動物介在による 生理的・心理的ストレス緩衝効果

動物介在による
生理的・心理的ストレス緩衝効果
AAT as moderators of
Autonomic and psychological
Responses to Stress
人間科学研究科 健康科学専攻 臨床心理学研究領域
3802b011-4 楮原 恵理子
指導教員 野村 忍 教授
1
1980年頃~ ペット動物によるストレス
緩衝効果の研究がはじまる...
 心臓血管系疾患
西洋社会における大きな死因の一つ
↓
ペット飼育が有効
重度の狭心症・心筋梗塞で入院した患者
退院一年後の死亡率
ペット飼育者5.7% ペット非飼育者28.2%
(Friedmann, Katcher,& Lynch, 1980)
2
ソーシャルサポートとしてのAAT研究
ソーシャルサポート反応性仮説に基づいたAAT研究
ソーシャルサポート反応性仮説とは?
ストレスに対する身体的反応を減少
健康を促進
↓
ソーシャルサポートとしての支援的な他者は
ストレスに対する害のある身体反応
(過剰&長時間に渡る心臓血管反応)
抑制・妨げる → 健康を促進する.
3
ソーシャルサポート反応性仮説
友人そのものがストレスに対する心臓血管反
応を減少させるのを検討
↓
サポートする友人の評価的な側面が
最小化されたときに有効
Kors, Linden & Gerin(1997)
Rontana, Diegnan Villeneuve, & Lopore(1999)
4
ソーシャルサポート反応性仮説に基づいた
AAT研究
 ペット動物そのものがストレスに対する心臓血管反
応を減少させることを検討
↓
ペット動物のみ同席
< 実験者のみ存在
< 実験者と友人が同席
Allen, Blascovish, Tomaka & Lelsey (1991)
Allen, Blascovich, Wendy, & Mendes(2002)
5
ソーシャルサポート阻害要因としての敵意
敵意の高さは
ソーシャルサポートの乏しさ (Hardy&Smith1988etc)
自らサポートを求めない傾向 (Houston & Kelly, 1989 etc)
ソーシャルサポートの欠如&敵意過多
↓
死に至る冠状疾患・心臓疾患のリスクを増加
(House, et al, 1988; Matthews, 1988)
6
ソーシャルサポート阻害要因としての敵意
 敵意の構成要素
→他者に対する全般的な不信感・皮肉性
Lepore(1995)の実験
皮肉性敵意の高い個人
↓
★他者からの意図に対して懐疑的
★他者に対して皮肉的&ネガティブで批判的な態度
や認知によりソーシャルサポートを受けにくい
7
本研究の目的
ソーシャルサポート反応性仮説に基づきスト
レス負荷時の動物介在による生理的・心理的
ストレス緩衝効果の検討
皮肉性敵意者における,ストレス負荷時の
ソーシャルサポートとしての動物介在による
生理的.心理的ストレス緩衝効果の検討
8
実験参加者・ストレス課題
• 実験参加者
女子大学生・大学院生58名 (20.92歳±2.55歳)を,イヌ介
在群(dog群),イヌ介在無群(alone群)に無作為に配置
• スピーチ課題 「イラク戦争問題について」
①ビデオカメラに向かって話す.
②スピーチの様子は録画され評定される.
9
測定指標 (心臓血管系指標)
収縮期血圧(SBP)
拡張期血圧(DBP)
心拍率(HR)
Finapres法による
非観血的連続血圧測定装置により測定
(Portapres Model-2; TNO-TPD Biomedical
Instrumentation社製)
10
測定指標 (心理的指標)
• 一般感情尺度 (小川他,2000)
①肯定的感情(PA)
e.g 「活気のある」 「愉快な」
②否定的感情(NA)
「緊張した」 「恐ろしい」
③安静状態(CA)
「平静な」 「ゆっくりした」
各8項目,4件法 (まったく感じていないー非常に感じる)
11
手続き
ベースライン
Baseline
15mins
イヌ投入期
(BOND)
or
安静
(REST)
5mins
イヌ
退
室
課題
説明
スピーチ
準備
ST1
スピーチ
ST2
回復期
POST
2mins
5mins
5mins
心理的指標(2)
心理的指標(1)
心理的指標(3)
dog群
イヌを愛撫
生理反応連続測定
12
自己質問紙回答結果
The characteristic of the subjects a)
alone
t score
dog
A ge
20.6
(2.3)
21.9
(3.6)
P A S-Love
P A S-C om m unication
P A S-O w nership
P et A ttitude Scale
am t score
38.9
24.3
15.3
(5.4)
(4.4)
(2.6)
39.0
24.3
14.3
(5.1)
(5.6)
(2.3)
-0.53
0.26
-1.61
92.5
(12.0)
90.1
(12.4)
-0.74
25.6
(7.7)
30
(7.6)
-2.11
18.3
(3.3)
16.8
(3.5)
1.71
SocialSupportsatisfaction
C ynicism
Q uestionnaire
*
†
a) Standard deviations appear in parentheses.
