調停の理論 - 九州大学法学部

調停の理論
1.解決方法について説明する
・ 交換理論(統合理論)
・ 承認理論(関係理論)
・ ナラティブ理論
2.紛争の発生と拡大について説明する
・ 協調と競争の理論
紛争への関心の高まり
新たな闘争の出現 - 利害から人権へ
1.階級闘争
2.民族闘争
3.人種間闘争
1.
過去の紛争観
ダーウイン
アダム・スミス
マルクス
フロイト
2.
経済学者の紛争理論
ケネス・ボールディング
メアリー・パーカー・フォレット
3.
社会心理学者の紛争理論
モートン・ドイッチ
MIT・ハーバード大学グループ
4.
哲学的紛争理論
バルック・ブッシュ
ジョー・フォルジャー
5.
コミュニケーション的紛争理論
ボールディングの理論
-紛争の一般理論(Conflict and Defense, A General Theory, 1962)
• 主張
1. 紛争とは量的、質的観点から議論されるべきである。
2. 紛争は解決の仕方によって評価される。
- コントロール・管理可能か?
- 回避や表面的和解ではなく、
解決へのプロセスが構築できるか?
3. 紛争の規模を測り、管理手段の技術の適正さを知る
ための知識開発の必要性
- 学際としての紛争研究
流行病学的モデル
• イメージ構造を変化させる流行病
社会的変動
宗教的変化
好戦的ムード
紛争の要素
1. 行動単位 - 当事者の意味、一個人、一家族、一部族な
ど(集団は同一の価値観を持ち、一緒に行動するものであ
る)。少なくとも一対でなければならない。
2。 行動空間 - 行動単位の位置を示す。例えば、「欲求の
強さ」、「怒りの強さ」のように変数で表される。より高い、よ
り強いといった状態を示す。
3. 時間的空間 - 行動単位が各瞬間に示してきた位置の記
録。当事者たちは、長い関わりを持つことが多い。
用語の定義
• 紛争とは:
二人あるいは複数の人間が、お互いに相手の希望/
欲求と両立しない希望/欲求を持ち、それと知りつつ、
自己の希望・欲求の満足のために何らかの行動を
起こす。その結果、両者、あるいはグループ間に生
じる希望/欲求の達成を目指した競争的状態を意味
する。
用語の定義
• 当事者とは:
出身、職業、趣味などの共通するアイデンティティを
保ちながら、異なる意見、意識、主義主張、あるい
は利益を持つ人、またはグループである。
交換理論
-交換とは等価値と思える有形・無形の物品を当事者がやり取りすること
1. 交換領域
当事者が欲しいものを手に入れるために差し出し
てもよいと考える所有物のリストを意味する。
2.取引点
交換の成立点
解決方法としての交換
交渉領域
当事者A
当事者B
要求
要求
取引点
交換による解決の問題点
1.
2.
3.
4.
当事者を利己的にする
当事者が取引に囚われる
同一のものを争った場合の困難さ
社会の不平等を容認する
ボールディングの提案した解決策
• 贈与の理論
- 愛と恐怖の経済学、1974年
― 社会の性質そのものを変える必要性
(互恵社会)
統合の理論
- メアリー・パーカー・フォレット(1868-1933)
• 組織行動の原理(1972)
• 建設的対立(1924年)
–
対立の処理方法(抑圧、妥協、統合)について論じる
統合のプロセス
1.対立の表面化 - 分解と欲求の摘出
2.再評価 - 直線的でなく円環的対応
3.統合 - 新しい創造と発展性を備える
解決方法としての統合
対立
交渉領域
理由
要求
要求
取引点
統合
理由
20世紀が世界に与えることのできる真
理の一つは、関係からの自由ではなく、
関係を通じて、または組織された関係を
通じての自由である。
メアリー・パーカー・フォレット
問題解決型(Problem-solving
Mediation)調停への批判
・ ニーズだけに焦点を当てている(個人的、科学者的
アプローチ)
・ 紛争解決には社会的、文化的要素そしてより人間
的要素も考慮されるべきである。
承認理論
- バルック・ブッシュ/ジョー・フォルジャー
•
プロミス・オブ・ミディエーション(1994)
•
トランスフォーマティブ調停(変容型調停)
•
3種類の世界観を基本とする
1.個人的世界観
2.組織的世界観
3.関係的世界観
個人的/組織的世界観から関係的世界観への変容
エンパワメント
否定
肯定
弱さ
自己中心的
自己弁護
批判
不信感
強さ
相手を理解する
相手の立場・主張を聴く
信頼感
承認
ヘーゲルの承認論
• 承認を巡る闘争(2000年)
‘恐れや不安を抱くことなく公共生活を送ることができる た
めには、主体は社会的な地域や歴史的な時代とは全く関係
なく、常に様々な形をとった社会的な承認を必要とする。’
アクセル・ホネット
・ 社会の基盤を自律した個人におく。
