第5章 アンシラリーサービスに対応する設計手法の開発

第 5章
5.1
ア ン シ ラ リー サー ビ ス に対 応す る 設 計 手法 の開 発
求められる設計手法
1 章 か ら 4 章 ま で の 研 究 成 果 か ら も 理 解 で き る と お り ,揚 水 発 電 の 設 計 ,建 設 お
よ び 運 営 に 必 要 な 技 術 は ,電 気 工 学 ,機 械 工 学 お よ び 制 御 工 学 等 の 多 彩 な 分 野 の 融
合 と 明 確 な 要 求 品 質 の 分 析 ・ 抽 出 技 術 で あ る 。 本 章 で は , 電 力 事 業 の End
User
である発電事業者として持つべき隙間 のない技術による要求品質を技術仕様に置
き 換 え る 設 計 手 法 を 模 索 し ,電 力 系 統 下 で の 要 求 品 質 か ら 水 車 の 基 本 特 性 ,基 本 形
状 を 導 き 出 す た め の 図 5.1 の よ う な 2 つ の 手 法 を 開 発 し ,優 れ て い て も 使 い 道 の な
い 流 体 性 能 で は な く ,使 え る 流 体 性 能 を 洗 い 出 す こ と で ,用 途 に よ っ て ,あ る い は
電力系統 の特質 によ って異 なる流体機械 の開発に必 要な設 計条 件を導 き出す。
要求品質
一次流れ計算による性能評価システム
水力発電プラント総合解析システム
標準の完全特性から決まる水力
特性に対して,ランナの部分的
な形状変更を入力し,新たな水
力特性を求める。
水車・水路系,発電機および電
力系統モデルを可動させ,定常
状態を維持する。その状態で周
波数,電力系統規模,発電所の
出力指令および発電機の切り離
し等の事象変化を入力し,その
時の全系の挙動を解析する。ま
た,初期データである完全特性
や水路系の特性を変更し,その
挙動の違い計算することもでき
る。
標準的な完全特性から得られる
水力特性を要求品質に近づく特
性カーブになるように計算す
る。調整による効果を想定しな
がら各部の調整を行う。
用途が幅広いことで,一事例を
示す。完全特性を修正しなが
ら,要求品質に近づく出力応答
となる完全特性を作成する。
作成する水力特性を要求品質=
ポンプ水車仕様として,製造者
に提示
作成する完全特性を要求品質=
ポンプ水車仕様として,製造者
に提示
図 5 図5.1 要求品質を技術仕様に変換する設計手法
.1 要求品質 を技術 仕様に変換する 設計手法
70
5.2
一次流れ計算による翼形状設計システムの開発
5.2.1
設計シス テムの概 要
ポンプ 水車の 基本性能は ,ランナの 回転速度や流 路の形 状に 大 きく 支配される 。
本 シ ス テ ム は ,ラ ン ナ 特 性 に 支 配 的 に 影 響 す る 回 転 速 度 ,ラ ン ナ 外 径 ,羽 根 枚 数 お
よ び 羽 根 形 状 を 形 成 す る 出 入 口 角 度・高 さ 等 の 8 つ の パ ラ メ ー タ を 変 更 さ せ た 場 合
の 特 性 変 化 を 求 め る も の で ,基 準 と な る 模 型 デ ー タ に 対 し て ,各 部 位 の 形 状 変 化 に
伴 う 性 能 への 影 響 評 価を 計 算 す る 。
パ ラ メ ー タ は ,模 型 ラ ン ナ 諸 元 で あ る ランナ 羽 根 外 径 D1,口 流 路 高 さ B,出 口 径 D e,
出 口 ハ ブ 比 , 羽 根 枚 数 Z r, 回 転 速 度 お よ び オ イ ラ ー の 式 を ベ ー ス に し た 1 次 元 的 計 算
を 使 っ て 逆 算 出 し た 模 型 性 能 試 験 結 果 を 満 足 す る 羽 根 入 口 角 度 β 2 、出 口 角 度 β 1 で あ
り ,β 1 は 、ポ ン プ の 最 高 効 率 点 の 模 型 性 能 か ら 逆 算 さ れ る 理 論 揚 程 Hth を 満 足 す る
ようにオイ ラーの式 を介して求める 。また ,β 2 と水 車運転 におけるガイドベ ーンか
らの流入速 度(絶対 流速v1)は, ランナ 出口の無旋 回条件を 水車の 最高効率 点を通
る q 1’/n1’が 一 定 の 無 旋 回 線 を 仮 定 し 求 め る 。
シ ス テ ム の 基 本 構 成 は , 図 5. 2.1 の よ う な 流 れ に 基 づ い て , 各 パ ラ メ ー タ の 性 能 影
響 計 算 を 行 い , そ の 結 果 に 対 し て ,「 JSME
S- 008」 を 用 い て 実 物 特 性 を 求 め る 。
図 5 .2. 2 に 基 準 と な る 模 型 デ ー タ( 完 全 特 性 )か ら 求 ま る 性 能 曲 線 を - で 示 し ,
一次流れ計算による各部位の調整を行ったときの性能曲線を-で,また実物換算
効 率 に つ い て は 基 準 と な る 効 率 曲 線 を 実 線 で ,調 整 後 の 効 率 曲 線 を 波 線 で 示 す 。な
お ,本 図 は ,代 表 例 と し て ,神 流 川 発 電 所 ス プ リ ッ タ ラ ン ナ の 模 型 デ ー タ( 完 全 特
