スライド 1

広島の初期放射線低線量被爆者
は高い発がんリスクを示した
渡辺智之1、宮尾克2、本多隆文3、山田裕一3
1 愛知学院大学心身科学部健康栄養学科
2 名古屋大学情報連携基盤センター
3 金沢医科大学医学部(衛生学)
はじめに

寿命調査(LSS)集団が全体として被曝した可能性がある残留
放射線は、LSSの全般的な分析においては被曝線量評価の対
象外。

このため、残留放射線に曝露されたことによるリスクをLSSから
内在的に検討することは困難である。

LSS報告書では回帰分析によって原爆被爆者の放射線被曝の
リスクを推定してきたが、原爆被爆者と非曝露群(NIC;原爆投
下時市内不在者)との比較を発表してこなかった(LSS報告書
は、「非曝露群」という用語を用いているが、実際には極低線量
の初期放射線に曝露されていた)。
放射線に誘発された疾病のリスクについて、バイアスのな
い推定を、これらのデータから獲得できるかどうかは疑問
はじめに(つづき)

フランシスらは、「線量が主要な影響を及ぼさない遅
発性放射線の影響の場合、比較のために非被爆群
がなければ放射線との関連性が見逃されることもあ
ろう」と報告。

原爆被爆者について、理想的な対照群を得ることは
困難であるが、残留放射線による被曝、ことに内部
被曝に対する関心が高まっている今日、原爆被爆者
と真の意味での非曝露群との比較が求められている。
目的

寿命調査(LSS)12報における広島の被爆者が、
追跡期間において広島県および岡山県の全住民
が、1945年当時に年齢0歳~34歳だった集団並
みに死亡したと仮定した場合、全死亡や各種のが
んによる期待死亡数がどの程度になるかを標準化
死亡比(SMR)を用いて推定した。
対象
LSS-Hグループ
寿命調査第12報
(LSS 12)における
広島の被爆者集団
比較
比較
広島県全住民対照群
(HPCG)
広島県の全人口
岡山県全住民対照群
(OPCG)
岡山県の全人口
対照群
対象

対象期間:
1971年1月1日-1990年12月31日

対象年齢:
0~34歳(1945年当時)

結腸線量区分:3区分
爆心地からの距離
0-0.005 (Sv) :(極低線量)・・・2.7km超~10.0km
0.005-0.1 (Sv): (低線量) ・・・1.4km超~2.7km
0.1 (Sv)以上: (高線量)・・・・・1.1km超~1.4km
対象

対象疾患:

全死亡

全がん

白血病

肺がん

固形がん

女性の乳がん

胃がん

子宮がん

結腸がん

肝臓がん
1. 観察人年の算出

放影研のデータ(LSS第12報)から期間別・
性別・被爆時年齢別・曝露レベル別観察人年
を再集計した
2. 観察死亡数(O)の算出

放影研のデータ(LSS第12報)から期間別・
性別・被爆時年齢別・曝露レベル別・疾患別
死亡数を再集計した
3. 期待死亡数(E)の算出

放影研が追跡している生存被爆者(LSS-Hグル
ープ)が、追跡期間中にHPCG、OPCGの各年
齢階級並みにがん等で死亡した場合、どの程度
の死亡が期待されるかを表す
LSS-Hの期間別・性別・被爆時年齢別・
曝露レベル別・疾患別観察人年(O)
×
HPCG、OPCGにおける放影研データ
に対応した死亡率
4. 標準化死亡比(standardized mortality
ratio: SMR)の算出

観察死亡数(LSS-Hグループ):O

期待死亡数(HPCG、OPCG):EH, EO
SMR-i = O/ Ei
(i = H(広島), O(岡山))
SMR-i > 1のとき、HPCGおよびOPCGよりも
LSS-Hグループの死亡リスクが大きい
5. SMRの95%信頼区間(confidence
interval: CI)の算出

