内 容 第8回講義 •ヒューマンエラー(前回の復習) •Human Reliability Analysis (HRA) •ヒューマンエラー率の推定 •人間機械共存系としてのインタフェース の高度化 •レポート課題 ヒューマンインタフェースの心理と生理 第8回 エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 教科書: 「ヒューマンインタフェースの心理と生理」 (コロナ社) 1 認知心理学 人間要素を機械と同 人間の高次機能の 様に見る 内面機構を重視 集団としての人間行 動を重視 ヒューマンエラーの 見方 外的な行動をある基 行動の意図形成段 準に照らして、失敗、 階に注目する 成功に分ける 行動の動機に注目 する ヒューマンエラーの 分類 ・スリップ・ラプス ・オミッション (するべきことをしな (意図は正しいが 実行に失敗する) い) ・ミステーク ・コミッション (行動の意図形成 (してはいけないこ とをする) 段階の誤り) ・過誤 (情報処理上の 失敗) ・違反 (動機が良くない) インタフェース設計 への応用 レイアウト設計への 知的支援への認知 感覚・知覚心理特性 心理特性の応用 の応用 効果的な情報共有 形態などの協同作 業場の設計 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 2 • PSA(Probabilistic Safety Assessment) PRAとも(Risk) • 被害発生の可能性の程度を明らかにする。 • イベントツリー手法という解析方法を用い て、事故に至るシーケンスからリスクを定 量的に評価する。 • 事前にシステムの問題となる箇所を摘出し、 て、対策を施すことが可能。 • フォールトツリーにより、各安全機能の故 障確率を算出する。 組織心理学 力点 下田 宏 確率論的安全評価 ヒューマンエラーの三つの見方 行動主義心理学 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 3 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 4 人間信頼性解析とは 第一世代HRAと第二世代HRA • マンマシンシステムでの人間要素の信頼 性を評価する方法論 • ヒューマンエラー発生率を求める解析法 • PSA (Probabilistic Safety Assessment)で人 間要素のエラー率を計算する方法 • HRA (Human Reliability Analysis) 第一世代HRA • • • • 第二世代HRA PSAにHRAを組み込むため の手法 規定の行動通りに行動する か 主にオミッションエラーに着目 インタフェース設計で期待さ れる行動が、人間の基本特 性から見て、どれぐらい達成 されるか • • • • 必ずしもヒューマンエラー確 率を求めるものではない 組織要因を重視 コミッションエラーや違反行為 をも含める 人間の仕事を取り巻く環境要 因・組織要因の潜在的弱点 の評価 第二世代HRAは第一世代HRAのヒューマンエラー確率の精度向上を 目指したものではなく、分析の観点が異なる(相補的) 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 5 第一世代HRA • 下田 宏 6 問題 「原子炉安全研究(WASH-1400)」で最初に用いられた。 • 以下の4つのタスクからなる一連の作業のヒューマ ンエラー率を求めたい。 WASH-1400で使用された人的過誤確率の例 人的過誤発生確率 運転員の行動の種類 3×10-3 一般的過失のヒューマンエラー。ラベルの読み違え、間 違ったスイッチの選択など。 10-2 制御室にはその操作状態が表示されないような、一般 的なしわすれのヒューマンエラー。系統から隔離して手 動試験を行った後、自動系に戻す設定を忘れるなど。 3×10-3 上記と同様のし忘れのヒューマンエラーであるが、その 操作が上記のように最後に行うものではなく、一連の 操作系列の中に戻し操作が組み込まれている場合。 3×10-2 手計算の計算ミス(検算しない場合) 1/N 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 タスクリスト 1.警報(アナンシエータランプの点灯)を正しく認知する 2.警報発生から10分以内に異常の原因を正しく診断する 3.操作盤上によく似た操作器が並んでいる場合、該当の 操作器を選択する 4.値を増加させる方向として操作器のダイヤルを左に回す (ステレオタイプと逆) よく似た形の計器やスイッチが隣接してN個あるときに、 その選択を誤る確率 設備の故障データベースは「故障率」であるのに対し、HRAでは発生確率(無次元量) 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 7 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 8 ヒューマンエラー率推定の疑問 THERPによる推定法 • THERP (Technique for Human Error Rate Prediction) • ヒューマンエラー率とは何か? – ある人がある期間にするヒューマンエラーの数 (回/年)? – 確率? N回中、m回のヒューマンエラーなら m/N? ①ヒューマンエラー率の定義 • ヒューマンエラー率に影響を与えるのは? HEP – 仕事内容、仕事環境、仕事時間、操作マニュアル? – 性格、体調、ストレス、人間関係、組織文化、運? ある種のエラーの回数 エラーの機会の回数 • 基準エラー率 一つのタスクのヒューマンエラー確率 • 求めたヒューマンエラー率の精度は? • 条件つきエラー率 他のタスクの失敗や成功を考慮したときのエラー率 – 誤差 ±10%以内? 