* p <.05 † p <.10
 ペット愛着尺度 dog群 alone群 (p= n.s.)
 ソーシャルサポート満足感 dog群>alone群 (p<.05)
 皮肉性(CQ)尺度 dog群<alone群 (p<.10)
13
分析方法
ベースライン
Baseline
イヌ投入期/安静期
(BOND/REST)
スピーチ準備期
ST1
スピーチ課題期
ST2
回復期
POST
5mins
2mins
5mins
5mins
5mins
心理的指標(1)
心理的指標(2)
心理的指標(3)
 分析方法
生理的指標:SBP, DBP, HR
群(dog群・alone群) x ブロック(BOND/REST, ST1, ST2, POST)
共変量:ソーシャルサポート満足感(t(56)=-2.11, p<.05)
 心理的指標:PA, NA, CA
群(dog群・alone群) x ブロック(Baseline, Stress, POST)
14
ストレス負荷時の動物介在による
生理的ストレス緩衝効果
結 果:
全体的にスピーチ期(ST2),ついでスピーチ
内容準備期(ST1)に心臓血管反応が高い数
値を検出
HRでのみ群間差検出
dog群はalone群よりも有意に高い心拍率を
検出
15
ストレス負荷時の動物介在による生理的ストレス緩衝効果の検討
DBP change score
SBP change score
20
30
15
DBP (mmHg)
20
15
10
10
5
5
0
BOND/REST
25
ST1
ST2
0
Post
BOND/REST
ST1
ST2
Post
HR change score
20
15
HR (bpm)
SBP (mmHg)
25
10
dog
5
alone
0
BOND/REST
-5
ST1
ST2
Post
16
ストレス負荷時の動物介在による生理的
ストレス緩衝効果の検討 (HR)
結果:HR
dog群,alone群
↓
ST1,ST2
有意に高い心拍率を検出
∴dog群はalone群よりも全ブロックで高
い心拍を検出
HR change score
dog
alone
20
*[
*[
15
HR (bpm)
BOND/REST
ST1
ST2
POST
↓
dog群>alone群
25
10
5
*[
0
BOND/REST
ST1
ST2
Post
-5
17
]*
ストレス負荷時の動物介在による
心理的ストレス緩衝効果の検討
結 果:
 肯定的感情(PA),安静感情(CA)において
dog群はalone群よりも有意に高い得点を検出
 否定的感情(NA)において,dog群はalone群よりも
有意に低い得点を検出
18
ストレス負荷時の動物介在による心理的
ストレス緩衝効果の検討(PA)
結果:肯定感情
ST
dog群>alone群
18
PA score
POST
dog群>alone群
20
PA response score
dog
alone
|
16
*
14
|
]†
12
10
dog群はalone群よりも
肯定的感情が高い
BL
ST
Post
* p<.05
† p<.10
19
ストレス負荷時の動物介在による心理的
ストレス緩衝効果の検討(NA)
結果:否定的感情
NA response score
26
ST
dog群<alone群
24
]*
22
20
NA score
POST
dog群<alone群
dog
alone
18
16
]*
14
12
10
BL
dog群はalone群よりも
否定的感情が低い
ST
Post
* p<.05
20
ストレス負荷時の動物介在による心理的
ストレス緩衝効果の検討(CA)
結果:安静感情
ST
dog群>alone群
26
CA response score
dog
alone
24
22
]*
POST
dog群>alone群
CA score
20
18
]†
16
14
12
10
BL
dog群はalone群よりも
安静感情が高い
ST
Post
* p<.05
† p<.10
21
分析方法
ベースライン
Baseline
イヌ投入期/安静期
(BOND/REST)
スピーチ準備期
ST1
スピーチ課題期