・ 自己保存のための闘争から道徳性と人倫を基盤と
した社会へ
・ 不遇な社会集団の解放から多文化主義まで。
ホッブスの社会観
万人の万人に
対する闘争
秩序
権力の集中
万人の万人に
対する闘争
ヘーゲルの社会観
万人の万人に
対する闘争
秩序
承認による関係
道徳的市民社会
ヘーゲルの承認論
• 認識と承認
1. 認識(cognition) - 主観的、機械的
軽蔑、支配、利用の可能性を含む
2. 承認(recognition) - 客観的、有機的
意思疎通、他者が抱く自由と独立の欲求と
対立しない
承認の形態
•
愛(自然的人倫)
-
ー
•
経済と法(総体的人倫)
ー
ー
•
他者のために自己を否定する献身を基本とする
暴力的支配
お互いを責任ある状態に保つ
権利の剥奪
他者からの尊重(絶対的人倫)
ー
ー
公共的名誉(個別的、利己的あり方をやめ普遍的な意思となる
ことで他者からの尊敬を得る)
尊厳の剥奪
ナラティブ理論
• ナラティブ調停とは:
- 当事者双方が個別的なナラティブから
出発し相互的なコミュニケーションを達成
し、問題を共時し、相互理解し、問題解決
を図る方法
ナラティブ調停の必要性
・ 理解の差異 - 紛争の原因
・ 既成の価値観、習慣などのため、
人は真実を知ることができない
すでに構築された事件の
脱構築と再構築の作業
ナラティブとは;
• 予見できない何かが起こった時、期待されたことと異
なる何かが生じたとき、その問題を確定し、その破綻
と結果にうまく対応し、折り合いをつけるための努力で
ある。そのストーリーは作られるものであり、局所的、
個別的、特定の視点から語られるものである。
-
-
-
-
法的ナラティブ
文学的ナラティブ
自己構成的ナラティブ
(臨床的ナラティブ)
協調と競争の理論
― 紛争解決の心理学(1973)
• 人間関係には協調的要素と競争的要素が混在して
いる。
• 当事者が持つ希望や欲求は、相手の希望や欲求と
両立可能なもの(協調的要素)と両立不可能なもの
(競争的要素)がある。
• 紛争は競争的要素が意識され、増強されることに
よって、競争的プロセスが開始された状態である。
• すべての紛争が両立不可能な希望や欲求に起因
するとは限らない。
• すべての紛争が破壊的である必要はない。
協調と競争の理論
- 紛争の発生と進行を説明
関係の基本的特徴
目的の相互依存
志向性
行為タイプ
代替可能性
態度
誘導可能性
肯定的
好意的
効果的
好き/接近
受け入れる
否定的
否定的
非効果的
嫌い/回避
受け入れない
独立と依存の不均衡
社会的関係原則
関係の現象
協調的
競争的
信頼・助け合い
意見交換
拡大ダイナミックス
自閉的敵意
自己成就的予言
無意識のコミットメント
告発人/非告発人バイアス
• 社会関係原則とは;
ある一定の社会関係が引き起こす特徴的
なプロセスとその効果は、また、同質の社
会関係をもたらす傾向を持つ。
協調と競争の理論
1. 主体間の関係の基本的特徴は協調的と競争的の2種
類に分かれる
2. 紛争の発生源は競争的な基本的特徴にある
3. 基本的特徴は当事者の行為タイプを決定する
4. 特定の行為タイプは主体間で反復され、拡大される
5. 基本的特徴が協調的な場合は、親密さが増し、競争的
な場合は、紛争が発生する
• 建設的論争とは;
1. 全体と個を区別すること
2.
3.
4.
5.
争うには相手がいる(二人で始め二人で終える)
危機の機は機会の機である
相互尊重と信頼
反対することに賛成する
過去の紛争観
現代の紛争観
・ 紛争の終え方に焦点
を当てている
・ 白黒をつける姿勢
・ 争点の一本化
・ 嫌悪感
・ 普遍的解決を求める
・ 解決のプロセスを重視
する
・ ウインーウイン・リゾ
リューション
・ 複数の争点に対処す
る
・ 危機の機は機会の機
・ 個人的解決
紛争管理とは;
• 当事者自らが、必要なら第3者の助けを得な
がら、紛争を避けたり、無視したりすることなく、
紛争を正視し、その拡大と防止・収拾を図る
ことである
紛争管理学とは;
• 紛争管理に必要な事柄、つまり、問題点の見
つけ方、その分析方法、双方にとって受け入
れ可能な解決策を得る方法、話し合いをうま
く進めるために必要な技法などについて理論
的に考察し、応用実習を行う研究である。
調停とは;
• 当事者が、直接話し合い、その結果、お互い
の主張や見解の違いを理解し、それを調整
することによって事件の解決を試みる方法で
ある。当事者は自由意志で話し合いを実施し、
調停人の役割は、そのような話し合いをより
有効なものにするために、当事者を助けるこ
とである。当事者は、話し合いを通じて、お互
いに納得できる、守れると信じる解決を見つ
け出そうと努め、それを見つけた時が問題解
決の時である。