性)を基 準とし てい る。
水車運転とポンプ運転の最高効率点に対し,厳密法の漏れ損失・機
械損失より,水車およびポンプの比エネルギ効率算出
水車無旋回点データより,ランナ出口角度、各GV開度に対する流入
角度計算
ポンプの最高効率点の理論揚程からランナ入口角度計算
水力性能に対し、性能に影響する諸元より,水力性能の変化を計算
漏れ損失および摩擦損失を加えて,模型相当の性能を計算
S-008実機換算による厳密換算
図5.2. 1
シス テムに おける計算の基 本的な流れ
71
ポンプ水車一次元特性影響計算 モデル:神流川PSスプリッタランナ、換算式:S008厳密法
Htmax(
Htnor
Htmin
ポンプ全揚程 Hpmax
Hpmin(
Hpmin(
700.2
675
653
617
728
677
663
m
水車最大出力
480 MW
最大軸入力
464 MW以下
m
m
m
m
m
m
寸法比
修正変数
項目
変化量
計算値
ランナ径D1
0 (%)
0.4694
入口流路高さB
0 (%)
0.049
出口径 De
0 (%)
0.25
出口ハブ比
0 (%)
0.3
出口角度 Δβ2
0 (°)
26.80
入口角度 Δβ1
0 (°)
22.29
羽根枚数
10 枚数
10
実機回転数(rpm)
500
500
1.05
150.00
8.68
ポンプ効率(包絡線)
原型
実機(mm)
m
0.4694 4074.4
m
0.049
425.3
m
0.25
2170
0.3
°
26.80
°
22.29
枚数
10
500
水車効率
1.00
0.95
0.90
0.85
0.80
100.00
0.75
0.70
最低揚程時揚水量
62.65 m^3/sec
0.65
62.65 m^3/sec
4.5% %
4.5% %
Htmax
相対水車効率
1
流量 Q(m3/s)、-Hs(m)
実物水車効率
50.00
H
tnor
Htmin
0.9
0.60
0.55
0.50
0.45
0.40
0.35
ポンプH-Q性能
(包絡線)
Htnor
Htmin
逆流余裕
442 MW
ポンプ逆流開始揚程
442.38 MW
ポンプ最高効率点
ポンプ最大軸入力Ppmax
0.30
0.25
0.20
0.00
水車出力比
550
0.8
600
650
700
750
800
水車有効落差Ht (m),ポンプ全揚程Hp(m)
0.4
0.6
0.8
1
図5.1.1 翼形状設計システムの概要
図5.2.2
翼形状設計システムの概要
72
850
相対効率 η/ηt0
水車有効落差 Htmax(
5.2.2
設計手法の構築
ポンプ水車の要求品質を明確にするには,水車の性能曲線が最も適切で,アンシラリーサー
ビスに関わる仕様を提示するには,要求品質を確定する段階から性能曲線を提示するのが最も
正しい設計の進め方となる。しかし,これまでの設計・検討では,発電所諸元の提示に対して,
規模,構造設計が先行し,性能に関わる設計は解析・モデル試験等,全体の設計製作工程の後
半に位置づけられている。つまり,仕様で明確に提示しているわけではなく,仕様の調整,構
造検討の結果,最終は現地実証試験の結果で仕様を確定する場合があった。
上記のような設計の進め方は,国内における電気事業者と国内の製造者の信頼関係から成り
立っている場合が多く,海外の製造者からは理解しにくい。昨今,電気事業者の国際入札導入
や海外事業展開における海外の製造者との仕様調整が一般化する中で,信頼関係に基づく不明
確な仕様による契約に対し,設計後半や試験結果に対する仕様の要求が,受け入れられにくく
なっている。
また,先行する構造設計で確定した仕様は,後半の性能設計では変更ができず,例えば,ラ
ンナ外径は輸送限界上の上限制約のみで構造検討が進み,この段階で明確になっていない性能
的理由で仕様を確定することができなかった。
電力自由化と共にアンシラリーサービスの定義が明確になってくる時,潜在する揚水機の高
機能を発揮できる設計手法が確立していることで,他種の大型電源に対して大きな優位性を確
保し,また,海外に向けた事業展開の加速材にもなりうる。
本設計手法は,これまでの技術開発の
限界に挑戦してきた集大成を新たに紐解
ガイドベーン
ある電気事業者として保有すべき技術体
w1
ポンプ出口
速度三角形
き,技術展開した上で,ミドルユーザで
ランナ羽根
u1
水車回転方向
ポンプ回転方向
系に再構築しているが,基本的には図
v1
水車入口
速度三角形
v1
α1
β1
w1
5.2.3 のポンプ水車ランナの速度三角形
に基づいており,
v2
w2
・ 設計裕度の広いスプリッタランナ
u2
β2 水車出口
α2 v w2 速度三角形
1
u2
・ 揚水性能と発電性能の回転速度を
各々別に設計することで要求品質
u1
r1
r2
ポンプ入口
速度三角形
図5.2.3 ポンプ水車ランナの速度三角形
が満足できる場合は可変速揚水発
電システム
等の技術開発成果をデータベースに持つことで,
要求品質が求める性能曲線の可能限界を認識し
つつ,ランナの各部位を図 5.2.4 および 5.2.5 に従い,チューニングすることで,最適な性能曲
線を作り込む。
73
模型の水車最高効率点
