燃料デブリの特性デブリの再臨界の防止

福島第一原発Watcher 月例レポート 2015年5月 燃料デブリの取り出し
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福島第一原発Watcher 月例レポート 2015年5月
燃料デブリの取り出し
概要
燃料デブリの取り出しは、きわめて解決が困難な具体的な課題が浮き彫りになりつつある段階にある。取
り組むべき課題の第一は、高い空間線量率が測定されている原子炉建屋内の除染である。
一方、燃料デブリの位置を特定する作業が始まっている。3月には、ミュオンによる調査により、すでに推
定されていたことだが、1号機、2号機の圧力容器の中には燃料デブリがないことが初めて実証された。
4月19日から20日にかけては初めて格納容器内の状況把握のためのロボットが2台、1号機に投入された
が1台目は脱輪により放棄、2台目は高い放射線によるカメラの故障のため放棄された。しかし、東京電力
は、調査目的である「格納容器内部の情報収集を十分行うことができた」としている。
(「「原子炉格納容器内部調査技術の開発」 ペデスタル外側_1階グレーチング上調査(B1調査) 現地実証試験後の追加
確認結果について 」2015年4月20日 東京電力株式会社 【4月18日、4月19日実施分】
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2015/images/handouts_150420_02-j.pdf )
一方、事故発生以来4年間、中長期ロードマップのもとで、想定された燃料デブリの取り出し工法としては
「冠水工法」が優先的な選択肢であったが、この間の調査において、格納容器シェル部分の損傷等により
「冠水工法」が不可能となる可能性も明らかになり、さる4月30日、原子力損害賠償・廃炉等支援機構から
出された「東京電力㈱福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2015~2015年中長期ロード
マップの改訂に向けて」
(「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2015~2015年中長期
ロードマップの改
訂に向けて」平成27年4月30日原子力損害賠償・廃炉等支援機構
http://www.dd.ndf.go.jp/ddwp/wp-content/themes/theme1501/pdf/SP2015_20150430.pdf )
においては「気中工法」も有力なオプションとして示される状況になってきた。
このレポートは、基本的に表題の年月に東京電力、原子力規制委員会、経済産業省その他から発表された福島第一原
発の現況に関する資料の要点などをまとめたものです。文中「イチエフ」とは、福島第一原発の略称です。
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目次
概要s.1
1 燃料デブリの状態(再臨界の可能性)
1-1 燃料デブリの特性
1-2 燃料デブリの状態
2 燃料デブリの性状、分布
3 燃料デブリの取り出しの主な作業項目と作業ステップ
4 原子炉建屋内の除染
4-1 原子炉建屋内の空間線量率
4-2 原子炉建屋内の除染
5 格納容器等の健全性評価
6 格納容器内で完結した循環注水冷却システムの構築
7 損傷した格納容器の補修
7-1 漏えい個所の特定
7-2 補修技術の研究・開発
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1 燃料デブリの状態(再臨界の可能性)
1-1 燃料デブリの特性デブリの再臨界の防止
国立研究開発法人日本原子力開発機構原子力科学研究所(JAEA)はそのホームページ
( https://www.jaea.go.jp/04/ntokai/fukushima/fukushima_01.html )
で、燃料デブリの特性について、「炉心溶融の際には、核分裂連鎖反応を止める役割を果たす制御棒も同時
に壊れ、燃料デブリとともに本来の位置から動いていると想定されています。この燃料デブリは、水中にお
いて破砕した後、取り出し、保管・管理されることになりますが、このときの状態変化により、再び核分裂
連鎖反応(=再臨界)が起きる可能性が示唆されています。
一方で、ジルコニウム、鉄、コンクリートなど様々な物質が核燃料と溶融・混合した燃料デブリの臨界挙動
は、未だ十分な研究がなされておらず、その取り扱い時における再臨界のリスク評価やそれ自体を防止する
確実な対策が必要不可欠です」としている。
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1-2 燃料デブリの状態
1~3号機の燃料デブリは、「廃炉・汚染水対策の概要」2015年5月28日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会
議
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2015/pdf/150528_01_
2_01.pdf
および「福島第一原子力発電所の状況」2015 年 6 月 3 日東京電力株式会社
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2015/images/handouts_150603_04-j.pdf
によれば、直近3か月において、臨界に達する兆候は確認されていない
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(「廃炉・汚染水対策の概要」2015年5月28日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2015/pdf/150528_01_2_01.pdf )
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(「福島第一原子力発電所の状況」2015 年 6 月 3 日東京電力株式会社
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2015/images/handouts_150603_04-j.pdf )
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2 燃料デブリの性状、分布
「中長期ロードマップの改訂(案)」
(第3回廃炉・汚染水対策チーム「資料4」2015年5月21日
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/t150521_06-j.pdf )