ST2
回復期
POST
5mins
2mins
5mins
5mins
5mins
心理的指標(1)
心理的指標(2)
心理的指標(3)
 分析方法
生理的指標: SBP, DBP, HR
群(dog群・alone群) x CQ(CQ高群・CQ低群) x ブロック(BOND/REST, ST1, ST2, POST)
共変量:ソーシャルサポート満足感(t(56)=-2.11, p<.05)
 心理的指標:PA, NA, CA
群(dog群・alone群) x CQ(CQ高群・CQ低群) x ブロック(Baseline, Stress, POST)
22
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時の
ソーシャルサポートとしてペット動物介在による
生理的ストレス緩衝効果の検討
結 果:
 全体的にスピーチ期(ST2),ついでスピーチ内容準
備期(ST1)に心臓血管反応が高い数値を検出
 HRにおいてCQ高群のdog群はalone群よりも高い
心拍率を検出
 SBP,DBPにおいてCQ高群は低群よりもスピーチ
期(ST2),回復期(Post)において高い数値を検出
23
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時のソーシャルサポートとして
ペット動物介在による生理的ストレス緩衝効果の検討(SBP)
30
25
SBP change score
alone CQ-high
dog CQ-high
alone CQ-low
dog CQ-low
SBP(mmHg)
20
15
10
5
0
BOND/REST
Stress1
Stress2
Post
結果:SBP
●SBP(全群)
ST2 → ST1
●CQ高群>CQ低群(p<.10)
→CQ高群はCQ低群よりも高いSBP値を検出した.
24
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時のソーシャルサポートとして
ペット動物介在による生理的ストレス緩衝効果の検討(DBP)
25
DBP change score
DBP (mmHg)
20
alone CQ-low
dog CQ-low
alone CQ-high
dog CQ-high
15
10
5
0
BOND/REST
Stress1
Stress2
Post
結果:DBP
●DBP(全群)
ST2 → ST1
●CQ高群>CQ低群(p<.10)
→CQ高群はCQ低群よりも高いDBP値を検出した.
25
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時のソーシャルサポートとしてペット動物介
在による生理的ストレス緩衝効果の検討(HR)
25
[]
20
*
15
HR (bps)
alone CQ-low
dog CQ-low
alone CQ-high
dog CQ-high
HR change socre in low CQ
*
10
5
0
[ ]*
*
BOND/REST
-5
Stress1
Stress2
Post
]*
結果:HR
●HR(全群) ST1,ST2
●BOND/REST CQ低群・高群 dog群>alone群
ST2
CQ低群・高群 dog群>alone群
POST
CQ高群 dog群>alone群
→dog群はalone群よりも高い心拍を検出
CQ高群はPOSTにおいてCQ低群よりも高い心拍を検出
26
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時の
ソーシャルサポートとしてペット動物介在による
心理的ストレス緩衝効果の検討
結果
 肯定的感情(PA):
CQ低群においてdog群はalone群よりもPA得点が高かった.
 否定的感情(NA):
CQ低群においてdog群はalone群よりもNA得点が低かった.
 安静感情(CA):
CQ低群においてdog群はalone群よりもCA得点が高かった.
 CQ高群は低群よりもストレス課題期(ST),回復期(Post)で低
い安静感情(CA)を検出した.
