児童の孤独感低減に及ぼす学級単位の集団社会的スキル

児童の孤独感低減に及ぼす学級単位
の集団社会的スキル訓練の効果
青木美幸・粟田愛絵
問題
子どもの不適応行動←社会的スキルの欠如
そこで・・・
集団社会的スキル訓練(集団SST)
―子どもの望ましい対人関係を形成・維持
させるために、学級集団全員の社会的スキ
ルを開発する取り組み。
問題
集団SSTに関する先行研究の課題
・社会的スキル促進の結果として、社会的不適応
が改善されたかどうかを査定する
・標的とする社会的スキルを実証的に選択する
→本研究のポイント
①子どもの不適応感の指標として孤独感に注目
②「社会的働きかけスキル」・「規律性スキル」を中
心に標的スキルを設定
③集団SSTの維持効果を検討(→研究Ⅱ)
研究Ⅰ
<目的>
小学3年生の児童を対象として、孤独感低減
に及ぼす集団SSTの効果について検討
<方法>
対象
宮崎県内の公立小学校3年生2学級63名
(男児35名・女児28名)の児童
→学級単位で訓練群・統制群に振り分け
訓練群33名(男児18名・女児15名)
統制群30名(男児17名・女児13名)
<方法>
測度
(1)社会的スキルの自己評定
社会的スキル尺度(渡辺ら、2000)
・・・規律性、葛藤解決、社会的働きかけ、主張性、教師
との関係 の5下位尺度
(2)社会的スキルの教師評定 訓練群のみ実施
社会的スキル尺度(渡辺ら、1998)
①社会的スキル領域・・・学業、協調性、主張性、社会
的働きかけ の4下位尺度
②問題行動領域・・・妨害行動、引っ込み思案行動、攻
撃行動 の3下位尺度
<方法>
(3)孤独感の評定
孤独感評定尺度(前田、1995)
・各項目について3段階で自己評定
・得点(範囲は11~33点)が高いほど孤独
感が強い
<方法>
標的スキル
・社会的働きかけスキル・・・対象児自身から
社会的相互作用を始発させる
・規律性スキル・・・仲間集団内のルール・決
まりについて理解する
・葛藤解決スキル・・・相手の感情を上手に聞
いて理解する
<方法>
手続き(図1)
・訓練期間は約1か月、計8セッション(毎週2S)
・2~4名のトレーナー(大学院生)により実施
(1)コーチング法による訓練場面
・1セッション45分、4セッション(第1・3・5・7S)
・授業時間を用いて多目的ホールで実施
・トレーナー4名
各セッションの構成要素
①適切な社会的スキルの重要性の説明 ②問題場面
の提示 ③登場人物の行動についての説明 ④モデリン
グ ⑤行動リハーサルとフィードバック・社会的強化
⑥自然場面での積極的な社会的スキルの使用の奨励
<方法>
(2)ゲーム遊び場面
コーチング法の訓練場面で学習したスキルが使
用されやすいように構造化されたゲーム活動を
導入
・コーチング法訓練の次回セッション(第2・4・6・
8S)
・朝自習の時間20分を利用して、多目的ホールで
実施
・トレーナー2名
図1 訓練プログラム
S
1
2
3
4
5
6
7
8
標的スキル
社会的働きかけスキル
社会的働きかけスキル
葛藤解決スキル
葛藤解決スキル
規律性スキル
規律性スキル
葛藤解決スキル
振り返り
対象児への教示の言葉
上手に話しかけよう
上手に話しかけよう
上手にほめよう
上手にほめよう
ルールや決まりを守ろう
ルールや決まりを守ろう
気持ちを分かち合おう
活動の振り返り
形態
コーチング
ゲーム
コーチング
ゲーム
コーチング
ゲーム
コーチング
ゲーム
S=セッション
<方法>
訓練内容の概要
(1)コーチング法による訓練場面(第1S)
①適切に働きかけることの重要性について紙芝居で教示
②仲間の輪に入りたいが方法が分からない少年の話を
提示 ③この少年はどうすれば良いのか対象児に回答さ
せ、数種の方略を案出 ④これらの方略によって仲間に
加われたというモデルを提示→スキルの構成要素につい
て話し合い理解→数名の対象児でロール・プレイを実行
⑤対象児全員で役割交替しながらロール・プレイ実施