95% CI
信頼下限=1/(2Ei)χ20.025 (2O+2)
信頼上限=1/(2Ei)χ20.975 (2O)
(i = H(広島), O(岡山))
※χ20.975(2O) は、自由度2Oで、カイ2乗値の上
限確率が0.975であったときに得られる値
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
全死亡
1.4
1.2
**
** **
**
m
**
f
**
SMR
1.0
0.8
0.6
1.241.27
1.19
1.08
1.101.02
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.161.10
0.4
0.2
0.0
total
SMR
SMR-H(放影研 vs 広島県)1971-1990
全がん
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
**
**
**
*: p<0.05
**: p<0.01
m
** **
**
1.64
1.46
1.24
1.04
1.191.10
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.271.20
total
f
SMR-H (放影研/広島県)1971-1990
白血病
3.5
3.0
**
**
m
**
2.5
SMR
*: p<0.05
**: p<0.01
**
2.0
1.5
3.15
1.0
0.5
0.86
3.07
2.76
1.54
0.77
2.45
1.25
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
f
SMR
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
固形がん
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
**
**
**
**
1.64
1.41
1.18
1.04
1.201.10
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
m
** **
1.241.20
total
f
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
胃がん
1.6
1.4
SMR
1.2
**
1.17
1.17
1.05
m
1.14
1.0
0.8
0.6
0.4
1.52
*
0.72
0.83
0.95
0.2
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
f
SMR
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
結腸がん
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
m
1.33
0.98
0-0.005
1.76
1.49
1.17
0.84
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.35
1.04
total
f
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
肝がん
3.0
**
2.5
SMR
2.0
**
**
1.5
1.0
m
**
** **
**
2.69
1.731.89
1.681.66
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.62
1.911.73
0.5
0.0
total
f
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
肺がん
2.5
**
SMR
2.0
**
1.5
**
2.04
1.0
0.5
m
1.001.00
1.60
1.14
0.89
1.48
1.04
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
f
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
乳がん(女性)
3.5
**
3.0
m
SMR
2.5
2.0
1.5
2.88
1.0
0.5
1.23
1.19
**
1.59
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
f
SMR-H (放影研 vs 広島県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
子宮がん
2.5
SMR
2.0
**
**
**
m
f
**
1.5
1.0
1.77
2.09
2.20
2.00
0.5
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
SMR-O (放影研/岡山県)1971-1990
全死亡
*: p<0.05
**: p<0.01
1.6
1.4
SMR
1.2
** **
** **
** *
m
f
** **
1.0
0.8
0.6
1.261.36
1.221.15
1.121.08
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.181.17
0.4
0.2
0.0
total
SMR
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
全がん
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
**
**
**
**
m
f
** **
*
1.72
1.56
1.33
1.09
1.281.15
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.361.26
total
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
白血病
4.0
3.5
SMR
3.0
**
**
**
2.0
3.46
3.07
3.14
1.0
0.5
f
**
2.5
1.5
m
1.07
1.53
0.95
*
2.44
1.56
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
SMR
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
固形がん
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
**
**
**
**
m
f
** **
*
1.71
1.53
1.28
1.08
1.30
1.15
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.341.25
total
SMR
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
胃がん
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
**
*
*
1.28
*
0.72
0-0.005
1.27
0.85
m
f
**
1.54
1.15
0.005-0.1
0.1新結腸線量
1.25
0.96
total
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
結腸がん
2.5
*
SMR
2.0
f
**
1.5
1.0
0.5
m
1.57
0.99
1.38
0.82
2.06
1.47
1.59
1.03
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
肝がん
4.0
**
3.5
SMR
3.0
2.5
**
**
1.0
f
**
** **
2.27
2.632.43
** **
2.0
1.5
m
3.70
2.402.65
2.312.32
0.5
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
肺がん
2.5
**
SMR
2.0
m
**
**
1.5
2.27
1.0
0.5
1.77
1.64
0.971.10
1.09
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
0.85
1.00
0.0
total
f
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
乳がん(女性)
4.0
**
3.5
m
f
SMR
3.0
2.5
2.0
3.42
1.5
1.0
0.5
1.47
1.42
**
1.89
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
SMR-O (放影研 vs 岡山県)1971-1990 *: p<0.05
**: p<0.01
子宮がん
2.5
SMR
2.0
**
**
**
m
f
**
1.5
1.0
1.76
2.06
2.18
1.98
0.5
0.0
0-0.005
0.005-0.1
0.1新結腸線量
total
考察での検討

