凹型区分線形取引コストを考慮した 少額資産運用ポートフォリオ最適化 A0978513 山田賢太郎 2 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 3 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 4 1.研究背景 • 数千万円程度の少額資産運用では,モダン・ポート フォリオ理論は適さない. • 最小取引単位制約や取引コストを考慮した場合,数 十銘柄による資産のポートフォリオを組めないから. • 従来研究(2001年)では,平均絶対偏差の利用によ り,モダン・ポートフォリオ理論を少額資産運用モ デルに適用することができた. • 取引コストを完全には考慮しきれていないなど,問 題も残っている. 5 1.1 用語の説明(ポートフォリオ) • 自己の運用資産(株式,債券,投資信託,外国預金等) の構成状況のこと. • リスク許容度に応じて,異なる金融商品に分散投資をす る. • 投資家が目標とする期間でのリターン(収益)とそれに 見合ったリスクのバランスを取ることがポイント. 注意 • この研究では,問題を簡潔にするため,ポート フォリオの構成要素は全て株式であるとする. 6 1.1 用語の説明(モダン・ポートフォリオ理論) • H.M.マーコウィッツ(Harry M. Markowitz, アメリカ)に より提唱される. • 自身のポートフォリオを最適化し,自身のリスク資産を どう価格設定するのかを決める理論である. • ポートフォリオを複数資産の集合とみなすと,得られる 収益は,複数資産の収益の加重平均で表される. • リスクの評価は標準偏差で行われる. 7 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 8 2.研究目的 • 従来研究(2001年)により,少額資産運用モデルにもモダ ン・ポートフォリオ理論を適用することが可能となった. • 2001 年当時のコンピュータの性能では,完全に凹型区分線 形取引コストを考慮できていない. • 従来研究を凹型取引コストと最小取引単位を考慮したモデル に変更する.また,直接投資収益額が求まるように変更する. • 変更したモデルの作成及び評価をすることを目的とする. 9 2.2 凹型区分線形取引コスト • 取引コストは,各銘柄の取引金額に応じて異なる. 10 2.2 凹型区分線形取引コスト • 取引コストは,各銘柄の取引金額に応じて異なる. 下方近似している! 注意 • 従来研究では,凹型区分取引コストを完全には考慮できておらず, 下方近似した取引コストを使用している. 11 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 12 3.従来研究の定式化 • 少額資産運用にモダン・ポートフォリオ理論を組み 入れたのが,従来研究の定式化. • リスクの評価を絶対偏差に置き換えたモデルが,平均絶 対偏差モデルである. • リスクの大きさは,各投資家の許容度によって異なる. • リスクを各投資家の許容リスク範囲内の一定値以下とし た上で,期待収益率の最大化を目指す. 13 3.従来研究の定式化(入力データ) • n種類の株式 𝑆𝑗 (𝑗 = 1,2, … , 𝑛)を対象とする資産運用問題のポートフォリ オ収益最大化を考える. • M:運用資産の総額(円) • 𝑋𝑗 :各銘柄への投資額(円) • 𝑅𝑗 :各株式 𝑆𝑗 の収益率 • 𝑝𝑡 :各シナリオの実現確率.ただし,𝑝𝑡 = 1 𝑇 • 𝑘𝑗 :最小取引単位の非負整数倍 • { 𝑟1𝑡 , 𝑟2𝑡 , … , 𝑟𝑛𝑡 ∶ 𝑡 = 1, … , 𝑇 }:第 T シナリオまで考えた時の,収益率ベ クトル 𝑅 = (𝑅1 , … , 𝑅𝑛 )の取り得る値の集合 14 3.従来研究の定式化(目的関数) 𝑛 𝐦𝐚𝐱𝐢𝐦𝐢𝐳𝐞 𝑅𝑗 𝑥𝑗 − 𝑐𝑗 𝑥𝑗 (1) 𝑗=1 ただし、 投資収益率最大化! 𝑅𝑗 :各株式𝑆𝑗 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 の収益率 𝑐𝑗 :各株式𝑆𝑗 (𝑗 = 1,2, … , 𝑛)に対する取引コスト 𝑥𝑗 :各株式への投資比率 15 3.従来研究の定式化(目的関数) 注意 凹型区分線形取引コストを完全には考慮できておらず, 下方近似している. 16 3.従来研究の定式化(目的関数) 𝑛 𝐦𝐚𝐱𝐢𝐦𝐢𝐳𝐞 𝑅𝑗 𝑥𝑗 − 𝛿𝑗 𝑥𝑗 (1′ ) 𝑗=1 ただし, ポートフォリオから得 られる収益率の最大化 𝑅𝑗 :各株式𝑆𝑗 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 の収益率 𝛿𝑗 :各株式𝑆𝑗 ( 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 )に対する取引コスト 変数𝑥𝑗 は, 𝑥𝑗 :各株式への投資比率 を表す. 17 3.