音楽教科における教育実習の 問題を考える −わが国とアメリカ合衆国との比較を通して− 上越教育大学 小 川 昌 文 研究の動機 • 学校における説明責任(Accountability)と音 楽教師の力量(Competency)の問題 • わが国における教員養成大学の再編と統合 • 教育実習に関する研究の不足 • 教員養成カリキュラムの改革−実践学の構築 • 附属学校と大学とのコラボレーション 「プロジェクト研究」 • 国際比較研究の欠如 本発表のねらいと構成 • わが国の(国立教員養成大学を中心と した)教育実習の特徴と問題点の整理 • アメリカの音楽教科教員養成の実際 (大学サイドから) • 教育実習制度・内容の日米比較 • その他の領域の日米の比較 • 考察(なぜ違うのか)と展望(どうあ るべきなのか) わが国の教育実習の特徴 (小・中免許/国立教員養成大学) • • • • 小学校3〜4週間 中学校2週間(高校の代替も含む) 附属校(一般大学では出身校)中心 実習スケジュール、内容は実習校に依 存 • 実習中の大学教官の関与は少ない • 他の実習生と同時 • 実習受け入れ校−サービス業務 わが国の教育実習の問題−制度面 • • • • • • 短い実習期間 過度の「指導案」依存 実習中の「ブラックボックス」 大学<実習校 という力学 二元論(理論ー大学、実践ー教育現場) 評価の方法、内容(大学と実習校とのコンセ ンサス、音楽的能力面の評価の欠如) • 実習校の選択と実習内容が希望通りにいかな い 教育実習の問題− 学生の能力・資質面 • 専門的知識・技能の不足 • 教職知識・技術の不足 • 使命感とモチベーションの 不足 インディアナ大学(州立) • • • • • 取材:School of Music 課程:Bachelor of Music Education コース:Choral, Instrumental,General 免許:K-12 インフォーマント:Dr. Lissa May (Associate Professor) Informant: Dr. May 教育実習資格判定 • Upper Divisional Review(3,4年進級 判定) • 教育学部からの資格認定 • 必修単位(音楽)の取得 • GPA 2.5 above, C+ • PRAXIS(全米標準教師資格判定テス ト)IーPPST(Pre-Professional Skill Tests 教育実習校の選択 • 大学教師および先輩教育実習生に よる過去の実習校の評価 • ゼミ、レッスン担当教師による実 習校(実習担当教師)の推薦 • 実習(予定)生の選択希望 教育実習校の決定 • 大学・音楽教育学科が最終決定する • 実習生個人による実習予定校、教師と のコンタクトは禁止 • 通常1校のみで実習、免許タイプによる 複数校実習も可能 • 大学から半径20マイル外にある学校 (インディアナ州内) 実習校として不適当な学校 • 出身校(異なる環境を推奨) • 両親や親戚、親しい知人が校長、教師、 教育長、教育委員である学校(プロと しての研修に徹するため) • 以前に、実習前研修で訪問した学校 • 大学(教官)および過去の実習生から 評判の悪い学校 大学教官(Supervisor)の仕事1 • 実習生、実習担当教師、次週校管理者 に情報を提供し、教育実習プログラム の意義と内容の徹底 • 実習生の成長を助ける • 実習担当教師と協力する • 実習中の継続的評価を行なう • 実習生、担当教師と3者で、中間および 最終評価会議を開催する 大学教官(Supervisor)の仕事2 • 実習生に問題が起こったとき、素早く 大学当局に報告する • 実習生に関する全ての書類と評価内容 を準備し、提出する • 実習担当教師の方向に基づき、最終成 績を推薦する(最終決定は教育実習主 幹−教官−が行なう) 実習担当教師Supervising Teacher の資格と恩恵 ◆ 最低3−5年以上の教職経験 ◆ 修士号以上の学位保持者 ◆ 謝礼金(数百ドル) ◆ 大学講義の無料単位取得(免許更新に 必要) ◆ 「助手」として実習生を活用可能(長 期間、1対1で担当) 実習期間中の実習生 • 大学の授業は一切受講しない • 通常の授業料(1週間1単位) =約$5.000〜7.000 • 実習校付近に移住(遠距離通勤をしな い) • 大学教官、指導教官との3者会議に出席 教育実習セミナー(演習) • • • • 教育実習を間に挿んで実施 教育実習に関する総合演習 最初の6週間、大学で講義と実習の準備 次の10週間で教育実習(途中3者会議、 報告等で大学に戻る) • 最終レポート(実習記録、インタ ビューの資料、その他) 教育実習セミナーの中身1 • 教育実習の概要 • 教職採用の手引きと方法 • インディアナ教職免許取得について (他州における免許取得方法も含む) • 