Chapter 24 General Anesthetics 江場俊介 近藤敬一 土田憲 2015/9/30 森井栄 鍋井敬文 1 Case History 2015/9/30 2 症例 全身麻酔下で行われた親不知4本抜歯 19歳 女性 健康状態良好 両親も兄弟も同様に健康 アレルギー無し 薬は服用していない 2015/9/30 3 操作・投薬 Fentanyl(50μg) 麻薬性鎮痛薬 Tubocurarin(3mg) 非脱分極性筋弛緩薬 Thiopental(5mg/kg) 静注全身麻酔薬 Succinylcholine 脱分極性筋弛緩薬 (1.5mg/kg) 鼻から気管内tube挿入 Atracurium 非脱分極性筋弛緩薬 笑気ガス 吸入麻酔薬 Isoflurane 吸入麻酔薬 切開 2015/9/30 BP mmHg HR bpm 80/50↓ 115↑ 44↓ 125/75↑ 82 ↑ 92/60↓ 150/95↑ 80 → 135↑ 4 BP 切開時 Fentanyl(100μg) 麻薬性鎮痛薬 Isoflurane 吸入麻酔薬 HR 150/95 135 吸入麻酔中止 Neostigmine(2.5mg) コリンエステラーゼ阻害薬 Atropine(0.6mg) 抗コリン薬 5分後目が覚める 気管内tube取り外し 回復室 吐き気、嘔吐 2015/9/30 5 麻酔の目的 鎮痛 analgesia 痛みをとることが最大の目的である 不動 immobilization 健忘 amnesia 手術中の記憶はないほうがよい 2015/9/30 6 三要素と薬物 -弱い +あり ++強い +++非常に強い 鎮痛 健忘 筋弛緩 チオペンタール - ++ - フェンタニル +++ ± - 亜酸化窒素 ++ ++ - イソフルラン + +++ ++ 筋弛緩薬 - - +++ 2015/9/30 7 理想の麻酔薬 2015/9/30 無痛 記憶喪失、 意識喪失 筋弛緩 速やかな導入と覚醒 反射の抑制 副作用がない 8 手術中の麻酔の流れ 1) 前投与(必ずやるとは限らない) 不安の軽減 鎮静、鎮痛 口腔内、気管内の分泌の抑制 迷走神経反射抑制 2) 導入 麻酔の深度を速やかに第3Stageにすること 3) 維持 4) 回復 2015/9/30 9 麻酔のstage 第一期 覚醒期・無痛期 麻酔開始から意識消失するまで 第二期 興奮期 呼吸が不規則になり、血圧・脈拍の 上昇が見られる。 第三期 麻酔期 手術が行われる。 第四期 2015/9/30 延髄麻痺期 10 操作・投薬 BP HR bpm mmHg Fentanyl(50μg) Tubocurarin(3mg) 麻薬性鎮痛薬 Thiopental(5mg/kg) 静注全身麻酔薬 非脱分極性筋弛緩薬 Succinylcholine 脱分極性筋弛緩薬 (1.5mg/kg) 鼻から気管内tube挿入 Atracurium 非脱分極性筋弛緩薬 笑気ガス Isoflurane 吸入麻酔薬 吸入麻酔薬 切開 2015/9/30 80/50 115 44 125/75 82 92/60 150/95 80 135 11 BP 切開時 Fentanyl(100μg) 麻薬性鎮痛薬 Isoflurane 吸入麻酔薬 HR 150/95 135 吸入麻酔中止 Neostigmine(2.5mg) コリンエステラーゼ阻害薬 Atropine(0.6mg) 抗コリン薬 5分後目が覚める 気管内tube取り外し 回復室 吐き気、嘔吐 2015/9/30 12 MAC 2015/9/30 Minimum Alveolar Concentration (Minimum Anesthetic Concentration) 13 MAC 2015/9/30 (1) MACの定義と意義 (2)MACに影響する因子 (3)MACと麻酔深度 14 (1) MACの定義 尻尾を挟むという侵害刺激に対し50%のイヌが有意に体 動を起こさなくなるのに必要な最小の肺胞内麻酔薬濃度 (Eager,1963) 皮膚切開に対し50%の患者が体動を示す時点の肺胞内最 小麻酔薬濃度がヒトでのMAC(Saidman&Eager, 1964) 肺胞濃度を測定できない小動物についてはrighting reflexやrolling reflexに対する吸入麻酔薬濃度のED50 2015/9/30 15 (1) MACの意義 このMACという概念が導入されて 2015/9/30 初めて麻酔薬の作用強度の基準を 決めることが可能となった. 