単位落差当りの回転速度:n1o、単位落差当りの流量:q1o、水
車最高効率:ηto
水車の流量比速度:nSQ=n1o・(q1o/1000)0.5
機械効率:ηRo
ηRo=0.989-16nSQ-2
体積効率: ηQo
ηQo=0.993-4.00nSQ-2
最高効率点での比エネルギ効率
水車入口
ηEo=ηto/(ηRo・ηQo)
羽根周速度 : u1=πD1・n10/60
各データ点での機械効率、体積効率、比エネルギ効
率の計算
子午面流速 : cm1=q1o/(πD1・B)
流入の絶対流速の周方向成分
: vu1=g・Htho/u1
ηR=1-{ηto・q1o(1-ηRo)/(ηt・q1) }
相対速度の流入角度
: β’1=atan{cm1/(u1-vu1)}
ηQ=1-{q1o・(1-ηQo)/q1}
ηE=ηt/(ηR・ηQ)
水車出口(羽根出口の平均半径上)
羽根周速度
最高効率点での理論落差の計算とランナ入口の相対
的流入角度と羽根入口角度差を計算
Htho=H・ ηEo、 δβ1’=β1-β’1
: u2m=πD2m・n1o/60
子午面流速 : cm2=q1o/(Ae)
流出の絶対流速の周方向成分
: vu2=u2m-cm2/tanβ1m
理論落差 :Hth=(u1・vu1-u2m・vu2)/g
D1、B、β1の変更
δβ1’=δβ1となるn1o’の計算
ランナ出口絶対速度の周方向速度 vu2を計算
Vu1=0となる流量q1o’計算
各データ点での n1、 q1を計算
n1‘=n1×(n1o’/n1o)
q1‘=q1×(q1o’/q1o)
各データ点での機械効率、体積効率の計算
ηR’=1-(1-ηR)(D1’/D1)5
η’Q=ηQ
各データ点での水車効率計算(ηE=ηE’を仮定)
ηt’= η’E×η’R×η’Q
図5.2.4
水車性能の評価・チューニングフロー
74
模型のポンプ最高効率点
全揚程:Ho、流量:Qo、効率:ηpo、 回転速度:np
動力効率:ηRopt
ηRo=0.986-21nSQ-2
体積効率:ηQopt
ηQo=0.993-4.00nSQ-2
ポンプ流量比速度:nSQ=np・(Qo)1/2/Ho3/4
最高効率点での比エネルギ効率
ポンプ出口
ηEopt=ηpo/(ηRo・ηQo)
ランナ羽根周速度 :u1=πD1・np/60
子午面流速 :cm1=Qn/(πD1・B)
ランナ羽根角度の計算
流量係数 : φ=cm1/u1
理論揚程 : Htho=Ho/ηEo
揚程係数 : ψ=gHth/u22
ポンプ出口の羽根角度 : β1=atan{φo/(1-ψoーk)}
すべり係数 : k=(sinβ1)1/2/Zr0.7
ポンプ入口での無衝突流入角度
: β2m=atan(cm2o0/u2mo)
ポンプ入口
平均半径での羽根周速度
: u2m=πD2m・np/60
子午面流速 : cm2=Qno/(Ae)
De、ξ1、Δβ1の変更
Δβ2 の変更
流路面積 : Ae=π/4・De2(1-ξ22 )
De :ランナ出口径(ポンプ方向入口径)
無衝突流入角度に対する流量計算Qo’
ξ2 :ランナ出口のハブ比
Δβ2:ポンプ入口(水車出口)の羽根角
度変化量
各データ点に対する流量の計算
Qn’=Qn×(Qo/Qo’)
D1 :ランナ羽根外径r
B :ランナ入口の流路高さ
Zr :羽根枚数
D1、B、Zr、Δβ1
Δβ1:ポンプ出口の羽根角度変化量
Δβ2: 羽根出口角度の変更量
各データ点での理論揚程計算 Hth’
全揚程計算 (η’E=ηEを仮定)
H’=Hth’× ηE
各データ点での機械効率、体積効率計算
ηR’=1/{1+Htho(1-ηRo)/(Hth’・ηRo)×(D1’/D1)5}
ηQ’=1/{Qo(1-ηQo)/(Q’・ηQo)×(H’/Ho)1/2}
各データ点での効率を計算
ηp’= ηE’×ηR’×ηQ’
図5.2.5
ポンプ性能の評価・チューニングフロー
75
5.2.3
設計手法の適用事例
要求品質を満足するための設計手法の適用事例と,その時の具体的適用技術を列記する。
(1)スプリッタランナを採用した神流川の当初設計からの変更の場合
①揚水入力低減
神流川発電所では,建設コストを抑制するために水路構造物の縮小を計画し,ポンプ水車が起
因となって発生するサージングを抑制することで,導水路および放水路に設置する2つのサージ
タンクを縮小できるポンプ水車を要求品質とした。
また,大容量化の副作用である電力系統における運営機能の低下を回避するために,要求品質
に深夜等小規模電力系統時の揚水入力の低レベル安定を加えた。
サージングを抑制するためにアドバンストガバナ採用により,発電時の水量を抑制する,一方
で揚水時には流量調整が出来ないことで,ポンプ水車ランナの揚水特性を変更することとし,ス
プリッタランナの持つ設計自由度の広さを活用し,揚水入力絶対値の低減とH-Q特性のフラッ
ト化を計画した。さらに,この対策は,電力系統からの要求品質でもあり,コスト低減と付加価
値向上の2つの評価を高める設計となった。
②運転可能範囲の拡大
高落差・大容量化した葛野川発電所のスケールメリット拡大に対する副作用として。最大出力
は増加したものの,500m級高落差機である今市発電所に比べ,運転可能範囲が175MW か
