健常皮膚表在細菌叢の研究 - 日本皮膚科学会雑誌 検索データベース

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日本皮膚科学会雑誌 第81巻 第6号
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健常皮膚表在細菌叢の研究
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第1編 気象条件と葡萄球菌の動態に就て
中 条
知 孝*
Studies on Bacterial Resident
Flora of the Normal
I.
B ehavior
on 画e Meteorological
of Staphylococci
Tomotaka
Skin Surface
Condition
Chujoh
緒 言
し,気象条件との関連を検討した.以下にその成績を記
皮膚の細菌感染症に主役を演ずる細菌は,多くの場合
したい.
ブドゥ球菌であり,その一次感染症の原因菌の多くは黄
実験材料
色ブドゥ球菌である.その他,皮膚疾患における二次感
被検対象は,健康で,かっ測定部位に皮膚疾患のない
染をも含めて,白色ブドゥ球菌(表皮性ブドゥ球菌)も
男子,30才(対象1),女子(妻), 26才(対象2)の一家
かなりの頻度に分離され,その病原性の有無に関して,
族を被検対象とし,起床時の洗顔,剃髭のほかは測定時
あらためて関心が払われるに至った.一方,この表皮性
まで化粧および洗顔,清拭を避けて自然のままに放置し
ブドゥ球菌は健常人の皮膚表面に恒常的に分布している
た. 日常の入浴時には殺菌剤の含有していないIvoryR
常在細菌叢の主体をなし,皮膚の自浄作用や生理機能に
soapを使用した.住居は東京都下町田市の田園地区にあ
大きな役割を演じていると見なされている.
る木造家屋で,冬季には夜間暖房を用い,夏季には冷房
ブドゥ球菌属はcoagulase産生能およびmannit分解
を使用しない,対象D7)勤務先は,冷暖房の完備したビ
能の有無によりStaphylococcus
aureus, Staphylococcus
ルディングである.
epidermidisに分けられる6).さらに近時Deoxyribonu-
実験方法
clease (DNase)産生能を有する菌株に強い毒性が認め
1)被検部位および材料採取方法
られ,かっその多くはcoagulase陽性株に一致すること
露出部として頬部,被覆部として上胸部(鎖骨中線
から,
上,鎖骨‐乳頭間玉の部位)を被検部位に定め,直径36
DNase産生の有無が重視されている.ときには
coagulase陰性でDNase陽性株に強い毒性が認められた
皿,厚さ7皿の小シャーレ(表面積10cm2)にブドウ球
場合もある.それ故臨床的には,ブドゥ球菌属をば強い
菌(以下ブ菌と略記する)分離培地(スタヒロコッカス
毒力ないし病原性を示す黄色ブドゥ球菌と弱い毒力ない
110“頑研”)を充たし,表面乾燥後,これを被検部位
し弱病原性を示す表皮性プドゥ球菌とに大ざっぱに分け
に約15秒間圧抵するAbklatsch法(Storck)"を用いた.
ることが妥当と考えられる.
圧抵後,この小シャーレを滅菌シャーレ巾に静置して
さきに気象と皮膚感染症に関する研究班が組織され,
37°C,48時間好気性培養した.なお,補助的にマソニッ
気象因子と皮膚感染症の関連にっいての究明が企てられ
ト食塩培地“栄研”も同時に用いた.
た1)2)その一環として,皮膚感染症に重要な位置を占
ズ)プドウ球菌数の測定および同定
めるブドゥ球菌の皮膚表面における季節的変動を把握す
培地上に発育した集落の肉眼的性状並びにGram染
る意味から,著者は一家族を被検対象として本菌の健常
色所見によってブ菌と判定した後,培地を分画し,
皮膚表面における数的動態を2年有余にわたって測定
meterを用いて集落の性状別にその数を算定した上,
*日本・大学医学部皮膚科教室(主任 三浦 修教授)
昭和45年12月22日受付
―
498 ―
count
499
昭和46年6月20日
Bergey's Mannual 0fDeterminative Bacteriology,7ed.