各種麻酔薬の呼吸・循環に対する 作用や物理化学的な作用をMAC単 位を指標として相互比較できるよ うになった. 16 笑気とイソフルレンのMAC 2015/9/30 イソフルレン‥‥1.4 笑気‥‥104 単位= % of one atm 17 MACに影響する因子で注意すべきもの 体温‥‥体温低下と共にMACは低下する。 (1℃毎にMACは2~5%低下) →つまり体温が低下すると麻酔が 効きやすくなる。 年齢‥‥乳児(6ヶ月)でMACはピークを迎え その後低下していく。 →つまり年をとるにつれ、麻酔が 効きやすくなる 2015/9/30 18 (3)MACと麻酔深度 臨床上は,刺激に対する体動の有無が良い指標となる.MACは, 侵害刺激時の体動を指標としたdose-response curveより求めた ED50である(MAC50).この濃度では50%の人が動くわけで十分 ではない.臨床上は95%の人が動かないMAC95が参考になる. 新たな概念も広がっている。 MACawake‥‥呼びかけに対する反応を指標に麻酔から目覚めると きの麻酔濃度を表したもの MACEI‥‥‥‥気管内挿管時の体動を指標にしたもの (EI=endotracheal intubation) MACBAR‥‥‥皮膚切開時の血中ノルアドレナリン濃度の上昇の 有無を指標としたもの (BAR=blockade of autonomic response) 2015/9/30 19 吸入麻酔の一般薬物動態 その吸収と排泄 2015/9/30 20 血中の麻酔薬濃度上昇に影響する因子 1.吸気中の麻酔薬濃度 2.肺の換気 3.麻酔薬の血液への溶解度 4.心拍出量 5.麻酔薬の血液から組織への移動 2015/9/30 21 3.麻酔薬の血液への溶解度 血液/ガス分配係数 (Blood/Gas partition coefficient) 2015/9/30 血液相とガス相の麻酔薬濃度が平衡に達 した時の両相における麻酔薬の濃度比 麻酔薬の血液への溶けやすさ 22 血液/ガス分配 平衡に達するま 麻酔の導入 係数の値 でにかかる時間 小 短い 速い 大 長い 遅い 血液/ガス 分配係数 2015/9/30 笑気ガス 0.47 Sevoflurane 0.60 Isoflurane 1.48 Halothane 2.3 Methoxyflurane 10.2 Diethylether 12.0 23 様々な血液/ガス分配係数をもつ薬物 2015/9/30 24 5.麻酔薬の血液から組織への移動 (1)組織に対する麻酔薬の溶解度 (2)麻酔薬の血中濃度と組織中の濃度の勾配 (3)血流量 血流の多い組織 脳、心臓、腎臓 麻酔薬濃度がピークに達しやすい 腸管、内分泌器官 血流の少ない組織 筋、脂肪 2015/9/30 ピークに達するのに時間がかかる 25 取りこみと排泄の間の麻酔ガスの組織分圧 2015/9/30 26 麻酔薬の排泄 吸入麻酔を止める ↓ 麻酔薬は血中から肺胞へ出て行く 2015/9/30 27 麻酔薬の排泄の速度に影響する因子 1.組織から血中への麻酔薬の移動 高脂溶性の薬物(Methoxyflurane)などは筋・脂肪組織からの排泄に 時間がかかる。4~5日かかることもある 脳から血中への吸入麻酔薬の移動は比較的速い 吸入停止後5~10分くらいで覚醒 2.心拍出量 多ければ薬物は肺へ到達しやすい 3.血液/ガス分配係数 この値が小さいと血中から肺胞へ薬物が移動しやすい (笑気ガス、sevofluraneなど) 4.