拘留期間中に容疑者・被告に直接取材できない。
・刑事事件で起訴された被告の99%以上が一審で
有罪となる。
・「誤報」(e.g. 松本サリン事件の河野さん)(→資料1)
「犯人視報道」を避けるために、
・容疑者の呼び捨て廃止(1989年毎日新聞)
→「○○容疑者」「○○代議士」など
・連行時の写真は掲載しない。
・「当番弁護士制度」(1990年)
→マスコミは当番弁護士を通じて取材が可能。
バランスのとれた報道
しかし、この制度はうまく機能していない。
(2)被害者のプライバシー侵害
事件・事故の背景・事情を取材することは、類似の事
件・事故に共通する原因を突き止めることにつながる。
しかし、事件・事故の当事者、被害者の家族にとって
は、“取材されたくない”ことが多い。
→・被害者の顔写真の掲載を抑制
・被害者名を匿名で報道
これは「社会的弱者へ配慮する視点」の流れの中で特
に重要な変化である。
「『開かれた新聞』委員会」(2000年10月、毎日新聞)と
いう第三者機関を創設。
同様の機関は2004年1月までに34社に上る。
(3)メディア・スクラム
「集団的過熱取材」のこと。新聞・テレビ・雑誌などの
多数の記者・カメラマンなどが、当事者に殺到するこ
と。
→「集団的過熱取材に関する日本新聞協会編集委員
会の見解」(日本新聞協会, 2001年12月)
・被害者・家族の心情を踏みにじらないよう服装・
態度にも気をつける。
・記者クラブが率先して対応するべき
Q1:犯罪報道、事件・事故報道以外で、“人権侵害”と考
えられる事例がありますか?
4.技術革新と新聞の現場
新聞は、人間が発明したさまざまな道具・技術を取り
入れることによって、“より早く”ニュースを読者に届け
ようとしてきた。
技術革新によりスピードアップした新聞の主な現場
は、「送稿」「編集」「印刷」「輸送」である。
しかし、変わらない部分もある。
情報源から情報を収集する「取材現場」は、人間同
士のコミュニケーションが基本であり、変わっていない。
また、新聞の形態(=紙に印刷されたもの)も変わって
いない。
ところが、デジタル化によって新聞現場は大きく変わった。
・ワープロ、パソコンによる原稿の執筆・送稿
・コンピュータによる紙面編集
・インターネットによるニュース配信
テレビの登場によって、「速報」より「深い記事」を目指
していた新聞が、インターネットの普及により「速報
性」と「深い記事」の両方を目指すことが可能になった。
また、インターネットは誰もがニュースを発信し、受信
することを可能にした。
→新聞の存在意義は?
5.新聞ジャーナリズムの役割
(1)新聞に対する信頼度
「新聞評価に関する読者調査」(日本新聞協会が2003
年に実施)によると、50代では約半数が、30代では3分
の1強が新聞を信頼。(図2)
(2)誤報・虚報を認めたがらない新聞
1989年、「平成の3大誤報」が起きた。
“朝サンゴ・毎日グリコ・読売アジト”(資料2)
“行き過ぎた取材”と詫びるのみで、「誤報」であること
「虚報」であることを認めない体質がある。
(3)調査報道の停滞
調査報道とは、
「当局の発表に依存して記事を書くのではなく、記者が
自らの足で調査して、真実に肉薄しようとするやり方。
単に秘密文書をすっぱ抜くといった特ダネ報道ではな
く、徹底的な調査取材によって、事件の全体像を構築
する」こと(柳田邦男)
e.g.「ウォーターゲート事件」
「リクルート事件」(資料3)
「旧石器発掘捏造」(資料4)
しかし、近年は停滞気味。
←経営第一主義
(4)記者会見の意義
・記者会見で主導権を握っているのは記者団。
・会見相手から説明を聞ける唯一の機会。
⇒記者と会見相手との間に真剣なやりとり、納得でき
るまで質疑応答があってもよい。
しかし、昨今意味のない記者会見が多いのでは?
e.g. 2003年12月のイラクへの自衛隊派遣に関する小泉
首相の記者会見。(→資料5)
(5)信頼される新聞ジャーナリズムを目指して
新聞ジャーナリズムに対する市民からの批判
←・誤報・虚報
・無力な記者会見
・調査報道の停滞
・報道被害=人権・プライバシーの侵害
①新・新聞倫理綱領の制定(2000年6月)
「自由と責任」「正確と公正」「独立と寛容」「人権の
尊重」「品格と節度」の5つが柱に。また、
②第三者機関の設置
誤報、行き過ぎた取材・報道による人権・プライバ
シー侵害に対応するため。
←「放送と人権等権利に関する委員会機構」(BRO)
後に、「放送番組向上協議会」と統合し、
「放送倫理・番組向上機構」(BPO)
毎日新聞社が2000年10月に「『開かれた新聞』」委員
会(社外の5人の委員より構成)を発足させた。
・人権侵害の監視
・紙面への意見
・今後のメディアのあり方への提言
6.参考文献
天野勝文・生田真司(編) (2002) 新版 現場からみた新聞学 学
文社
天野勝文・松岡新兒・植田康夫(編著) (2004) 新現代マスコミ論の
ポイント 学文社
文化放送番組基準 http://www.joqr.co.jp/kijun (2005年11月1日アク
セス)
Fuller, J. (1996) News Value, University of Chicago Press=大石・岩田・藤
田(2000)
猪俣征一 (2006) 実践的新聞ジャーナリズム入門 岩波書店
ジャーナリスト坂本衛のサイト メディア規制反対 【Q&A】BPO(放送
倫理・番組向上機構)入門
http://www.aa.alpha-net.jp/mamos/anti/bpo.html (2005年11月1日ア
クセス)
リップマン・W. 掛川トミ子(訳) 世論(上・下) (1987) 岩波書店
中馬清福 (2003) 新聞は生き残れるか 岩波書店
大石裕・岩田温・藤田真文 (2000) 現代ニュース論 有斐閣
田村紀雄・林利隆(編) (2000) 新版 ジャーナリズムを学ぶ人の
ために 世界思想社
タックマン・G. 鶴木眞・櫻内篤子(訳) (1991) 「ニュース社会学」
三嶺書房