Page 1 Page 2 いなど, に基づく ものであると推察される。 しかし, い か

目本大学文理学部自然科学研究所研究紀要
Vo1,25(1990)pp.23−30
熱伝導率測定装置の試作と岩石4種の測定結果
藁谷哲也
A Trial Apparatus for Determining Thermal Conductivity and
Test Results for Four Rock Types
Tetsuya WARAGAI
(Receive(i October 31, 1989)
The characteristics of thermal fatigue fracture in rock and rock surface temperat皿e maxima
induced by insolation are dependent upon thermal rock properties. In this study,to discuss
the relationship between these rock behaviours due to heat and thermal rock properties,thermal
conductivity of rocks is adopted as an element。Speci且cally,a trial apparatus for determining
thermal conductivity by the steady−state method and the test results for four rock types(Table
2)measured on the apparatus are presented。
Utilizing the trial apparatus,it is possible to materialize the steady−state conduction from
upPert・1・werparts,byplacingtheheatingPartab・veandc・・lingPartbeneaththeset・fa
specimen(20x20×5cm)and standard plate(20×20x2cm)made from silicon(Figほ)。As
the test results,mean thermal conductivity values of a standard plate measured on the apparatus
agree to within O,9%with the mean thermal conductivity values of the same plate examined
on the Kemtherm QTM:一D3by the box probe method(Table3).It is estimated that the system
has an absolute accuracy of±1%. For the rock specimens,however,mean thermal conduc−
tivity values(Granite,1.98Wm−1K−11Marble,1.871Sandstone,1.161Tu葺,0.475)determined
on the apparatus were shown37.7%for the maximum value and16.5%for the minimum value
less than the values measured on the QTM−D3(Fig.3), It is supPosed that these differences
were mainly the results of di珪erent measurement methods. Though the apparatus measure the
thermal conductivity values for the whole of the rock specimen,QTM−D3measure the partial
values of the rock surface.
されている。
1. はじめに
一方,熱による岩石の挙動に関する近年の実験的研究
一般に,日射1)2)や火事3)4)5)などの熱による加熱一冷
によると,岩石の熱衝撃疲労による破壊様式や日射によ
却の繰り返しは,岩石を風化させる要因の一つであると
る最大表面温度は,岩種によって異なることが報告され
考えられている。しかしながら,日射による岩石の嵐化
ている9)10)11)。 これは,熱伝導率・比熱・熱拡散率・熱
に関しては,実験的研究や野外観測からその妥当性に異
膨張係数・熱応力などの岩石の熱物性,空隙率や強度な
