組織内外へのwhistle blowing の規定要因

安全学研究会 第2回例会
2003年10月31日
組織内外へのwhistle blowingに及ぼす
状況要因と個人要因の相互作用効果
付記:本研究は厚生労働省科学研究費補助(課題番号H14-労働-24,
主任研究者古川久敬)による研究の一部として行われた。
発表者 藤村まこと
九州大学大学院人間環境学府
行動システム専攻博士後期1年
1
問 題
▽多発する組織の問題事象
例 医療機関,原子力発電所における事故や不正
食品会社の食中毒事件や表示法違反
▽組織の問題事象に対する取り組み
① 未然に問題事象の発生を防止する
② 発生した問題事象の早期発見と解決
組織メンバーのwhistle blowing(通報行為)に着目
▽組織の問題事象の定義
不祥事,不正など組織内で生じる非倫理的な問題
とともに,事故やルール違反など不安全に関わる
問題(古川・山口,2003)
2
問 題
▽ 近年、多くの組織不祥事が組織内部からの
whistle blowing(通報行為)により発覚(内閣府,2003)。
→ 通報者が解雇や配置転換などの不利益を受けな
いために,日本でも「公益通報者保護法」が制度
化予定。
▽ 内部から外部へのwhistle blowingの役割が問題事象
の早期発見と解決に果たす役割が社会的に認められ
てきた(Miceli, Scotter,Near,& Rehg, 2001) 。
→ 組織自身が内外に通報窓口をホットラインを設置
▽ 内部から内部へのwhistle blowingによって組織の自浄
効果を高める(久保田,2002)。
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問 題
Whistle Blowingの定義
組織外部への
Whistle blowing
組織内部への
Whistle blowing
問題事象
(事故・不祥事)
(過去もしくは現在の)組織成員が、組織内で行
われた違法、非倫理的、あるいは不適切な行為を、
その行為に影響を及ぼしうる人物や組織に対して
行う情報開示 (Miceli & Near, 1985)。
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問 題
先行研究
Whistle blowingの規定要因として,個人特性,問題事象の特性,
組織特性が検討されてきた(Near&Miceli,1995)。
→これまでのアプローチは,3つの規定要因のいずれかで
whistle blowingの行動を説明しようとするもの。
状況要因(問題事象や組織の特性)と個人要因の交互作用
について検討が必要。
→特に個人特性の規定力の強さが注目されてきた。
例 性別(女性>男性),役職(有り>無し),自己効力感(高>低)
報復への恐れ(低<高)
人は外部情報を処理し,その解釈に基づいて行動を選択するため,
個人内の情報処理過程についても検討が必要(Cundlash, Douglas,
& Martinko,2003 )。
状況依存的な個人要因に着目して,状況要因と個人要因
5
の交互作用を検討が必要
問 題
▽本研究の目的
状況要因と個人要因が相互作用してwhistle blowing
の実行意図を規定する心理過程を検討する
状況要因
1 問題事象の当事者の数(単数・複数)
2 問題事象の(目撃者と)当事者との関係性(短期・長期)
個人要因
1 whistle blowingの有益性認知
2 問題事象の原因帰属
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問 題
状況要因の検討
Whistle blowingと報復
長期的には組織に利益をもたらすが,短期的には組織に混乱と
損失をもたらすため(Dozier & Miceli, 1985), whistle blowingを
行った者は,当事者や組織からの報復を受ける可能性がある。
社会的影響理論(Latane,1981)によれば
他者が個人に及ぼす社会的影響は,影響源の①「数」が多いほど,
②「近接性」が高いほど,そして③「強度」が高いほど大きい。
問題事象の当事者が社会的影響力の強い他者である
場合,目撃者は報復への怖れが高まり,その結果,
whistle blowingが抑制されるのではないか?
仮説1
問題事象の当事者の数が単数よりも,複数のとき,当事者との
関係性が短いよりも長いとき,whistle blowingが抑制される。
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問 題
個人要因の検討
これまでは「報復への怖れ」が検討されてきた。
Whistle blowingの2側面
問題事象を停止する向社会的な側面とともに,組織内に混乱を
もたらす反組織的な側面があることが組織メンバーに認知され
ている(例えば,Yamaguchi,Sano,Zemba, Mizuno,2002)。
そのため・・
Whistle blowingがもたらすコストとベネフィットそれぞれを見積もり,
その見積もりによって,行動が規定されるのではないか?
