1 於:科学警察研究所 日時:2003年3月17日 SEMと犯罪心理学研究 II 狩野 裕 大阪大学 大学院人間科学研究科 2 本日のメニュー 1. 簡単に学部・講座・研究分野紹介 2. 「横山麻美」卒業論文の紹介 地域環境が規定する犯罪不安と危険認知 3. 因果関係の同定について 科振費課題 「個と環境における交互作用効果のデータ科学」 3 人間科学研究科紹介(大講座) http://www.hus.osaka-u.ac.jp/ • • • • • • • • • 先端人間科学 人間行動学 行動生態学 社会環境学 基礎人間科学 臨床教育学 教育環境学 ボランティア人間科学 健康人間科学 4 人科における犯罪心理学の現況 • 臨床心理学 – 被害者心理 • 教育心理学(藤岡淳子教授) – 非行犯罪の臨床心理学 – 犯罪行動変化を目指した教育的働きかけの方法 • 行動データ科学 – 調査等の量的研究による犯罪心理学の研究 – データがとりにくい • 犯罪者のデータが取れない • 大学生対象の調査の妥当性は? 5 行動データ科学研究分野 行動計量学研究分野 http://koko15.hus.osaka-u.ac.jp/~taco/soumu/members/ スタッフ D3 D1 M2 M1 B4 B3 助教授 狩野 裕 宮本友介 清水昌平 宮村 理 鳥居 稔 笠松由紀 町田 透 吉田英敏 6名 2名 6 犯罪心理学研究の系譜 • 島田貴仁 • 平成11年度卒業:村上有美 • セルフコントロールを主とした犯罪類似行動の要因研究 • 平成13年度卒業:西村英輔 • 犯罪類似行動における促進要因と抑制要因 • 平成14年度卒業:横山麻美 • 地域環境が規定する犯罪不安と危険認知 • B4: 松田淑美 • B3: 森 丈治 7 地域環境が規定する 犯罪不安と危険認知 「横山麻美」卒業論文の紹介 8 卒業論文の概要 • モティベーション – 体感治安の低下 – 犯罪不安の構造を研究 • • • • 仮説モデル 質問紙調査 分析結果 考察 9 犯罪と環境_1 • 犯罪研究の目的 – 犯罪の被害に遭う心配のない 平和で安全な暮らしを実現すること – なぜ犯罪が起こるのか.なぜ犯罪を起こすのか • 犯罪者の要因と環境の要因 – 犯罪者自身の中に犯罪の起こった原因を求める • 犯罪原因論 – その原因がどのようにして起こったのか – 性善説 • 犯罪者処遇論 – 取り除くにはどのような処置を施せばよいのか 10 犯罪と環境_2 • 環境要因に原因を求める – 環境犯罪学 – 生育環境、経済環境、民族といった人間の出自的要素 は、犯罪者処遇では取り除けない – 犯罪というものは、「人」ではなく「環境」によって起こる (人は機会があれば犯罪を行うものである) – 性悪説 素養 • 犯罪を起こす素養+環境要因 – 交互作用 あり 犯 罪 発 生 なし 難 易 環境 11 ところで by 横山 • 人々が犯罪に脅かされず安全に暮らせる 社会を実現するには犯罪の発生件数を減 らすだけで良いのか? ゴミが散乱している上に酔っ払いやホームレスが頻繁 にうろついている地域では、たとえ犯罪が起こったこと がなくても住人は安心して生活できるか? 住人の犯罪に対する不安感を無くすことも、 実際の犯罪を減らすことと同じくらい重 要!! 12 研究テーマ • 地域の環境要因が、その地域に住んでい る人の犯罪不安にどのように影響を与え ているか 犯罪に遭うかもしれない という不安感 – 犯罪被害体験・犯罪被害見聞体験数 – 個人の不安特性(不安の感じやすさ) … などの要因も考慮に入れて。 13 仮説モデル 特性不安 危険認知 犯罪不安 環境諸要因 犯罪被害・見聞 14 質問紙調査 • 調査時期:平成14年10月中旬~11月下旬 • 回収総数313枚 – 配布数417枚に対して75%の回収率 – 分析に使用したのは欠損値のない286枚 • 男性:女性=136:150 • 平均年齢20.75歳 15 質問紙の構成(Q1~Q6) Q1 : 環境要因(39項目) 「廃屋」、「集団でたむろしている若者」などの地域の乱れた環境を示 す項目を、「まったく見かけない」から「非常によく見かける」の5段階 で評価 (→合計得点が高いほど地域環境が乱れている) Q2 : 犯罪被害・被害見聞体験数 17種の犯罪種別に、自分が被害にあった件数・被害を見聞きした件 数を尋ねた Q3 :犯罪不安(12項目) 12種の犯罪種別に自分が被害に遭うかもしれない不安感を、「全く不 安でない」から「非常に不安である」の5段階で評価 16 Q4 :危険認知(12項目) 12種の犯罪種別にそれぞれがどの程度起こりそうかを、「全く起こりそ うにない」から「非常に起こりそうである」の5段階で評価 (実際に自 分が被害に遭いそうかどうかは問わない) Q5 :個人の不安特性(20項目) 各項目について「全くそうでない」から「全くそうである」の5段階で評価 (→ 合計得点が高いほど不安を感じやすい傾向がある) Q6 :フェイスシート 性別、年齢、所属などの他に、同居人数、居住年数、郵便番号など を尋ねている 17 Q1:環境要因の仮説構造 • 地域環境要因とは – 大きく分けて5つの下位尺度に分かれている と考える(小俣、1999より) • • • • • 無作法性(incivility) さびれた環境 風俗関連施設 近所づきあい 地域の防犯意識 18 Q1.