桁数が合っている? – どうやって検証するのか? • 統合エラー率 一連のタスクのエラー率 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 9 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下限値 0.01 0.005 0.05 確立された規則や手順に従うことを誤る 0.01 0.003 0.03 0.0001 0.00005 0.001 アナンシータランプを読み誤る 0.001 0.0005 0.005 デイジタル値表示を読み誤る 0.001 0.0005 0.005 アナログ計器を読み誤る 0.003 0.001 0.01 制御盤で間違った操作器を選択する a.よく似た操作器が並んでいる場合 b.操作器が機能別にグループ化されている場合 c.ミミック型制御盤の場合 0.003 0.001 0.0005 0.001 0.0005 0.0001 0.01 0.005 0.001 操作器を間違った方向に回す a.ステレオタイプに合致している場合 b.ステレオタイプに反している場合 0.0005 0.05 0.0001 0.01 0.001 0.1 1つだけのアナンシエータへの対応を誤る 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 • 「異常の原因を診断する」タスクは、その思考プロセスが 複雑すぎて基準ヒューマンエラー率がない。 • ヒューマンエラー率は、利用できる時間に大きく依存する 上限値 巡回点検中にチェックリストを正しく用いて機械の 正しくない状態を誤って認識する 1 時間T[分]以内に診断 できない確率pr 標準値 10 時間信頼性曲線 THERP:基準エラー率の例 単位タスク 下田 宏 10-1 10-2 上限値 10-3 中央値 10-4 10-5 下限値 10-6 1 10 102 異常が発生したことを顕著に示す信号発生後の時間T[分] 下田 宏 11 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 12 THERP:PSF THERP:PSFによる重み付け ③性能形成要因(Performance Shaping Factor; PSF) PSFによる重み付けの例 ストレスレベル 要因の種類 外部要因 内部要因 ストレッサ 区分 熟練者 初心者 2×HEP 2×HEP 段階的にタスクを実行 する場合 HEP HEP 連続的にタスクを実行 する場合 HEP HEP 段階的にタスクを実行 する場合 2×HEP 4×HEP 連続的にタスクを実行 する場合 5×HEP 10×HEP 0.25 0.25 具体的な要因 極めて低い 種々の状況 部屋の構造、作業環境、作業時間、休憩時間、組 織、など 作業手順 手順書、コミュニケーションの方法、作業方法、な ど 作業・機器の特性 ヒューマンマシンインタフェース、作業の複雑さ、緊 急性、連続性、など 人間の特性 訓練・経験度、熟練度、動機、人格、体調、グルー プ内の調和、など 心理的ストレス ストレス持続時間、作業速度と負荷、恐れ、単調さ、 散漫になる環境、など 生理的ストレス 疲労、不快感、空腹感、温度、換気、振動、など 最も良い状態 かなり高い 作業者 極めて高い HEP: 基準エラー率 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 – タスクA → タスクB – タスクBの基準成功確率: 0.9 (基準失敗確率: 0.1) – タスクBのタスクAに対する依存度:中依存 先行タスクの成否が後続のタスクの成否に影響 ゼロ依存、LD、MD、HD、完全依存の5段階 中依存 (MD) 高依存 (HD) 先行ステップ成功時の成功確率 1 19 (基準ヒューマン成功確率) 20 14 • 前提条件 ②タスク間の依存性 低依存 (LD) 下田 宏 タスク間の依存性の計算例 THERP:タスク間の依存性 依存レベル 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 13 先行ステップ失敗時の失敗確率 1 19 (基準ヒューマン失敗確率) 20 • 計算例 依存レベル 1 6 (基準ヒューマン成功確率) 7 1 6 (基準ヒューマン失敗確率) 7 1 (基準ヒューマン成功確率) 2 1 (基準ヒューマン失敗確率) 2 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 中依存 (MD) 先行ステップ成功時の成功確率 1 6 (基準ヒューマン成功確率) 7 先行ステップ失敗時の失敗確率 1 6 (基準ヒューマン失敗確率) 7 タスクA成功時のタスクBの成功確率: (1 + 6×0.9) / 7 = 0.91 