低層低容積再開発による中心市街地の空間再編および再生プログラム

低層低容積再開発による中心市街地の空間再編および再生プログラム
- 北海道北見市の中心市街地を対象として -
The Revitalizing Programs Based on the Low-Rise Low-Density Redevelopments for Downtown Area
-The Case Study of Downtown Kitami City in Hokkaido空間計画講座 都市地域デザイン学研究室 坂本昌士
Keywords:Downtown Area, Revitarize, Redevelopment, Restructuring
1.背景
中心市街地の衰退が著しい地方都市註 1)では、大
規模な再開発事業註2)の実現が困難である。床需要
などを鑑みると、低層で小規模な建築(以下、低層
低容積建築註3))による市街地整備の実現性が高い。
中心市街地の再生のためには、地方都市に相応しい、
大規模建築に依らない中心市街地の目標像を構築す
る必要がある。
さらに、市街地の目標像と整備手法は密接な関係
にあるため、低層低容積建築による、効果的で波及
効果の高い整備手法の確立が同時に求められている。
2.目的と方法 本研究は、地方都市の中心市街地の効果的な市街
地整備手法である、
「低層低容積再開発」に着目する。
そこで、北海道北見市の中心市街地を対象に、中心
市街地の再生に向けた、低層低容積建築を用いた空
間再編の計画論を提案することを目的とする。
本研究は3つプロセスにより行う。
【①目標像の検討】既往研究や北見市の現地調査によ
り、地方都市の中心市街地の目標像と市街地整備の方向
性を示す。
【②目標像に対応した市街地整備手法の解明】北海道
富良野市、
名寄市、
伊達市の第一種市街地再開発事業 1),2),3)
を対象に、現地調査とヒアリングにより、低層低容積再
開発の方法論を明らかにする。
【③空間再編プログラムの評価】北見市中心市街地を
対象とし、低層低容積再開発を用いた「空間再編プログ
ラム」を作成し、プログラムによる空間面、事業面の効
果を明らかにする。
以上より、中心市街地の再生に効果的な空間再編プロ
グラムを明らかにし、その可能性と課題を明らかにする。
3.地方都市中心市街地の目標像
3-1.北見市の中心市街地の状況
現地調査および、平成22年度都市計画基礎調査図よ
り、中心市街地の建物の利用状況を把握した。
(図1)
北見市の中心市街地は、1層、2層の低層部が全体の
59%を占め、中高層建築はホテルや病院など一部の用途
に限りられおり、建設年度を見ると近年では建設されて
いない。北見市の中心市街地は、低層部分に都市機能が
集約されている。
北見市中心市街地の建物の利用状況
N
【凡例】
自治体施設
200,000
100,000
各層の延べ床面積
5F
4F
3F
2F
1F
用途別延床面積割合
50
オフィス
大規模販売
宿泊施設
(㎡)
(%)
教育施設
医療施設
通信施設
倉庫 100
小規模販売
戸建住宅
集合住宅 業務兼住宅
図1:北見市中心市街地の建物の利用状況状況
3-2.中心市街地の目標像と整備の方向性(図2)
また、植地4) より、北海道釧路市、帯広市においても
同様の結果を得られた。これらより、地方都市では、低
層低容積建築による市街地整備を行う事が、地域の実情
に適した実現性の高い市街地整備の方向性である。
以上より文献整理5),6),7)より、地方都市の中心市街地
の目指すべき目標像と市街地整備の方向性を図2に示す。
娯楽集積エリア
医療・健康・福祉集積エリア
目標像構築
目標像と市街地整備が連動した地方都市に適した中心市街地の形成
エリアごとの将来像を明確化
中心市街地活性化計画 ・業務、商業、医療、福祉、居住など、地区の将来像明確化
・位置付けに則った地区ごとの空間整備目標の構築
用途地域 , 地区計画 , ・低層建築による整備を重視した空間的な調整とコントロール
建築協定等の空間計画 ・関係主体間による将来ビジョンの共有及び分野を横断した協働
総合病院
都心居住促進エリア
商店街