論6)7)8)が唱えられ,真偽や機構については課題として残
どのいわゆる岩石物性,そして岩石構造や鉱物組成の違
日本大学文理学部地理学教室
Department of Geography,College of Humanities and
〒156東京都世田谷区桜上水3−25−40
Sciences,Nihon University,25−40,Sakurajosui3−
chome,Setagaya−ku,Tokyo,156,Japan
一23一
(23)
藁 谷哲也
いなど,に基づくものであると推察される。しかし,い
ここで,gは熱流束であり,熱流に直角な単位面積を通
かなる物性や岩石学的性質が,このような差異を形成す
して,単位時間当りに流れる熱量を指す。また,比例定
るかについては,これまで十分な実験や議論がなされて
数λは熱伝導率,4θ/4ηは熱流の方向の温度傾斜であ
いない。このことは,岩石の熱風化についての議論を進
める上においても基礎的な課題であると考えられる。
る。ただし,nは熱流方向に沿って測った距離であり,
熱流の方向に温度勾配が負となるため,式の右辺に負の
そこで本稿では,いくつかの熱物性のなかから,熱に
符号をつけてgが正になるようにしてある。
よる岩石の破壊様式や最大表面温度の形成にかかわると
さて,厚さ偽を持つ供試体に表面から下面へ熱流が
考えられる熱伝導率を取り上げ,定常法による測定装置
移動したとき,供試体の表面温度をT53,下面温度を
を試作し,4種類の岩石を試料として熱伝導率を測定し
Ts2とすると,供試体の熱伝導率λ,は(1)式から,
た。また,熱伝導率が既知の材料を試料とした測定,お
4s
λs=9T53一兀’……’…””。り’…(2)
よび非定常法による熱伝導率の測定結果と比較すること
にょり,試作装置の測定精度について検討を加えた。
で求められる。しかし,この式ではgを測定する必要
があるため,既知の熱伝導率λoを持つ材料を供試体の
2・ 熱伝導率の測定原理と試作装置
直下に密着させ,配置した場合を考える。すなわち,こ
岩石の熱伝導率を室内で求める際の測定法としては,
の材料の熱伝導率あは,
国内では円筒直接法と平板比較法(JIS A1412)が一般
ゴo
x・二9乃2−T〆’………’『…”9(3)
的である12)。これらの測定法のうち,コンクリートを試
料とした場合,円筒直接法は平板比軽法より若干精度が
と表わせる。ただし,4・は熱伝導率が既知の材料の厚
高いとされる13)。しかし,これは中空の円筒形供試体を
さ,Tヵ2はその表面温度(二Ts2),Tク1はその下面温度
用いるため整形が容易ではなく,能率的な方法とはいえ
ない。また,非定常法によって熱伝導率を求める測定機
である。したがって,(3)式をgについて解き,これを
(2)式に代入して整理すると,
も市販されているが,高価なのが難点である。これらに
え8一λ。・座9乃一丁・_◆___一_(4)
対して・平板比較法は供試体の作成が容易で製作費が安
40 T3−T2
価であるうえ,供試体の含水比を変えた測定も行なえ
を得る。ここで,T、は熱伝導率既知の材料の下面温度,
る。このため・本研究では岩石の熱伝導率の測定にあた
り,おもにJIS A1412に準拠した秋田・尾坂工4)の方法
T2は供試体下面および熱伝導率既知材料の表面温度,
T3は供試体の表面温度である。これが,平板比較法に
を参考にして,平板比較法(定常法)による測定装置を
よって供試体の熱伝導率を求める基本式である。
試作した。
22試作装置
2−1 測定原理
試作装置は,標準板16)を熱伝導率が既知の材料として
熱伝導によって物体内を移動する熱量は,フーリエの
用い,Table1に示した部品を使って製作した。製作し
法則によって次式のように表わされる15)。
た装置を模式化すると,Fig.1のようになる。この装
9二一λ(4θ/4η)…………・・……一……(1)
置は,おもに供試体と標準板からなる熱伝導部分の上部
Table l Component parts of the thermal conductivity lneasuring apParatus
Main part
Heating part
Acrylic resin cistem(20×20×30,5cm),Pipe heater(500W),Vitreous silica pipe heater
(100W),Agitator,Thermostat
Conductionpart:
Aluminum plate(Upper,20×20×0.5cml Lower,35×35×0.5cm),Rubber sheet(20×20×
0,1cm),Rock specimen(20×20×5cm),Standard plate(made from silicon rubber,20x
