地方部の政令指定都市における集約拠点形成に関する研究

地方部の政令指定都市における集約拠点形成に関する研究
A study on accumulated subcenter formation in designated cities except major metropolitan areas
時空間デザインプログラム
13M43213 竹田 智哉 指導教員 中井 検裕
Environmental Design Program
Tomoya Takeda, Adviser Norihiro Nakai
ABSTRACT
A number of land readjustment projects have implemented in order to form a newly developed subcenter in
designated cities except major metropolitan areas. However, it is difficult to increase the degree of its
integration. The purposes of this study are to clarify cause of project effects and the appropriate land use at
the subcenter. The results are as follows; (1)Hierarchical classification are deduced from the sub-center
positioning in master plan, and its location of public facilities are revealed.(2)Subcenters are classified into
four types according to the degree of original integration and the amount of change, and its features are
revealed. The effects of land readjustment project in a highly integrated district hardly appear.(3)Area for
land use conversion in a highly integrated district is limited, and apartments, shops and offices rarely
increase. In order to create more integrated cities, it would be necessary to induce the effective land use
increasing the building volume.
1 章 はじめに
1-1 研究の背景と目的
全国の地方都市において、少子高齢化による人口減少と、
三大都市圏への人口流出により、人口減少が今後進んでいく
と予想される。さらに地方都市では、市内交通における公共
交通機関の分担率が低い。そのため人口が減少することで、
元々少なかった公共交通利用者がさらに減少し、サービスの
維持が困難になることが予想される。
これに対する解決策の一つが集約型都市構造への転換であ
る。集約拠点に都市機能を集積させ、拠点の人口密度を計画
的に増加させることで、交通結節点から都市機能への徒歩に
よるアクセスが容易になる。公共交通の利便性が向上すれば、
拠点への集積がさらに加速するという相乗効果が期待できる。
また地方都市の中でも、都市圏や商圏の中核となる政令指
定都市の魅力向上により、人口流出が抑制されて居住人口も
増加すると考える。さらに、その周辺都市との間の交流が活
発になることで、三大都市圏への一極集中を緩和することが
できると予想される。
このような背景のもと、各都市の集約拠点では、土地利用
を更新し拠点の密度を高めるために、区画整理事業や再開発
事業などが行われてきた。しかし事業後の土地利用が適切で
ない場合には、拠点の密度を高めることはできない。
そこで本研究では、集約型都市構造における集約拠点に着
目し、各拠点において必要とされる機能が集積しているか、
面的事業が行われた地区において密度が増加しているか調べ
る。さらに人口・従業者密度の変化と土地利用転換の関係を