・低層で高密度な市街地空間の形成
・オープンスペースなど歩行空間の充実による回遊性の形成
・建築線や建築高さの統一、色、植栽による低層の街並の形成
・低未利用地への充填による虫食い状の市街地の解消
・駐車場の統合再編による歩車分離と歩行ネットワークの形成
・用途の混合・集積による住民のライフスタイルの多様化への呼応
空間形成
都心居住促進エリア
都市軸
都市拠点集積エリア
鉄道駅
複合交通結節エリア
中枢行政エリア
市街地整備手法の確立
中心商業更新エリア
小さな事業リスクで
連鎖的・面的な波及
効果の創出を重視
・低層建築を中心とした小規模、低リスクな整備
・開発ポテンシャルの分散化、連鎖的な展開による整備
・低未利用地に対する充填的な整備
・土地、建物の非共有化を基本とした整備
・土地の部分的統合、管理を視野に入れた整備
・公共施設など公的ストックの集約・統合化を踏まえた整備
・既存の空きビルを活用した整備
・周辺街区との連続性を考慮した整備
図2:地方都市中心市街地の目標像と整備の視点
Laboratry of Urban and Regional Design, Reserch Group of Human Settlement Design
Masashi SAKAMOTO
4.低層低容積再開発の方法論
「低層低容積再開発」は、図2に対応した、事業の中
で低層低容積建築を重視した市街地再開発事業である。
本研究では、富良野市、名寄市、伊達市の低層低容積
再開発に着目し、現地調査及びヒアリングにより各事業
の特徴を明らかにし、方法論を導き出した。
(図3)
大きな特徴は、①基本的に建物と土地の権利を個別・
分筆所有とすること。②権利床は共有化せず、低層建築
(≦3層)により個別に建て替えのように整備を行うこ
と。③中層建築(≧3層)が保留床を担い、公共施設の
集約化を踏まえた保留床処分を行うことである。
これら等より、事業による地区外移転を極力抑え、地
権者が継続的に事業を展開し、地域ならではの経済活
Ⅰ. 富良野市 , 東4条街区地区第一種市街地再開発事業
動を保全すること、拠点軸や商店街地区など、地区ごと
に適した空間へと再構築できること、事業費を抑え、事
業の実現性を高めながら公共施設の集約化に寄与するこ
と、などの効果が得られる可能性が高い。
低層低容積再開発は、大規模な事業の成立が困難な地
方都市においても有効な手法であるといえる。
5.北見市中心市街地の再生に向けた空間再編プログラム 5-1. 空間再編プログラムの対象地区と方針
整備対象地区として、実際に更新の可能性が高い A か
ら D までの4地区を抽出した(図4)
。特に、A 地区では
商工会議所ビルの老朽化に伴う再開発が現在構想段階に
ある。北見市の中心市街地の再生には、一軸拠点の形成、
Ⅱ. 名寄市 , 風連本町地区第一種市街地再開発事業
道
国
寄
名
錦大
権利状態と空間のダイアグラム
通
条
五
東
総合支援施設
薬局・住宅
通
D 地区
店舗
保育所
共同住宅
市営住宅
地域交流センター
1 街区
国道
狩勝
サ高住
Ⅲ. 伊達市 , 伊達駅前 AB 地区第一種市街地再開発事業
2 街区
3 街区
フラノ・マルシェ開発事業
A 地区
C 地区
B 地区
薬局
店舗
A 地区
事業概要
凡例
権利床
施行者
敷地面積
延床面積
主要用途
保留床
建物の所有者の土地
B 地区
伊達駅
共有化されている土地
まちづくり会社所有の土地
従前
権利変換
…ふらのまちづくり株式会社 (TMO)
…9,604.66 ㎡
容積率:約 94%
…9,032.95 ㎡
…診療所、薬局、店舗併用住宅、サ高住、住宅、保育所
3 街区
2 街区
1 街区
施行者
敷地面積
延床面積
主要用途
A 地区
再開発計画区域
…株式会社ふうれん (TMO)
…12,507 ㎡
容積:約 156%
…9,229.61 ㎡
…公共施設、店舗、共同住宅、住宅
C 地区
B 地区
D 地区
施行者
敷地面積
延床面積
主要用途
AAA 保留床の機能
BBB 地区街区名、周辺施設
…アルファーコート伊達駅前 AB 地区開発株式会社 (SPC)
…3,582.41 ㎡