ら140MW に減少してしまった。
これは,部分負荷領域での脈動,振動の増加により最低出力を下げることが出来無かったこと
が要因で,神流川発電所では,最低出力を下げ,運転可能範囲を拡大することを要求品質とした。
上記のような設計条件に対してポンプ水車への仕様を
・ H-Q特性のフラット化
・ 揚水入力低減
・ 部分負荷発電の効率向上
として,下記のような各部の調整を行った。
多翼化により揚程限界(逆流開始点)が拡大するが,揚程の変更が不要なので,ランナ外径の
縮小あるいは翼の水車入口角度を寝かせることが可能となる。本来ポンプ水車ランナは,ポンプ
の揚程確保を優先に設計されるが,多翼化により制限が緩和され,水車性能向上に活用できる。
ここでは,ランナ外径を若干縮小した上で,水車入口角度を寝かせることで,揚程を確保しつ
つ,水車効率の向上を目指す。また,スプリッタブレードの採用で出口径を拡大し,過流量域の
効率低下を抑制し,最高効率点を部分負荷側に移動させることで可能最低出力を下げる。
図 5.2.2 は,スプリッタランナを基準としているので,従来型7枚ランナへの変更部位とその
性能曲線を赤字で記載している。
76
0.25
0.3
0.3
1.00
水車効率 0.95
0.90
2170
0.85
26.80
0.80
22.29
0.75
10
0.70
500
0.65
442 MW
62.65 m^3/sec
4.5% %
50.00
0.60
0.55
ポンプ逆流開始揚程
500
Htmax
6.0% %
0.25 m
7 枚数
68.17 m^3/sec
4155.9
ポンプ効率(包絡線)
0.049
425.3
26.80 °
100.00
25.29 °
最低揚程時揚水量
1.05
0.4694
0.049 m
482.49 MW
実機(mm)
0.50
0.45
0.40
ポンプH-Q性能
(包絡線)
0.35
0.30
0.25
0.20
0.00
550
600
650
700
750
800
水車有効落差Ht (m),ポンプ全揚程Hp(m)
実物水車効率
Htmax
相対水車効率
1
Htnor
Htmin
0.9
水車出力比
0.8
0.4
0.6
図5.2.2
0.8
1
スプリッタランナと従来ランナの性能比較と調整部位
77
850
相対効率 η/ηt0
0.47879 m
ポンプ最大軸入力Ppmax
逆流余裕
原型
ポンプ最高効率点
150.00
計算値
流量 Q(m3/s)、-Hs(m)
ランナ径D1
2 (%)
ランナ径D1
2 (%)
入口流路高さB
0 (%)
入口流路高さB
0 (%)
出口径 De
0 (%)
出口径 De
0 (%)
出口ハブ比
0 (%)
出口ハブ比
0 (%)
出口角度 Δβ2
0 (°)
出口角度 Δβ2
0 (°)
入口角度 Δβ1
3 (°)
入口角度 Δβ1
3 (°)
羽根枚数
7
枚数
羽根枚数
7 枚数
実機回転数(rpm)
500
実機回転数(rpm)
500
Htnor
修正変数
変化量
修正変数
項目
変化量
Htmin
項目
5.3
水力発電プラント総合解析システムの開発
5.3.1
設計システムの概要
図 5.3.1 は,水力発電所のプラントイメージを表しているが,水力発電プラント総合解析シス
テムは,これら水車・水路系および発電機・電力系統設備がもっている非線形要素について,精
度良く再現できるシステムである。
水車完全特性および水路の流量特性を入力すること,負荷遮断時の過度現象を解析し,また発
電機・電力系統定数を入力することで,電力系統全体から見た系統の安定性や水車発電機の挙動
を解析できる。
主な機能としては,
・ 負荷遮断時の過度現象
・ 小規模系統における水車発電機の挙動に対する安定性評価
・ 電力系統からの出力指令に対する発電所の挙動とその時の系統状態出力を急変させた時
の水車・水路系の非線形特性から影響を受ける出力動揺
等,水車発電機が電力系統に接続している状態での大部分の解析が可能である。
図5.3.1
水力発電プラントイメージ
78
水力発電プラント総合解析システムは,図 5.3.2 のように大きく分けて2つのソフトウェア
から成り立っており,1つは水力プラント構築ソフトウェア,もう一つは EMTDC である。
データは水力プラント
構築ソフトウェアにて
作成
図5.3.2 水力発電プラント総合解析システム構成概略
前者で作成した図 5.3.3 のような水車・水路系の定常状態を後者上でモジュール化し,発電機
及び電力系統とリンクしてシミュレーションする。
図5.3.3
ポンプ水車・水路系モデルによる定常状態の構築
79
図 5.3.4 のように定常状態を作り込んだポンプ水車・水路系モデルは,ガイドベーン開度と回
転速度を変化させることで,非定常状態になり,トルク変化を発生する。トルク変化を発電機簡
易モデルに伝達し,電力系統モデル(EMTDC)と連係する。電力系統の動揺で変化する周波数は,
水車の回転速度となってフィードバックされる。電圧制御の閉ループは,発電機簡易モデルまで
で,ポンプ水車・水路系モデルとは無関係となる。
*
1000.0
A
A
B
#1
#2
B
B
B
C
C
N_1
N_2
*