(フィードバック・社会的強化あり) ⑥スキルを日常場面
でも使用するように奨励
<方法>
(2)ゲーム遊び場面(第2S)
・対象児全員が動物の絵のカードを首からぶら下げた
・自分の背中にぶら下がっている動物の名前を当てるた
め、他の児童に働きかけて情報収集
・適切な社会的スキルを実行した場合、トレーナーから社
会的強化が与えられた
トークン強化法
・各セッション終了時にトークンカードを提示
・スキルを1日1度でも使用したら、担任から1日1枚シール
が与えられた
・シールを集めた対象児にはキャラクターのキーホルダー
<結果>
事前の孤独感評定で最低点を示していた対象児11名、自
己報告評定で記入不備があった対象児1名を除外
→分析対象:訓練群26名(男14・女12)
統制群25名(男15・女10)
(1)社会的スキルの自己評定(図2)
総得点、葛藤解決スキル、主張性スキル、社会
的働きかけスキルにおいて、訓練群で評定得点
が増加
→集団SST参加の児童は、訓練後に社会的ス
キルを促進させていた
図2 自己報告による社会的スキル評定の平均得点
訓練群
統制群
訓練前
訓練後
訓練前
訓練後
総得点
83.42
88.23
90.12
88.40
(9.28)
(12.94)
(9.86)
(14.13)
規律性
31.88
32.62
32.84
33.44
(3.57)
(5.19)
(4.57)
(3.73)
葛藤解決
21.88
23.46
24.84
24.04
(4.15)
(4.62)
(3.22)
(4.98)
社会的働きかけ
14.58
15.77
15.96
15.52
(2.82)
(2.39)
(2.35)
(3.04)
主張性
7.50
8.31
8.56
7.44
(1.92)
(1.98)
(2.06)
(2.60)
教師との関係
7.58
8.08
7.92
7.96
(2.16)
(1.98)
(2.00)
(2.28)
()は標準偏差
<結果>
(2)社会的スキルの教師評定
①社会的スキル領域(図3)
総得点、および各下位尺度で得点増加
→集団SST参加の児童は、社会的スキルが促
進
②問題行動領域(図4)
総得点、および各下位尺度で得点減少
→集団SST参加の児童は、訓練後問題行動
が減少
図3 教師評定による社会的スキル領域の平均得点
訓練前
訓練後
総得点
103.54
108.77
(
11.96)
(
11.55)
学業
28.77
29.92
(
6.55)
(
6.61)
協調性
24.08
25.23
(
4.91)
(
4.26)
主張性
30.50
32.04
(
3.72)
(
3.58)
社会的働きかけ
20.19
21.60
(
3.38)
(
3.72)
()は標準偏差
図4 教師評定による問題行動領域の平均得点
訓練前
訓練後
総得点
34.81
33.27
(
6.76)
(
6.52)
妨害行動
21.38
20.42
(
5.29)
(
5.12)
引っ込み思案行動
9.12
8.81
(
1.53)
(
1.50)
攻撃行動
4.31
4.04
(
1.95)
(
1.99)
()は標準偏差
<結果>
(3)孤独感の評定(図5)
訓練群において、訓練後孤独感が低減
図5 自己報告による孤独感評定の平均得点
訓練群
統制群
訓練前
訓練後
訓練前
訓練後
16.92
15.42
15.88
16.36
(
3.83)
(
3.89)
(
3.22)
(
5.04)
()は標準偏差
<考察>


訓練対象児の社会的スキル得点の増加・孤独感
の低減
→集団SSTは児童の社会的スキルの促進・主
観的不適応感の改善に効果あり
←標的スキルの実証的選択・・・社会的働きか
けスキル・葛藤解決スキルが孤独感低減に
有効
主張性スキル・問題行動評定も改善
→集団SSTは、標的スキル以外の社会的スキ
ルや問題行動低減にも寄与
研究Ⅱ
<目的>
