Q1、石綿関連疾患に罹ったので、労災申請したい。ど うすればいいですか?(図1~7) 労働者である(あった)場合は、労災保険の枠組みで の給付となります。労災保険給付を受けるためには、 労働者本人または遺族が労働基準監督署に対し、労 災保険給付の請求をしなければなりません。請求を受 けた労働基準監督署は、それが労災の給付要件に該 当する業務上の疾病に該当し、法律上労災保険給付 をすべき原因によるものか否かを調査して判断します。 その病気が、労働者が従事した業務によって発生した ものであれば認定されるわけですが、労災に該当する かどうかの最終的な判断はあくまで行政側が行なうこ とになります。 労災保険とは 図1 仕事(通勤)が原因となって生じた負傷、疾病、障害、 死亡を被った労働者やその遺族に対して迅速公正 な保護のための保険給付 事業主 保険料 政府 労働者の業務・通勤上の負傷、疾病等 保険給付 労災保険給付 図2 労働者 業務災害 負傷、疾病 療養(治療等)する時 休業する時 治癒 死亡した時 障害が残った時 介護を要する時 石綿作業 図3 ① 石綿鉱山又は附属施設において行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出又は 粉砕その他石綿の精製に関連する作業 ② 倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業 ③ 石綿製品の製造工程における作業 (ア)石綿糸、石綿布等の石綿紡績製品 (イ)石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、 石綿円筒等のセメント製品 (ウ)ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、 ガスケット(パッキング)等の耐熱性石綿製品 (エ)自動車、巻揚機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品 (オ)電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿 製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられる)又は電解融膜、タイル、 プラスター等の充填剤、塗料等の石綿を含有する製品 ④ 石綿の吹付け作業 石綿作業 図4 ⑤ 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はそ の補修作業 ⑥ 石綿製品の切断等の加工作業 ⑦ 石綿製品が被覆材又は建材として用いられる建物、その附属施設等の 補修又は解体作業 ⑧ 石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修または解体作業 ⑨ 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)等)の取扱い作業 ⑩ 上記①から⑨までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に 石綿粉じんの曝露を受ける作業 ⑪ 上記①から⑩の作業の周辺等において間接的な曝露を受ける作業 家族や周辺住民 新法 石綿肺の認定基準 図5 • 石綿肺を含むじん肺は、都道府県労働局長によるじん 肺管理区分(胸部X線写真の像により区分)の決定が 行われ、その後に労働基準監督署長により認定される。 • じん肺管理区分が管理4と決定されたこと • じん肺管理区分が管理2、管理3もしくは管理4と決定 され、じん肺と合併した次の疾病の合併症にかかって いること ①肺結核 ②結核性胸膜炎 ③続発性気管支炎 ④続発性気管支拡張症 ⑤続発性気胸 ⑥原発性肺がん 石綿による肺がんの認定基準 図6 はい 原発性肺がん いいえ 第1型以上の石綿肺所見有り? 職業曝露作業歴10年以上有り? 胸膜プラーク有り? 石綿小体・石綿繊維有り? 業務外 胸膜プラーク有り? 石綿小体・石綿繊維有り? 個別判断 労災認定 石綿による中皮腫の認定基準 図7 はい 胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜の中皮腫か? 個 別 判 断 削 除 いいえ 第1型以上の石綿肺所見有り? 職業ばく露作業従事歴1年以上有り? 胸膜プラーク有り? 石綿小体・石綿繊維有り? 業務外 胸膜プラーク有り? 石綿小体・石綿繊維有り? 個別判断 労災認定 Q2、労災の時効が無くなると聞きましたが本当 ですか?(図8) 労災保険の請求には時効があり、療養・休業補償は2 年、障害・遺族補償は5年で時効が成立し、労災保険の 請求ができなくなるというのが基本です。アスベスト新 法により、死亡から5年経過した遺族補償については、 特別遺族給付金というかたちで救済がはかられること になりました。2006年3月20日から申請受付が労働基 準監督署で始まっています。ただし、この救済制度も請 求ができるのは2006年3月27日から3年間と限定され ています。そして生存者の療養、休業補償の時効(2 年)については対応はなされていません。 制度毎の補償・救済内容の比較 労災保険 図8 時効対応(特別 住民、家族 遺族給付金) 等 支給 自己負担金 免除 平均賃金の80% 月約10万 通院費 支給 (-) 遺族年金 平均賃金(給付基礎 年間240~330万 日額)153~245日分 (-) 医療 生 存 休業補償 300万 死 遺族一時金 亡 31.5万+平均賃金 葬祭料 30日分 就学援助 あり (-) 280万 (-) 約20万 (-) (-) Q3、家族が中皮腫で死亡した。