衣料品販売企業の顧客満足度を分析

衣料品販売企業の顧客満足度を分析
──ユニクロなど3社の高評価の要因は?
日本生産性本部(サービス産業生産性協議会)
主任経営コンサルタント 小倉高宏
顧客満足度に関する消費者評価の総合調査として、様々な業界を対象に毎年実施している「日本版顧客
満足度指数(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index)」。衣料品販売の主要14社に関する
2014年調査の結果、6つの指標の中核となる「顧客満足」の1~3位は「ユニクロ」「earth music&
ecology」
「アカチャンホンポ」となった。ターゲット市場が異なる3社が高い評価を受ける要因を分析する。
調査では対象の14ブランド(本稿
者に100問のアンケートを実施。その
顧客
期待
サービスを利用する際に、利用者が事前に企業・
ブランドに対して抱いている印象や期待
知覚
品質
実際にサービスを利用した際に感じる、品質への
評価
知覚
価値
受けたサービスの品質と価格・手間暇を対比して、
利用者が感じる納得感、コストパフォーマンス
全体
バラツキ
結果を6つの指標ごとに100点満点で
表す(各指標の関係性は図表1参照)。
指標は「顧客満足」を基軸に、その原
因となる「顧客期待」
「知覚品質(品
質評価)
」
「知覚価値(コストパフォー
ニーズ
顧
客
満
足
結果系
考のコナカは230人)ずつの利用経験
原因系
末尾を参照)について、約310人(参
図表1 JCSIのモデル図
利用し
て感じた
満足の
度合い
信頼性
内容魅力
知覚品質
満足を構成する
満足/不満足
(全体的な
品質評価)
原因
の結果
推奨
意向
利用したサービスの内容につ
いて、肯定的に人に伝えるか
どうかのレベル
ロイ
ヤル
ティ
今後もそのサービスを使い続
けたいか、もっと頻繁に使いた
いかなどの再利用意向
サービス
情報提供
窓口対応
推奨意向
(他者への
推奨意向)
品質対価格
知覚価値
価格対品質
顧客満足
(コスト
パフォーマンス
お得感
ロイヤルティ
(将来への
再利用意向)
顧客期待
マンス)
」
、満足・不満足の結果である
(企業・ブラン
ドへの期待)
「推奨意向」
「ロイヤルティ(再利用
全体
全体
ニーズ
信頼性
選択満足
生活満足
関連購買
第一候補
頻度拡大
持続期間
意向)
」の合計6つである。
1位はユニクロとアカチャンホンポで分ける
13年のJCSI調査で「顧客満足」1位のearth music&
ecology(以下、本文内では「アースミュージック&エ
6指標ごとの上位7社を示した図表2をみると「顧
コロジー」と表記)は「顧客満足」と「推奨意向」が
客満足」で5年ぶりにトップに立ったユニクロは「知
2位、
「知覚価値」と「ロイヤルティ」が3位になるな
覚価値」
「ロイヤルティ」でも1位となった。ユニク
ど、こちらも多くの指標で評価の上位に入っている。
ロは「知覚品質」で2位、
「顧客期待」で同点2位に
なるなど、利用者の評価は高い。
アカチャンホンポは品質訴求、他の2社はコスパ型
「顧客期待」
「知覚品質」
「推奨意向」で首位のアカ
この上位3社について「顧客満足」と他の5指標の
チャンホンポは「顧客満足」でも3位の高評価である。
スコアを図表3に示した。原因系指標をみると、ユニ
図表2 JCSI6指標ごとの上位7社(正規調査13社中)
順位
原因系指標
顧客期待
知覚品質
知覚価値
1
アカチャンホンポ
アカチャンホンポ
ユニクロ
2
AOKI
ユニクロ
3
ユニクロ
(同点2位)
4
顧客満足
結果系指標
推奨意向
ロイヤルティ
ユニクロ
アカチャンホンポ
ユニクロ
ハニーズ
earth music&
ecology
earth music&
ecology
はるやま
AOKI
earth music&
ecology
アカチャンホンポ
ハニーズ
earth music&
ecology
はるやま
earth music&
ecology
しまむら
西松屋
AOKI
しまむら
5
earth music&
ecology
はるやま
西松屋
(同点4位)
ハニーズ
ユニクロ
アカチャンホンポ
6
洋服の青山
ローリーズファーム
はるやま