100
N
500.0
GV1
GV_2
C
525.0
C
18.0
GV_3
水車トル
N_5
N_6
Tm0
w1
:TMINI
1 = Ctrl
VT
A
TIME
1000.0
TIME
D
+
G
1000.0
ガバナ制御系
F
+
F
+
D
1
sT
+ D
1
sT
+
-
0.1111
*
1 = Ctrl
Ctrl
B
+
D
S /H
out in
PMG
hold
INI
INI
-
D
33.333
*
B
Ctrl = 1
Ctrl
Ctrl = 1
B
+
5.0
*
B
1
sT
*
ULMTH
GVINI1
D -
+
LLMTH
GVINI1
D
ULMTH2
GVINI1
D 0.0
B
-
+
LLMTH2
GVINI1
D
B
+
D
+
+
F
+
1 = Ctrl
ULMTH3
B
-
+
A
0.339
B
1.7
Ctrl
+
D
+
F
*
0.063
0.0
B
+
+
B
2.01
LLMTH3
G
sT
1 + sT
*
2.0
*
GV1
3.3
F
GVINI1
+
0.916
B
D
*
6.0
1.2
B
GOVERNER
Ctrl
Comparator
B
+
A
0.641
1 = Ctrl
D
1
sT
A
B
*
Ctrl
1 = Ctrl
Comparator
A
B
B
A
0.164
+
Ctrl
Comparator
B
図5.3.4 システムを詳細模擬したモデルのデータ受け渡し概念図
80
-
B
2.61
B
BRK
0.23
GVINI1
A
A
1 = Ctrl
Ctrl
LRR
B
A
A
B
Comparator INI
B
1 = Ctrl
P65
G
A
0.04
*
0.0
Ctrl
+
0->1 @ 0.4 Sec
D
0.0
B
+
-
A
Target
+
Enab Mech Dynamics
GVINI1
D
+
A
Ctrl
DPC
B
puINI
Ctrl
F
GVINI1
B
LRR
-
回 転
PSS
A
1 = Ctrl Target
1 = Ctrl
INI
GVINI1
A
1 = Ctrl
Timer
-0.1
1 + sT2
G
1 + sT1
A
PMG
F
DPC_65P_Selecter
GVINI1
D -
1 + sT2
G
1 + sT1
TM1_100
Timer
1.2
EF
VT
B
puINI
Ctrl
SEQENCER
S2M
10.0
F
1 = Ctrl
Comparator BRK
Change to Machine
0->1 @ 0.3 Sec
TIME
+
1 + sT2
G
1 + sT1
*
0.7
sT
1 + sT
励 磁
20.0
B
745894.2
D
*
0.008680556
*
P65
ガイドベーン
20.0
+
PSS
G
PMG 1 + sT
20.0
Comparator
G
1 + sT
*
Ef0 115.2
S /H
in out
hold
S2M
B
A
0.0
DPC
Comparator
B
N
TM1
LRR
*
90
GVINI1
1000.0
-
1 + sT2
G
1 + sT1
PSS
0.0
A
TIME
G
VT 1 + sT
F
-1.0
Target
N/D
PSS
B
DPC
1.0
DPC_65P_Selecter
A
B
D
Tm0TM1_100
Ctrl
AVR
1.0
Te1
Tm
VT
GV_4 GV_5 GV_6
65P
0.0
Ef0
Tm0Tm w
N_3
N_4
kazunogawa
Te
B
14.59
C
GV_1
Kazunogawa
A
14.59
C
EF
If Ef Ef0
BRK
A
475 [MVA]
3 Phase
RMS
2.0
N/D
D
60.0
*
3.14159265
*
w11
2.41e-005
B
A
Te1
0%:kazunogawa07.dat
Tap
14.59
A
1000.0
+
+
100%:kazunogawa2_100_gen.dat
IF IF
水路系モデル
0.23
1000.0
+
puINI
GVINI1
EF
1.0
0.916
一機無限大母線系
ポンプ水車・
0.0
D
w11
1.0
A
w1
B
Ctrl
INI
1.0
5.3.2
総合解析システムの検証
本システムを検証するために,
図 5.3.5 の葛野川発電所1号機 4/4 負荷遮断試験との比較を行った。
図 5.3.6 のとおり,各現象とも,高周波の脈動は再現していないがこれらを除くピーク値はほぼ一致
している。また,非線形同士の水車と水路系も動きに若干の総意は見られるものの,概ね合致してい
る。
図5.3.5 葛野川1号機 100%負荷遮断試験の実測波形(遮断負荷:408MW,静落差:731.84m)
実測値=635min-1
実測値=1054m
実測値=111m
図5.3.6 モデル 100%負荷遮断シミュレーション波形(遮断負荷:397MW,静落差:731.38m)
81
図 5.3.6 において,回転速度上昇後の降下時に一旦降下速度が落ちているが,サージングの影
響を受けた鉄管水圧の変化を受けたものと思われる。また,ドラフト水圧の高周波振動は,単位