Log
一
一一一
Cheek
Breast
に従ってcoagulase産生能陽性mannit分解能陽性の
ものをStaphylococcus
aureus.その他の性状のものを
3
Staphylococcus epidermidis と同定した.ゆえにcoagulase産生能(ウサギプラズマ“栄研”を用い,試験管法
で3時間および24時間判定した),
mannit分解能,色素
産生能, gelatin分解能,溶血能(人血液)およびDNase
産生能(DNA培地“栄研”)を測定した.なお集落数
2
の表示は,すぺてのブ菌の集落数の総和をlog値で示し
た.
3)気 象
東京管区気象合発表の平均気温と相対湿度により検討
した.
4)測定期間,頻度および時刻
昭和42年2月から昭和44年10月までの2年8ヵ月間,
2たいし4日に1回,被検2例を同時に午後6時ないし
8時の入浴前に測定した.
5)数値検定法
得られた成績の分析に当っては,χ2検定および相関
図1 入浴による皮表ブ菌数の経時的変動
図を用いた.
予備実験
換言すると,皮表のプ菌数は恒常性を有するといえる.
Abklatsch法の信頼度並びに洗顔や入浴等の日常生酒
また菌数り測定は,洗顔や入浴後6時間以上経過後に行
条件の菌数に及ぼす影響を検討した.
なえば,およそ一定の値がえられるものと推定される.
1)
実験成績
Abklatsch法の検討
同一部位に連続5回反複圧抵を試みたところ,集落数
D ブドウ球菌数の季節的変動
に大きな増減がなく,1回目も5回目も近似した集落数
測定された菌数の月平均値と標準偏差および気温と湿
が測定された.すなわち1回の圧抵では皮膚表在のすべ
度の月平均値を表1,図2に示した.これを各月ごとに
ての菌を採取できず,総菌数を示し得ない欠点を有する
有意水準5%で比較検討し,有意差を認める月間の増減
とはいうものの,季節的変動を比較検討する目的には差
支えないと考える.また,この意味で以後集落数を菌数
と記する.
2)石鹸使用の影響
早朝起床時の洗顔は,その前後の比較を試みるに,黄
数をやや増加させる傾向があるのに対して,石鹸を使用
して洗顔してもさほど菌数の減少を来たさない.入浴し
て石鹸洗濡した場合では,入浴直後頬部の菌数は減少す
るのに対して,上胸部では増加し,両部位ほぼ同数の
Log
ms-ii
3
102/10cm2前後の菌数を示すに至る.少なくとも入浴は
全身にブ菌を撒布させると考えられる.そこで入浴後,
経時的に10時間後まで菌数の変動を追求したところ(図
1), 6∼10時間後には頬部,上胸部ともほぼ入浴前の菌
数に戻った.すなわち洗顔や入浴による皮膚表在のブ菌
数の変動は6時間以上を経ると以前の菌数に回復する,
昭和43μ
図2 ブ菌数の月別変動
日本皮膚科学会雑誌 第81巻 第6号
500
表1 プ菌数と気象因子
Subject l
month
year
cheek
Subject 2
breast
cheek
breast
1
レ
』
ど
ぞ
・四xs
Eぴ
コ
;I;
兌
S
又
S
又
S
2
2.827
0.241
0.796
0.609
2.449
0.513
1.010
0.549 j 8.2
3
3.037
0,141
0.516
0.481
2.358
0.707
0.790
0.436
8.8
55.8
4
3.018
0.124
0.511
0.134
2.611
0.448
0.700
0.534
14.6
62.2
5
3.111
0.174
0.954
0.583
2.638
0.332
1.209
0.466
19.8
64.9
6
3.073
Q.309
0.847
0.552
2.215
0.486
0.791
0.583
22.7
69.1
7
3.065
0.246
0.431
0.373
2.315
0.338
0.574
0.390
27.6
72.0
8
2.984
0.273
0.303
0.376
2.401
0.210
0.397
0.329
27.6
66.0
9
2.701
0.253
1.190
0.895 1 2.465
0.119
1.366
0.358
22.8
74.5
2.473
0.138
0.866
0.465
1、560
0.293
0.881
0.141
15.5
57.0
2.786
0.S65
0.285
0.219
2.106
0.485
0.475
0.414
12.4
0,673
0.636
1 0.433
0.436
1.840
0.278
1.462
0.67]
0.474
0.621
0.119
0.492
0.207
7.6
1
2.615
3.033
2
2.808
0.252
0.060
0.120
1.781
0.176
0.969
0.485
2.8
51.0
i 3
2.468
0.398
0.241
0.295
1.552
0.361
1.030
1.057
9.1
47.8
1 4
2.987
62.0
42.