バイアス(観察、測定)

死亡診断書の精度

LSS報告書との結果の違いについて




生活習慣等の要因
放射線とは無関係の要因(爆心地からの距離、
居住地域、他の暴露要因、人口移動)
放射線と関係する要因(バックグラウンドリスク、
初期放射線・残留放射線)
比較可能性
考察

本研究では、広島の被爆者集団(LSS-Hグループ)
の実際の死亡数(観察死亡数)と、LSS-Hグループ
が広島県および岡山県の全住民の1945年当時の0
~34歳のコホートと同様に死亡するとした場合の期
待死亡数を比較し、全死亡および各種のがんによる
標準化死亡比(SMR)を計算した。

その結果、高線量被爆者のSMRは、約4分の3の死
因において有意に高かった。

低線量被爆者のSMRについても、約半数の死因に
おいて有意に高かった。
バイアス

ここで2つの可能性に留意する必要がある:


観察のバイアスの可能性: LSS-Hグループは、HPCG
およびOPCGと比較して、より多く検査を受け、より容
易にがんの診断を受けられる
測定者のバイアスの可能性: 医師は、LSS-Hグルー
プについて、がんと診断しやすい。

被爆者についての当時の診断の正確性を知るのは
困難であるが、LSS-Hグループにおいては、HPCG
およびOPCGよりも発見率が高いことも予見できる。
従って、これらのバイアスが結果を過剰評価させてい
る可能性がある
死亡診断書の精度

本研究では、死亡診断書の記録に基づく死因のデー
タを用いた死亡診断書の精度が、本研究の結果の
信頼性にとって重要である。

寿命調査(LSS)の剖検プログラムによる報告と、死
亡診断書に記録された死因の情報との比較では、



死亡診断書では、がん死亡の約20%が非がん死亡
と誤分類
非がん死亡の約3%が、がん死亡と誤分類
つまり、LSS-Hグループのがん死亡が過少に計上さ
れている根拠は明らかであったというべきである。
LSS報告書との結果の違いについて

総じて、疾患によるSMRの有意な増加がみられ、本研
究の結果はこれまでのLSS報告書と比べ、より高い寄
与リスク(1から相対リスク:RRを差し引いたものの逆
数)を示唆するものと考えられる。

LSS報告書と本研究とでリスクに違いが生じた原因とし
ては、
i.
ii.
生活習慣等、放射線とは無関係の要因
真の意味での非曝露群と、実際には相当のレベルの
放射線に被曝した人々を含む「非被爆者対照群」との
違い、といった放射線と関係する要因
の2つの可能性を考えることができる。
i. 生活習慣等の要因

地理的に広島市は広島県の中にあり、岡山県は広島
県に隣接している。両県とも、瀬戸内海沿岸にあり、
類似した地理的条件をもっている。

広島・岡山両県において、異なった疾患の発生や死
亡を生じさせる理由となるような生活習慣における特
段の差異は見られない。

実際、1985年基準人口で人口と年齢を補正した全死
因の死亡率は、両県とも同様の傾向を示しており、両
県の住民を対照群とすることは適切であると考えられ、
比較の基礎的な条件は満たされている。
i. 放射線とは無関係の要因(爆心地からの距離)

LSS-Hグループにおいて、被爆時に爆心地から遠
距離(広島郊外)にいた者は、爆心地近く(広島市
中心部)にいたが、建物等による遮蔽等のため、同
じ低線量を被曝した者と比べて死亡率が高かった。

爆心地からの距離によって、SMRが増大する傾向
があることも示唆される。

放射線に被曝した人々は主として都市部の住民で
ある一方、HPCGおよびOPCGは、多くの農村の住
民を含んでいるということもありうる。
i. 放射線とは無関係の要因(居住地域)