しまむら
GAP
ZARA
7
ローリーズファーム
(同点6位)
GAP
ローリーズファーム
ローリーズファーム
洋服の青山
AOKI
46
日経消費インサイト 2015.3
プロモーションの「広告の内容(チラシ情報等)の
図表3 「顧客満足」上位3社の6指標ごとのスコア
(満点は 100)
75
73
71.4
65
63
61
69.8
68.5
69 68.1
69.1
65.2
66.6
カチャンホンポが高い評価を得る一方、アースミュー
70.6
71
67
適切さ」では、顧客満足1位のユニクロと同3位のア
ユニクロ
ジック&エコロジーは10位にとどまる(図表4A)。
アカチャンホンポ
68.9
やイベント、キャンペーンの魅力」では2位のGAP
65.7
65.0
63.3
をわずかに抑えてトップとなり、ユニクロも3位につ
62.7
61.2
earth music&ecology
60.3
59
59.8
59.1
58.9
57
ロイヤルティ
原因系指標
推奨意向
顧客満足
知覚価値
知覚品質
顧客期待
55
しかし、アースミュージック&エコロジーは「セール
結果系指標
けた(図表4B)。
実用面の満足度、3社が上位独占
商品力の面では、3社で「購入商品の実利用での満
足」の1~3位を占め、実際に着用した際の満足度の
高さが際立つ(図表4C)。「商品を選ぶ楽しみ」の1
位はアースミュージック&エコロジー、「PBなどオリ
ジナル商品の充実」の1位はユニクロであり、同じコ
クロとアースミュージック&エコロジーは「知覚品
スパ型の2社でも評価の傾向は異なる(図表4D、E)。
質」より「知覚価値」が高く、
「知覚価値」と「顧客
ユニクロは実用性とオリジナリティーでの評価が高い
満足」は同程度である。コストパフォーマンスが評価
が、商品選びの楽しみでは8位にとどまる。
される企業の多くは、こうした山型のグラフ形となる。
一方、アカチャンホンポは「知覚価値」より「知覚品
質」が高く「知覚品質」と「顧客満足」が同程度であ
る。こうしたM字型のグラフは品質訴求型といえる。
結果系指標については、他人への「推奨意向」が高
く、自分自身の「ロイヤルティ」は低いのがアカチャ
ンホンポで、逆に「推奨意向」は低いが「ロイヤルテ
ィ」は高いのがユニクロである。
こうしたJCSIのグラフ形状は他のサービス業でも
表れる。例えばユニクロのようなコストパフォーマン
ス型の折れ線は、飲食業ではサイゼリヤやガスト、交
図表4A~L サービス品質(SQI)の評価(7段階評価の平均値)
【プロモーション】
A)広告の内容(チラシ情報等)の適切さ
4.00
4.50
はるやま
4.97
アカチャンホンポ
4.96
4.87
コナカ
4.86
AOKI
4.85
西松屋
4.85
4.75
ローリーズファーム
4.68
earth music&ecology
求型ビジネスホテルにみられる。アカチャンホンポと
H&M
4.41
GAP
4.40
ーホテルにみられる。
ユニクロは広告、セールの両面で高評価
4.50
4.19
ZARA
B)セールやイベント、キャンペーンの魅力
4.00
4.50
5.00
5.38
GAP
5.16
ユニクロ
ハニーズ
品質(Service Quality Index:SQI)を「1~7」の
アカチャンホンポ
5.14
「プロモーション」
(A、B)
、
「商品力」
(C~E)、
「 店 舗・ 陳 列・ 表 示 」
(F~J)
、
「 従 業 員 」( K、
L)
」の順に検証しよう。
5.05
5.04
はるやま
4.97
4.97
AOKI
洋服の青山
4.88
H&M
4.85
ZARA
4.84
コナカ
しまむら
西松屋
6.00
5.42
ローリーズファーム
社の評価平均のランキングを図表4A~ Lに示した。
5.50
earth music&ecology
JCSIでは6指標とは別に、40項目前後のサービス
7段階評価で調査。その代表的な項目について、14
6.00
4.95
しまむら
洋服の青山
ハニーズ
フルサービスの大手航空会社、客室単価の高いシティ
5.50
5.22
通機関ではLCC(格安航空会社)、宿泊業では価格訴
似た品質訴求型の形状は、ロイヤルホストやデニーズ、
5.00