示した上で、集約拠点の密度を高める土地利用のあり方を考
察することを目的とする。
1-2 本研究の位置付け
平成 15 年以前における 13 政令市の都心・副都心について
総合計画と都市活動の実態面の関係性について明らかにした
もの 1)や国鉄操車場跡地の土地利用の動向を把握し将来予測
を示すもの 2)などが存在するが、平成 17 年以降に指定された
政令市を対象とし、集約拠点の機能集積と密度増加の面から
土地利用を考察したものは見られない。
1-3 用語の定義
本研究の用語の定義を表 1 に示す。
表1
用語の定義
鉄道駅などの交通結節点の周辺に、生活に必要な機能や集客施設
集約拠点
を集中的に立地させ、人口・事業所などの密度を高めていく地区
面的事業 土地区画整理事業や埋立事業、造成事業などの事業
1-4 研究の構成
本研究の構成は次の通りである。2 章では都市計画マスタ
ープラン(以下、都市マス)において位置付けられた集約拠点
が目指す姿を階層別分類によって整理し、拠点に必要な公共
公益施設の立地状況を示す。3 章では、各拠点の人口・従業
者の集積度を集計し分類を行うことで、その特徴を示す。4
章では、集約拠点で行われた面的事業を調べ、集積度の変化
との関係を明らかにする。5 章では、選定した地区の土地利
用を調査し、事業効果の原因を示したうえで、集約拠点の密
度を高める土地利用のあり方を考察する。
2 章 集約拠点の目指す姿と拠点機能の整備状況
ここでは、集約拠点が目指す姿を示し、それに対して必要
な拠点機能が立地しているかどうかを調べる。
2-1 集約拠点に必要とされる拠点機能による階層別分類
全国の政令指定都市のうち、三大都市圏に立地するものを
除いた 10 都市(以下、地方部の政令市)について、各都市の都
市マス中の将来都市構造における集約拠点の位置付けを調査
する。これをみると、集約拠点の位置付け方が都市によって
異なっているので、拠点に必要とされる機能と集客対象範囲
によって 5 つの階層別分類を定義する(表 2)。この中で集客対
象を比較すると、都心、副都心、特定機能拠点は、市の内外
からの集客を対象とするが、地域拠点は区やそれに準じた地
表2
階層別
分類
階層別分類と各都市における位置づけの対応
公共施設
県庁、市役所、文
化ホール、文化
施設、総合病院
区役所、文化
ホール、文化施
副都心 設、スタジアム、
ドーム球場、体育
館、一般病院
流通施設、広域
交通施設、大学、
特定機
研究機関、観光
能拠点
施設、スタジア
ム、ドーム球場
区役所支所・出
地域 張所、図書館、体
拠点 育館、高校、大
学、一般病院
小・中学校、保育
生活 施設、福祉施設、
拠点 公民館、集会所、
診療所、郵便局
都心
商業機能
公共交通
居住機 商業業務
能密度 機能密度
集客対象
鉄道駅、
百貨店、大型商
新幹線駅、
市内、市外 高
業施設、商店街
バスターミナル
高
大型商業施設、 鉄道駅、
市内、市外 高
商店街
バスターミナル
高
鉄道駅、
バス停
市内、市外 中・低
高・中・低
商店街、スー
鉄道駅、
パー、金融機関
バス停
の支店
行政区内、
高・中
隣接学区
中・低
商店街、スー
パー、コンビニ、 バス停
ATM
学区内
低
大型商業施設
中・低
次に、実際に各都市の位置付けから、各拠点を階層別に分
類する。各都市の都市マスにおける、拠点の方針、拠点に必
要とされる機能、土地利用の方針を読み取り、どの階層別分
類に当てはまるかをまとめる(表 3)。副都心が位置づけられて
いる都市では、より重点的な整備を目指している。熊本市の
拠点は地域拠点のみで、各拠点が並列に位置付けられている。
表3
階層別分類と各都市における位置づけの対応
各都市における位置づけ
札幌市 仙台市 新潟市 静岡市 浜松市 岡山市 広島市 北九州市 福岡市 熊本市
都心
都心 都心
都心 都心 都心
都心
都心 都心
都市
高次都
広域交
広域
広域
広域
副都心 流拠点 市機能
拠点 副都心
副都心
拠点
拠点
拠点
拠点
階層別
分類
都心
地域
地域中心核
拠点
生活
拠点
特定機 高次都市機 機能
能拠点
能拠点
拠点
地域
拠点
生活
拠点
-
地域 地域交 地域
拠点 流拠点 拠点
地域生 生活
活拠点 拠点
-
-
-
地域
拠点
地域拠点
地域
拠点
地域
拠点
-
-
-
-
広域
拠点
-
-
-
2-2 各拠点における拠点機能の整備状況
集約拠点として必要とされる機能の整備状況を調査し、目