Cologneは、「爆心地から遠距離の人々は農村の
住民であり、爆心地から半径3kmに住んでいた
人々が、回帰分析の対象としてふさわしい」旨を報
告している。

しかし、「対象が3km以内の人々に限定された場合
と、10km以内の人々である場合とでは、大きな差
異は生じない」とも述べている。

これらの人々が含まれるかどうかによって大きな
差異が生じないということは、都市と農村という地
域によって、疾患のリスクに大きな差異がないこ
とを示唆するものと思われる。
i. 放射線とは無関係の要因(他の暴露要因)

0(ゼロ)線量被爆者のグループにおいて、距離に
よって死亡率に違いが生じるのは、生活習慣、社
会経済的条件、健康管理における地域的差異、
あるいは職業が地理的に異なるからかもしれない。

生活様式といった他の曝露要因におけるありうる
差異について報告されたEvidenceはほとんどなく、
これらの要因は、将来において研究を要するとこ
ろである。
i.放射線とは無関係の要因(人口移動)

HPCGおよびOPCGは、毎年の人口動態統計を利用
して遡って追跡したため、本研究の期間中に人口の
移住が生じている。

しかし、LSS-Hグループについても、LSSのがん登録
データを用いて移住の影響が補正されてはいるもの
の、何らかの移住があるものと推測される。

HPCGおよびOPCGは大きな集団であり、LSS-Hグ
ループに比べてより大きい割合で農村部の人口も含
んでいると考えられるため、本研究の成果を解釈する
上では相当の注意が必要。
i. 放射線とは無関係の要因(人口移動)

LSS-Hグループの全対象者が、広島県から移住してしまっ
たわけではないならば、HPCGは原爆被爆者を含んでいる
が、LSS-HグループとHPCGが重なることによる影響は低
いと考えられる。

1945年の原爆投下の時点で0~34歳だった広島県および
岡山県の人口(1971年で約115万人(広島県)、約79万5千
人(岡山県))は、LSS-Hグループ(約5万8千人)と比べて、
十分に大きい。

LSS-Hグループの高い死亡率は、対照群の死亡率を実際
の死亡率よりも見かけ上、高くするが、LSS-Hグループが
HPCGに含まれていることは、本研究において控えめな方
向に影響をもたらすため、このことは、本研究において明ら
かになった有意差の意義を損なうものではない。
ii. 放射線と関係する要因(バックグラウンドリスク)

LSS報告書は、第8報以降、真の意味で曝露されていない
比較対照群を用いておらず、放射線に被曝した人々の死
亡に関するデータをもとに回帰分析を用いて得たバックグ
ラウンドリスクから、リスクを算出している。

放射線被曝の程度はDS86を用いているが、DS86は初期
放射線のみを線量として評価し、残留放射線を線量評価
に含めていない。

その結果、LSSグループの最も低い被曝線量群に属する
人々が、放射線被曝によるかなりのリスクを受けていても、
LSS報告書はバックグラウンドリスクを実際よりも高く算出
するだけで、SMRを実際よりも低く算出することになり、本
研究の結果は、このことを裏付けるものと思われる。
ii. 放射線と関係する要因(初期放射線・残留放射線)

最も低い被曝線量群に属する人々も、比較対照群と比べ
てかなり高い程度のリスクを受けていた。

2つのグループにおけるリスクの大きな差は、初期放射線
に由来するリスクの評価における差、あるいは(場合によっ
てはそれに加えて)残留放射線に由来するリスクの評価に
おける差によるものと考えられる。


仮に、DS86が被爆者がより遠距離において被曝した放
射線の程度を過小評価しているのであれば、極低線量
および低線量に分類された被爆者は、実際には従前考
えられていたよりも、より高い初期放射線量を受けてい
ることになる。
このことから、LSS-Hグループのうち極低線量のカテゴリ
ーの被爆者に、高いSMRが見られたことを説明できる。
ii. 放射線と関係する要因(初期放射線・残留放射線)