は、13ページにおいて、「現在の原子炉格納容器内は、高線量状態のため進入が困難であり、燃料デブリを実際に視
認できる状況には至っていない」としながらも「1号機においては多くの燃料が溶融して下方 へ移動した可能性が高い。
2号機においても圧容器内部の燃料が減少している」ことを明らかにした。
国際廃炉研究開発機構(IRID)と高エネルギー加速器研究機構が開発を進めてきた宇宙線「ミュオン」を用いた原子
炉透視技術の実施結果ついて、「廃炉・汚染水対策の概要」
(2015年5月28日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2015/pdf/150528_01_2_01.pdf )
は、「5/19 まで測定を継続し、約 3 か月の測定により、データが蓄積し統計誤差が減少したことから、炉心部に大きな
燃料がな いことを定量的に確認できた。3次元評価の精度向上を目指し、測定装置を移動し、5/25 より追加測定を
実施中」としている。
2015年3月20日、東芝と共同で2014年春 から事故による溶融が疑われる2号機と健全な5号機でミュー粒子の測定
を実施してきていた名古屋大学が、別の方式によるミュー粒子の測定の結果、2号機原子炉内部の燃料が減少して
いることを確認し、炉心溶融が裏付けられたと発表した。
( 「名古屋大学プレスリリース」
http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20150320_esi.pdf )
また、国際廃炉研究開発機構(IRID)は、「2号機では、2015年度中*に、IRID組合員である東芝が、「ミュオン散乱法」
で測定開始する計画です」と発表している。
( http://irid.or.jp/topics/%E3%80%8C%E3%83%9F%E3%83%A5%E3%82%AA%E3%83%B3%E9%80%8F%E9%81%8E%E6%B3%95%E3%80%8D%E3
%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E7%82%89%E5%86%85%E7%8A%B6%E6%B3%81%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AE%E9%96%8B%E5%A7%
8B%E3%81%AB/ )
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3 燃料デブリの取り出しの主な作業項目と作業ステップ
(「廃炉・汚染水対策の概要」 2015年5月28日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2015/pdf/150528_01_2_01.pdf )
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4 原子炉建屋内の除染
4-1 原子炉建屋内の空間線量率
直近の1~3号機原子炉建屋各階において測定された空間線量率の最大値は、
1号機1階1662mSv/h、2階100mSv/h、3階50mSv/h、4階80mSv/h、
2号機中地下階50mSv/h、1階40mSv/h、2階23mSv/h、3階13mSv/h、5階33mSv/h、
3号機中地下階130mSv/h、1階124mSv/h、5階28mSv/hである。
(「建屋内の空間線量率について」2015年5月8日東京電力株式会社
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/f1/surveymap/images/f1-sv3-20150508-j.pdf )
参考:「放射線業務従事者及び防災に係る警察・消防従事者に認められている上限は年間 50,000 マイクロシー
ベルト (50 ミリシーベルト)です。」 (「 「マイクロシーベルト」などについて」 2011 年 4 月 18 日 JAEA
https://www.jaea.go.jp/fukushima/pdf/gijutukaisetu/kaisetu01.pdf )
※ ただし、上記の測定値は時間線量率です。
4-2 原子炉建屋内の除染
4-2-1 1号機
5月15日、オペフロのがれき撤去のために建屋カバーの撤去に着手したが、「原子炉建屋3階
機器ハッチ開口部に設置したバルーンが、所定の位置に設置されていないことが確認され、
復旧に時間を要することから、屋根パネルの取り外し作業を延期」している。
(「福島第一原子力発電所の状況」 2015 年 6 月 3 日東京電力株式会社
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2015/images/handouts_150603_04-j.pdf )
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4-2-2 2号機
福島第一廃炉推進カンパニーは、 2号機のオペフロにおいては、「測定された線量分布を基に、
既存除染技術による除染後の線量率を評価したところ、20~50mSv/hと目標線量1mSv/h(床上
1m)を大きく上回る結果が得られ」、除染が進んでいないことを明らかにしている。さらに「目標線
量を達成したとしても、作業量を想定すると膨大な作業員が必要となることがわか」ったとしている。
(「福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策の現状」2014年12月1日 福島第一廃炉推進カンパニー
http://www.nrmc.jp/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/12/17/j7.pdf )
4-2-3 3号機
同じく福島第一廃炉推進カンパニーによれば、 3号機においては、「平成25年10月15日より、燃料
取り出しカバーや燃料取扱設備の設置作業に向け、オペフロ上の線量低減対策(除染、遮へい)
を実施してき」たが、「除染による線量低減実績が当初の想定より低く、オペフロ上で人による作
業が困難であることから、追加対策を実施して」いるとのことである。
(「福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策の現状」2014年12月1日 福島第一廃炉推進カンパニー
http://www.nrmc.jp/report/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/12/17/j7.pdf )
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5 格納容器等の健全性評価