標と一致することを確かめる。ここでは、特に都心・副都心
に必要とされる施設について、拠点の中心地から概ね 1km 圏
内にある公共施設を地図から調査し、立地件数を集計する。
公共交通の鉄道路線方向数は、中心地にある鉄道駅から見て、
各方面に向かう路線の数を集計する。
拠点機能の集計結果をみると(表 4)、都心と副都心で多数
表 4 拠点機能の立地件数(上位 20 地区)
の機能が立地しており、
公共公益 公共交通
地区
階層別分類
そ れらの目 指す姿と一
施設合計 合計
都心
38
11
致するといえる。地域拠 広島駅周辺
都心部(福岡)
都心
29
10
都心
27
4
点のなかでも、立地件数 都心(新潟)
水前寺・九品寺 地域拠点
27
4
が 都心や副 都心に匹敵 都心拠点(岡山) 都心
23
9
都心(札幌)
都心
22
12
する地区がある。
都心(仙台)
都心
22
10
都心(熊本)
都心
21
8
2-3 2 章のまとめ
JR浜松駅周辺 都心
20
5
19
2
各都市で 集約拠点が 西新・藤崎・ももち副都心
大橋
副都心
16
4
位置づけられており、公 八幡
地域拠点
16
2
特定機能拠点
15
6
共 施設や公 共交通 機能 北海道大学周辺
静岡 都心
15
5
越後線沿線 地域拠点
15
2
に加え、居住・商業・業
子飼
地域拠点
15
1
務 機能の集 積を目指し 香椎・千早 副都心
14
6
副都心
12
5
ていることを示した。ま 厚別副都心
折尾
地域拠点
10
4
麻生・新琴似
副都心
10
3
た、拠点に必要とされる
機能の立地状況を示した。
3 章 集約拠点の密度と集積度
2 章では、副都心や地域拠点で居住機能や商業・業務機能
の集積を目指していることが明らかになったので、3 章では
地区の居住機能と商業・業務機能の規模を表す指標として人
口と従業者数について集計し分類を行う。
3-1 集約拠点の密度と集積度の調査
平成 12 年・22 年国勢調査、平成 13 年事業所・企業統計調
査、平成 21 年経済センサス基礎調査の地域メッシュ統計の
500m メッシュを用いて人口・従業者数を集計する。拠点の
中心から概ね 1km 圏内を含むようにメッシュを選択して人
口密度と従業者密度を算出する。ここで人口と従業者のどち
らかが増加していれば、拠点として密度が高まったといえる
ので、両密度を合計し、人口従業者密度とする。
さらに都市の規模によらずに、人口・従業者が拠点にどの
程度集まっているかを表すために、集積度を計算する。まず、
地域メッシュ統計から、各市の市街化区域の人口従業者数を
集計し、市街化区域の面積で割ることで平均人口従業者密度
を算出する。その上で拠点の密度を、立地する都市の市街化
区域の平均密度で割ることで、人口従業者集積度(集積度)を
計算する。平成 22 年の集積度(事業後の集積度)と平成 12 年
の集積度(元の集積度)の差を集積度変化量とする。
人口と従業者の集積度変化量の関係を図 1 に示す。点線は
0.80
人口と従業者の変
化量が等しいとこ
0.60
ろを表している。都
0.40
都心
心と副都心では人
0.20
口集積度が増加し
副都心
0.00
従業者集積度が減
-0.20
特定機能
少する傾向がみら
拠点
-0.40
地域拠点
れる。これは都心・
-0.60
副都心などの拠点
-0.80
への人口回帰の進
-0.40 -0.20 0.00 0.20 0.40 0.60
行の表れであると
人口集積度変化量
図 1 人口と従業者の集積度変化量の関係
いえる。
3-2 集積度とその変化による分類
元の集積度が高い地区と低い地区とでは、集積度の変化の
現れ方に違いがあると考え、平成 12 年の集積度と集積度変化
量によって拠点を分類し、各タイプの特徴を表 5 に示す。
従業者集積度変化量
域からの集客を対象としている。
表5
集
積
度
増
加
集
積
度
減
少
元の集積度とその変化量による分類
元の集積度0~1.0
【タイプA】元々拠点の集積度が低かったが、
拠点として集積度を高めたところ
[副都心] 西風新都
[特定機能拠点] 大谷地流通業務団地、宇
品・出島、札幌ドーム周辺
[地域拠点] 志都呂・堀出前、富合支所周
辺、北部総合支所周辺、城南総合支所周
辺、植木総合支所周辺、気賀、亀田、豊栄
元の集積度1.0~3.0
【タイプB】元々集積度が高かったが、さらに集積
度を高めたところ