ユニクロ
4.80
4.74
4.70
日経消費インサイト 2015.3
47
図表4A~L サービス品質
(SQI)
の評価(7段階評価の平均値)
【商品力】
図表4A~L サービス品質(SQI)の評価(7段階評価の平均値)
【店舗・陳列・表示】
C)購入商品の実利用での満足
4.00
F)店舗の全体的な清潔感
4.50
5.00
5.50
ユニクロ
4.00
6.00
4.50
5.00
5.50
ユニクロ
5.45
アカチャンホンポ
5.34
アカチャンホンポ
earth music&ecology
5.31
earth music&ecology
6.00
5.59
5.53
5.50
AOKI
5.30
GAP
5.49
はるやま
5.29
ローリーズファーム
5.48
5.40
ZARA
5.27
はるやま
ローリーズファーム
5.26
コナカ
5.40
ハニーズ
5.26
AOKI
5.38
洋服の青山
5.24
洋服の青山
コナカ
5.24
ZARA
5.23
ハニーズ
GAP
5.12
しまむら
5.02
しまむら
5.02
4.98
H&M
D)商品を選ぶ楽しみ
4.00
5.29
5.05
西松屋
5.09
H&M
西松屋
5.36
5.30
G)商品・サービスの陳列・表示の適切さ
4.50
5.00
5.50
6.00
5.16
earth music&ecology
5.13
H&M
5.10
ZARA
4.00
4.50
5.00
アカチャンホンポ
ユニクロ
5.10
earth music&ecology
5.08
ローリーズファーム
5.07
ハニーズ
5.02
GAP
5.06
ローリーズファーム
5.00
アカチャンホンポ
5.03
ZARA
4.98
ハニーズ
5.01
GAP
4.97
4.96
ユニクロ
4.76
洋服の青山
AOKI
4.61
しまむら
はるやま
4.59
はるやま
4.73
H&M
4.72
4.48
洋服の青山
E)PBなどオリジナル商品の充実
4.00
4.75
H)商品の探しやすさ
4.50
5.00
5.50
6.00
5.14
ユニクロ
ZARA
4.97
4.00
4.50
5.00
earth music&ecology
5.35
5.27
ローリーズファーム
GAP
4.95
アカチャンホンポ
H&M
4.92
ハニーズ
5.23
5.19
earth music&ecology
4.90
GAP
5.14
アカチャンホンポ
4.90
はるやま
5.13
4.87
西松屋
4.79
ローリーズファーム
ハニーズ
AOKI
4.69
4.63
コナカ
5.09
AOKI
5.08
ZARA
4.98
4.96
しまむら
4.58
西松屋
4.57
洋服の青山
はるやま
4.55
しまむら
4.53
買い回りのしやすさ、それぞれに支持
5.08
ユニクロ
洋服の青山
コナカ
6.00
4.81
AOKI
4.62
コナカ
5.50
4.82
コナカ
4.79
しまむら
6.00
4.94
西松屋
4.89
西松屋
5.50
5.10
H&M
4.96
4.75
4.52
ク&エコロジー、3位にアカチャンホンポが入り、
「価格表示の適切さ」の1位はユニクロである(図表
店舗・陳列・表示の評価については「店舗の全体的
4H、I)。「施設・設備の利用しやすさ」では、ユニ
な清潔感」
「商品・サービスの陳列・表示の適切さ」
クロが1位、アースミュージック&エコロジーが2位
で3社が1~3位を占める(図表4F、G)。「顧客満
だ(図表4J)。
足」で上位にある企業は、店内外をクリーンに保つこ
企業ごとに順位の低い項目はあるものの、全般的に
とや顧客目線での陳列・表示といった、店舗運営の基
は商品や価格の視認性、試着室など店内の施設・設備
本的な点における評価がやはり高い。
の利便性を高めることで、買い回りのしやすさを提供
「商品の探しやすさ」では1位にアースミュージッ
し、利用者の評価を得ているといえる。
48
日経消費インサイト 2015.3
図表4A~L サービス品質(SQI)の評価(7段階評価の平均値)
【従業員】
K)礼儀正しさ
I)価格表示の適切さ
4.00
4.50
5.00
5.50
6.00
4.00
5.17
ユニクロ