1 ! 10
U
1 12
43.
S
5.3
52.0
61.3
61.0
41.8
0.282
0、322
0、398
2、046
0.594
0.634
0.581
13.9
5
2.616
0.572
0.455
0.651
2.288
0.559
1.134
0.824
17.8 1 58.7
6
3.102
0.228
0.281
0.551
2.369
0.277
1.264
0.507
21.9
7
3.034
0.301
0.743
0.585
2.066
0.420
1.072
0.631
21.6
77.2 ,
8
3.077
0.118
0,610
0.842
2.164
0.381
0.902
0.380
26.5
78.6
9
3、110
0.210
0、668
0.727
1.811
0.527
0.982
0.763
22.3
73.5 1
3.151
0.120
0.572
0.384
2.545
0.132
0.476
0.461
13.9
68.7
3.126
0.143
0.455
0.259
2.105
0.431
0.360
ひ.193
13.9
0.075
0.206
0.311
0.429
0.286
2.08]
1.537
0.628
1
3.134
2.891
0.791
0.396
0.366
0.227
0.376
2
2.831
0.367
0.515
0.466
1.945
0.461
0.398
0.272
3
2.825
0.176
0.419
0.313
1.818
0.670
O・445
0.365
10.8
59.9
4
2.966
0.253
0.548
0.165
1.984
0.389
0.731
0.349
14.8
59.0 !
5
2.720
0.365
0.492
0.357
2.169
0.305
0.532
0.368
19.8
60.8
6
2.859
0.420
0.584
0.622
1.844 1 0.853
0.416
0.337
21.2
66.8
7
2.679
0.754
0.307
0.258
0.545
O、a52
25、7
69.9
8
2.862
0.350
0.806
0.395
1.954 0.513
0.673
0.533
27.0
78.2 i
9
2.514
0.903
0.442
0.474
1.661
0.483
0.495
0.267
21.7
71.6
2.986
0.590
0.680
0.278
1.468
0.550
0.614
0.270
18.2
65.3
10
ll n
12
44.
0.250
i
10
0.419
註 X:集落数の月平均値(log),
1
1 1.697
0、531
9.8
75.3
59.2
6.8
62.0
54.0
5.5
64、5
s:標準偏差
を示したものが図3である.
にとどまつた. b)上胸部 菌数は,頬部より著しく
対象 l a)頬部 菌数は昭和42年5月から8月,
少ないのみならず,頬部にみる程の変動はない.すなわ
昭和43 !f-6月から12月の期間に変動の少ない高値を,昭
ち,昭和42年5月と9月を山とし,8月を谷とするV字
和42年10月から昭和43年3月まで変動のある低値を示し
状曲線を示し,昭和43年2月を低値として7月から10月
たバ川和44年は1月から3月にかけて一時菌数の減少を
の期間には増加を来たし,その後,8月を除いて,昭和
未だし,夏季の増加を示さずに変動の大きい低値のまま
44年10月まで頬部と同様有怠差のない数値を示し仏
501
昭和4石年6月20日
二u
図4 実験期間中の気温および湿度
(対象2)
ているのに対して,昭和43年5月が17.8°C,6月21.9℃
cheek
‰
を示し,さらに7月になっても21.6°Cと冷夏となり,8
へ
10
月になって26.5°Cに達した.すなわち測定期間中,昭和
brea5t
・・-
-■
- 10
43年は他の年に比べて涼しい夏季であったことになる.