学級経営 • 関連法律 • 評価 教育実習セミナーの中身2 ◆教育実習生の仕事と倫理 ◆指導評価の観点(7分野) ◆優れた(音楽)教師の条件 ◆履歴書、応募願書の書き方 ◆想定面接質問集と心構え ◆SamenessとFairnessの相違 実習指導評価の観点1 • • • • • • 教授技術 学級経営技術 計画・準備 教科専門の知識 人間関係 児童・生徒の発達の理解・指導への適 用 • 教材の選択と使用 実習指導評価の観点2−1 • • • • • • • • 教科内容の知識 カリキュラム開発 授業プラン 興味・関心を持たせ思考を深める メソッド 教材の選択と活用 学級経営 自己評価、自己成長の技術 実習指導評価の観点2−2 • • • • • • 教育・指導への意欲 生徒との人間関係 教官および職員との人間関係 保護者、地域との関係 コミュニケーションスキル 児童・生徒の成長の看取り サウスカロライナ大学(州立) • • • • • 取材:School of Music 課程:Bachelor of Music コース:Choral, Instrumental,General 免許:K-12 インフォーマント:Dr. Stephen Zdzinski (Assistant Professor) Informant: Dr.Zdzinski 教育実習資格 • • • • G.P.A. 2.5 or above Music core (必修音楽科目)が修了 卒業まで21単位以内 Praxis Exam-reading, writing, math, computer skillまたは PPST • Professional programを修了 • ピアノグレード試験終了 • 実習主幹によるオリエンテーション ADEPT(教育実習総合支援評価システム) • Assisting, Developing, Evaluating Professional Training • PD - Performance Dimensions • Professional Development Plan • Mid-Term Conference • Planning/Assessment Interview • Final Conference Performance Dimensions 1 • • • • • 長期プラン 短期プラン、指導計画 短期プラン、学習と評価 学習者に対する高い期待の保持 学習活動のための様々な指導技術・方 法の活用 Performance Dimensions 2 • • • • • 学習者に必要かつ十分な知識を提供 学習成果を確認し、より伸長させる 学習効果が促進される環境を維持 学級経営能力 授業以外における教師としての義務の 遂行 大 学 教 官 (University Supervisor) • 実習生のビデオ観察 2回 • 実習校の訪問と指導観察 4回 • 中間評価会議(mid-term evaluation conference) • 最終評価会議(final evaluation conference) 実習生評価の基準 “A” • 音楽専門技術に長ける(専門実技、 キーボード、ソルフェージュ、指揮) • 音楽、音楽指導に関する十分な知識 • コミュニケーション能力 • 仕事への意欲と積極的な態度 • リーダーシップと協調性のバランス • 物事をまとめ、オーガナイズする • その他ベテラン教師に準ずる能力 実習生評価の基準 “B” • A判定の学生の準ずるものの、前記の2 領域以内の点で劣っている 実習生評価の基準 “C” • 前記の2領域以上の点で劣っている 実習生評価の基準 “D” • ほとんどの領域で力不足が見られ、中 間評価の時点で「未了」扱いとする。 • それぞれの欠点領域が補正された時点 で、改めて実習を開始する。 実習生評価の基準 “F” • すべての領域において著しく劣ってお り、直ちに実習を中止する • もし、実習を継続することを本人が主 張した場合、自動的に成績はFとなり、 教育実習プログラムからドロップアウ トとなる。 アメリカの教育実習の特徴1 • • • • • • • • 原則として音楽学部が担当 教育学部と連携 長い実習期間(8週間〜12週間) 厳格な実習前資格チェック 大学教官と現場教師のコラボレーション 極めて細かな評価項目 実習生や大学も実習校・指導教官を評価 大学と実習校のギブアンドテイク アメリカの教育実習の特徴2 • 大学による最終決定権の保持 • カリキュラムは州の免許基準とリンク • 免許取得の条件が、単位ベースから内 容・スキルベースへシフト中 他領域における日米の比較 • 音楽教員免許制度 • 教員免許取得のための大学カリキュラ ム • ナショナル・スタンダードと学習指導 要領 音楽教員免許の日米比較 • 米国−州単位(州間互換性ない場合もあ り)、縦割り(K-12)、分野別 • 日本−県単位(完全互換性)、横割り (学校種別)、1種類のみ 音楽科免許取得資格(インディアナ州) • 大学卒業最低単位取得(122〜 129) • 最低10週間以上の教育実習 • PRAXIS II〈Music Education Core) • 犯罪歴チェック 中学校音楽教員一種免許 最低必要単位数 教科に関す 教職に関す 教科又は教 る科目 る科目 職に関する 科目 20 31 8 中学校音楽教員一種免許取得のための 必要最低専門科目およびその単位 科 目 ソルフェージュ 声楽(合唱及び日本の伝統的な歌唱を含 器楽(合奏及び伴奏並びに和楽器を含む。) 