5.15
ハニーズ
西松屋
earth music&ecology
5.00
5.50
5.40
はるやま
ユニクロ
5.09
洋服の青山
5.36
AOKI
5.35
5.37
H&M
5.01
GAP
5.20
ローリーズファーム
5.00
アカチャンホンポ
5.19
アカチャンホンポ
4.97
earth music&ecology
ZARA
4.95
ローリーズファーム
4.85
GAP
4.50
4.62
H&M
L)顧客の要望への迅速な対応
J)施設・設備(試着室等)の利用しやすさ
4.00
4.73
西松屋
4.65
洋服の青山
4.79
しまむら
4.73
AOKI
5.01
4.82
ZARA
4.77
はるやま
5.13
5.04
ハニーズ
4.80
コナカ
5.00
5.50
6.00
4.00
5.34
ユニクロ
4.50
5.00
5.50
5.24
はるやま
5.18
ユニクロ
5.16
アカチャンホンポ
5.14
洋服の青山
5.14
GAP
5.13
AOKI
ローリーズファーム
ハニーズ
アカチャンホンポ
5.08
ローリーズファーム
4.99
GAP
4.97
5.02
ハニーズ
4.96
earth music&ecology
4.94
5.01
コナカ
5.14
5.09
5.03
AOKI
洋服の青山
4.95
はるやま
4.93
ZARA
4.79
H&M
4.93
しまむら
4.77
西松屋
しまむら
4.80
西松屋
4.62
顧客対応ではユニクロがリード
H&M
6.00
5.23
コナカ
5.15
earth music&ecology
ZARA
6.00
5.44
5.11
5.05
しまむら
4.50
コナカ
4.72
4.60
特に、ユニクロが「知覚価値」「顧客満足」「ロイヤ
ルティ」の3指標で1位になった要因の一つに、オリ
これまでの3分野と少し異なるのが従業員について。 ジナル商品の評価が唯一、5点以上という傑出した点
「礼儀正しさ」
「顧客の要望への迅速な対応」では
が指摘できる。さらに、店舗の清潔感や店内表示、接
「コナカ」
「はるやま」
「洋服の青山」
「AOKI」の大
客といったサービス品質での評価も高い。その強みは
手紳士服チェーン4社が上位を占める(図表4K、L)。 価格競争力だけでなく、商品力(モノ)や店舗運営力
フィット感やデザインなどの見立て、採寸や裾上げな
ど、カジュアル衣料や子供服に比べてきめ細かな顧客
対応が必要なためだろう。
このなかで目を引くのは、両項目ともユニクロがこ
の4社に割って入ることだ。ユニクロの強みは商品の
値ごろ感だけではなく、顧客対応の良さにもあるとい
えよう。
(サービス)などを含めた総合力にあるといえる。
■日本版顧客満足度指数(JCSI)
インターネットモニターを用い、2段階で回答者を抽出。1
次抽出で性別・年齢・地域別の人口構成に配慮し、約16万人か
ら回答を得る。2次抽出で調査対象企業の利用経験を満たすモ
ニターを各社400~900人ずつ無作為抽出して回答を依頼。1社
当たり300人のサンプル数を確保する。2014年度は小売り・サ
ービス業の32業界約400社を5回(1回約80社)に分けて調査。
取扱商品の主力はユニクロがベーシック・カジュア
業界
衣料品販売
ル、アースミュージック&エコロジーがヤングレディ
調査企業数
正規13社、参考1社(コナカ)
ース、アカチャンホンポがマタニティー&ベビーであ
り、顧客ターゲットや商品カテゴリーは大きく異なる。
しかし、3社の高評価の要因が、商品の実用性はもち
ろん、販売促進の魅力度、店舗の利便性の高さにある
ことは共通している。
対 象 企 業・ AOKI、earth music&ecology、アカチャンホンポ、
ブランド名 H&M、GAP、ZARA、しまむら、西松屋、ハニーズ、
(正規)
はるやま、ユニクロ、洋服の青山、ローリーズファーム
調査時期
2014年8月中旬~10月初旬
回答者数
4342人(正規310人程度、コナカ230人程度)
回答者条件
当該ブランドで最近1年間に2回以上買い物をした
※詳しくはサービス産業生産性協議会のホームページを参照
http://www.service-js.jp/
日経消費インサイト 2015.3
49