法解釈学とは何か

法解釈学とは何か
刑法における財物の意義をめぐる
論争を題材にして
刑法における窃盗罪
刑法(平成7年5月12日法律第91号
 第36章
明治40年4月24日法律第45号)
窃盗及び強盗の罪
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗
の罪とし、十年以下の懲役に処する。
(強盗)
第236条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物
を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有
期懲役に処する。
財物の意義
窃盗における財物とは何を意味
するのか?
法解釈学上の1論点
有体物説と管理可能説
有体性説と管理可能説の対立
有体物説
財物は有体物にかぎる
管理可能性説
管理可能なかぎり電力その他のエネル
ギーをも含む
電気窃盗事件
 大審院明治36年5月21日第一刑事部判決刑録九輯一四巻八七四頁
電気商会を営むXは、雇い人Yに命じ、電灯線に勝手に支線を
付して工場などに電灯をつけた。これが、旧刑法366条(窃
盗罪)の「他人の所有物」の窃盗にあたるか否かが問題となっ
た。
第一審は窃盗罪を肯定したが、控訴審は、電気は「有体物(固
体・液体・気体)」ではないから「物」ではない(民法85条
参照)として無罪にした。これに対し、大審院は、「可動性」
と「管理可能性」があれば刑法上は電気は「物」であるとして、
破棄自判し有罪とした。
学説は、この判決を類推だとする説(有体物説)と拡張解釈に
とどまるとする説(管理可能説)とに分かれた。その後、現行
刑法(明治40年)は、窃盗および強盗などの罪について「電
気は、財物とみなす」という明文の規定(245条)をおいた。
電気窃盗事件に対する法的な対処方法
1.「物」という言葉の解釈によって、電気も
物だとし、その盗用も窃盗だとして処罰するや
り方
2.電気は物ではないから電気の盗用は窃盗罪
にはならないとし、新しく電気の盗用を犯罪と
する法律を作って、これを処罰する方法
大審院は1をとった。後に2による立法的解決
が行われた。
残された問題
電気は立法的解決をみたが、その他の無体物に
ついてはどうか?
 温度:となりの家の「冷気」を管で自分の家に導き入れて冷房したと
きは、「空気」自体は物であるから、まだ窃盗とすることができるで
あろう。しかし、温度そのものが「物」だとすると、他人の冷蔵庫に
無断で自分のビールを入れて冷やして取り出したときは、冷気の窃盗
だということになるのか。
 動力:他人のトラックに無断で綱をつけて自分の車に結びつけ、ト
ラックに自分の車を引っ張らせたときは、動力の窃盗ということにな
るであろうか。
 情報:新しい機械の設計図そのものをとったとき、「紙」は物である
から、それが窃盗になることは当然であるが、自分のコピー用紙を
持っていって、設計図をコピーして持ち帰ったときは、窃盗罪が成立
するか?
 その他:水力、空気の圧力、牛馬の牽引力、債権
法解釈学の問題点
法という人為の産物であり時勢とともに
変遷する対象を扱う法学は厳密な意味で
学問の資格を有しない。立法者が三たび
改正のことばを語れば万巻の法律書が反
故(ほご)と化する。
法解釈学は科学(Wissenschaft)たりえない
のか
法の科学性とは何か