[副都心] 東札幌、東静岡、泉中央、緑井、西
新・藤崎・ももち、苗穂、遠州鉄道浜北駅周辺
[特定機能拠点] 井口・商工センター
[地域拠点] 八幡、西部新拠点地区、下曽根、
庭瀬、島町・上ノ郷、妹尾、子飼、水前寺・九品
寺
【タイプD】元々拠点だったが、集積度が低下した
【タイプC】元々拠点としての集積度が低く、 ところ
集積度がさらに低下したところ
[副都心] 厚別副都心、麻生・新琴似、長町、香
[副都心] 手稲
椎・千早、清水、大橋、黒崎副都心
[特定機能拠点] 芸術の森周辺、定山渓、 [特定機能拠点] 北海道大学周辺
札幌テクノパーク
[地域拠点] 東折尾、上熊本、楠・武蔵ヶ丘、
[地域拠点] 西大寺、白根、二俣・西鹿島、 巻、門司港、堀川・亀井駅周辺、長嶺、平成・南
川尻
熊本駅周辺、門司、新津、健軍、岡南、折尾、越
後線沿線、若松、戸畑、城野
3-3 3 章のまとめ
各拠点の人口・従業者の集積度変化量を示した。各拠点の
元の集積度と、集積度の増減で 4 つのタイプに分類した。
4 章 集約拠点における面的事業と集積度変化の関係
ここでは、集約拠点で行われた面的事業と集積度変化の関
係を調べ、事業効果を検証する。
4-1 集客拠点で施行されている面的事業
集約拠点の中心地から 1km 圏内で平成 12 年から平成 21
年の間に施行された面的事業の施行面積を調べる。平成 12
年の人口従業者数集積度と面的事業施行面積の関係をみると
(図 2)、集積度の高い都心では大きな事業は行われないが、集
積度の低い拠点で大きな事業が行われる傾向がみられる。こ
集積度変化量
定する。両地区の概況をみると(表 6)、旧清水市中心市街地で
ある清水地区のほうが、新しく整備されている東静岡地区よ
りも集積度が高くなっている。東静岡地区ではより大きな面
的事業を行っており、人口従業者集積度は増加している。
表6
東静岡地区と清水地区の概況
面的事業施
人口集積度
従業者集積度
人口従業者集積度
地区
行面積[ha] 2000年 2010年 変化量 2001年 2009年 変化量 2000年 2010年 変化量
東静岡
50.5
0.89
1.05
0.17
1.23
1.31
0.07
1.01
1.15
0.13
清水
11.5
1.57
1.54 -0.04
2.26
2.07 -0.19
1.82
1.73 -0.09
5-1 人口増加量とマンション建設戸数の関係
地区内で建設されたマンションの戸数と人口増加の関係を
明らかにすることで、地区の人口増加を説明する。地区の中
心から半径 1km 圏内の町丁目について、1990 年から 2014
年までの 1 年ごとの住民基本台帳人口を調べる。さらに地区
の中心から 1km 圏内の町丁目に立地する 4 階建て以上のマン
ションの竣工年、総戸数、階数について、不動産会社のホー
ムページや不動産情報サイトから調べる。マンション建設戸
数と人口変化量の関係をみると(図 5)、東静岡地区ではマンシ
ョン建設戸数が多い年には人口が増加していることがわかる。
一方、清水 1km 圏内では、マンションが建設されていない年
は人口が減少しているが、マンションが建設された年は人口
が増加するか、人口減少量が小さくなる傾向がみられる。
東静岡1km圏内
300
400
200
200
100
0
-200
0
1990
2000
2010
西暦[年]
図5
人口変化量[人]
600
マンション建設戸数
300
200
100
0
-100
-200
-300
-400
人口変化量
200
150
100
50
0
1990
マンション建設戸数[戸]
清水地区1km圏内
人口変化量
400
マンション建設戸数[戸]
マンション建設戸数
800
人口変化量[人]
集積度変化量
面的事業施行面積[ha]
200
れは、集積度
が高い地区
都心
150
では既に都
副都心
100
特定機能拠点
市基盤がさ
50
地域拠点
れているが、
0
集積度が低
0.00
5.00
10.00
いところで
平成12年の人口従業者集積度
図 2 面的事業施行状況
は都市基盤
の整備が遅れているためであると考えられる。
4-2 面的事業が施行された地区の集積度の変化
面的事業が行われた地区だけを抜き出して平成 12 年の集
積度とその変化量を表す散布図を作成する(図 3)。これを見る
と、平成 12 年の集積度 1.2 以上では、集積度が増加する地区
が多い。これはタイプ A とタイプ B の一部に該当し、元の集