仮説2
Whistle blowingの有益性が高く認知されるとき,whistle blowing
は促進される。
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問 題
個人要因の検討
目撃者した問題事象の原因帰属が行動に与える影響の検討は
なかった
原因帰属の研究では,
管理者(病院の師長)が部下の失敗の原因を,部下の外的要因
に帰属したときは,内的要因に帰属した管理者に比べて,職場環
境の責任を追及し,部下に対して職場環境の改善を推奨する行
動をとった(Mitchell & Kalb, 1982)
そのため・・
問題事象の原因を外的帰属する個人は,当事者の外的環境に
働きかける傾向にある。
仮説3
問題事象の原因を当事者の外的要因に帰属する傾向(文脈帰
属)が強いとき,whistle blowingは促進される。
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問 題
仮説1~3の検討に加えて,以下の仮説4を検討することによっ
て,状況要因と個人要因がwhistle blowingに与える影響を検討
する。
仮説4
問題事象の当事者の数が単数よりも,複数のとき,当事者と
の関係性が短いよりも長いとき,「Whistle blowingの有益性
認知」と「文脈帰属」の認知は高くなる
当事者の数
(単数・複数)
Whistle blowingの
有益性認知
組織内部への
当事者との関係性
(短期・長期)
文脈帰属
whistle blowing
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方
法
11
方法 1
【調査対象者】 看護師149名(有効回答率89.8%)
【調査時期】
2003年1月
【手続き】
場面想定法を用いた質問紙調査
【質問紙の構成】
①事例
②whistle blowingの行動意図
組織内部(本人、直属上司、上層部; 3項目α=.80)
組織外部(報道機関、警察; 2項目α=.80)
③原因帰属(文脈帰属,当事者帰属)
④whistle blowingの有益性認知
⑤属性(年齢・性別・勤続年数・役職)
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方法 2
【事例】
ある看護師(目撃者)は、病棟スタッフ(当事者)が間
違った血液型を患者に輸血するところを目撃する。
その後、目撃者は当事者が輸血の間違いを隠そうと
していることを知る。
【条件設定】
当事者の数(2水準)
「単数条件」 医師一人
「複数条件」 医師と看護師の二人
目撃者と当事者との関係性(2水準)
「短期条件」 一年間契約で終結まで残り20日
「長期条件」 終身雇用
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結 果
14
結果1
Whistle blowingの実行意図の平均値
5:必ず行うと思う
4:かなり行うと思う
3:ある程度行うと思う
2:少し行うと思う
1:決して行わないと思う
当事者の数が複数である群は、単数である群よりも,
組織内部へのwhistle blowingの実行意図が高かった。
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状況要因の効果の検討
2要因分散分析
独立変数:当事者の数(単数・複数),当事者との関係性(短期・長期)
従属変数:組織内部へのwhistle blowingの実行意図
「当事者の数」が複数である群は、単数である群よりも,
組織内部へのwhistle blowingの実行意図が高かった。
(F(1,141)=2.83 p < .10)
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状況要因の効果の検討
2要因分散分析
独立変数:当事者の数(単数・複数),当事者との関係性(短期・長期)
従属変数:組織外部へのwhistle blowingの実行意図
「当事者との関係性」が短期である群は、長期群よりも、組
織外部へのwhistle blowingの実行意図が高かった。
(F(1,141)=6.07 p < .05)。
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状況要因の効果の検討
▽ 状況によって,whistle blowingの実行意図が異なる。
(仮説1を部分的に支持)
当事者の数
(単数・複数)
whistle blowing
の実行意図
当事者との関係性
(短期・長期)
個人要因
状況は,状況依存的な個人要因を媒介して
行動に影響を与えているのではないか?