一方,湿度は,昭和42年には7月,9月を山とし8月を
谷とするV字状曲線がみられ,8月は他の年に比べて66
図3 ブ菌数変動の有意差(Pく0.05)
%と12%も低い湿度を示している.10月以後,昭和43年
対象 2 a)頬部 対象1より平均して菌数は少な
1月, 41.8%まで低下した後上昇に転じ,6月75.3%と
く,変動が大きい.昭和42年2月以降9月まで高値を,
急峻な湿度上昇を認め,9月まで70%以上を持続して,
以後減少して昭和43年3月まで低値を示し,5月から10
高湿の夏季となった.11月に59,2%に減じた後は他の年
月へかけて高値に転じ,昭和44年1月以降,この年は夏
にみられるような冬季の乾燥期を作らず,昭和44年5月
季にも菌数の増加を示さず,10月に減少傾向を来たし
まで60%前後を持続し,夏季は7月69,9%,僅かに8月
た.b)上胸部 対象1と同様,昭和42年5月と9月を
78.2%と高湿度を示したにとどまつた.
山に8月を谷とするV字状曲線を示し,昭和42年11月か
以上を皮膚表在ブ菌数の月平均曲線と対比してみる
ら昭和43年1月の低値を境に,2月以後8月へかけて対
と,気温の高低とはあまり関係せず,湿度の高低に関係
象1にみられない大きい増加を未だし,10月に減少して
を求め得るようである.平均湿度65%以上になると菌数
以後,昭和44年10月まで比較的変動の少ない低値を示し
が増加してほぼ一定し,65%以下では変動が大きくなる
た.
ようである,昭和42年夏季に.,対象1,2とも上胸部に
小 括
7,8月を谷とするV宇状曲線を示しており,この年の
両対象に一致してみられる所見は,5,6月から9月
湿度もまた8月を谷とするV字状曲線がみられる.
の夏季に,頬部,上胸部とも,菌数の増加が有意の差を
そこで,気温および湿度と菌数の相関を求めた.対象
もって認められることである.その他の月では,ブ菌数
ごと,乱位別に菌数と測定丿の気温,温度との関係を図
は比較的低値かっ変動が大である.このような傾向の中
5(a∼d),図6(a∼d)に示した.気温に関しては,対
にあって両例ともに,昭和42年夏,8月を谷としたV字
匁1,2とも頬部では関連がなく,上胸部では気紐2(トC
状曲線が上胸部にみられたこと,昭和44年は,頬部,上
以上になってやや菌数の高値をみる程度にすぎず,気温
胸部とも夏季に増加傾向がなかったこと,対象2の上胸
との相関はほとんどなト.氾度に.ついては,上胸部にお
部において対象1にみられない増加曲線が,昭和43年3
いては両対象とも湿度の上昇は菌数の増加を招くよ㈲こ
月から9月に認められたことが注目される.前2者にっ
みえる.さらに年次別にみると,対象1,2ともに昭和
いては,生活条件の変化がない故,気象条件との関連の
43年には七胸部において氾度の上昇と菌数の増加との相
検討を要し,後者にっいては昭和43年3月1日,男児を
関が強く認められた.それに反して,昭和44年のごとく
分娩し,授乳したための影響が考慮されねばならぬ.
夏季7月まで平均剛度70%以下である年は,気温の上昇
2)気象条伴(気温,湿度)とブドウ球菌数の変動
が他の年と同じく高気温を呈して乱モの相関が八られ
測定日の気温と湿度の月別平均値を表1と図4に示し
ない.加えて,実験期間中の気温および湿度の有心差を
た.気温は,春の上昇期において,昭和42年および昭和
有意水準5%で求めると,気温はすべて有意の差で‥に坪
44年では,5月平均20°Cに達し,7,8月は25°Cを越え
下降するのに対して,湿度では図7に示すように昭和42
502
日本皮膚科学会雑誌 第81巻 第6号
同
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0 10 20 30 °C
図5a 気温とブ菌数の相関(対象1 頬部)
図5c 気温とブ菌数の相関(対象2 頬部)
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上胸部)
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上胸部)
昭和46年6月加日
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図6c 湿度とブ菌数の相関(対象2 頬部)
図6a 湿度とブ菌数の相関(対象1 頬部)
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・29 40 60 a0 1G㎝
図6b 湿度とブ菌数の相関(対象1 上胸部)
図6d 湿度とブ菌数の相関(対象2 上胸部)
504
日本皮膚科学会雑誌 第81巻 第6号
%
以上の気温が二次的に影響していると考えられる.