容積:約 127%
…4747.28 ㎡
…市営住宅、住宅、店舗
B 地区
A 地区
従後
空間
(保留床への矢印は増床したことを意味する)
元土地建物所有者
元借家権者
権利床取得への流れを示している
元土地所有者
凡例
・7 層の共同住宅が 1 棟、店舗や住宅など 3 層の建物 12 棟で構成している。・A 地区に 4 層、D 地区に 2,3 層の公共施設が 1 棟ずつ、低層の建 ・B 地区は 3 層以下の権利床や保留床、A 地区には 5 層の市営住宅
物 5 棟で構成している。
がある。
・複数の街区に及ぶ計画範囲内で、土地や機能の交換を行い店舗は商店街
・分棟型の建物の配置を調整し、広場や駐車場を創出している。 ・2 地区にわたる計画範囲で、土地や建物の交換を行い、通り沿い
の通りへ集約、住宅や駐車場は奥へと、計画的な配置を行った。
・まちづくり会社が駐車場用地を取得、計画範囲の裏側で整備している。 ・建物を、屋根やエキスパンションジョイントでつなげることによ に駐車場、裏側に建物を再配置した。
・床需要にあわせ、B 地区の建物を低層、分棟化とした。
・再開発の中で協調的な建替により建築線を統一し、街並の整備を行った。 り、複数の建物を一棟扱いとし、全て 3 層扱いとしている。
・共用空間の街灯の統一 / プランターの設置等による街並の創出を図った。・建物の配置により創出した広場と集会施設を隣接させ、天候に左 ・建替の際に、駐車場用地を創出している。
右されず、さまざまなイベントを行うことが可能である。
・色合いに関して統一感を出している。
・計画区域内に、計画区域外の部分が飛び地で存在している。
・年間を通して天候に影響されないアトリウムを設置している。
・公営住宅以外の部分を RC 造ではなく軽量鉄骨造にすることで、
・ニーズに合わせて土地と建物の交換 / 供給を行った。
・個人施行とし、土地の分筆所有を可能とした。
・地権者(商業者)のニーズにあわせて、建物の区分所有から低層低容積 ・土地は分筆所有とし、所有に応じた建物の区分所有としている。 固定資産税や将来の更新の際の除却費用を抑えている。
・土地を出来る限り分筆、個人所有としている。
・公共施設と共同住宅が保留床処分の大部分を行っている。
の建物へと計画を変更した。
・従前は土地の細分化や、土地と建物の権利関係が複雑になってい
・7 層の共同住宅が他の低層の建物の容積(再開発要件)を担保している。・農協のホールが他の建物の容積を担保している。
・街区ごとに段階的な整備を行い、商業者の事業の継続を可能としている。・個人の要望を計画に反映させ、土地の個人所有、建物を個人所有 たが、面的な整備を行うことで事業を進めることが可能とした。
・公共施設は、郊外から移転建替を行うとともに、保留床を取得している。 とし、地区外転出者数を低減・商業者の事業の継続を可能とした。・公営住宅が他の建物の分の容積を担保している。
・保育所やサ高住など公共公益施設が保留床処分のメインとなっている。 ・従前に分散していた周囲の集会機能を、再開発と同時に集約した。・地区ごとに段階的な開発を行っていくことで商業者の事業の継続
を可能とした。
・土地を分筆、建物を共有化しないことで、計画区域の飛び地や欠落を可
・老朽化した多数の公営住宅を集約して移転建替を行った。
能としている。
・市や商工会議所、その他多数の出資者によってふらのまちづくり株式会 ・町と町民で出資し、株式会社ふうれんが設立され施行者となった。・民間へのプロポーザルで施行者を決定、SPC を設立し施行した。
社が設立された。
・株式会社ふうれんは解散したが、地区の利用を高めるために風っ ・駅前商店街の人々等による出資でまちづくり会社を設立し、保留
・まちづくり会社が再開発事業だけでなく空き店舗利用やフラノ・マルシェ 子プロジェクトという自主事業の実施団体が設立された。
床処分を行った。
開発事業など、複数のソフト / ハード事業を行っている。
・広場やホールにおいて、様々なイベント活動が行われている。 ・まちづくり会社所有の駐車場はお祭りの際などに、広場として活
用している。
・まちづくり会社が SPC を設立し、保留床を取得している。