回転速度と単位流量あたりのトルク曲線において,急速にグラフ上のデータを移動することで,
水車出口の圧力の伝達が追従できずに,あたかも高周波振動が発生したような動きを示したと考
察できる。実際には,高回転時に高周波振動が発生するが,鉄管水圧同様,本システムでは,モ
デル化していない。
また,発電機モデルおよび一機無限大の系統モデルとの整合も精度良く解析できたが,本文で
は省略する。
水力発電プラント総合解析システムは,葛野川発電所における実機検証試験との比較および電力
系統との連係も終え,これまで前例のない水力発電所用の水路系および電力系統を組み込んだ解析シ
ステムとして完成した。
5.3.3
設計手法の構築
本システムの特徴は,前述したようにポンプ水車と水路系が一体となり,互いの非線形特性を
互いに伝え,それに対する挙動を示すつつ,トルクを発電機に伝え,その発電機は電力系統と連
係する。電力系統では,発電機の電力変化を受けて,需給がアンバランスとなり,系統定数に任
せて,電圧や周波数が変動する。
電圧や周波数の変動に対しても水車発電機のAVR(自動電圧調整装置)やガバナが調整に入
り,ガバナの動きは再びポンプ水車・水路系モデルで過度状態となってトルクが発電機に伝達さ
れる。
設計手法の構築にあたっては,従来のように製作されている機械に対して机上検討との整合性
や現地での機器特性の微調整等最終の設計に利用する方法もあり,(1)では,これまでの揚水
機の課題と言われていた“逆応答”に対しての解明を行った。さらに,
・ 水路系を含めたガバナの無負荷伝達ゲインや発電機と1機無限大系統を含めた負荷伝達ゲ
インの設定
・ アドバンストガバナの設定と重み付け変更に対する解析(サージング抑制重視から高速応
答重視への変更等)
・ 試送電時の解析
等,これまで簡易シミュレーションで解析しきれず,現地での調整に時間を要していた要求品質
変更に伴う各種調整を独自のノウハウで実践できる。
また,(2)で述べるが,従来,水路系の影響を評価せずに,設計点,発電所定格諸元のみを
要求品質としていたが,水路系の非線形特性の影響を見ながら,またガバナ特性および電力系統
の系統定数等を見ながら,完全特性曲線を作成することで,運用実態に適合したポンプ水車設計
を行うことが出来る。
たとえば,常時最低出力で運転待機を強いられる揚水機運用に重点を置けば,部分負荷領域で
82
のGVとトルク・流量特性を線形かつ高ゲインになるよう改善することで,最低出力待機からの
高速応答を実現する。本システムを使った新たな設計手法の効用としては,高速応答時の水路系
の挙動や電力系統への効果を確認しながら,サージングが顕著のようであれば,また電力系統へ
の効果が少なければ,ゲインを下げることで再解析を行い,全形に存在する非線形特性を評価し
ながら,目標品質に収束させることができる。
(1)負荷急増時の逆応答現象の解明
負荷急増時の逆応答現象については,流量を増加するためにガイドベーンを開くと,その挙動
に対して水圧力が減少する一方で,弾性体として流量の増加が遅れることで,増出力の操作に対
して減出力となるという定性的な意見が電力系統の運用者から出されていた。
実際の現象は上位系の制御システムからの出力信号が伝送遅れにより発電所への到達が遅れ,
あたかも逆応答のようにとらわれていたと想定されているが,水路系をマイナス微分のみの伝達
関数を使った簡易シミュレーションで評価することが正論とみなされ,逆応答による揚水発電の
運営機能が指摘されていた。
葛野川 1 号機の詳細モデルを使った 65P による全負荷急増をシミュレーションし,実際の現象を
把握した上で逆応答が実働するようであれば,ランナ入口圧力の急減が起きないような重み付けをし
たアドバンストガバナモデルの組み込み等の抑制対策を再検討する。
①葛野川発電所1号機における負荷急増試験結果と解析結果の評価
解析結果を図 5.3.7 および図 5.3.8 に示す。この解析結果と図 5.3.9 に葛野川発電所1号機におけ
る負荷急増試験の結果を比較すると,解析は,実機の挙動と非常に近い動きで,両者に逆応答は発生
しないことが確認された。
また,65P の時定数 1/60 を 1 にすることで,その変化速度を速くして水路系の影響を受けやすい
状態にしたが,この解析でも図 5.3.10 および図 5.3.11 のように逆応答は発生しなかった。つまり,
水路系の伝達関数に採用したマイナス微分では,実物の模擬になっていないことが解明できた。
83
図 5.3.7~図 5.3.17 のグラフ縦軸の各記号に対応する意味と単位は以下のようになる。横軸は全て
時間[s]である。また,これ以降の同様のグラフについてもこれらは共通である。
GV1:ガイドベーン開度[%]
N1:ポンプ水車回転数[rpm]
HP1:ケーシング水圧[m]
HD1:ドラフト水圧[m]
ST1(ST2):サージタンク水位
Q1:流量(m3/sec)
TM1:ポンス水車トルク[kgf-m]
PMG:発電機有効電力出力[MW]
QMG :発電機無効電力出力[MVar]
EA:発電機端子電圧[kV]
VT:昇圧用変圧器 2 次側電圧[kV]
EF:界磁電圧[P.U.]
IF:界磁電流[P.U.]
PSS:PSS 印加電圧[P.U.]