積度が比較的低いので、面的事業を行うと集積度が増加しや
すいといえる。一方で、平成 12 年の集積度 1.2 以上では、集
積度が減少する地区が多い。これはタイプ D が該当し、事業
前にすでに集積度
0.3
121.1
67.2
タイプB
が高いために、事業
タイプA
0.2
107.6
188
を行っても効果が
50.5
0.1
9 11.3 9.8
22.8
出にくいといえる。
22.1
0
17.5
82
また、面積の大きな
7.9
10.6
38.2
29.7
87
-0.1
面的事業を行った
12.2
11.5
16.9
-0.2
地区では効果が出
タイプD
タイプC
-0.3
ている地区が多い
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
が、効果が出ていな
平成12年の人口従業者集積度
図 3 集積比率と変化量の関係 (図中の数字は事業施行面積)
い地区もある。
4-3 面的事業が施行されていない地区の集積度の変化
面的事業が施行されていない地区について平成 12 年の集
積度とその変化量を表す散布図を作成する(図 4)。これをみる
と、集積度が増加した地区と減少した地区が存在し、変化量
をみると面的事業が施行された地区の変化量と同程度になっ
ている地区も存在する。事業が施行されていないにもかかわ
らず集積度が増加している地区では、交通基盤整備や公共公
益施設の整備とい
0.3
タイプB
タイプA
った事業で拠点の
0.2
魅力を高め、集積さ
0.1
せていると推測さ
0
れる。集積度が減少
-0.1
している地区では、
-0.2
人口・従業者の転出
タイプD
タイプC
-0.3
や自然減少が顕著
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
になっていると考
平成12年の人口従業者集積度
えられる。
図 4 集積比率と変化量の関係 (面的事業未施行地区)
4-4 4 章のまとめ
面的事業を行った地区のうち、元の集積度が低かった地区
は比率が増加しているが、元の集積度が高かった地区の比率
は減少している。大きな面的事業を行った地区では集積度が
増加したものが多くみられる。面的事業を施行していない地
区でも集積度が大きく変化している地区がみられる。
5 章 個別事例の検証
5 章では面的事業効果の原因を明らかにし、拠点の密度を
高める土地利用を考察する。調査対象地区は、3 章で示した
タイプ分類のうち、タイプ B とタイプ D で土地区画整理事業
が施行された地区の中から東静岡地区と清水地区をそれぞれ
選ぶ。東静岡地区を選定する理由は、市全体の人口が減少し
始めている市で大規模な事業を行っている地区であるためで
ある。清水地区は東静岡地区と同じ市内で比較するために選
2000
2010
西暦[年]
人口変化量とマンション建設戸数の関係
区画整理施行区域と未施行区域における 2000 年以降のマ
ンション建設状況を表 7 に示す(1)。これをみると、東静岡 1km
圏内では、区画整理施行区域の方が未施行区域よりも地区の
建設戸数密度が高いことがわかる。同様に清水 1km 圏内でも
区画整理施行区域の方が未施行区域よりも建設戸数密度が高
くなっている。しかし、それぞれの区画整理施行区域を比較
すると、東静岡 1km 圏内の方が清水 1km 圏内よりも建設戸
数密度が高くなっている。つまり、東静岡 1km 圏内の区画整
理施行区域でマンションがより多く建設されたことが、大き
な人口増加をもたらしていると説明できる。
表7
2000 年以降の区域別マンション建設状況
マンション建設戸数[戸] 区域面積[k㎡] 建設戸数密度[戸/k㎡]
東静岡1km圏内
2079
2.11
983
区画整理施行区域
1508
0.51
2986
区画整理未施行区域
571
1.61
355
清水1km圏内
769
1.96
393
区画整理施行区域
174
0.12
1513
区画整理未施行区域
595
1.84
323
5-2 人口転入者数の比較
地区中心地から 1km 圏内の地区について、平成 22 年国勢
調査から 5 年前の常住地別人口を集計し、これを転入者数と
する。
各地区における 1km2 あたりの転入者数をみると(図 6) 、
清水 1km 圏内よりも東静岡 1km 圏内の方が区内からの転入
者数が少なく、自市内他区、県内他市、他県からの転入者数