冠水工法時、冠水による自重の増加の評価、地震の発生時に格納容器等の原子炉構造物が耐えられるかどうかの健
全性の評価については、2011年より技術研究組合 国際廃炉研究開発機構(IRID)が2016年度に向けて研究・開発に
当たっている途上であるが、すでに2013年度において下記のような、健全性に対する評価が未確定の部分、不安な評
価が浮き彫りになっている。
同機構の「平成25年度実績概要 圧力容器/格納容器の 健全性評価技術の開発」平成26年5月29日
( http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/0529/140529_01_041.pdf )
は、原子炉容器、RPVペデスタルの耐震強度評価 については、「現状及びPCV冠水までに想定されるプラント状態にお
いて、地震応答解析結果 から得られる荷重に対して一次応力を評価した」なかで「 RPVペデスタルでは、現状、落下し
た溶融燃料デブリによる侵食等の影響が考慮できておらず、今後、侵食影響をどのように想定するかも含め、検討が
必要」であり、「サプレッションチェンバ支持構造物については許容値を上回る結果となった」と報告している。
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6 格納容器内で完結した循環注水冷却システムの構築
事故発生直後から重要な課題であることを認識されていた、損傷した格納容器の補修・止水に必要な原子炉注水冷
却ラインの小循環ループ化(格納容器循環冷却)については、
「中長期ロードマップの改訂(案)」
(第3回廃炉・汚染水対策チーム「資料4」2015年5月21日
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/t150521_06-j.pdf )
においても、「燃料デブリ取り出しのための原子炉格納容器の止水・補修作業を開始するまでに、原子炉格納容器か
らの取水」方法を確立し、原子炉注水冷却ラインの小循環ループ化(格納容器循環冷却)を図る。」(p.16)その上で、
「原子炉建屋の水位低下等の対策により、原子炉建屋から他の建屋へ滞留水が流出しない状況を構築する。まずは、
いずれかのタービン建屋を循環注水ラインから切り離す」(p.9)としており、手つかずの状態である。
なお「循環注水冷却スケジュール」 ( 2014/12/25東京電力株式会社
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/images/d141225_06-j.pdf )
にある2015年度に運用が開始される「循環ループ縮小化工事」は、「屋外移送配管の漏えいリスク低減等を行う」た
めのものであり、原子炉注水冷却ラインの小循環ループ化「格納容器循環冷却」とは直接の関係はない。
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7 損傷した格納容器の補修
7-1 漏えい個所の特定
1号機においては、 2013年11月13日、カメラ撮影により、サンドクッションドレンパイプからの水の流出が観測された。
(「福島第一原子力発電所 福島第一原子力発電所 1号機ベント管下部周辺の調査結果 1号機ベント管下部周辺の調査結果 につ
いて」2013年11月28日東京電力株式会社
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/131128/131128_01nn.pdf )
また、 2014年5月27日には投入した調査装置によりS/C上部(X-5E近傍)の漏えい箇所が特定されている。
(「福島第一原子力発電所1号機S/C(圧力抑制室)上部調査結果について 」平成26年5月27日東京電力株式会社
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/handouts/2014/images/handouts_140527_06-j.pdf )
3号機においては、2014年5月15日、カメラ撮影により、主蒸気配管 D の格納容器貫通部の 伸縮継手周辺からの
漏えいが確認された。
(「3号機 主蒸気隔離弁(MSIV)室内 調査結果について平成26年5月29日東京電力株式会社
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/0529/140529_01_036.pdf )
2号機においては、2014年7月16日~7月24日、研究開発中のトーラス室壁面調査装置(水中遊泳ロボット、床面走
行ロボット)を用い、2号機のトーラス室壁面(東壁面北側)を対象に調査が行われたが、水の流れは確認されな
かった。
(「福島第一原子力発電所 2号機トーラス室壁面調査結果について(研究開発の実証試験報告)」平成26年5月27日東京電力株式
会社
http://irid.or.jp/_pdf/gengorov_trydiver.pdf )
また、2号機においては、 8 月より実施予定の格納容器ペデスタル内プラットホーム状況のロボットによる調査に向
けて、調査装置を投入する格納容器貫通部(X-6 ペネ)の前に設置された遮へいブロックを、 遠隔操作にて 6 月より
撤去する予定である。
(「廃炉・汚染水対策の概要」 2015年5月28日廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議
http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/decommissioning/committee/osensuitaisakuteam/2015/pdf/150528_01_2_01.pdf )
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7-2 補修技術の研究・開発
格納容器の補修技術の研究・開発については、損傷、漏えい個所の位置、状態の確認等がごく一部しか実施され
ておらず、手探りの状態である。研究・開発に当たっている技術研究組合 国際廃炉研究開発機構の鈴木俊一研究
推進部長は2014年11月25日に開催された文部科学省・東京工業大学共催 廃止措置・人材育成ワークショップに
おける講演「廃炉研究開発の状況と今後の課題」
( http://irid.or.jp/_pdf/20141125.pdf )
において、格納容器下部の補修技術については2016年度、格納容器上部の補修技術については2017年度を開発
の目標年度としている。
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