・利用者会議を行い利用者のニーズを把握している。
・パブリック的なアトリウムをまちづくり会社が管理することで自由な利
用を可能としている。
仕組み
特徴
主体
V. 可能になること
事業
ⅲ,ⅶ
富
外構
伊 名
名 富
富
空間
伊
名
富 富
建物
伊 伊
名 名
富 富
Ⅳ. 方法論
①地方都市では、低容積の建物で最低限の保留床処分を行うこと。
ⅰ
②複数街区にわたり小規模で低層な建物を用いた整備を行うこと。
ⅶ
③計画区域内に中層建物が 1 棟、その他が低層低容積による建物で構成すること。
④低容積で分棟の建物を作っていく際に個々の建物の建築線や高さを揃えること。
ⅵ
ⅲ,ⅷ,ⅺ
⑤建替の際に、建物の配置を調節し、広場や駐車場を創出すること。
ⅵ
⑥再開発の際に、協調的な建替を行い建築線や色などを統一すること。
ⅵ,ⅷ
⑦共用空間を整備し、街灯の統一や緑を用いること。
⑧建物の配置の調節し屋外空間を整備すること。
ⅷ
伊
名 伊
富 名
富
名
名
富
名
富
施設
富
富名伊
名
富
伊
名
伊
富
名
富
図3:低層低容積再開発の特徴と方法論
機能
凡例
名
富
⑲まちづくり会社等、まちづくりのノウハウを持った主体が再開発を行い市街地を面的に整備すること。
ⅺ
⑳まちづくり会社が保留床を取得し、施設の管理運営等を行っていること。
ⅶ
㉑管理運営する主体が積極的に施設 / 広場の活用を促進していくこと。
ⅶ
名
伊
富
名
富
保留床
主体
空間
名 名
富 富
仕組み
権利床
ⅳ
⑨建物を個別所有 / 土地を分筆所有とすること。
ⅺ,ⅶ
⑩建物 / 機能 / 土地を効果的に配置 / 交換することができる。
ⅰ,ⅴ
⑪建物を低層低容積とすることで、再開発におけるリスクを小さくすること。
⑫小規模な建物を個別に整備し複数街区にわたる整備を段階的に行うこと。
ⅱ
ⅰ,ⅲ,ⅶ
⑬北海道では比較的地価が安いので、計画区域をより広く取り低層で面的な整備を行うこと。
ⅳ
⑭北海道では建物や土地の個別所有の意向が強く、土地を分筆化、建物の非共有化とすること。
ⅴ
⑮保留床は中層の大きい建物へまとめ、権利床は個別に建替のように整備していくこと。
⑯将来の機能の変更のなども考慮した計画をたてること。
ⅴ,ⅸ
⑰集合住宅による保留床処分を行うこと。
ⅴ,ⅹ
⑱公共施設が保留床処分を行うこと。
ⅰ 事業費を低減できる
ⅱ 権利者の地区外への転出を防ぎ、
地元商業者が事業を継続することができる
ⅲ 権利者が抜けても事業に大きな支障を
きたさず、事業を円滑に進行できる
ⅳ 合意形成の円滑化ができる
ⅴ 最開発の実現性を高めることができる
ⅵ 整った景観の形成を行うことができる
ⅶ ヒューマンスケールな空間を
形成することができる
ⅷ 快適な歩行空間やたまりの空間となる広場を
整備することができる
ⅸ まちなか居住に寄与できる
ⅹ 公共施設の集約を行うことができる
ⅺ 市街地に回遊性が生まれる
ⅻ 効率的な施設の活用が可能となり、
施設の利便性が向上する
ー富良野市の事例より明らかになった方法論 ⅰ〜ⅻ
方法論により
ー名寄市の事例より明らかになった方法論
可能になること
ー伊達市の事例より明らかになった方法論
商店街の歯抜けの解消、駐車場の統合など、エリア毎の
課題解決が求められる。従って、経済センターの再開発
を行う際には、飛び地の事業や2地区の事業の同時施行
などにより、周辺への波及効果を高めることが重要である。
北見市中心市街地駅前周辺のエリアの位置づけ
娯楽集積エリア
医療・健康・福祉集積エリア
赤十字病院
都心居住促進エリア
A 地区
都市機能集積エリア
B 地区
大槻ビル
C 地区
D 地区
道銀ビル
1条商店街
Parabo
中枢行政エリア
北見駅
都心居住促進エリア
ルートイン
建設予定地
国道 39 号線
複合交通結節エリア
新市庁舎建設地
エリア
都市機能集積
中心商業集積
都心居住促進
中枢行政
複合交通結節
高次医療拠点
娯楽集積
用途と建物の整備誘導方針
商業・業務機能の集積/公共施設の集約化
老朽建物の更新・リノベーション/一般利用駐車場整備
都心型住宅・高齢者住宅/駐車場の整備