20×2cm)・Adiabator(Styroform and Sponge mbber),Windbreak(82×79×67cm)
Cooling part
Electric fan(15cm in diameter),Concrete block(39×19×10cm)
Counting Part
CoPPer constantan thermocouple (0.2mm in diameter),Compensator,Changeover
switch,Ampli丘er(Ampli丘cation factorl×100),Digital multimeter(Philips,PM2517E)
(24)
一24一
熱伝導率測定装置の試作と岩石4種の測定結果
Th論stat
iレAcrylic
resin cistem
Styroform
↓
Vitreous
l l
・siiir
、pi醗
・$耳・n喜e:
A鴨o「
C・mpensat・ri
Pipe heater
}ii隷マ
iiii鐵iiiiii
.・n1’bbef,
1諜
罫bbヒrs恥e礒
傘1
ノ
Aluminum plate
Standard星)late
Concrete
Concrete
b1。孟
/
block
Fan
Fig.1 Schematic diagram illustrating the traial apparatus
に高熱源部分,下部に低熱源部分を配して積み重ね,上
面および下面に合計6本貼り付けた。また,熱流の側方
部から下部への定常熱流状態を実現させるものである。
流出を防ぐため,アクリル水槽から標準板までは,周囲
高熱源部分は,水を張ったアクリル水槽中のパイプヒ
を発泡スチロールとスポンジなどの断熱材で囲んだ。
ーターと石英管ヒーターによって加熱され,水は擁拝器
低熱源部分は,送風機で冷風を送り・アルミ板を直接
で循環される。水温はそれぞれのヒーターに接続したサ
空気にさらして冷却するようにした。なお,装置全体
ーモスタットによって調節され,指定した温度を一定に
は,室内における空気の流動から遮蔽するため・計測部
保つことができる。この高熱源部分の重量は,10k9以
分を除いて風防で囲まれる。
上に達した。
熱伝導部分は,供試体と標準板を重ね合わせ,その上
下にゴムシートとアルミ板を配した。ゴムシートは,供
3.試料および供試体
測定に用いた試料は,熱的性質が異なると推測される
試体や標準板と熱電対との密着性を高めるのに役立つと
花醐岩,大理石,砂岩,凝灰岩の4種類の岩石である
考えた。使用した熱電対は,直径0.2mmの銅・コンス
(Table2)。
タンタン線であり,アルミテープで供試体と標準板の表
花闘岩は茨城県真壁町に位置する加波山の石切場から
一25一
(25)
藁 谷 哲 也
採取されたもので,細粒の黒雲母花闘岩である。この岩
幅20cm,厚さ5cmの平板状に整形し,表面を研磨した
石はおもに石英・斜長石,アルカリ長石,黒雲母,白雲
ものである。含水条件を一定にするため,供試体はすべ
母などの鉱物で構成される17)。大理石は,福島県滝根町
て5か月間自然乾燥させたのち測定に用いた。また,試
の大滝根山から採取された白色の結晶質石灰岩である。
作装置の精度を調べるため,長さ20cm,幅20cm,厚さ
これは等粒状を呈し,5mm以下の方解石粒の集合から
2cmの検定済み標準板を2枚重ね合わせ,これを供試
なる。一方,砂岩は千葉県鋸南町の丘陵地の石切場で採
体とした測定も行った。この標準板の密度は,体積と重
取したもので,粒径0・25mm以下の凝灰質の細粒砂岩
量の測定からH6g/cm3であった。
である。凝灰岩は,栃木県宇都宮市から採取された大谷
4,測定方法および結果
石と通称される淡青緑色のパミス凝灰岩である。試料に
は,長径0,5∼1cm程度の空隙を密に挾んでいる。
熱伝導率の測定は,供試体および標準板に貼り付けた
試料とした岩石のおもな物性値を調べるため,それぞ
熱電対を6点式の冷接点補償器に導き,切換スイッチを
れの岩石から長さ5cm,幅2cm,厚さ1cmの小岩片を
介して熱電対の電圧を100倍に増幅させ,ディジタルマ
作製し・室内で乾燥密度と空隙率を測定した。乾燥密度
ルチメーター(Philips社製,PM2517E)で読み取って
陀は,次式から求めた。
行った(Fig・1)。この際,各測定面に貼り付けた2本
oωW4
ρd二苗ω_肌
の熱電対から得られた温度の平均値(Fig。11T1,T2,
一(5)
T3)が,それぞれ一定(≦0,1℃/min)になった時点を
定常状態と判断し計測を終了した。測定は,T3とT1
また,空隙率πは,
n一鳴一監x100
wω一w3
との差が10℃以上となるようにするため水温を35℃に設
一(6)
定し・先述した岩石と標準板を供試体として,1種類に
