学術会議でのFuture Earth

環境
Future Earthに向けた工学の再定義
安井 至
(独)製品評価技術基盤機構 名誉顧問
(一財)持続性推進機構 EcoLead 代表幹事
東京大学名誉教授、国際連合大学元副学長
http://www.yasuienv.net/
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Future Earthによって何が変わるのか?
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様々な視点
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環境科学の原点とは何か?
日本の環境学の原点は何か?
環境科学の国際共同研究の実例は?
サステイナビリティは定義不明な科学か?
日本におけるESDはなぜ失敗したのか?
MDGsからSDGsへの拡張との関連は?
結論
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2100年を目指した環境工学の明確な
再定義が必要ではないか
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西村肇教授による水俣病の研究
胎児性水俣病発生数
メチル水銀
排出量
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続 なぜ水俣だけが突出したか
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助触媒として二酸化マンガンと濃硝酸を使って触
媒である二価の水銀を酸化する
1951年に二酸化マンガンの使用を突然やめた
ことが直接の原因か
他の工場でも、濃硝酸を使うのが当然で、二酸
化マンガンはチッソ独自の方法であった。なぜ、
他の工場では、水俣病が発生しなかったのか。
それは、反応液中の塩素濃度が、水俣は海水が
混入していたため高かった!
塩化メチル水銀が生成し、蒸発器から精留塔に
抜けて系外に排出された!
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塩化メチル水銀の生成と排出
塩化メチル水銀
排水
濃硝酸
アセチレン
塩素は用水に混じった海水から
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ICSUが主導した国際研究
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/068/s
hiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/06/13/1336155_01.pdf
公害問題に原点を持つ日本の環境研究とは相当違う雰囲気
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FEをどう捉えるか
世の中の役に立つか?
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FEで提案されている3つのテーマ
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第1番目:Dynamic Planet=「地球が自然現象と人
間活動によってどう変化しているかを理解する」
第2番目:Global Development=「食料、水、生物
多様性、エネルギー、物質及びその他の生態系の機能と恩恵
についての持続可能で確実で正当な管理運用を含む、人類
にとって最も喫緊のニーズに取り組む知識を提供すること」
第3番目、Transformation
towards
Sustainability=「持続可能な未来に向けての転換の
ための知識を提供すること。すなわち、転換プロセスと選択肢
を理解し、これらが人間の価値と行動、新たな技術及び経済
発展の道筋にどう関係するかを評価し、セクターとスケールを
またがるグローバルな環境のガバナンスと管理の戦略を評価
すること」
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なぜ今ごろになってFEが提案された?
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恐らく、IPCCの大成功を目にしたから!?
理学系の地球レベルでの環境研究が、初めて世間
の注目を集めた。
IPCC WG1だけでなく、WG2、WG3という異分野との
融合もできた。
それなら、他の分野でも、このような形式の国際共同
研究が成功するのか。
東大生研 沖大幹教授の言葉
個人的見解は、「難しい」。
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理学系は、やはり「神と(だけ)会話をしながら研究をする」
工学系でも、持続可能性という言葉に囚われたら進まない
今回の結論
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ダメな見本が日本のESDだった
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Education for Sustainable Development
2002年のヨハネスブルグ・サミットで、当時の
小泉首相が提案して採択された
考え方は間違っていなかったかもしれないが、
日本に入ったとたんに、「なんでもあり化」
持続可能という言葉が非常に狭い範囲でしか
捉えられなかったから
地域社会、特に人口減少、地域の生態系、里
山・里海など
全世界的・地球的視点が無かった
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環境学ガイド(FaceBook)=市民のための環
境学ガイドの読者からなるでの、
つくば市の島田敏氏による整理
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最上部の持続可能性を
この考え方に基づき
長期的に実現するには
工学の目標としての
最下層・第二層・第三層を
家族と暮らし
持続可能性を
実現することが
の持続可能性
再定義することが
必須の条件である
必須である!!
地域の持続可能性
様々な人的要因あり
人類社会の持続可能性
定常状態の実現
地球の持続可能性
平衡系の実現と生態系破壊防止
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人類社会の持続可能性は
定常状態経済の実現から
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Herman Dalyによって1970年代から指摘
主として、「人類と地球資源との付き合い方」
再生可能資源は、(漁業にもっとも良く現れる)
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非再生可能資源は、(化石燃料であれば)
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再生速度の範囲内での採取に留める
その一部を用いて、再生可能資源に転換する
鉱物資源であれば、自然エネルギーを用いて再生する
環境汚染や廃棄物は、
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地球の処理速度の範囲内でのみ排出できる
もしも、それが不可能であれば、人為的に処理速度を高め
ることによって、地球を支援する
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この考え方に基づき
工学の目標としての
家族と暮らし
持続可能性を
の持続可能性
再定義することが
必須である!!
地域の持続可能性
様々な人的要因あり
最上部の持続可能性を
長期的に実現するには
最下層を実現することが
必須の条件である
すべての
ステークホルダー
の共通概念に
人類社会の持続可能性
定常状態の実現
地球の持続可能性
平衡系の実現と生態系破壊防止
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地球のエネルギーバランス
赤外線
12000倍
エネルギー消費 15TW
CO2が
吸収
2012年
地球をエネルギー的に平衡系にする
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「エネルギー的に平衡系」の定義
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地球に入ってくるエネルギーと出ていくるエネル
ギーの量を常時一定に保つこと
現時点の温室効果ガスの排出は、地球に太陽
エネルギーの一部を貯めこんでいる状態
2080年ぐらいには、CO2排出をゼロ
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温室効果ガスの大気中濃度を最大でも500ppm
200年後には400ppmまで戻すこと
2100年にはほぼ再生可能エネルギーだけ
若干の原子力と化石燃料は許容される
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COP21のためのINDC(約束草案)
日本政府案が4月30日にほぼ決定
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22世紀までの
一人あたりのCO2排出量・エネルギー消費
標語:ほぼ自然エネルギーだけの2100年
エネルギー消費量
%
一人あたり
エネルギー
半減
CO2排出量
化石燃料
一人あたり
CO2半減
再エネ
原子力
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FEで提案されている3つのテーマ
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第1番目:Dynamic Planet=「地球が自然現象と人
間活動によってどう変化しているかを理解する」
第2番目:Global Development=「食料、水、生物
多様性、エネルギー、物質及びその他の生態系の機能と恩恵
についての持続可能で確実で正当な管理運用を含む、人類
にとって最も喫緊のニーズに取り組む知識を提供すること」
第3番目、Transformation
towards
Sustainability=「持続可能な未来に向けての転換の
ための知識を提供すること。すなわち、転換プロセスと選択肢
を理解し、これらが人間の価値と行動、新たな技術及び経済
発展の道筋にどう関係するかを評価し、セクターとスケールを
またがるグローバルな環境のガバナンスと管理の戦略を評価
すること」
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環境工学の再定義
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持続可能性の構造的再定義とその実現
環境リスクの最小化がガバナンスの有力
手法であることも再定義したい
IRGC=International Risk Governance
Council流のリスクガバナンス手法が有効
Governanceとは言うものの、非常に丁寧
にすべてのステークホルダーとのコミュニ
ケーションを取るための手法である
今回、詳細な説明は省略
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結論
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環境工学とはもともと問題解決のための学問体
系である
FEとは、国際社会において理学系がやっとその
流れになったことを意味する
しかし、支配原理が余り明確ではない。
それは、持続可能性という言葉に囚われている
からである。
持続可能性を階層構造で定義し直すことによって
環境工学の目的がより明確になる
コミュニケーション手法としてIRGC流リスクガバナ
ンスを推奨する
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