肺の換気の速度 2015/9/30 28 フェンタニル (麻薬鎮痛薬) 2015/9/30 29 フェンタニル フェンタニルは筋弛緩薬、亜酸化窒素または少 量の他の吸入麻酔薬を併用する。高用量のオピオ イドで麻酔を導入していると、呼吸筋の硬直が顕 著になることがあり、人工換気をするために筋弛 緩薬の投与が必要となる事がある。この薬は速や かに再分布するので、作用時間は約30分である。 しかし反復投与したり、高用量を注射した後には 蓄積が起こり、鎮静作用の延長や呼吸抑制を来す。 フェンタニルは肝臓で代謝され、3.5時間の半減 期で排泄される。 2015/9/30 30 チオペンタール 全身麻酔薬 (バルビツール酸塩) 2015/9/30 31 チオペンタール 無菌水の2.5%等張溶液でチオペンタールナトリウム の麻酔用量を単独静脈内注射すると、10~20秒後に意識 の消失が起こる。(この時間は薬物が腕から脳へ循環する のに必要な時間である)麻酔深度は40秒後まで増加し、 その後次第に減少し、20~30分後には意識が回復する。 健康成人に麻酔用量のチオペンタールを投与すると、動脈 血圧はごく一過性に低下し、その後ほぼ正常に戻る。心拍 出量は通常幾分減少するが、総末梢血管抵抗は変化しない かまたは上昇する。皮膚と脳に流れる血流量は減少するが、 他の器官へ流れる量はほぼ正常に維持される。圧受容器系 はチオペンタールで影響を受けないようであるが、交感神 経活動は抑制される。 2015/9/30 32 亜酸化窒素 吸入麻酔薬 2015/9/30 33 亜酸化窒素 チオペンタールの静注で睡眠を導入し、神経筋遮断薬で 骨格筋を弛緩し、動脈血二酸化炭素分圧を約25mmHg まで下げるように過換気すると、全身の筋肉麻痺と呼吸 駆動力の欠如により亜酸化窒素の鎮痛作用が増大する。 亜酸化窒素は循環系にほとんど影響を与えない。亜酸化 窒素とイソフルランを併用すると、イソフルラン単独で 同じ麻酔深度に達した時よりも呼吸の抑制と全身性低血 圧は軽くなる。オピオイド(フェンタニ-ル)を併用す ると亜酸化窒素はわずかではあるが循環器系を抑制する。 2015/9/30 34 イソフルラン 吸入全身麻酔薬 2015/9/30 35 イソフルラン 2015/9/30 イソフルランの導入を促進するため、通常は即効性 バルビツール酸塩を注射する。オピオイド、亜酸化 窒素及び筋弛緩薬の両者、またいずれかの補助薬を 使用する事により、外科手術に最適の条件を来すの に必要なこの揮発性麻酔薬の用量を減らしている。 全身動脈血圧は、イソフルランによる麻酔中、麻酔 深度の増加に伴ってしだいに低下する。しかし、イ ソフルランは心拍出量を十分維持する。低血圧は血 管抵抗の低下によるものであるが、血管の拡張は特 に皮膚と筋肉で生じる。 36 ツボクラリン 競合的筋弛緩薬 (非脱分極性筋弛緩薬) 2015/9/30 37 ツボクラリン ヒトに静脈内投与した場合、筋弛緩は まず眼瞼下垂、 複視についで、咽頭、頚部、体幹、四肢、横隔膜の順に 進行し、回復時にはこれと逆の過程をとる。通常2~3 分後に効果があらわれ、25~30分持続する。 今回のケースでは、サクシニルコリンの副作用(眼圧上 昇、筋肉痛など)をやわらげるためとprecurarizeのた めに使われている。 Precurarizeとは、初めに筋弛緩が起こらないような用量でレ セプターを占拠しておき、次の筋弛緩薬(アトラクリウム)を一 気に与える事で筋弛緩がより効くようにすることである。 2015/9/30 38 サクシニルコリン 脱分極性筋弛緩剤 2015/9/30 39 サクシニルコリン 通常1分以内に効果が現れ、わずか8分しか 持続しない。心拍数の低下は、心臓のムスカリ ン受容体に対するサクシニルコリンの作用に よって起こったものと思われる。 2015/9/30 40 アトラクリウム 非脱分極性筋弛緩薬 2015/9/30 41 アトラクリウム 2015/9/30 中間型の筋弛緩薬であり、通常1~2分後に 効果が現れ、20~35分 持続する。 このケースでは筋弛緩の維持に使われて いる。 