従来研究の定式化(制約条件) リスクは、各投資家の許 容リスク範囲以下 subject to 𝑇 𝑦𝑡 ≤ 𝑊0 𝑡 = 1,2, … , 𝑇 , 𝑡=1 2 𝑛 −𝑝𝑡 𝑟𝑗𝑡 − 𝑅𝑗 𝑥𝑗 ≤ 𝑦𝑡 , (3) 𝑗=1 𝑛 𝑝𝑡 𝑟𝑗𝑡 − 𝑅𝑗 𝑥𝑗 ≤ 𝑦𝑡 , 4 𝑗=1 𝑦𝑡 ≥ 0 𝑡 = 1,2, … , 𝑇 , 5 18 3.従来研究の定式化(制約条件) 𝑥𝑗 ≥ 0 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 , 6 𝑥𝑗 = 𝑘𝑗 𝑍𝑗 j = 1,2, … , 𝑛 , 7 各株式の取引量は 非負整数倍 𝑛 𝑥𝑗 = 1 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 , (8) 𝑗=1 𝑍𝑗 ∈ Ζ , 𝑍𝑗 ≥ 0 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 各株式の投資比率 の和=1 (9) ただし、 𝑟𝑗𝑡 :第𝑡シナリオが実現した時の株式𝑗の投資収益率 𝑊0 :各投資家の許容リスクの大きさ 𝑘𝑗 :各株式の取引単位分の値段の比率 19 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 20 4.本研究での定式化(目的関数) • 従来研究からの改良点 ▫ 凹型取引コストを考慮したモデルへの改良 ▫ 最小取引単位数を考慮する ▫ 投資収益率ではなく、直接、投資収益が求まるように改良 ※ 運用資産の総額をM(円)とし、各銘柄への投資額を𝑋𝑗 (円)を変数とする。 • 目的関数 𝑛 𝐦𝐚𝐱𝐢𝐦𝐢𝐳𝐞 𝑅𝑗 𝑋𝑗 − 𝐶𝑗 𝑋𝑗 (10) 𝑗=1 投資収益最大化 21 4.本研究での定式化(制約条件) subject to 𝑇 𝑦𝑡 ≤ 𝑊0 𝑡 = 1,2, … , 𝑇 , 𝑡=1 11 𝑛 −𝑝𝑡 𝑟𝑗𝑡 − 𝑅𝑗 𝑋𝑗 ≤ 𝑦𝑡 , 12 𝑗=1 𝑛 𝑝𝑡 𝑟𝑗𝑡 − 𝑅𝑗 𝑋𝑗 ≤ 𝑦𝑡 , 13 𝑗=1 𝑦𝑡 ≥ 0 𝑡 = 1,2, … , 𝑇 , 14 22 4.本研究での定式化(制約条件) 𝑋𝑗 ≥ 0 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 , 15 𝑋𝑗 = 𝐾𝑗 𝑍𝑗 j = 1,2, … , 𝑛 , 16 𝑛 𝑋𝑗 = 𝑀 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 , (17) 𝑗=1 𝑍𝑗 ∈ Ζ , 𝑍𝑗 ≥ 0 𝑗 = 1,2, … , 𝑛 各株式は,100株分の値 段の非負整数倍で取引. 各株式の投資額の和は 資産総額Mとなる。 (18) ただし, 𝑟𝑗𝑡 :第 𝑡 シナリオが実現した時の株式 𝑗 の投資収益率 𝑊0 :各投資家の許容リスクの大きさ 𝐾𝑗 :各株式の取引単位分の値段 𝐶𝑗 :各株式の取引コスト 23 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 24 5.1 実験目的 • 凹型区分線形取引コストを完全に考慮したことで,最適解が 求まるまでの計算時間が延びることが予想された. • コストの影響分だけ,ポートフォリオに組み込まれる銘柄数 に変化がおこると予想された. • 計算時間,銘柄数,最適解に注目し,コストを考慮しないモ デルとで比較実験を行った. • 作成したモデルの評価を行った. 25 5.2 実験データと使用ソフトウェア • 実験データ ▫ 実データを得ることが困難であった. ▫ 日経225の株式データの2011 年度(通年) の配当金を参 考に,乱数を用いて以下のものの疑似データを作成. 各株式の株価 シナリオごとの投資収益率 ▫ 実験に用いたデータは,50 銘柄、40 シナリオ分の データとする。 • 使用ソフトウェア ▫ 混合整数計画ソルバー Gurobi Optimizer 5.0.4 26 5.3 実験結果概要 • 投資金額を ▫ 3百万円,5百万円,1千万円,5千万円,1億円, 3億円 として、実験を行った。 • 投資額の10%以下を許容リスク範囲とし、今回作成した モデルの評価を行った。 • 許容リスク範囲は ▫ 3万円,30万 円,3百万 円,3千 万円,3億円 とした。 27 6.1 計算時間での比較結果 • リスクの大きさは,投資額の10%程度とする投 資家が多い. • 許容リスク範囲が各投資額の10%以下の部分で 比較をした. • 最適解が求まった許容リスク範囲は,3万円, 30万円,300万円であった. 28 6.1 計算時間での比較結果 • 投資額に対して,許容リスクが10 %程度では大差なく,一瞬にして最適解が求まった. • 投資額に対して許容リスクが1 %程度では,取引コストを考慮した場合の方が,計算時間 が倍以上かかった.