が多くなっていることがわかる。つまり、東静岡のほうが他
自市区内から
地域からの
東静岡1km圏内
自市内他区から
人口を取り
清水1km圏内
県内他市から
他県から
込むことが
0
500 1000 1500 2000
1k㎡あたりの転入者数[人/k㎡]
できている
図 6 東静岡地区と清水地区の転入者数
といえる。
6000
東静岡1km圏内
10000
5000
4000
3000
2000
1000
0
2000 2005 2010 2015
西暦[年]
図7
清水1km圏内
産業別従業者密度[人/k㎡]
産業別従業者密度[人/k㎡]
5-3 産業別従業者数の推移
産業別従業者密度を調べ、区画整理事業の有無による比較
から事業効果を検証する。東静岡 1km 圏内の産業別従業者密
度の推移をみると(図 7)、区画整理施行地区では、第二次産業
の従業者密度は微減傾向にあり、第三次産業の従業者密度は
増加傾向にある。一方で区画整理未施行地区では、第二次産
業の従業者密度は減少している。第三次産業の従業者密度は
2004 年から 2009 年は増加しているが 2009 年から 2012 年ま
では減少している。これは店舗や事務所の入れ替わりによる
変動であると考えられる。2001 年と 2012 年の従業者密度を
比較すると、増加しているとは言えない。つまり、区画整理
施行地区で事業効果が出ているといえる。
同様に清水 1km 圏内についてみると、区画整理施行地区で
は、第二次産業は減少傾向にある。第三次産業は 2001 年と
2012 年を比較すると密度が変化していない。区画整理未施行
地区では、第二次・第三次産業共に 2001 年から 2012 年まで
減少傾向にある。つまり区画整理施行地区では事業効果によ
り第三次産業従業者の減少を抑えていると考えられる。
区画整理施行地
8000
区第二次産業
区画整理施行地
6000
区第三次産業
区画整理未施行
4000
地区第二次産業
2000
区画整理未施行
地区第三次産業
0
2000 2005 2010 2015
区画整理施行地
区第二次産業
区画整理施行地
区第三次産業
区画整理未施行
地区第二次産業
区画整理未施行
地区第三次産業
西暦[年]
東静岡 1km 圏内と清水 1km 圏内の産業別従業者密度
5-4 土地利用転換によって増加した用途と面積
土地利用転換によって増えた用途について区画整理の有無
で比較することで、人口・従業者数の増加を説明する。まず
2000 年と 2014 年の土地利用を比較して変化した場所を調べ
る(2)。各用途の面積と、区域全体に占める割合を区域ごとに
集計して表 8 に示す。東静岡 1km 圏内をみると、区画整理施
行区域のほうが未施行区域よりも店舗・事務所、マンション
の割合が大きくなっていることがわかる。このような土地利
用が増えたために、人口・従業者数が増加したといえる。清
水 1km 圏内でも区画整理施行区域のほうが未施行区域より
も店舗・事務所、マンションの割合が大きくなっているが、
東静岡の場合と比べると面積が小さく、人口・従業者数の増
加も小さいと考えられる。また、公共公益施設と公園・広場
の面積が東静岡に比べて大きくなっており、これらは人口・
従業者数の直接的な増加にはつながらない。
表8
土地利用転換後の各用途の集計
東静岡1km圏内
清水1km圏内
区画整理施行区域 区画整理未施行区域 区画整理施行区域 区画整理未施行区域
区域全体
区域全体
区域全体
区域全体
2014年の土地利
面積[ha] に占める 面積[ha] に占める 面積[ha] に占める 面積[ha] に占める
用
割合[%]
割合[%]
割合[%]
割合[%]
公共公益施設
0.5
0.9
5.4
3.3
0.8
7.3
0.0
0.0
公園・広場
0.0
0.0
0.0
0.0
1.2
10.8
0.0
0.0
店舗・事務所
6.0
11.9
4.9
3.1
0.5
4.2
2.2
1.2
倉庫
0.0
0.0
0.0
0.0
0.1
1.0
0.6
0.3
工場
0.0
0.0
1.2
0.8
0.0
0.0
0.0
0.0
マンション
3.5
7.0
2.7
1.6
0.4
3.3
1.3
0.7
戸建その他
1.8
3.7
1.4
0.8
0.4
3.5
0.0
0.0
空地・駐車場・農地
7.3
14.5
0.7
0.4
0.7
5.8
2.7
1.5
建設中
0.9
1.7
1.0