市役所・市議会の整備/集客交流施設の活用
鉄道・バス・タクシーなど交通モードの連携
病院・健康福祉施設/高齢者住宅の整備
老朽建物の更新・リノベーション
容積率(%)外部における街並・景観
200~400 低 P裏 植 中層部セットバック
100~200 低 べ 駐車場と歩行空間の分離
低 P裏 植
100~300
100~300
100~300
べ植
100~300
100~300
路地や看板により界隈性の創出
植
溜まりの空間の形成
雪除けの屋根建設
低 P裏 べ 植
【凡例】
:植栽による快適な OS 創出
:低層部分の街並の形成 P低層の街並
:ベンチなどの配置 植
裏:通りの裏手に駐車場を配置 べ
低層の街並
低層の街並
低層の街並
低:低
整備地区
用途地域
動向
可能性
建築面積 / 容積率
用途
街区空地率
駐車場台数
整備段階
A 地区(1街区) B 地区(2街区) C 地区(2街区) D 地区(1 街区)
商業地域(400/80)
-商業地域(600/80)-
商工会議所ビルの 一軸に隣接しながら 新市庁舎建設に伴う 商工会議所ビル新築
移転
も空洞化が激しい 駐車場ニーズの拡大 ・道銀の移転
975 ㎡ /284.4%
5,985 ㎡ /397.5% 5,152 ㎡ /295.8% 2,859 ㎡ /373.3%
1種類
8種類
8種類
3種類
82.0%
51.0%
58.0%
60.3%
202 台(専用 41) 138 台(専用 76) 167 台(専用 50) 79 台(専用 9)
フェーズ 1,4 フェーズ 1,3,4 フェーズ 1,4
フェーズ 2
図4:北見市の中心市街地と整備対象エリア
空間再編プログラムのルール
フェーズ0
市街地像計画
フェーズ1
対象
対象
A
B
C
A
B
C
商工会議所ビルの移転を契機とした第一種市街地再開発事業
Ⅰ
Ⅲ
Ⅱ
施行者
単一組合施行
単一組合施行
二つの組合施行
B 地区内権利者
C 地区内権利者
B,C 地区内対象建築
権利床 (2,085 ㎡) 対象
B (1,834 ㎡) 対象 B (3,919 ㎡)
保留床
公 保健センター(2,000 ㎡)
民 高齢者住宅(2,600 ㎡)対象
A
民 医療モール
左記+ (2,000 ㎡) 対象 C
再開発ビルに
権利 非共有化し、個別の建物を
各権利者が個別に所有する
共有化する
規模 低層建築(<3層)を基本とする
中層建築(≧3層)
構造 低層建築(<3層)は木造耐火造、中層建築は RC 造
街並 低層部分の軒を揃え、通りに対する統一感を演出
権利 建物と対応した分筆所有による整備
共有化による整備
駐車場 将来的に一体的に計画できるような土地所有による整備
街並 敷地内、隣接街区との連続性を持った整備
対冬季 適切な除排雪を考慮したオープンスペースを確保する整備
土地 外構
対象
A
B
都市全体のビジョン、中心市街地内の地区毎の文脈・実情を鑑み、
公共・経済政策等と連動した空間的な目標像をエリア毎に設定(図4)
建物
Ⅲ二再開発同時施行型
Ⅱ低層低容積飛び地型
5-4. 低層低容積飛び地型による整備の可能性と課題
低層低容積再開発は木造でも整備できるため、 事業費を
更に抑えられる。 これにより、 再開発事業でプログラムを完
結せず、 P2 以降の後続事業への投資が容易となり、 より連
鎖的に市街地空間を再編することに繋がる可能性が高い。
また、 飛び地の計画区域の設定の仕方によって、 密度を
向上させる地区と駐車場の統合を図る地区を誘導できるた
め、 都市や時代毎のニーズに対応しながら、継続的に市
街地空間の再編を行うことができる。
一方で、特に駐車場と商店街に関しては、整備の効果
が表裏一体の関係にあることや、P1 の事業内容により、
2条商店街
Ⅰ低層低容積型
5-3. 空間再編プログラムの評価(表1)
評価項目、①一軸の拠点形成、②商店街の空洞化改善、
③一体的駐車場の形成、④事業費、⑤行政支援の5項目
(以下、
【①〜⑤】を設定し、P1 の事業内容に起因する3
Ⅰ , Ⅱ , Ⅲ )を評価する。
パターンのプログラム( Ⅰ 【①】一軸に約 5,000 ㎡の建物を建設でき、保健
:
センターなど公共施設の集約化に寄与する。
【② , ③】
店舗を個別に建て替え、B 地区内に一体的な駐車場を創
出でき、新たな事業用地として活用できる。
【④ , ⑤】
低層建築により事業費、行政負担を抑えることができる。
Ⅱ:基本的に Ⅰ と同程度の効果が得られる。Ⅰ に加え、
【②,③】より、C 地区のニーズに合わせて、一体的な駐
車場を形成し、B 地区の商店街の空洞化を解消できる。
Ⅲ 【①】拠点形成への貢献が他の2パターンより 1.8
:
倍程度大きく、
【③】の駐車場も大きく創出できるが、
【④,
⑤】事業費・行政負担も約 1.8 倍大きく、権利調整にも
大きな労力が必要となる。
【②】整備による効果が再開
発ビルに限定し、商店街の空洞化を助長してしまう。
Ⅱ の低層低容積飛び地型を組み込
以上を踏まえると、
んだ空間再編プログラムが、小さなリスクで、広く面的
に空間波及効果が得られる整備であることが明らかに
なった。
商工会議所ビル
中心商業更新エリア
一軸
5-2. 空間再編プログラムのルール(図5)
5-1 を受けて、空間再編プログラムは、4つのフェー
ズ(以下、P1 〜 P4)で、再開発事業を含む複数の整備
事業を連鎖的、長期的に展開する。
P1:A 〜 C 地区において事業区域を設定し、組合施行
の第1種市街地再開発事業を行う。P2:現大槻ビル位置
で商工会議所が事業主となる商業ビルを建設する。P3:
現道銀ビル位置に集約型の商業ビルを建設する。P4:P1
で統合された駐車場を種地に、高齢者住宅等を建設する。
また、P1 では、再開発事業のパターンを、低層低容
積再開発の方法論を用いる「Ⅰ . 低層低容積再開発型」
と、
その発展型である「Ⅱ . 低層低容積再開発飛び地型」
、
通常の二つの市街地再開発事業を2地区で同時に展開す
る「Ⅲ . 二再開発同時施行型」の、
3パターンを作成した。
事業主 商工会議所
フェーズ2
業務・商業ビル建設 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 機能 業務((商工会議所+銀行)1,700 ㎡)
共通
対象 D
(現大槻ビル等)
建物 将来的な管理を踏まえた分棟による整備
事業主 商工会議所
フェーズ3
商業ビル建設 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 機能 商業+集会機能(1,700 ㎡)
共通
対象 D
(現道銀)
建物 低層建築(木造耐火造)による整備
商業は
周辺店
舗の集
約化と
新規起
業を推
進する
フェーズ4 Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ 事業主 民間事業者
サ高住建設 対象 各駐車場 機能 集合住宅((高齢者住宅など)3,000 ㎡)
を対象 建物 中高層建築
B C B
【凡例】対象 :関係する整備対象地区を示す A:A 地区 B:B 地区 C:C 地区 D:D 地区
図5:空間再編プログラムのルール
後続の事業内容、特に立地性に影響することから、中心
市街地における空間的な目標像を構築することが必要不
可欠であり、目標像との整合性を図ながら、適切に機能
と建物の再配置を行うことが重要である。
【註釈】註 1)人口 30 万人前後を想定している,註2)本論では第一種市街地再開発事
業を指す,註3)3層以下で容積率 200%程度と定義する,註4)複数の事業を連鎖的・
長期的に展開するための計画及び事業内容と定義する,註5)北見市は過去に大規模な
従来型の再開発事業を計画したが、実現に至らなかった経緯を持つ , 註6)D 地区の計
算時には、1街区と道銀の敷地を合わせて街区面積とする , 註8)既存の同様の形態の
駐車場から台数を設定 【参考文献】 1) 富良野市東4条街区地区第一種市街地再開発
事業 , 2)名寄市風連本町地区第一種市街地再開発事業,3)伊達市伊達駅前 AB 地区第
一種市街地再開発事業,4)植地剛/「地方中核都市における木造コンパクトシティの
空間モデルの提案」,5)(社)再開発コーディネーター協会/「新たな再開発のあり方