しかしながら,どの場合も400 秒以内には最適解がみつかった. • 各投資額に対して許容リスク範囲が1 %よりも小さくなると,コストを考慮した方が,格 段と計算時間がかかった. 29 6.2 銘柄数での比較結果 • 青抜きの個所は、実行可能解がなかった個所である。 許容リスク範囲 30,000(円) 許容リスク範囲 300,000(円) 許容リスク範囲 3,000,000(円) 許容リスク範囲 30,000,000(円) 運用資金(円) ¥3,000,000 ¥5,000,000 ¥10,000,000 ¥50,000,000 ¥100,000,000 ¥300,000,000 運用資金(円) ¥3,000,000 ¥5,000,000 ¥10,000,000 ¥50,000,000 ¥100,000,000 ¥300,000,000 運用資金(円) ¥50,000,000 ¥100,000,000 ¥300,000,000 運用資金(円) ¥300,000,000 銘柄数(コストなし) 14 13 21 21 銘柄数(コストあり) 14 13 13 25 銘柄数(コストなし) 3 4 9 15 18 20 銘柄数(コストなし) 4 10 15 銘柄数(コストなし) 3 21 銘柄数(コストあり) 3 4 9 14 19 20 銘柄数(コストあり) 4 8 15 銘柄数(コストあり) 3 • ポートフォリオに組み込まれる銘柄にも違いは見受けられ なかった. 30 6.3 投資収益額での比較結果 • 青抜きの個所は,実行可能解がなかった個所である. 許容リスク範囲 30,000(円) 許容リスク範囲 300,000(円) 許容リスク範囲 3,000,000(円) 許容リスク範囲 30,000,000(円) 運用資金(円) 投資収益額(円)(コストなし) 投資収益額(円)(コストあり) 取引コストの影響(%) ¥3,000,000 ¥1,717,943 ¥1,680,143 2.20% ¥5,000,000 ¥2,826,850 ¥2,767,274 2.11% ¥10,000,000 ¥5,581,629 ¥5,467,948 2.04% ¥50,000,000 ¥27,507,831 ¥100,000,000 ¥300,000,000 ¥164,550,920 ¥162,845,497 1.04% 運用資金(円) 投資収益額(円)(コストなし) 投資収益額(円)(コストあり) 取引コストの影響(%) ¥3,000,000 ¥1,918,523 ¥1,889,317 1.52% ¥5,000,000 ¥3,161,928 ¥3,115,828 1.46% ¥10,000,000 ¥6,143,178 ¥6,045,532 1.59% ¥50,000,000 ¥28,568,615 ¥28,158,172 1.44% ¥100,000,000 ¥56,307,759 ¥55,578,175 1.30% ¥300,000,000 ¥166,087,152 ¥164,344,513 1.05% 取引コストの影響(%) 運用資金(円) 投資収益額(円)(コストなし) 投資収益額(円)(コストあり) ¥50,000,000 ¥31,723,587 ¥31,439,804 0.89% ¥100,000,000 ¥61,528,329 ¥60,895,291 0.89% ¥300,000,000 ¥174,334,666 ¥172,660,433 0.96% 取引コストの影響(%) 運用資金(円) 投資収益額(円)(コストなし) 投資収益額(円)(コストあり) ¥300,000,000 ¥193,947,042 ¥193,028,993 0.47% • 比較結果から,運用資金が高く,分散銘柄数が多く,各々の銘柄への投 資額が大きい場合には,取引コストが安くなるという,取引コストの性 質がきちんとモデルに反映されていた. 31 目次 1.研究背景 1.1 用語の説明 2.研究目的 2.1 凹型区分線形取引コスト 3.従来研究の定式化 4.本研究での定式化 5.実験による評価 5.1 実験目的 5.2 実験データと使用ソフトウェア 5.3 実験結果概要 5.3 計算時間での比較結果 5.4 銘柄数での比較結果 5.5 投資収益額での比較結果 6.まとめ 32 7.まとめ • 実験結果より,凹型区分線形取引コストを考慮したモデルは, 投資額が十分大きい場合は,十分有益なモデルであるといえ る. • 投資額が小さく,許容リスク範囲も小さい場合は,最適解が 求まる時間が格段と長い.しかし,投資収益が各株式の配当 のみの場合には、十分有益だといえる. • 株式の売却差益を,ポートフォリオから得られる収益に含め る場合,投資額が小さく,リスクも十分小さい範囲で最適解 を求めたい場合は,許容可能な実行可能解が見つかるまでの 計算時間がかかりすぎてしまう.実務では使えないであろう と感じた. ※これより,質疑応答を受け付けます。
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