環境要因の分析 • 探索的因子分析 – 5因子を抽出.SEFAを使って変数選択 – 「近所づきあい」と「防犯意識」がひとつになり、 新たに「若者」因子が出現 • 検証的因子分析 • 「若者」、「繁華的要素」、「無作法性」間の相関が ものすごーく高いので2次因子を導入 • 秩序紊乱と若者因子の他は大まかにはほぼ 仮説通り 19 環 境 要 因 の 分 析 結 果 20 Q3、Q4、Q5 • α係数 – Q3 (犯罪不安) ・・・ 0.904 – Q4 (危険認知) ・・・ 0.912 – Q5 (特性不安) ・・・ 0.865 → 尺度得点を用いて分析。 21 分析モデルの骨子 居住形態と性別 要因を調整 推定結果:詳細 22 推定結果:骨子 23 24 考察_その1 • 「環境⇒認知⇒不安」の大きな流れが確認 – 環境では「秩序紊乱」が効く • 「さびれた環境」「連帯意識」は非有意 – 「犯罪被害・見聞」はさほど重要でない • 「犯罪被害・見聞」から「犯罪不安」へのパスは弱い – パス係数は負に推定 – モデルによっては非有意 – 実際の被害や見聞がなくても,「秩序紊乱」は 「犯罪不安」を生む 25 考察_その2 • 居住形態 – 「連帯意識」や「犯罪被害・見聞」と関係 – 居住形態は近所付き合いを反映 • 「居住形態→犯罪被害・見聞」のパスは家族内で の見聞数か • 犯罪不安への交絡要因 – 特性不安や性別は犯罪不安へ影響する – 個人の性格特性や属性を調整することは重要 26 A final message from Miss Yokoyama • この世で最も犯罪不安を感じているのは、 「若者の集まる繁華街のような、秩序の統 制されていない地域に住む一人暮らしの 女性」である。 27 結論_モデル分析から • 環境の乱れは犯罪不安を生む – 直接効果 – 間接効果 • 中間変数 – 危険認知 – 犯罪被害・見聞 28 結論_個人について • 犯罪不安は低い方がよいのか – 不安がないと予防しない – 無用な不安はQOLの低下を招く – 「紊乱⇒被害・見聞⇒認知⇒不安」の流れが正常 • 「被害・見聞」を犯罪の現状の 代替物と考えるならば – 的確な情報の提供が重要 29 結論_環境について • 環境は改善した方がよい – 不安への間接効果が大きい – 危険認知を確実に下げる必要 – 被害・見聞に関する的確な情報の 提供が重要 30 因果関係の同定について 個と環境における 交互作用効果のデータ科学 31 因果の方向の同定 • 縦断的データの場合 – パス解析 – 因果方向決定手法の基本 • 横断的データの場合 – 双方向因果モデル • しかしながら – 調査データにもとづく因果方向の決定は難しい 32 縦断的データにおける パス解析 • 2時点でデータをとり,時間差を利用する – 民主主義⇒経済発展 or 経済発展⇒民主主義 Lord の パラドックス 33 横断的データにおける 双方向因果モデル 34 同値モデルと因果の方向 35 相関係数から因果の方向は決まらない ---同値モデルの問題--相関構造 X Y X 1 r Y r 1 • データから区別できないモデルを同値モデルという • 「区別できない」とは適合度が同一であることをいう 36 同値モデル例 37 因果の方向を決める: 操作変数法(Instrumental variable method) 相関構造 X Y Z X 1 Y b12 1 相関構造 Z b13 0 1 X Y Z X 1 Y b21 1 Z b13 b21b13 1 38 因果の方向を決める:適合度との関係 適合度が低い 適合度が高い X→Y の因果関係が示唆される 39 操作変数法とは • X,Yのいずれかに影響を及ぼし,他方へ の直接効果をもたない変数Z(操作変数) を観測する • X,Y,Zの相関構造から,X→Y or X←Y を判断する 40 実例 • 「スマートさ」から「うつくしさ」への影響が強い 双方向因果モデル(非逐次モデル) 41 42 例1:政治的社会化モデル 出典:Asher(1976). Causal Modeling. Sage 43 例2:Attractiveness implies perceived academic ability? 出展: AMOSマニュアル 44 構造方程式モデリングによる 因果の決定 • 因果の方向に興味があるとき – 当該モデルが適合する – 対立モデルが適合しない • 対立モデルが同値モデルにならないような モデリングが必要 – そのための方法が操作変数(道具的変数)の 導入 45 有効性 • 因果を決定したのか – 三択である • X→Y,X←Y,X←→Yのいずれか – 本来は四択である • X→Y,X←Y,X←→Y, 「因果関係にない」 – 観察データ,横断的データの分析の限界 • 交絡変数 • 縦断的データでは時間軸が利用できる • 因果の大きさ – R2が小さいことがある • R2=0.1でもモデルは適合する • XはYの「主要な」原因とは言えない 46 例1:交絡変数はこわい 盛山(1986,行動計量 学) 47 例2:因果方向決定にも影響 X Y Z X 1 * * Y Z 1 0 1 誤ってY→Xと結論 してしまう 48 まとめ • 横断的データに基づいて,因果の方向について 言及するモデリングがある – X→Y or Y→ Xのモデルの適合度を比較する • 同値モデルにならないようなモデリング • 操作変数法 – 欠点 • 交絡変数の影響を無視し得ない • 操作変数となるための条件が満足されているか • 縦断的データに基づくモデリングの方が説得性 が高いと考えられている
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