で求めた。ここで,伽は水の密度(1g/cm3),W¢は
ついて5回ずつ実施した。
小岩片の乾燥重量,WFωは飽和空中重量,W・は飽和水
供試体および標準板の各測定面における温度変化の一
中重量である。W「¢は,小岩片を105℃に熱した恒温乾
例を,Fig、2に示した。また,Table3に,試作装置に
燥炉におよそ24時間放置したのち,デシケーター内で冷
よる試料の熱伝導率え、の測定結果をまとめた。Table3
却し,秤量して求めたものである。また,冊乞ひと1殊は,
では, λ・の精度を調べるため,同じ試料を用いた迅速
小岩片を3時間真空下に放置したのち,45時間水浸させ
熱伝導率計(京都電子工業社製,Kemtherm QTM−D3)
てそれぞれの条件で秤量して求めた。
による熱伝導率袖の測定結果も合わせて示した。これ
測定の結果・試料とした岩石の乾燥密度は,大理石や
は,非定常法(プローブ法)によって試料の熱伝導率を
花闘岩で約2,7g/cm3,砂岩や凝灰岩で2,2g/cm3以下
測定するもので,(4)式中に示した標準板の熱伝導率λ。
を示した(Table2)。一方,空隙率は,凝灰岩が約40%
は,この測定機で決定されたものである。
と最大を示したのに対して,砂岩は20%,大理石や花闘
Fig,2から明らかなように,各測定面の温度(T1,
岩は1%以下であった。
T2,T3)は水温に追随して上昇し,定常状態に至る。岩
試作装置に用いた供試体は,岩石試料を長さ20cm,
石供試体ではT1,T2,T3は,それぞれ測定開始後5∼
Table2 Some physical properties of samples used for measurements
Sample
Granite
Marble
Sandstone
Tuff
Samp王ing locality
Geological age ρ¢(9/cm3)* η(%)**
Mt.Kaba,Ibaraki
Mt.Otakine,Fukushima
Kyonan−machi,Chiba
Utsunomiya−shi,Tochigi
Standard plate***
Neogene
2.65
1.10
Palaeozoic
2.71
0.319
Neogene
Neogene
2.16
18.9
1.40
42.8
1.16****
ρ¢:Dry bulk density π;Porosity *,**;Calculated from dry weight and saturated weight measured in
the air and water for rock samples・***;Silicon rubber plate examined on the Kemtherm QTM−D3produced
by Kyoto Electronics Manufact皿ing Co.,Ltd. ****:Calculated from volume and weight for a standard
plate specimen.
(26)
一26一
熱伝導率測定装置の試作と岩石4種の測定結果
40
Granite
Marble
9
.〆’
①
』
5
戸一
/ガ
〆
お
お
α 20
κ:.,α・α一伊。
包
! メン・一
の
金・9σ4箪景
←
一ρ’フ
ー一 ρ一 一』r
,.●一●’
10
51
510204060
ρ飴
510204060
/80 300 480
180 300 480
40
Sandstolle
Tuff
9
.β’ρ
①
5
/
邸
ト
区
∈ 20
.β〆
4.ひ・σρ一
・二.
の
、鋳
←
蓄
4
OCσ
:馨せ1・σ二
,◎4「一
甲7
10
5
1
510204060
180 300 480
5 10 20 40 60
180 300 480
40
Standard plate
HWatertemperature
9
0』
./愈等・一伽
5
〆
邸
ト
呂
、戸 !a・登、脚
…i 20
昌
◎一〇T3
●一一・●T2
0…一〇T1
▲一一▲RQom temperature
10
5
1
510204060 180300480
Elapsed time(min)
Fig.2 Temperarure fluctuation of each measurement
idesforspecimens
and a standard plate
−27一
(27)
藁 谷 哲 也
Table3
Comparison of data obtained by the steady−state method with data
obtained by the box probe method
λs(Wm1K 1) λP(Wm−1K−1)***
No,
Range Mean Range Mean
T1* T3** T3−Tl
Sample No.