に関する提言」,6) 国土交通省/「多様で柔軟な市街地整備手法について,7)遠藤哲
人/「これならわかる再開発」
現状
フェーズ0
全体俯瞰
A 地区
フェーズ1
施行区域
北見市中心市街地における空間再編プログラム
街 5,912 ㎡ B 地区
建 975 ㎡
延 2,776 ㎡
容 47.0% アーケード
A 地区
A 地区
中層部セットバック
B 地区
高
Ⅰ低層低容積型
C 地区
街 11,991 ㎡ C 地区
建 5,985 ㎡
延 23,788 ㎡
容 198.3%
街 12,038 ㎡
建 5,152 ㎡
延 15,239 ㎡
容 126.6%
空 83.0%
駐 202 台
街 5,912 ㎡ B 地区
建 1,691 ㎡ 一体的な駐車場
延 5,263 ㎡
容 92.4%
空 51.0%
駐 138 台
街 11,991 ㎡ C 地区
建 6,006 ㎡
延 23,788 ㎡
容 198.3%
空 58.0%
駐 167 台
街 12,038 ㎡
建 5,152 ㎡
延 15,239 ㎡
容 126.6%
空
駐
空
駐
空
駐
変化なし
(再開発計画区域外)
保
D 地区
低層部の街並み
B- 北街区
従前
50.0%
123 台
B- 南街区
C- 北街区
A 地区
A 地区
58.0%
167 台
C- 南街区
変化なし
(再開発計画区域外)
従後
事業規模 6,685 ㎡(木造 2,085 ㎡)
※補足
木造:417 百万円
総事業費 RC 造:2,072 百万円 建設単価
を木造
1,659 百万円 60 万円、
補助金額
RC 造 120
保留床処分単価
18.4 万円/㎡ 万円/坪
6,070 円/坪・月 とする
賃料単価
施行区域
71.3%
136 台
権利変換 A 地区
4章の低層低容積再開発の方法論を用いる
Ⅱ低層低容積飛び地型
B 地区
高
C 地区
街 5,912 ㎡ B 地区
建 1,691 ㎡
延 5,263 ㎡
容 92.4%
街 11,991 ㎡ C 地区
建 7,940 ㎡
延 25,622 ㎡
容 213.7%
空
駐
空
駐
3層以下の低層建築
保
街 12,038 ㎡
建 4,159 ㎡
延 12,761 ㎡
容 106.0%
一体的な駐車場
D 地区
71.3%
136 台
低層低容積再開発を飛び地再開発を前提として行う 権利変換 A 地区
共同化再開発ビル
事業1
C 地区
C- 南街区
街 12,038 ㎡
建 4,809 ㎡
延 14,861 ㎡
容 324.5%
街 11,991 ㎡ C 地区
建 5,166 ㎡ 共同化再開発ビル
延 21,703 ㎡
容 181.0%
一体的な駐車場
空
駐
事業2
事業規模 10,519 ㎡
総事業費
4,590.0 百万円
3,029.5 百万円
24.0 万円/㎡
7,800 円/坪・月
商業・業務ビル建設
フェーズ2+3
:事業区域
建設単価
を RC 造
120 万円
/坪とす
る
:既存建築物
B- 北街区
B- 南街区
60.0%
197 台
空
駐
新市庁舎への
来場利便性向上
C- 北街区
C- 南街区
従後
補助金額
保留床処分単価
賃料単価
※補足
56.9%
198 台
空
駐
71.3%
136 台
互いの保留床を他方の権利者の入居により処分 権利変換 A 地区
【凡例】
C- 北街区
65.5%
257 台
高保
D 地区
従前
Ⅲ2再開発事業同時施行型
街 5,912 ㎡ B 地区
建 1,691 ㎡ 一体的な駐車場
延 7,114 ㎡
容 120.3%
A 地区
A 地区
B 地区
B- 南街区
空
駐
新市庁舎への
来場利便性向上
従後
施行区域
B- 北街区
従前
事業規模 6,434 ㎡(木造 1,834 ㎡)
※補足
木造:400 百万円
総事業費 RC 造:2,072 百万円 建設単価
を木造
補助金額
1,632 百万円 60 万円、
RC 造 120
保留床処分単価
18.2 万円/㎡ 万円/坪
6,030 円/坪・月 とする
賃料単価
33.8%
82 台
:権利床
:保留床 街:街区面積
フェーズ1のⅠ,Ⅱ,Ⅲに共通の整備
註 7)