42 ネオスチグミン 副交感神経興奮薬 2015/9/30 43 ネオスチグミン 2015/9/30 アセチルコリンはコリン作動性神経にお ける 刺激伝達物質と考えられているが、 これを選択的に分解する生体内酵素コリン エステラーゼによって加水分解され、その 作用を消失する。ネオスチグミンは、この コリンエステラーゼを一時的に不活化して、 アセチルコリンの分解を抑制し、間接的に アセチルコリンの作用を増強すると共に、 自らもアセチルコリン様の作用を有するコ リン作動薬である。 44 アトロピン 抗コリン薬 2015/9/30 45 アトロピン 2015/9/30 今回のケースでは、ネオスチグミンに よってアセチルコリンが体中で増加する事 によって起こる副作用に拮抗するために使 われている。 (アセチルコリンの作用は筋肉で のみ起こってほしいから) 46 操作・投薬 BP HR bpm mmHg Fentanyl(50μg) Tubocurarin(3mg) 麻薬性鎮痛薬 Thiopental(5mg/kg) 静注全身麻酔薬 非脱分極性筋弛緩薬 80/50 115 44 鼻から気管内tube挿入 非脱分極性筋弛緩薬 Atracurium 吸入麻酔薬 笑気ガス Isoflurane 吸入麻酔薬 125/75 82 切開 92/60 150/95 80 135 Succinylcholine 脱分極性筋弛緩薬 (1.5mg/kg) 2015/9/30 47 筋弛緩薬使用目的の違い Tubocurarine Succinylcholine 鼻からの気管内挿管のため Atracurium 2015/9/30 Succinylcholineの副作用予防 抜歯手術中の換気を楽にするため 48 操作・投薬 BP HR bpm mmHg Fentanyl(50μg) Tubocurarin(3mg) 麻薬性鎮痛薬 Thiopental(5mg/kg) 静注全身麻酔薬 非脱分極性筋弛緩薬 Succinylcholine 脱分極性筋弛緩薬 (1.5mg/kg) 鼻から気管内tube挿入 Atracurium 非脱分極性筋弛緩薬 笑気ガス Isoflurane 吸入麻酔薬 吸入麻酔薬 切開 2015/9/30 80/50 115 44 125/75 82 92/60 150/95 80 135 49 Succinylcholineはムスカリン受 容体を刺激する 洞房結節のM2受容体が刺激される ↓ 心拍数減少 2015/9/30 50 操作・投薬 Fentanyl(50μg) Tubocurarin(3mg) Thiopental(5mg/kg) 麻薬性鎮痛薬 Succinylcholine (1.5mg/kg) 脱分極性筋弛緩薬 鼻から気管内tube挿入 Atracurium 笑気ガス Isoflurane 切開 2015/9/30 BP mmHg HR bpm 80/50 115 44 125/75 82 92/60 150/95 80 135 非脱分極性筋弛緩薬 静注全身麻酔薬 非脱分極性筋弛緩薬 吸入麻酔薬 吸入麻酔薬 51 笑気ガスとイソフルレン併用の理由 第2ガス効果 すみやかに吸収された1番目のガス が2番目の麻酔ガスの取りこみを促 進させる効果 2015/9/30 52 BP 切開時 Fentanyl(100μg) 麻薬性鎮痛薬 Isoflurane 吸入麻酔薬 HR 150/95 135 吸入麻酔中止 Neostigmine(2.5mg) コリンエステラーゼ阻害薬 Atropine(0.6mg) 抗コリン薬 5分後目が覚める 気管内tube取り外し Postanesthetic recovery unit 吐き気、嘔吐 2015/9/30 53 Neostigmine Atropine併用の理由 2015/9/30 Neostigmineは筋弛緩を元に戻すた め Atropineはneostigmineの副作用を 拮抗させるた 54
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