(℃) (℃) (℃)
Granite 5 20.2 30.9 10.7
1.831∼2.090
1.98
2,736∼2,931 2.84
Marble b 20.6 31.1 10.5
1.784∼1.987
1.87
2,923∼3.030 3.00
Sandstone 5 23。4 33.6 10.2
1.145∼1.205
1.16
1.415∼1.333 1.39
Tuff 5 19.7 32.2 12.5
0.431∼0.523
0.475
0.512∼0.643 0.571
0.195∼0.252
0.235 6 0.229∼0.241
Standard plate 5 20.2 31,8 11.6
0.233****
えs:Thermal conductivity vα1ues for the steady−state method。 λP;丁五ermal conductivity values determined
by the box probe method. No.l Number of measurements. T1:Underside temperature of the standard
p!ate inλ3meas皿ements. T3;Surface temperat皿e o至the specimen inλs measurements. *,**:Mean
temperature for number of measurements. ***;Measurements taken at room temperature. ****=Value
examined on the Kemtherm QTM D3by the box probe method(ゴえo)
6時間で一定温度に達した。供試体とした標準板では,
法(プローブ法)によるものであるが,この結果は,試
一定温度に到達するまでの時聞は,岩石供試体の場合よ
作装置と迅速熱伝導率計による測定値の誤差が,極めて
り速くおよそ3時間であった18)。定常状態に達したとき
小さいことを示している。
のT3とTユとの温度差は,花嵩岩・大理石・砂岩で
は11℃以下,凝灰岩・標準板では11℃以上を示した
しかしながら,試作装置による岩石試料のλ、を迅速
(Table3)Q
花闘岩で30.3%,凝灰岩で16.8%,砂岩で16。5%小さく
Table3に示した試作装置の測定結果から,試料の
えsは,花闘岩と大理石が大きく,ほぼ同じ値(約2W
示された。λ8と2pにおけるこのような関係は,Fig.3
ln−1K−1)を示したのに対し,砂岩(約1Wm−1K−1)や
比べて岩石試料では,λ、は袖に対して大きい開きを持
熱伝導率計による福と比較すると,大理石で37.7%・
のように表わすことができる。これによると,標準板に
凝灰岩(約0。5Wm−1K−1)ではこれより小さく示され
つことが明らかである。
た。また,標準板のλsは0、235Wm−1K}1を示し,測
このような差の生じた原因としては,試作装置そのも
のに起因する誤差が考えられる。また,標準板のλ、と
定した試料の中で最も小さい値が得られた。
迅速熱伝導率計では,λpは花属岩と大理石が約3W
m−1K−1を示したが,砂岩(約1Wm』1K−1)や凝灰岩
(約0,6Wm−1K−1)ではこの1/3以下の値を示した。
λ・の測定値がほぼ一致していることから,測定方法の
違いがとくに岩石試料に反映されたものであると推測さ
れる。以下では,これらの誤差について検討する。
なお,標準板の袖(;λ。)は0.233Wm−1K−1と測定
5−1試作装置の誤差
されている。
試作装置は・平板比較法によって供試体の熱伝導率を
これらの結果から,試料の熱伝導率は為,袖ともに
求めるもので,おもにJIS A1412に準拠した秋田・尾
花闘岩と大理石が最大で,砂岩,凝灰岩,標準板の順に
坂19)の方法を参考にして作製された。かれらはコンク
小さい値を示すことがわかった。
リートを供試体としているが,その測定誤差はおもに低
熱源側の温度の制御と,供試体および標準板側面の断熱
5.考察およびまとめ
効果を高めることによって低く抑えられると指摘してい
本研究では・試作装置の精度を調べるために,2枚の
る。すなわち,温度制御については・制御を行わない場
標準板を重ね合わせて標準板の糧を求める測定を行っ
合はこれを行った場合より,乾燥状態にある厚さ5cmの