ノミlsミ§ら
で万万叉宍と
X
70
\
ベジざ
50
8ぺ
ユゴ41/゛ o
3)ブ菌の生物学的性状および黄色プ菌の出現頻度
Abklatsch法による前記の皮膚表在ブ菌の採取か324
│
1
回行なわれた.分離菌株の生物学的性状はほとんどすべ
てがcoagulase陰性mannit陰性の表皮性ブ菌であ
0
8
り,その申で対象1では12回(3.7%),対象2では25回
10月
(7.7%)黄色ブ菌が検出され,前者では12回申11回
図7 湿度における有意差(Pく0.05)
が,後者では25回申21回が頬部より検出され,残余は胸
年,43年は6月から9月の間,
66.0∼74.5%,
部から検出された.さらに両対象同時に検出されたのは
73.5∼
78,6%と有意差をもって高湿度になっているのに比べて
6回である.これら黄色ブ菌の検出時期は5月から8月
昭和44年は僅かに8月のみが78.2%の湿度上昇を認める
の期間に比較的頻度が高いとはいうものの,年間に分散
にすぎない.また湿度の高い期間は,モの標準偏差が小
して検出された.分離した総菌株数は875株で,その生
さく昭和42年,43年,44年の6月から9月期では,
∼6.6%,
3.8
物学的性状を表2に示す.37株の黄色ブ菌はcoagulase
5.1∼6.8%,5.0∼13.2%であるのに10月
から5月期では,10.0∼16.7%,
産生能,
6.2∼18.1%,8.9∼
mannit分解能とともにDNase産生能が全株
に強く認められた.表皮性ブ菌では,
DNase産生能陽性
19.9%と明らかに差を認め,夏季は高湿の日が連続する
株が,
ことが分かる.標準偏差の上からも昭和44年は他の年に
その活性は黄色ブ菌より弱かった.また,この106株
838株中106株(12.6%)に認められ,いずれも
比べて夏季の湿度の高低差が大きく,高湿の日の連続は
中,頬部から培養されたものが88株(83%)を占めた.
なかったと断定しうる.
これらは黄色ブ菌の検出時ないし,その前後に多く培養
小 括
された.
昭和43年夏季は,湿度70%以上,気湿20°C前後で高湿
小 括
低温の気象を呈し,昭和44年夏季は,湿度70%以下,気
健常皮膚表面から3,7∼1J%の割合に黄色ブ菌が検
温は20℃以上となり低湿高温であった.これに対してブ
出され,そのほとんどが頬部より検出され,必ずしも夏
菌数は,昭和43年夏季の増加が明らかであるのに,昭和
季に頻度が高いとはいえない.そのDNase産生能は
44年では夏季の増加がみられず,昭和42年夏季8月で
coagulase産生能と100%一致する.表皮性ブ菌の中に
は,菌数にV宇状曲線がみられ,これに一致して湿度も
もDNase産生株が12.6%に証され,その多くは頬部か
V字状曲線を呈し,66%と他の年に比べて12%も低くな
ら分離された.