タスクA失敗時のタスクBの失敗確率: (1 + 6×0.1) / 7 = 0.23 15 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 16 HRAイベントツリーの例 関連警報に気が付か ない THERP:計算手順 a=0.99992 B=0.0126 b=0.9874 診断を誤る c=0.99985 一次系飽和を示す 警報をチェックしない 蒸気タービン駆動及び 電動の緊急給水ポンプ 作動を確認しない d=0.9984 E=0.0016 g=0.99999 給水喪失警報を 確認しない 緊急給水系ないし常用給水系 不動時の高圧注水系の起動 前手順を抜かす h=0.9984 G=0.00001 H=0.0016 g=0.99999 G=0.00001 給水喪失警報を 確認しない 高圧注水系を起動しない k=0.9999 – 仕事場の状況や仕事の性質を観察して、依存性 やPSFを考慮する (1)人的仕事の単位タスクへの分解(タスク分析) (2)イベントツリーによる人的過誤のシナリオ作成 (3)エラー確率値の割り当て C=0.00015 D=0.0016 e=0.9984 緊急給水弁開を確認 しない ④計算手順と適用例 A=0.00008 K=0.0001 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 SG給水喪失 事故の例 下田 宏 確率論的リスク評価法(Probabilistic Risk Assessment; PRA)のうちで、人間信頼性解析法 (Human Reliability Analysis; HRA)として用いる。 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 17 人間信頼性解析とは 18 HRA実施の全体作業 分析対象のプラント見学(理解) • マンマシンシステムでの人間要素の信頼性を評 価する方法論 • ヒューマンエラー発生率を求める解析法 • PRA (Probabilistic Risk Assessment)で人間要素 のエラー率を計算する方法 • HRA (Human Reliability Analysis) 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 下田 宏 PRA専門家作成のFTA情報の吟味 (PRA,HRA,安全設計・解析、プラント運転員等) 人 的 作 業 の タ ス ク 分 析 19 (1)HRAイベントツリー作成 (2)基準HEP割り当て (3)PSF,従属性の考慮 感 度 解 析 (4)HRAイベントツリーによる 成功・失敗確率設定 (5)修復因子の効果設定 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 P R A ・ F T A へ 情 報 提 供 20 自動化がもたらす人間機械系の副次作用 • 自動化の進展 人間機械共存系としての インタフェースの高度化 • • • • – 人間の役割は • システムが正常に動作しているかどうかの監視 • 自動化されていない範囲の手動制御 • 自動化システムの故障時のバックアップ • 「自動化のアイロニー」 自動化がもたらす人間機械系の副次作用 事故時の人間心理と人間機械系の情報不均衡 直接支援と間接支援 状況認識を支援するインタフェース設計 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 – 自動化により機械がブラックボックス化 – 突発的な事故時に対応ができなくなる • 人間中心の自動化へ – 人を制御ループに組み込む – コンピュータ支援でわかりやすくする – ユーザ参加の設計過程 21 人間機械共存系の状況認識技術 下田 宏 22 人間機械共存系の状況認識技術 (1)状況認識技術の課題 (3)直接支援と間接支援 – 自動系が故障した場合の回復操作、限られた時間内で の意志決定 – いきなり判断することを要求される – 機械の状況をわかりやすく提示することが必要 – 直接支援 • 人に解釈を要求せず、機械の指示通りに振る舞う – 間接支援 • 人に事故の解釈を求める (2)事故時の人間心理と人間機械系の情報不均衡 – すべての事故を想定することは不可能 – 事故時には運転員がホワイトアウトする – 人間の情報処理能力の遅さと機械の速さ – 人間が機械の規定する言語(情報提示と操作)で意志を 伝える – 機械-人間間での情報のやりとりに不均衡が生ずる 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 • 直接支援と間接支援の混在 状況認識の解釈に要する認知負荷を低く 起こっている状況を的確に認識させる 23 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 24 次回の講義 次回の講義では、 インタフェース行動の心理・生理 情報行動計測 講義資料掲載サイト http://hydro.energy.kyoto-u.ac.jp/Lab/staff/shimoda/lecture/ 京都大学大学院エネルギー科学研究科 エネルギー社会・環境科学専攻 下田 宏 25
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