訓練終了から6か月経過後の訓練群のフォ
ローアップ・データについて分析し、集団
SSTの維持効果について検討
<方法>
対象
訓練群26名から男児1名(フォローアップ・データ記入
不備あり)を除いた25名(男14・女12)の児童
測度
・自己評定用社会的スキル尺度(渡辺ら、2000)
・教師評定用社会的スキル尺度(渡辺ら、1998)
・孤独感尺度(前田、1995)
<結果>
(1)社会的スキルの自己評定(図6)
・訓練後・フォローアップ期において総得点が増加
・教師との関係スキル除く全下位尺度で効果あ
り・・・葛藤解決スキル・社会的働きかけスキル・
規律性スキルで、フォローアップ期の得点が訓
練前から増加
→集団SST参加の児童は、その訓練効果を6か月
間維持(葛藤解決スキル・社会的働きかけスキ
ルで訓練効果の維持)
図6 自己報告による社会的スキル評定の平均得点
訓練前
訓練後 フォローアップ
総得点
82.84
89.88
90.52
(8.97)
(10.03)
(8.64)
規律性
31.72
33.28
34.28
(3.54)
(4.02)
(3.85)
葛藤解決
21.76
23.80
23.84
(4.19)
(4.37)
(4.20)
社会的働きかけ
14.40
16.08
16.32
(2.72)
(1.82)
(1.86)
主張性
7.36
8.52
7.84
(1.82)
(1.69)
(2.06)
教師との関係
7.60
8.20
8.24
(2.20)
(1.91)
(1.90)
()は標準偏差
<結果>
(2)社会的スキルの教師評定
①社会的スキル領域(図7)
総得点・協調性・主張性・社会的働きかけにお
いて、訓練後・フォローアップ期で得点増加
→集団SST参加の児童は、習得した社会的ス
キルを6か月後まで維持
②問題行動領域(図8)
総得点・全下位尺度で得点減少(総得点・妨害
行動は訓練後→フォローアップ期でさらに減少)
→集団SST参加の児童は、訓練後問題行動
が減少・その効果を6か月間維持
図7 教師評定による社会的スキル領域の平均得点
訓練前
訓練後 フォローアップ
総得点
104.12
109.32
110.76
(
11.83) (
11.44)
(
12.02)
学業
29.20
30.32
30.24
(
6.30)
(
6.42)
(
5.77)
協調性
24.12
25.32
26.00
(
5.00)
(
4.32)
(
4.73)
主張性
30.60
32.08
32.40
(
3.76)
(
3.65)
(
3.75)
社会的働きかけ
20.20
21.60
22.12
(
3.45)
(
3.80)
(
3.46)
()は標準偏差
図8 教師評定による問題行動領域の平均得点
訓練前
訓練後 フォローアップ
総得点
34.68
33.12
31.72
(
6.87)
妨害行動
21.28
(
5.37)
引っ込み思案行動 9.16
(
1.55)
攻撃行動
4.24
(
1.96)
()は標準偏差
(
6.60)
20.32
(
5.19)
8.84
(
1.52)
3.96
(
1.99)
(
6.05)
19.20
(
5.02)
8.64
(
1.25)
3.88
(
1.62)
<結果>
(3)孤独感の評定(図9)
訓練後・フォローアップ期において得点減少
→集団SST参加の児童は、孤独感が低減・その
効果を6か月後まで維持
図9 自己報告による孤独感評定の平均得点
訓練前
訓練後
フォローアップ
16.88
15.04
15.28
(
3.90)
(
3.43)
(
3.88)
()は標準偏差
<考察>
訓練効果維持の要因
 ゲーム遊び場面の設定
①習得スキルの日常場面へのスムーズな移行
②標的スキルを行動リハーサルする機会を十
分に提供
→複数の対照群を設定した追試研究
 フォローアップ期間中の強化刺激の存在
・・・担任教師の社会的強化による可能性
→このような変数を統制した追試研究