他方、DS86による初期放射線の被曝線量に関する推測
が正確であるとすると、極低線量のカテゴリーに属する量
の初期放射線が、高線量域のデータを基礎として推測され
た当該線量のリスクよりも実際にはより高いリスクをもたら
したということを示しているのであろう。

加えて、DS86の推定は残留放射線を線量評価に含めて
おらず、このことがLSS報告書におけるリスクと、本研究に
おけるリスクの違いをもたらしている基礎的な原因かもしれ
ない。

極低線量カテゴリーの被爆者においてさえ、放射性降下物
を浴びたり、爆心地近くで誘導放射化した物質を吸い込ん
だり、飲み込んだ可能性があることは否定できない。
比較可能性

比較可能性を保証するためには、比較対照群は何ら
の選択バイアスがなく設定されるべきであるが、それ
は極めて困難。

何らかの選択バイアスがあれば、そのバイアスが結
果を過大にする方向のものであるか、過小にする方
向のものであるかを考慮する必要がある。

本研究では、比較対照群がある程度の高リスクの
人々を含んでいるため、LSS-Hグループについて得ら
れたSMRは、実際の率よりも小さいことがありうる。
考察での検討(疾患別)

白血病

胃がん

肝臓がん

固形がん

その他
白血病

白血病のSMRに大きな差異は見られなかったが、そ
の原因として、原爆放射線による発病パターンにあ
ると考えられる。


RERFの報告では、固形がんでは被爆者の年齢
が進むにつれて絶対リスクは増大して、検出しや
すくなっている一方で、白血病は被曝後の比較的
早い時期に発症し、近年では症例数は特段多くな
いとされている。
追跡期間を当初の曝露から25年が経過した後に
開始(1971年から)した本研究においては、原爆
放射線の影響は小さくなりうる。
白血病(つづき)

また、白血病の予後は悪く、白血病を死因とし
て特定することはかなり容易。

従って、放射線被爆者について白血病を観察
するのが容易で、非被爆者について白血病を
観察するのが困難であったとは考えにくい。
胃がん

白血病と同様、消化器の悪性腫瘍のSMRに
ついて、大きな差異は見られなかった。

胃がん等の消化器系のがんは、放射線被曝
線量のカテゴリーによって死亡のパターンが
異なっている。

喫煙や飲酒といった交絡要因の影響があるか
もしれないが、原爆投下後に残留放射線が残
存する地域で、救護活動を行った多くの男女
がいることにも留意しなくてはならない。
肝臓がん

男女ともに低被曝線量においても強い関連性
が見られた。

極低線量(0.005 Sv未満)と低線量(0.005–0.1
Sv)の間に、線量反応関係は見られなかった。

肝炎ウイルスが肝臓がんの大半に関わってお
り、放射線以外の原因(例えば医原性の要因)
を排除できない。
固形がん

初期放射線の線量については、RERFの研究に
よって固形がんに線形の線量反応関係があると
報告されている。

しかし、それは曝露群に対する多重回帰分析の
結果から導き出されたものである。

HPCGおよびOPCGにおいて、線量反応関係
は線形ではなかった。

LSS-Hグループの極低線量に被曝した人々か
らなるグループは、比較対照群(HPCG、
OPCG )よりもかなり高いSMRを示した。
その他

初期放射線の線量の一部として考えられてい
ない放射線被曝(放射性降下物)があったとす
れば、線量反応関係を検知することは不可能
に思われる。

RERFの研究では、「線量反応関係は初期放
射線による極めて低い線量域においても否定
できない」とされており、本研究においても閾
値があるとするのは困難。
その他(つづき)

極低線量の放射線被曝カテゴリーにおいても、低線量、
時には高線量と比べても、より高いSMRを示す疾患が
いくつかあった。

この傾向を示す疾患群は、RERFによって行われている
疫学研究が真の意味での非曝露の比較対照群との比
較を含んでいないため、真の意味でのSMRの評価を受
けていなかった。


従って、放射線とのつながりを反証することは困難。
こうした疾患群が極低線量のカテゴリーで高いSMR
を示すことは、被曝の評価に取り込まれていない残留
放射線の寄与を示すものであるかもしれない。