労災手続 きをしたいが、どうすればいいですか? (図9) 家族の場合は労災保険の対象ではない ので、アスベスト新法での申請となると思 われます。中皮腫と診断されているので対 象疾患に該当します。環境省地方環境事 務所等が申請の窓口となっているので、お 問い合わせ下さい。 図9 認定の対象となる疾患 中皮腫 肺がん 石綿肺 びまん性 胸膜肥厚 良性石綿 胸水 労災補償 ○ ○ ○ ○ △ 労災時効 対象死亡者 ○ ○ ○ ○ △ 住民・家族等 ◎ ○ × × × ◎:確定診断があれば認定 △:厚生労働本省協議 ○:認定基準を満たせば認定 ×:認定されない Q4、石綿新法の内容を教えてください。(図10~11) 「石綿による健康被害の救済に関する法律」(いわゆる 石綿新法)が2006年2月3日に成立し、3月27日から施 行されました。この法律での救済の対象は、「石綿による 健康被害者であって、労災補償による救済の対象となら ない者」とされているように、労災保険の枠組みでは救 済されない、地域住民や労働者の家族などの環境暴露 や、労災保険の時効による受給権消滅に対する救済を 定めたものです。救済給付の内容は、①治療中の患者 に対しては、医療費、療養手当、②亡くなった労災対象 外の遺族に、葬祭料、特別遺族弔慰金、③労災時効の 遺族に、特別遺族給付金、がそれぞれ給付されます。し かし新法での救済対象疾患は、中皮腫・肺がんの2疾患 に限定されていること、給付内容や給付額についても労 災補償に比べて極めて低い水準にとどまっているなど、 不十分な内容となっています。 石綿による健康被害の救済に関 する法律(石綿新法)の概要 図10 対象:石綿による健康被害者であって、労災補償 による救済の対象とならない者 救済給付の種類: ①治療中の患者:医療費、療養手当 ②亡くなった労災対象外の遺族に:葬祭料、特別遺族弔慰金 ③労災時効の遺族に:特別遺族年金 財源:国、地方、企業(全企業から、石綿関連企業に は特別拠出金を上乗せ) 石綿新法の問題点 図11 • 労災と比べて給付額が低額、通院費や就学 援助等がない • 対象疾病が限られる(救済対象を中皮腫、肺 がんに限定) • 公的健診と疫学調査に基づいたものでない • 国の「不作為」の責任と関連企業の責任があ いまい Q5、「健康管理手帳」はどのような場合に 交付されますか?その手続きは?(図12) 過去に石綿を扱う作業に従事し、離職の 際または離職後の健康診断で、石綿による 一定の所見がある場合には、住所地(離職 の際は事業場)の都道府県労働局に申請 することにより、健康管理手帳が交付され ます。手帳が交付された場合は、その後、 無料で定期的に健康診断を指定の医療機 関で受けることができます。 健康管理手帳の交付要件 • 石綿 石綿を製造し、又は取り扱 う業務。両肺野に石綿によ る不整形陰影があり、又は 石綿による胸膜肥厚の陰 影があること。 ・ じん肺 粉じん作業に従事し胸部レ ントゲンでじん肺第1型以 上の所見を有する者。 図12 Q6、ここ最近の労災認定等の状況はどうなっています か?(図13~17) 厚生労働省発表によると、肺がんの労災認定数は、 2002年度22件(請求34件)、2003年度38件(請求39件)、 2004年度58件(請求61件)、2005年度219件(請求712 件)、中皮腫の労災認定数は、2002年度56件(請求61 件)、2003年度85件(請求77件)、2004年度128件(請求 149件)、2005年度503件(請求1084件)となっています。 また新法で労災時効に対する「特別遺族給付金」の申請 は1203件、認定119件です。「石綿健康管理手帳」の発 行数は、2004年12月までの累計で642件であったのに 対し、2005年1年間だけで4390件にも上っています。新 法のうち「労災外の一般住民・家族」への補償は、申請 2710件、認定209件(中皮腫207件、肺がん2件)です。 (2006年6月現在) 癌 合 計 中 皮 腫 合 計 肺 癌 皮 腫 05 年 中 20 05 年 肺 20 癌 皮 腫 04 年 中 20 04 年 肺 20 癌 皮 腫 03 年 中 20 03 年 肺 20 癌 皮 腫 02 年 中 20 02 年 肺 20 肺癌・中皮腫労災認定数推移 1000 600 400 200 0 図13 人 1600 1400 1200 非認定 800 認定数 1400 1200 1203 新法内「特別遺族給付金」 申請数(青)と認定数(褐色) 1000 800 600 400 200 119 0 図14 新法時効申請 新法時効認定 5000 4500 4000 4390 石綿健康管理手帳 3500 3000 2500 2000 1500 1000 642 500 0 図15 石綿手帳04年12月ま で累計 石綿手帳発行数(05年) 新法内での 「労災外の一般住民・家族への補償」の申請数と認定数 (06年6月末時点、環境・厚生労働両省) 3000 2710 2500 2710 2000 中皮腫207名・肺癌2 1500 1000 500 209 209 0 図16 住民等申請 住民等認定 石綿疾患センターでの健診実施状況 (06年3月末時点、(独)労働者健康福祉機構) 受診者数:15169名 うちX線等実施:13678名 症状無し:11250名 症状有り:2428名 (中皮腫3、肺ガン10、良性石綿胸水7 びまん性胸膜肥厚24、胸膜肥厚斑2268) 図17
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