○ Whistle blowing有益性認知
○ 原因帰属
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whistle blowingの有益性認知
Whistle blowingが役立つ程度を15項目に対して評定してもらった。
その回答をもとに因子分析を行った結果,2因子が認められた。
Table w histle blow ingの有益性認知の因子分析の結果(最尤法・バリマックス回転)
Ⅰ組織倫理の Ⅱ組織内の立
遵守
場の安定
職業倫理
の遵守
組織内の
立場安定
⑫ 病院が医療の質を高めること
.852
.680
⑪ 病院が医療上の間違いを防止すること
.810
.340
⑩ 私が看護師として正直であること
.701
.150
⑮ 病院が患者に対して誠実であること
.679
.330
⑭ 病院が患者に対して説明責任を全うすること
.662
.350
⑨ 私が看護師として患者に対して誠実であること
.655
-.030
⑦ 私の仕事に関する評価を良くすること
.431
.165
⑧ 私の人柄の評価を良くすること
.327
.165
④ 私が同じ病院で仕事を続けていくこと
-.410
.757
⑤ 私が病院内の立場を守ること
.570
.746
③ 病院内の人間関係を良くすること
.168
.709
② 私が病棟内の人間関係を良くすること
.145
.655
① 私が病棟の勤務医との人間関係を良くすること
-.240
.500
⑥ 私が病院内の地位を高めること
.100
.497
⑬ 病院が社会から受ける評価を高めること
.252
.420
固有値
4.49
3.02
寄与率
29.93
20.12
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Whistle blowingの有益性認知
各因子を「組織内の立場安定」因子,「職業倫理の遵守」因子と
名づけ,各因子におけるwhistle blowingの有益性認知を算出。
3:非常に役立つ
2:かなり役立つ
1:少し役立つ
0:どちらでもない
-1:少し妨げとなる
-2:かなり妨げとなる
-3:非常に妨げとなる
組織内部へ知らせること(whistle blowing)は,組織内の立場
の安定には妨げとなり,そして職業倫理の遵守には役立つと
認知されていた。
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異型輸血の原因帰属
事例中の異型輸血の原因として何が重要かを尋ね,当事者帰属と
文脈帰属の得点を算出した。
○当事者帰属
・・当事者自身に原因を帰属
(当事者の注意不足,怠慢)
○文脈帰属
・・当事者を取り巻く他者や環境など,
文脈に原因を帰属(病院の薬剤管
理,ルールの不適切さ)
21
状況要因と個人要因の相互作用の検討
仮説4 状況の差異は,「Whistle blowingの有益性認知」と,
「文脈帰属」に影響を与えるか
仮説2,3
個人要因は組織内部へのwhistle blowingの実行意
図に影響を与えるか
当事者の数
(単数・複数)
当事者との関係性
(短期・長期)
「職業的倫理の遵守」
有益性認知
「組織内立場の安定」
有益性認知
組織内部への
whistle blowing
文脈帰属
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状況要因が有益性認知に与える効果
2要因分散分析
独立変数:当事者の数(単数・複数),関係性(短期・長期)
従属変数:有益性認知(組織内の立場の安定)
当事者の数が複数群は、単数群よりも, 「組織内の立場の
安定」 に対してwhistle blowingは役立つと認知していた。
(F(1,141)=3.02, p < .10)
23
状況要因が有益性認知に与える効果
2要因分散分析
独立変数:当事者の数(単数・複数),関係性(短期・長期)
従属変数:有益性認知(職業的倫理の遵守)
当事者の数が複数群は、単数群よりも, 「職業倫理の遵
守」に対して whistle blowingは役立つと認知していた
(F(1,141)=3.75 , p < .10 ) 。
24
状況要因が文脈帰属に与える効果
2要因分散分析
独立変数:当事者の数(単数・複数),関係性(短期・長期)
従属変数:文脈帰属
各条件間において,平均値に差はなかった。
25
状況要因と個人要因の相互作用の検討
重回帰分析 各状況(4条件)において実施。
独立変数:有益性認知,文脈帰属,
従属変数:組織内部へのwhistle blowingの実行意図
当事者の数:複数 関係性:短期
「職業的倫理の遵守」
有益性認知
「組織内立場の安定」
有益性認知
文脈帰属
組織内部への
whistle blowing
.32 *
.47* *
調整済R2=.384
問題事象の当事者が複数で,当事者との関係性が短期の
群のみで,Whistle blowingの有益性認知が高く,文脈帰
属が強いほど,実行意図が高かった。
26
考 察
▽ 当事者の数の差異は「Whistle blowingの有益性認知」に影響
を与えた(仮説4を一部支持)
▽限られた状況(当事者の数が複数で関係性が短期のとき)におい
て,個人要因は組織内部へのwhistle blowingの実行意図を規定
していた。(仮説2,3を一部支持)
当事者の数
(単数・複数)
当事者との関係性
(短期・長期)
「職業的倫理の遵守」
有益性認知
「組織内立場の安定」
有益性認知
組織内部への
whistle blowing
文脈帰属
27
考 察
本研究で得られた示唆
▽他の状況では、 whistle blowingの有益性認知や文脈帰属の
程度は、 whistle blowingの実行意図と関連しなかった。
⇒他の要因がwhistle blowingを規定していた可能性。
▽当事者の数が複数で、当事者との関係性が短期のときのみ、
whistle blowingがもたらすベネフィットやコストの見積もり、
および文脈帰属の程度が、行動を規定した。
⇒有益性の認知においても、「組織内の立場の安定」に関する
コストの見積もりにおいて影響力が大きかった。
今後、当事者との関係性が短期になることで、いかなる心理
学的変化が個人に生じているかを検討することが必要。
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