ている。したがって,本装置による測定値の精度は,こ
供試体でおよそ2%,厚さ3cmの供試体でおよそ8%
の標準板のλsを迅速熱伝導率計による検定値20と比
低い値を示すとしている2D)。また,断熱効果については,
較することで検討することができる。
供試体と標準板の側面を断熱材で囲むことによって,供
Table3に示したλsとλoの比較から,本装置によ
試体および標準板内部の温度分布が一様となり,格段に
るλsは・迅速熱伝導率計のλoに対して0・851%大きい
高い精度が得られることを報告している21)。
値を示すことがわかった。熱伝導率の測定方’法は,試作
試作装置では,第2章で述べたように,供試体と標準
装置が定常法(平板比較法),迅速熱伝導率計が非定常
板の側面に断熱材を配し,測定にあたっては厚さ5cm
(28)
一28一
熱伝導率測定装置の試作と岩石4種の測定結果
してえ8を求めている。しかし,迅速熱伝導率計では,
3.O
Marble
Granlte
プローブ表面のヒーター線によって,供試体の比較的狭
い部分を加熱する方法をとっている。換言すれば,λsは
.、5
供試体全体のマスとしての熱伝導率を,砺は供試体表
栂
F 2.0
量
T
E
面のミクロな熱伝導率を,それぞれ測定しているという
ことができる。このため,岩石を試料とした場合・迅速
Sandstone
タ
熱伝導率計による袖は,加熱された岩石の表面近くの
●
)
鉱物組成や岩石構造による影響を受け易いと考えられ
る。これに対して,標準板は岩石に比べると極めて均質
儀
バ( 1,0
Tuff
であるため,測定箇所の違いに基づく誤差は低く示され
●
ると考えられる。すなわち,岩石試料におけるλ3とλp
Standard
0
の差が,標準板のそれに比較して大きく示されたのは,
P[ate
1.0 2.O
組成や構造に由来した岩石の不均質性が,測定方法の違
3.O
λS(Wm司K昌1)
いを反映したためであると推察される。
以上に述べてきた点を考慮すると,試作装置によるλs
Fig.3 Relationship of thermal conductivity values
obtained by the steady−state method(λs)
and the box probe method(λp)
の精度については,次のようにまとめることができる。
すなわち,本装置では供試体全体を加熱する方法をとる
の供試体を用いている。しかし,低熱源部分は直接空気
ため,測定値は供試体をマスとしてとらえた場合の値を
にさらす方法を取るため,温度制御は行っていない。こ
示している。乙の測定値には,装置そのものに起因した
のため,コンクリートを供試体とした先述の誤差から推
誤差を伴っている。これは低熱源側の温度を制御してい
定すると,本装置のλ、は,低熱源側の温度制御が行わ
ないこと,供試体と標準板および各部品の間にわずかな
れていないことにより,数%の誤差を伴うと考えられ
間隙が存在することによると考えられる。
なお,本装置と非定常法による測定値との補正方法を
る。
一方,本装置では,高熱源部分の重量は10kg以上に
確立するためには,今後,上述の問題を解決するととも
達し,熱電対を貼り付けた供試体表面(T3の測定面)と
標準板下面(T1の測定面)には,ゴムシートが使用され
に,同じ試料を用いて比熱と熱拡散率を独立して測定
し,測定法による熱伝導率の違いを詳細に検討すること
密着殴が高めらている(Fig。1)。しかしながら,供試
が必要であると考えられる。また,本装置で用いる供試
体と標準板の間(T2の測定面)に設置した熱電対は,ア
体は,大きく,整形に時間を要するため,縮小化を図り
ルミテープで貼り付けただけであるため,この間にはわ
測定の能率を上げることが望まれる。
ずかな闇隙が作られていると思われる。また・熱流の側
方流出を防止するための断熱材は,供試体と標準板の側
面および低熱源側のアルミ板表面などと接着されている
訳ではない。このため,これらの部品の間にはわずかな
間隙が存在すると思われる。このような間隙は,熱流を
側方へ逃していることが予想され,測定値の精度を低下
させる要因になると推測される。
謝辞
本稿の作成にあたり,日本大学文理学部地理学教室の五條英
司教授,小元久仁夫助教授には草稿を読んでいただき・有益な
ご意見を賜った。また,筑波大学の松倉公憲助教授には凝灰岩