った.すなわち皮膚表在のブ菌数が増加するのは,湿度
総括ならびに考按
が70%以上を示す6月より9月までの期間であり,20°C
東京における気象の特色は,6月から7月へかけての
表2
Coagulase
産生鮨
色素
庖生詣
Gelatin
液化能
溶血能
(人血)
 ̄  ̄ |  ̄
-
- -
-
-
+
otapnyiococcus _
pnide.rmidis 1 +
一 - ・ 一
( 838株)
(37株)
Man 「t DNase
分解能
産生能
一 ・ -
| =∼
Staphylococcus
aureus
健常皮膚表在ブ菌の生物学的性状
+
+
+
+
- -
-
+ | −
+
others
+
十 i 升
+
冊
+
+
升
+
升
+ l −
株 数
245
203
-
-
-
+
64
+
-
52
-
-
45
140
89
+ i +
+
+
+
+
32
3
1
1
昭和46年6月20日
505
梅雨期を含む高温高湿の夏季と,比較的低温低湿の冬季
らかに少なく,7月に初めて通年と同値となる.昭和42
並びにこれら両季の中間を占めて気象的に移行型を示す
年8月は,60%以上の日数にやや減少がみられるのに対
春および秋季より成る.これらの条件下における皮膚表
し,70%以上の日数では明らかに少ない.この2つの現
面の細菌,特にブ菌の数的変動を検討したのが本実験で
象からして湿度が60∼70%を超えるとなんらかの因子に
ある.
より皮膚表面のブ菌数の増加を招くものと考えられる.
実験期間を通じて菌数の動態は一見不規則な曲線を示
さらに最高気温が25°Cを超える日数および日平均気温が
している.しかし,各月間の有意差を求めると割合明瞭
25°Cを超える日数を調べると図10,図11に示すように同
な傾向がみられ,冬季を中心に春秋は菌数がばらつき,
夏季では菌数の増加と一定化が起る.気象条件との比較
≒S
30
検討では,気温には明確な相関がないのに対して,湿度
には,その有意差図が菌数の有意差図とよく一致する
20
故,少なくとも湿度との関係で皮表のブ菌数が変動する
ものと考えられる.ことに注目されるのは,昭和42年8
10
月に著明な菌数の減少がみられたことと,昭和44年夏季
には菌数の増加がないことである.これに対応して湿度
0
も昭和42年8月は減少し,昭和44年では5月まで湿度の
month
上昇がなく,6月から遅れて上昇を開始し,8月によう
図10 気温(maximum)≧25°Cの日数
やく通年の値を示したにすぎない.これをいま少し詳細
に検討すると次のような現象がみられた.各月の湿度が
60%ないしそれ以上および70%ないしそれ以上を示す
日数を図8,および図9に示した.湿度60%以上の日数
は,昭和44年の場合4月から6月まで他の年に比べて明
・:昭和42S
・:昭和43年
●:昭和44年
3
4
5
6
7
8
9
10 卜
m喊h
図11 気温(mean)≧25°Cの日数
期間に同じ傾向が窺える.昭和42年8月では平均気温が
3
4 5 6 7 8 9 10 日
mひnth
図8 湿度が≧60%を示す日数
25°Cを超える日数がOを記録し,このことが菌数の減少
と関連しているのではないかと推察せしめる.しかし,
他には実験期間を通じて気温と菌数の増加との間にはー
定の関係を見出しえなかった.
●:昭和む11
doys
久野4)によると,温熱性発汗は,睡眠時には室温が
●:昭和43耳
A:昭和44証
29°C以上になると始まることから,この附近の温度によ
るものとし,
Blank"も同様な見解を示した.不感蒸泄
はほぼ一定して角質層を通じて水蒸気を放散する.気中
の湿度の低下は皮表面,すなわち角質層からの水分の蒸
散を促進し,角質の水分量を低下させることは容易に想
像され,
]
4
5
6
7
8
9
10
month
図9 湿度が≧70%を示す日数
Blanyは,湿度が60%以上あれば角質層は乾
11
燥せず,70%を超えると急激に角質層の水分量が増加す
ることを実証した.
日本皮膚科学会雑誌 第81巻 第6号
506
角質層が水分を保持する能力にっいては諸説があり,
はないとの通説に賛するものである.
