容積率緩和の便益: 一般均衡論的分析

容積率緩和の便益:
一般均衡論的分析
2003年 9月19日
唐渡 広志
(富山大学経済学部)
八田 達夫
(東京大学空間情報科学研究センター)
1
論文の目的

容積率規制緩和の便益測定


都市の労働者分布,賃金率およびオフィス賃
料に与える効果を一般均衡論的な枠組みで
シミュレーション.
規制緩和による都市全体の付加価値上昇額
の定量化.
2
先行研究

八田・唐渡(2001)



オフィス生産関数の推定,
労働者の分布を外生的に変化
→都市全体の生産性の変化を計測
[開放都市] [閉鎖都市]
賃金率は一定であると想定.
3
分析対象地区
本稿の分析方法
*閉鎖都市モデルを想定
容積率規制が実効的な地区で容積率の緩和
(床面積供給の増加)
計量経済分析
オフィス生産関数
オフィス賃料関数の推定
シミュレーション
・当該地区の労働の限界生産性が上昇
→労働需要の増加
→賃金率上昇
・その他の地区から当該地区に労働力が流入
→その他の地区の生産性が変化
→賃金率がさらに変化
・新しい賃金体系のもとで異なる労働者分布
規制緩和後の
労働者分布
賃金率
都市全体の付加価値上昇額
5
オフィス業務の生産関数
生産活動
オフィス・スペース
s
投入
f
労働
産出
付加価値
y
n
(集積の経済)
•生産関数: y = F (s, n( Nj, Mj )n )
労働の効率性指標関数n( Nj, Mj )
Nj:地区jの労働者数,
Mj:j以外の地区の労働者数を地区間の移動時間距離で
割り引いて全ての地区について合計[ (2)式 ]
6
企業の行動


市場オフィス賃料Rj, 賃金率W に直面
費用最小となるスペース s と労働n を選択
ゼロ利潤条件:C( Rj, W, Nj, Mj ) = 1 (4)
オフィス賃料関数:R= R( Nj, Mj, W ) (5)
7
市場均衡

需給均衡 [ (7)式 ]

床面積市場

労働市場
N j sˆ( N j , M j ,W )  Qj , j  1,2,, J
J
N
j 1
j
N


~
N j  N j Q, N ,
~
W W Q, N


j  1,2,,J
8
容積率緩和の効果



労働者分布の変化
N j Q, N 
, j ,k  1,2,,J (9)
Qk
賃金率の変化
W Q, N
, k  1,2,,J (10)
Qk


オフィス賃料の変化
J
Rj
Rj N  Rj W




(12)
Qk 1 N  Qk W Qk

9
分析の手順
生産関数をコブ・ダグラス型に特定[(13)(14)]



オフィス賃料関数 (15)
一人当たり床面積需要関数(16) → 同時推定
↓
推定結果を用いて生産関数を測定.
1.
容積率緩和が労働者の分布と賃金率に与
える効果の測定[ (9)(10) ]
→都市全体の付加価値上昇額の測定
2.
容積率緩和がオフィス賃料に与える効果の
測定[ (12) ]
10
オフィス生産関数の推定結果

結果 [ 表1 ]
y  45.532s0.180exp0.013N j  0.001M j  Z Z n0.820
(4.25) (52.80) (11.02) (2.90)
*(15),(16)の同時推定の結果は表4
11
賃金率の変化,都市全体の付
加価値の上昇額(ΔY)
DY
(億円)
code
町丁
賃金の弾力性
36704
芝2
0.0022
416.5
36903
虎ノ門1
0.0058
1115.1
45264
新宿3
0.0019
363.7
45293
九段北4
0.0012
221.0
46013
丸の内3
0.0029
555.0
46023
八丁堀1
0.0022
414.6
46114
大手町2
0.0035
665.2
46121
日本橋2
0.0033
626.2
46123
日本橋室町1
0.0028
536.5
46213
神田錦町2
0.0026
503.7
12
供給ストックの増加によるオフィ
ス賃料の変化(弾性値)
*指定容積率を現況の2倍にまで緩和するケース
容積率緩和を実行する地区
虎ノ門1
新宿3
丸の内3
大手町2
日本橋2
虎ノ門1
0.514
-0.009
-0.014
-0.018
-0.017
新宿3
-0.047
0.171
-0.017
-0.021
-0.021
丸の内3
-0.050
-0.010
0.258
-0.017
-0.018
大手町2
-0.050
-0.010
-0.013
0.308
-0.015
日本橋2
-0.047
-0.011
-0.016
-0.019
0.289
13
まとめ


本稿の結果でも容積率を緩和した地区以外で
のオフィス賃料は軒並み低下する傾向を示し
ている.
しかしながら,容積率規制が実効的な地区に
おける緩和は,労働市場を通じて賃金率およ
び都市全体での付加価値が増大させる.

これは,労働者が再配分されることで効率性が高
まり,一人当たりスペースの増加がオフィス業務
の混雑を緩和するからである.
14