の試料を,京都電子工業(株)の藤本伸樹氏には迅速熱伝導率計
を提供していただいた。以上の方々に・感謝の意を表します。
本研究は,1989年度目本地形学連合創立10周年記念大会で発
表したものであり,昭和63年度日本大学学術研究助成金(奨励
5−2 測定方法による誤差
研究)を使用した。
試作装置は・供試体を均等に加熱し,定常状態を実現
一29一
(29)
藁谷哲也
参考文献・註
1) 011ier,C.D.(1963):Insolation weathering:Exam−
ples from Central Australia.ルπ.」.30∫.,261,376−
381。
2)011ier,C.D.呂nd Tuddenham,W。G.(1961):In−
selbergs of Central Australia.Z臨五G60窺o厚,h.,5,
12)Reiter and Hartmanは,岩石の熱伝導率を求める装置
を製作しているが,測定値の精度を確認する必要から,今回
はわが国で一般的な方法を選んだ。
Reiter,M.and Hartman,H.(1971):A new steady−
state method for determining thermal conductivity.
議σ60ρhy5,R65.,76,7047−705L
257−276.
3) Blackwelder,E.(1927)=Fire as an agent in rock
weathering,訊θ80」.,35,134−140.
4) Emery,K,0,(1944)二Brush fires and rock exfoli−
ation. Aηz.Jl Sof.,242,506−508.
13)秋田 宏・尾坂芳夫(1987)=コンクリートの熱物性およ
び熱物性試験に関する一考察,土木学会論文集,No.384,
119−127.
14) 前掲13)
5) OIlier,C.D.and Ash,J.E.(1983):Fire and rock
breakdown. Z8髭ノこ (3〔∼o卿orカh.八「,F,,27,363−374.
6) Blackwelder,E.(1933):The insolation hypothesis
of rock weathering.∠肋z,訊S6ガ,,26,97−113.
7) Griggs,D、T.(1936)=The factor of fatigue in rock
exfoliation.」.G801.,44,783−796.
8) Roth,E.S.(1965);Temperature and water content
as factors in desert weathering. 議 G80Z.,73,454−
468.
15) 岡垣 理(1988);熱伝導,関 信弘編二r伝熱工学』森
北出版,1一一4L
16)迅速熱伝導率計(京都電子工業社製,Kemtherm QTM−
D3)による検定済みのシリコンゴム製試料
17)高橋裕平(1982)=筑波地方のカコウ質岩類の地質.地質
雑,88,177484.
18)標準板の厚さは,岩石供試体の1/2以下であるため,短時
間で一定温度に達したと考えられる。
19) 前掲13)
9) 小林良二・酒井 昇・松木浩二(1983):岩石の熱疲労に
関する実験的研究.日本鉱業会誌,99,81−86.
20) 気温よりT3を7℃程度高く,T1を冷却機を用いて7℃
程度低くする方法と,T3を気温より20℃程度高くし,低熱
10)酒井 昇・松木浩二(1987):熱衝撃疲労試験による岩石
の物性変化の評価に関する研究.応用地質,28,126−140.
源側を直接空気にさらす方法の2種類の温度設定による測定
値の比較。
11)McGreevy,J.P.(1985): Themal properties as
controls on rock surface temperature maxima,and
possible1mplications for rock weathering, Eζzr読
れているが,秋田・尾坂(1987)によれば,側面を断熱した
3乞‘7血68Pプ068∬85碗4加π覇07刀z3,10,125−136.
いる。
(30)
21)JISでは供試体の厚さを2.5cm以下にすることが規定さ
場合,供試体の厚さは5cm程度に増やすべきであるとして
一30一