dw:周波数偏差[Hz]
84
84.1(86.2)
23.0(20.8)
833.0(820)
811.2
817.2(789)
91.4(95.8)
823.2(795)
105.2(112)
114.9(127)
115.6
106.0(117)
9.75(10.4)
57.3(50.8)
62.5(66.1)
図5.3.7 全負荷急増シミュレーション結果(カッコ内は実測値)
85
8.05(7.5)
353.2(353.6)
393.6(367)
図5.3.8 全負荷急増シミュレーション結果(カッコ内は実測値)
86
図 5.3.9 葛野川発電所全負荷急増試験
87
図5.3.10 65P 時定数 1 の全負荷急増シミュレーション結果
88
時 間 [s]
出力
[MW]
20
8.0
20.1
8.2
20.2
11.1
20.3
17.5
20.4
22.0
20.5
23.8
20.6
25.5
20.7
28.3
20.8
32.3
図5.3.11 65P 時定数 1 の全負荷急増シミュレーション結果
89
②従来水車・水路系モデルによる解析
従来モデルによるシミュレーションでは,負荷急増時に逆応答現象が発生していたが,このモデル
は図 5.3.12 のようになっている。
+
GV
No
-
Load
1 - Tw * S
1 + 0.5 * Tw * S
K
Power
puMW/G
図5.3.12 従来使われてきた水車・水路系モデル
本シミュレーションモデルの内,プラント構築ソフトで作成した水車・水路系モデル図 53.3,図 5.3.4)をこ
の従来からのモデルに置き換えて(図 5.3.12)定常状態を作り込み,発電機モデルおよび EMTDC と接続す
る。(図 5.3.13)
すると0.1(s)間隔の計算において,微少であるが,図 5.3.14 のように逆応答現象を再現することができた。
さらに,この現象を顕著に発生させるために 65P の時定数を短縮するとその挙動がわかりやすく表現できる。
発電機モデル
N/D
3.14159265
N1
*
Te Te1
60.0
N
Tm
Tm0
w1
TMINI
1 = Ctrl
1 = Ctrl
A
Ctrl
B
Tm0 nature
Ctrl
A
N/D
B
1 + sT1
G
1 + sT2
500.0
TM1_100
D
Tm0Tm w
N_1
N_2
GV_1
GV1
GV_2
GV_3
TM1
N
N_3
N_4
kazunogawa
N_5
N_6
GV_4 GV_5 GV_6
0.0
C
GV1
*
*
100
*
D
B
w11
水車・水路系従来モデル
Te1
Kazunogawa
Ef0
2.0
IF IF
If Ef Ef0
A
100%:kazunogawa2_100_gen.dat
0%:kazunogawa07.dat
EF
1.4577
*
-
+
GV1
D
F
NO_LOAD_GV
プラント構築ソフトで作成した水
車・水路系モジュール
LRR
図5.3.13 水車・水路系を従来モデルに置き換えた場合の EMTDC ブロック
90
時間[s]
20
20.1
20.2
20.3
20.4
20.5
20.6
20.7
20.8
20.9
21
21.1
21.2
21.3
21.4
21.5
21.6
21.7
21.8
21.9
22
PMG[MW]
-1.41301
-1.41361
-1.4523
-1.61677
-1.9211
-2.28352
-2.59557
-2.79566
-2.89501
-2.95158
-3.02213
-3.12801
-3.25237
-3.36169
-3.43181
-3.46089
-3.46497
-3.46351
-3.46677
-3.4723
-3.4703
4
3
2
1
系列1
0
18
19
20
21
22
23
24
-1
-2
-3
-4
図5.3.14 従来モデルに置き換えた全負荷急増シミュレーション結果
91
25
26
そこで更にこの傾向を確かめるために 65P の時定数を 1/40,1/10,1 とした。すると逆応答現象
がよりはっきりと確認することが出来た(図 5.3.15~17)。
図5.3.15 従来モデルに置き換えた全負荷急増シミュレーション 65P 時定数 1/40
図5.3.16 従来モデルに置き換えた全負荷急増シミュレーション 65P 時定数 1/10
図5.3.17 従来モデルに置き換えた全負荷急増シミュレーション 65P 時定数 1
逆応答現象は,水車・水路系を簡易に模擬した従来のモデル(図 5.3.12)では発生するが,本研究
で導入したポンプ水車完全特性から水撃現象までも詳細に模擬した実現象を正確にシミュレ-ショ
ンできる本モデルでは発生しないことが確認できた。発電所における実証試験では発生しなかったも
のの,電力系統運用中に発生すると指摘されていた逆応答現象は,起き得ないことが実証できた。
92
(2)要求品質に近づく負荷急増をなし得るポンプ水車仕様の設定
揚水発電所で最も評価を得るアンシラリーサービスは,高速出力応答である。指令に対する実出力
の応答は,上位系の制御システムから中位系の制御システムを経由して,発電所の制御システムに出
力指令が伝達されるまでの遅れ要素を介し,さらにガバナの遅れ要素およびポンプ水車ランナと水路
系の非線形特性の影響を受ける。
従来方式の PID ガバナは,応答を早めるための微分要素を強めることで,系の動揺が起きやすく
なることから,弱めの微分ゲインの設定とし,応答性よりも安定性を重視した制御系となるように調
整されていた。
第4章におけるアドバンストガバナの開発は,FF制御と LQG 制御の2自由度制御で高速性と安
定性を両立させることに成功したが,本来は各々の制御器が持つ遅れや非線形性の全系に及ぼす影響
を見ながら改良をしていくことが重要である。
そこで,水力発電所プラント総合解析システムを使ったポンプ水車への要求品質(高速出力応答)
を抽出する設計手法を構築する。
図 5.3.18 に葛野川発電所1号機の運転点近傍の完全特性を示すが,運転点である周速度係数
におけるガイドベーン(GV)開度を変数にした流量およびトルク値が,高開度域で飽和傾向になって
おり,この影響が最大出力近傍での応答性を低下させていることが考えられる。ここで,ガイドベー
ンと流量・トルクの非線形性が出力応答にどのように影響するか解析を行った。