角質層の基底ないしその近くにあるBarrierの存在で説
分離菌の生物学的性状に関しては,
明するもが),水に易溶性物質の存在によるとするも
能,
の7)-9)のほか, Szakall""はこの物質が遊離アミノ酸で
全株にみられたのに比し,色素産生能,溶血能をば一部
はないかと示唆し,
に欠くものがあった.表皮性ブ菌と同定された838株の
Smeenk a
「Rりubeck"はomithine,
mannit分解能,
DNase産生能,
coagulase産生
gelatin液化能が
lysine,arginineらの遊離アミノ酸および未だ分離され得
中にDNase産生能弱陽性株が106株あり,そのうちの
ない微量の物質等が角質層の水分量に関与しているとし
88株(83%)が頬部から分離されており,黄色ブ菌が頬
た.少なくとも角質層自体が水分維持能を持っていると
部から高率に分離されたことと一致して注目される.
考えられる.加えて皮脂が一種のautomatic
黄色ブ菌の同定にはcoagulase産生能とmannit分解
buffer sys-
temのような役割をして角質層の適当な水分含有量を調
能を以つてするほか,最近には,
節維持しているといわれている12)
に高率に証されることから,このことはcoagulase産生
このような状態にある皮膚表面について当教室の岡
能とともに,その病原性を示す指標として指摘されてい
DNase産生能が著明
崎13)は1年間にわたり一家族の皮表水分量を測定し,月
る.しかるに岩田ら15)はcoagulase陰性株中に8株(4
平均気温25°Cを超える7月ないし8月に著明な増加を認
%弱)のDNase陽性株が含まれ,この中6株はDNase
め,気温23°C以下の他の月では,皮表水分量はほぼ一定
活性が弱く,2株はマウスに強い致死的感染を起こした
しており,これには性および年令差がなく,湿度および
という.著者の成績では分離表皮性ブ菌中106株,
水蒸気圧との関係は見出し得なかったと報告している.
%にDNase弱陽性株が分離され,これらの菌株は黄色
しかし,著者の気象条件の分析からすると,湿度70%以
ブ菌の検出時ないしそれと相前後して頻回に培養されて
上の日が,また平均気温が25°O 以上の日が,月間20日以
おり甚だ興味深い.
上ある月は7月,8月の2ヵ月であり,高温高温での発
結 語
汗の増加は日常遭遇するところでもあり,大気中の湿度
30才,男子および26才,女子の一家族を対象に,頬
が高ければ皮表からの水分蒸散を遅延させ,皮表水分量
部,上胸部の健常皮膚表面のブドウ球菌の数的動態を2
は当然増加すると想像される.したがって,角質層の水
年8ヵ月間測定した.
分量は気温25°C以上,湿度70%以上で増加するのではな
1)気象条件,特に気温と湿度との関係を検討して,
かろうかと考える.このような条件をみたす月は通年
特に湿度がブドウ球菌の増殖に関与することが分った.
2)相対湿度か70%以上になるとブドウ球菌の増殖が
6,7,8,9月であり,この時期に皮表のブ菌数も増
加することとべ
起こり,皮表水分量の増加によるものと考えられる.気
加はブ菌の発育に好適であり,そのため皮膚表在ブ菌数
温は20°C∼25°C以上になって二次的に影響を与えるもの
の増加をきたすものと推察される.
と思われる.
| このような性状の皮膚表面から875株のブ菌が分離さ
れ,そのうち黄色ブ菌は37株を算して,その検出頻度
は,対象1では3.7%,対象2では7.7%と女子にやや
3)健常皮膚表面には黄色ブドウ球菌は常在せず,表
皮性ブドウ球菌によって占められる.
稿を終るに当り,終始御懇篤な御指導,御校閲を賜っ
多く,主として両対象とも頬部から検出されている.両
た恩師三浦修教授に深甚なる謝意を表します.なお,本
対象に同時に検出されたことか6回あり,被検対象が一一
論文の要旨は第463回日本皮膚科学会東京地方会で発表
家族かっ夫婦であることからcontaminationを思わし
した.
める.かかる頻度からいっても黄色ブ菌は皮膚常在菌で
文
献
第2編にまとめて記載する.
12.6