指揮法 音楽理論、作曲法(編曲法を含む)及び音楽史(日 伝統音楽及び諸民族の音楽を含む。) 左記の5科 目よりそれ ぞれ1単位 以上計20 単位を履修 する わが国の音楽教員養成と免許法 • 音楽科目履修ゼロで小学校の音楽の授業が担当でき る! • 音楽教育は教職科目か専門科目かが曖昧(米国のよ うに独立していない) • 理論系専門科目がすべて1つのカテゴリー(音楽学 と作曲・音楽理論はどちらかを学べばいいのか) • 少なすぎる最低単位(1単位) • アンバランスな科目構成を後押し インディアナ大学 音楽教育学士 • • • • • • • • • • アンサンブル:4年間 14単位 実技:4年間 14単位 ピアノ:2年間 8単位 音楽理論、音楽作品 2年半 10単位 音楽史:1年間 4単位 一般音楽メソッド:2単位 小学校音楽メソッド:2単位 合唱指揮:4単位 合唱メソッド:2単位 編曲・オーケストレーション わが国の音楽教師に求められる音楽能力・知識 • • • • • • • 西洋音楽理論、音楽史 西洋音楽声楽、合唱 西洋音楽器楽(特にピアノ)、合奏 日本伝統音楽、声楽、器楽 民族音楽、声楽、器楽 日本、東洋音楽理論、音楽史 コンピュータ、電子音楽(メディア・リテラ シー) ナショナル・スタンダード • MENC(全米音楽教育者会議) • 1994〜 • 強制力なし、ガイドライン−各州のカリ キュラムに反映 • 4区分:就学前、K-4、5-8、9-12 • 9区分の学習内容 9区分の学習内容 • • • • • • • • • 歌唱 器楽演奏 即興演奏 作曲と編曲 読譜と記譜 鑑賞、分析と解釈 音楽の評価 音楽と諸芸術の関連 音楽と歴史と文化との関連 歌唱目標(K-4) • 一人で歌う:正確なピッチとリズム、相応しい 声、ディクション、姿勢、テンポの保持 • 表情をつける:相応しい強弱、フレージング、 解釈 • 暗譜で歌う:諸外国の様々なスタイルとジャ ンル • オスティナート、パートナーソング、輪唱 • グループで歌う:音色、強弱を合わせ、指揮 者の合図に反応する 学習指導要領(音楽)1,2年 • • • • 目標 内容 (A)表現 (B)鑑賞 (A)表現 • 音楽を聴いて演奏する • 楽曲の気分や音楽を特徴付けている要 素を感じ取って、工夫して表現する。 • 歌い方や楽器の演奏の仕方を身につけ る • 音楽をつくって表現する • 表現教材は次に示すものを取り扱う 楽曲の気分や音楽を特徴付けている要素を 感じ取って、工夫して表現する。 • 歌詞の表す情景や気持を想像して表現 すること • 拍の流れやフレーズを感じ取って、演 奏したり身体表現をしたりすること • 互いの歌声や楽器の音、伴奏の響きを 聴いて演奏すること 学習指導要領の特異点 • 全体目標と関連:音楽教育は自明のも のではない • 心情目標中心、具体的評価基準がない • 能力目標はない • 音楽を「美」とのみ捉えている • リズム(低学年)ーメロディ(中学 年)ーハーモニー(高学年)という シークエンス アメリカと日本を比較して (なぜ違うのか) • アメリカ:音楽はそれ自身で独立した 教育的価値をもっていることが自明の こととして認知されている。他の分野 を気にする必要はない。 • 日本:音楽教育は常に、教育全体の目 標と合致させられる。そのために音楽 の特性、論理が犠牲になることが多い。 音楽教師とは(小川私案) • 音楽学習のプロフェッショナル • • • • • Curriculum-Proof(耐カリキュラム性) 「なぜ音楽を教えるか」を追求する 「反省的実践」「批判的実践」 「自分の音楽」で(を)教えられる 教育における中心科目としての自覚と使命 感 教員養成の展望 • 小学校から高校まで教えられる音楽免 許の新設 • 具体的な能力目標の設定 • 教員養成大学のカリキュラム改善 • 教育実習の大幅な改善 • 中学以上は音楽を分化:合唱、合奏、 鑑賞、理論 • 採用試験制度の見直し Thank you for your attention
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