建:建築面積合計 延:延床面積合計 容:街区容積率 空:街区空地率 駐:駐車場台数
D 地区現状
フェーズ2の整備
フェーズ3の整備
商工会議所がオフィスビル建設
商工会議所が商業施設と集会施設建設
街 7,201 ㎡
建 2,859 ㎡ 3 層部分:商工会議所
延 10,674 ㎡ 1,2 層部分:道銀
容 148.2%
商工会議所 700 ㎡ 事業規模 集約・起業支援 1200 ㎡
道銀 1,000 ㎡
集会機能 500 ㎡
618 百万円 総事業費
総事業費
310 百万円
補助等 フェーズ1での補償費 補助等 経産省補助(中活事業)
310 百万円(100%)
300 百万円
3.8 百万円/月 賃料収入
2.5 百万円/月
賃料収入
事業規模
街 7,201 ㎡
建 3,267 ㎡
延 9,948 ㎡
容 138.1%
小ホール等集会施設
保障
※建設費は業務:1百万円/坪、商業:50万円/坪 , 総事業費は建設費 ×1.2 とする
高齢者住宅を建設
フェーズ4
フェーズ1のⅠ,Ⅱ,Ⅲによって異なる整備
Ⅰ低層低容積型 B 地区
街 11,991 ㎡
建 7,034 ㎡
延 27,288 ㎡
事業規模 高齢者住宅 3,000 ㎡ (40 戸)
敷地面積 1,000 ㎡程度 高齢者住宅
容 227.6%
統合・再編された駐車場を種地に高齢者
住宅を将来的に建設(※優良再開発)
総事業費
1,100 百万円
補助等 優良再開発による補助
(国 1/3, 市 1/3) 733 百万円
註 8)
D 地区整備後
空 60.3%
駐
79 台
Ⅱ低層低容積飛び地型 C 地区
街 12,038 ㎡
建 4,789 ㎡
延 15,761 ㎡
高齢者住宅
容 130.9%
起業支援・集約型商業施設
空 45.5%
駐
52 台
Ⅲ2再開発同時施行型 B 地区
街 11,991 ㎡
建 6,194 ㎡
延 25,203 ㎡
容 210.2%
高齢者住宅
空
駐
※建設費は1百万円/坪総事業費は建設費 ×1.2 とする
41.3%
61 台
空
駐
空
駐
60.2%
197 台
48.3%
110 台
図6:空間再編プログラム
表1:空間再編プログラムの評価
空間形成
事業性
プログラム評価
評価項目
評価方法(フェーズ毎に累算) フェーズ1終了時
フェーズ4終了時
①一軸の拠点の形成
一軸沿で増加した床面積より[㎡] Ⅰ+2,483 Ⅱ +2,483 Ⅲ +4,283
②商店街空洞化の改善(B 地区) B 地区で増加した床面積より[㎡]Ⅰ±0
Ⅱ +1,834 Ⅲ -2,085
②’商店街空洞化の改善(C 地区)C 地区で増加した床面積より[㎡]Ⅰ±0
Ⅱ −2,486 Ⅲ +1,599
③駐車場の創出(B 地区)
B 地区駐車台数の加減より[㎡] Ⅰ-15
Ⅱ -56
Ⅲ +60
③’駐車場の創出(C 地区)
C 地区駐車台数の加減より[㎡] Ⅰ±0
Ⅱ +90
Ⅲ +30
④事業の成立性
総事業費の逆数より
Ⅰ2,489 Ⅱ 2,472 Ⅲ 4,590
⑤行政支援のしやすさ
自治体の補助金の逆数
Ⅰ830
Ⅱ 816
一軸
5000
行政支援
のしやすさ 1
(1/ 補助金)
商店街
2500(B)
2500
0.5
0.5
1
事業性
(1/ 事業費)
0
50
駐車場(C)
Ⅲ 1,515 【凡例】
100
:Ⅰ,
0
1000
0 1000 2500
-50 -50
0
50
商店街
(C)
100 駐車場(B)
:Ⅱ,
Ⅰ +4,883 Ⅱ +4,883 Ⅲ +6,683
Ⅰ +3,500 Ⅱ +2,334 Ⅲ +1,415
Ⅰ ±0
Ⅱ +514
Ⅲ +1,599
Ⅰ -77
Ⅱ -83
Ⅲ -28
Ⅰ ±0
Ⅱ +30
Ⅲ +30
Ⅰ 4,517 Ⅱ 4,500 Ⅲ 6,618
一軸
5000
行政支援
のしやすさ
(1/ 補助金) 1
商店街
2500
0.5
0.5
1
事業性
(1/ 事業費)
0
-1000
2500(B)
1000
0
0
0
50
100
駐車場(C)
50
100
1000
2500
商店街
(C)
駐車場(B)
Ⅱ , Ⅲ はそれぞれⅠ,Ⅱ,Ⅲと対応
:Ⅲ の整備 Ⅰ 1,196 Ⅱ 1,182 Ⅲ 1,881 Ⅰ ,