27
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時のソーシャルサポートとして
ペット動物介在による心理的ストレス緩衝効果の検討(PA)
20
alone CQ-low
dog CQ-low
alone CQ-high
dog CQ-high
Positive affection
19
18
PA score
17
16
*
15
]
*
14
13
12
11
10
Baseline
Stress
Post
結果:PA
CQ低群のST,POST → dog群>alone群
∴CQ低群のdog群は肯定的感情を高く検出した
28
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時のソーシャルサポートとして
ペット動物介在による心理的ストレス緩衝効果の検討(NA)
26
24
NA score
alone CQ-low
dog CQ-low
aone CQ-high
dog CQ-high
22
]*
NA score
20
18
16
14
12
10
Baseline
Stress
Post
結果:NA
dog群・alone群のCQ高・低群 →Stress >Baseline, Post
CQ低群 ST → dog群<alone群
∴ CQ低群のdog群は否定的感情を低く検出した
29
皮肉性敵意傾向者に対するストレス負荷時のソーシャルサポートとしてペット動物介
在による心理的ストレス緩衝効果の検討(CA)
28
CA score
alone CQ-low
dog CQ-low
alone CQ-high
dog CQ-high
26
24
]
CA score
22
20
18
*
16
14
12
10
Baseline
Stress
Post
結果:CA
dog群CQ低群のみ Post-Baseline (n.s)→Baselineの得点まで回復
dog群CQ低群 Post → dog群>alone群
∴ CQ低群のdog群は安静感情を高く検出した.
30
考
察
 本研究では生理的反応においてペット動物介在によるスト
レス緩衝効果は示さなかったが,心理的反応では不快感情
を和らげる可能性を示唆した.
↓
心臓血管反応 dog群>alone群
HR→イヌを撫でる行為による可能性(Mara M Baun,1983)
BOND/REST→挨拶効果greeting response (Grossberg,1998),
→新奇効果novelty effect(Wilson,1987)
肯定的・安静感情 dog群>alone群
否定的感情 dog群<alone群
肯定的感情肯定的感情(気分の高揚,楽しい気分)の高まり
→心臓血管活動が高まった可能性(Rolf,1999,他)
肯定的感情,安静感情が高まり,否定的感情が低くなることに
より不快感情の低減が示された.
31
考察
 皮肉性敵意高者・低者において生理的反応でのストレス
緩衝効果はみれなかった.心理的反応では皮肉性低者に
ストレス緩衝効果が示された.
↓
SBPとDBPで敵意性が大きく関与
・敵意が高い人ほどストレス課題に対して心臓血管反応が
大きくなる (Hard,et al., 1988).
・スピーチのようなチャレンジ課題に対してネガティブな反応
を示しやすい (Karin, et al.,1995).
・嫌悪的な状況→ストレス状態を持続させてしまう.
(佐々木,他 2002)
・CQ低群のdog群では肯定的感情がST,Post共に高く,安
静感情ではPostでBaselineと同レベルまで回復した.
32
考察
 本研究では皮肉性敵意低群においても,先行研究とは異なる生
理的反応が示された.
↓
・Friedmann(1979,1983),Katcher(1981)等では,朗読群,黙読
群,ペット動物愛撫群の3群を比較した.その結果,
ペット動物愛撫群≒黙読群<朗読群
→ ストレス負荷下でのペット動物の愛撫による効果について触れ
ていない.
・Allen等(1991, 2001, 2002)のソーシャルサポート反応性仮説に
基づいた研究では,被験者自身のペット動物であったこと,実験
場所が自宅(2001,2002)であったこと.
→ 被験者とペット動物に既にBOND(絆)が形成されている.
被験者自身とペット動物自体に新奇な環境に慣れるストレスが
33
ない.
考察
・ペット動物(イヌ)との親しむ時間(BOND期)で新奇効果,挨拶効果により
喚起された生理的反応が落ち着くには5分間では十分ではなかった.
↓
親しむ時間+活性化した生理反応が落ち着くまでの時間について考慮する
必要性.
↓
ペット動物と被験者のBOND(絆)を形成する時間を十分に設定することに
より,生理的反応の緩和の可能性
皮肉性敵意高者は新奇な相手からのサポートに対して懐疑的であるため,
ペット動物に対しても同様の反応となった可能性
↓
BOND(絆)を形成する時間を十分に設定する必要性 or 実験室に入る
前段階にイヌと被験者が親しむ時間を設ける必要
34
最後に・・・
心臓血管反応の上昇がみられたが,生理反応の
上昇は被験者の肯定感情とともに活発化するこ
とを考慮にいれる必要がある.
Cohen(1985,1983)はポジティブな感情は,人が
問題に相対した時にその問題をコントロールす
る能力を高めるとしている.
↓
肯定的感情をもつことは重要であり,ペット動物
の肯定的感情を導き出す効果は非常に有用と
考えられる.
35
ご清聴ありがとうございました
Special thanks to
JAHA
(社)日本動物病院
福祉協会
36