図 5.3.19 に運転点近傍の特性曲線を GV 開度と線形となる流量・トルクに修正(曲線の接線とす
る)した完全特性(原型完全特性)を作成した。修正した完全特性(修正完全特性)の特徴としては,
運転点近傍の特性曲線が周速度係数軸に水平に近くなっている。
この図 5.3.18 と図 5.3.19 を使って,
葛野川発電所の最低出力である240MW 近傍から400MW までのAPFCステップ応答を図
5.2.20 で比較した。「ガバナは PID 方式で現在運用中のゲイン・時定数」
応答初期は,完全特性曲線上ほぼ同一なので大きな差異が出ないはずであるが,修正完全特性での
解析では,立ち上がりに逆応答が発生し,応答遅れが発生している。
これは,EMTDC(系統モデル)の初期条件を60%負荷で固定したところへ,完全特性を修正し
たことで,水車・水路系モジュール内での水車・水路から約55%負荷が伝達されることで,その差
分の補正が応答初期に現れたと推定される。
補正が終了する解析開始約5秒後には,両解析も出力,水圧とも同じ応答性を示しながら,完全特
性の修正による応答のちがいが出始め,水圧による影響を同じように受けながら,約15秒後には約
80MW の応答差が発生した。
2つの完全特性曲線は,解析開始5秒後近傍の GV 開度約65%からトルク差が発生し,10秒後
には原型完全特性に対して,修正完全特性では102%のトルクに増出力している。
93
出力(MW)
ケーシング水圧(m)
450.0
850.0
400.0
800.0
350.0
300.0
750.0
原型出力
線形出力
原型ケーシング水圧
線形ケーシング圧力
250.0
200.0
700.0
0.0
2.0
4.0
6.0
図5.3.20
時間(s) 8.0
10.0
12.0
14.0
完全特性と出力応答の関経
ここで,修正完全特性における100%GV 開度のトルクを見ると,約120%となっており,現
実的には同一形状のランナでここまでの増トルクは不可能であるが,2%の増トルクの効果を考える
と要求品質を明確に定めることで,ピンポイントでの曲線修正による増トルクが実現できる。
例えば,最低出力から増10~20%出力程度の間を高速応答する要求品質を定め,完全特性を修
正しながら,解析を繰り返すことで,目的の完全特性を作り上げ,曲線形状をポンプ水車仕様として
提示することで,規模・構造設計に加え,性能設計を同時に進めることができる。
電気事業者として,現実的に可能な,しかし製造者にとってはきびしい仕様を具体的に提示するこ
とで,より高いアンシラリーサービスを保有することができる。
ここで,現実的に可能な要求品質を提示するために,これまで述べてきた第2~4章を始めとする
知識ベースが必要不可欠となり,本設計手法を構築するための十分条件になる。
たとえば,部分負荷の高速応答は,この流量域での高効率が必要条件であり,部分負荷の効率向上お
よび最高効率点を下げるための多翼化,部分負荷領域での高速応答性とそれによって生じる水路系か
らの干渉抑制に必要なアドバンストガバナの開発が必須となる。
94
100
50
-1.3
-1.2
-1.1
-1
-0.9
-0.8
0
-0.7
単位流量係数
-1.4
GVO=0%
GVO=13.58%
GVO=24.28%
GVO=34.41%
GVO=43.86%
GVO=53.21%
GVO=62.09%
GVO=73.11%
GVO=79.63%
GVO=87.6%
GVO=96.08%
GVO=103.52%
-50
-100
-150
周速度係数
発電方向周速度係数-単位流量係数
20
15
10
単位トルク係数
5
-1.4
-1.3
-1.2
-1.1
-1
-0.9
-0.8
0
-0.7
-5
GVO=0%
GVO=13.58%
GVO=24.28%
GVO=34.41%
GVO=43.86%
GVO=53.21%
GVO=62.09%
GVO=73.11%
GVO=79.63%
GVO=87.6%
GVO=96.08%
GVO=103.52%
-10
-15
-20
-25
-30
周速度係数
発電方向周速度係数-単位トルク係数
図5.3.18
葛野川1号機完全特性
95
100
50
-1.3
-1.2
-1.1
-1
-0.9
-0.8
単位流量係数
-1.4
0
-0.7
-50
-100
-150
-200
周速度係数
発電方向周速度係数-単位流量係数
25
20
15
10
単位トルク係数
5
-1.4
-1.3
-1.2
-1.1
-1
-0.9
-0.8
0
-0.7
-5
GVO=0%
GVO=13.58%
GVO=24.28%
GVO=34.41%
GVO=43.86%
GVO=53.21%
GVO=62.09%
GVO=73.11%
GVO=79.63%
GVO=87.6%
GVO=96.08%
GVO=103.52%
-10
-15
-20
-25
-30
周速度係数
発電方向周速度係数-単位トルク係数
5.3.19 葛野川1号機完全特性(修正版)
96
5.4
結論および今後の展開
両設計手法ともある分野に長けた技術を持つよりも,電気工学,制御工学および機械工学等の全般
に渡る一般知識と本論文の第2章~4章における技術開発の知識ベースを持ってすれば,容易に利用
できるシステムであり,電気事業に携わる技術者向けの設計(解析)手法である。
翼形状設計システムでは,電力系統上の要求品質を把握した上で,流体的な知識を活用し,仕様を
満足する計算を繰り返すことで,要求品質に近づく仕様を絞り込む。設計者はこれを使って,具体的
な計画地点の設計を進め仕様を確定していき,技術育成過程の若年層には,水の流れを形成するラン
ナの翼形状の変化がどんな性能変化につながるかの学習器にもなる。
今後は本設計手法の改良を行い,操作性の向上等を行っていくが,現状実落差換算している性能結
果をモデルベースとすること,基準としている完全特性を切り替えが出来るように改良し,利用範囲
を拡大していく。
また,水力発電所総合解析システムは,水力特性を調整しながら,ガバナの伝達関数に手を加え,
その結果を電力系統の挙動で判断できる。これまでに開発事例の無い各分野の技術が一体となったシ
ステムであり,電力系統の要求品質に対し,1システムによる解析で収束する。多種多様な活用が可
能である,反面操作性にかける部分がある。現在,アドバンストガバナのモデリングを行っており,
完成すれば可変速揚水発電システムを除く水力に係わるほぼ全域の解析が実現する。
97