0.6
0.0
0.0
0.0
0.0
合計
20.1
39.7
17.2
10.7
4.1
36.0
6.8
3.7
区域全体
50.5
161.0
11.5
184.3
-
5-5 土地利用転換された土地の用途と面積
5-4 に対して、2000 年から 2014 年までに土地利用転換され
た土地の、2000 年時点の土地利用の面積と区域全体に占める
割合を調べたものを表 9 に示す。東静岡 1km 圏内をみると、
区画整理施行区域の方が未施行区域よりも、工場・倉庫や空
地等が土地利用転換された割合が大きくなっていることがわ
かる。これらの土地利用はまとまった敷地となっており、土
地利用転換後に大規模なマンションや店舗が建設されたため
に、人口・従業者数の増加につながったと考えられる。
清水 1km 圏内をみると、区画整理施行区域の方が未施行区
域よりも、鉄道施設や、空地等が土地利用転換された割合が
大きくなっていることがわかる。しかし、これらの敷地の多
くは公共公益施設と公園・広場に使われており、マンション
や店舗・事務所があまり建てられなかったために人口・従業
者数の増加量も小さくなり、転出や自然減少が大きかったた
めに。結果として集積度が低下したといえる。
表9
土地利用転換される前の各用途の集計
東静岡1km圏内
清水1km圏内
区画整理施行区域 区画整理未施行区域 区画整理施行区域 区画整理未施行区域
区域全体
区域全体
区域全体
区域全体
2000年の土地利用 面積[ha] に占める 面積[ha] に占める 面積[ha] に占める 面積[ha] に占める
割合[%]
割合[%]
割合[%]
割合[%]
鉄道施設
1.2
2.3
0.0
0.0
1.2
10.1
0.0
0.0
店舗・事務所
0.0
0.0
3.2
2.0
0.0
0.0
0.6
0.3
工場・倉庫
9.6
19.0
7.6
4.7
0.0
0.0
2.0
1.1
その他建物
8.7
17.3
1.7
1.1
1.5
13.3
3.4
1.8
空地・駐車場・農地
4.2
8.3
4.8
3.0
2.8
24.7
0.8
0.5
合計
23.7
46.9
17.3
10.8
5.5
48.1
6.9
3.7
区域全体
50.5
161.0
11.5
184.3
-
5-6 5 章のまとめ
東静岡地区のように元の集積度が比較的低い場合には、工
場・倉庫や空地等が多く存在しており、大規模な土地利用転
換によりマンションや店舗・事務所が大きく増加し、人口・
従業者密度も増加する。
清水地区では、旧清水市の中心市街地であることから、元々
集積度が高く、土地利用転換されやすい土地が少ないため、
マンションや店舗・事務所が増加しにくいと考えられる。さ
らに区画整理区域では公共公益施設の建設に多くの土地を使
っており、マンションなど他の用途に使える土地が限られて
いる。このような元々集積度が高い拠点の密度を高めるため
には、土地を有効に活用する必要があり、駅周辺という好立
地を活かしながら、高容積化や他用途との複合化を誘導する
ことが有効であると考えられる。
6 章 本研究の結論
都市マスにおける拠点の目指す姿を階層別分類によって示
し、必要とされる拠点機能の整備状況を示した。元の集積度
とその変化量によって 4 タイプに分類し、特徴を示した。元
の集積度が低い地区では面的事業の効果が出やすく、元の集
積度が高い地区では面的事業の効果が出にくい傾向がみられ
た。元の集積度が比較的低い地区では、工場・倉庫や空地な
どの土地利用転換されやすい土地が多く存在し、マンション
や店舗・事務所が増加したことによって人口・従業者密度の
増加がみられた。元の集積度が高い地区では、土地利用転換
されやすい土地が少ないために、マンションや店舗・事務所
が増加しにくいことが示された。限られた土地で公共公益施
設と、居住・商業・業務機能を集積させるためには、高容積
化などにより土地を有効活用できるように、土地利用を誘導
する必要があるといえる。
今後の課題としては、拠点の大きさや広がり方を考慮した
集積度評価が必要である。また、拠点機能や交流人口といっ
た多面的な評価が必要である。
【補注】
(1) 建設戸数密度は、マンション建設戸数を区域面積で割ったものである。
(2) ゼンリン地図帳の地図と、国土地理院と Google Earth の航空写真を用いる。
【参考文献】
1)三上訓顯, 坂本淳二(1999)「総合計画における副都心施策と実態に関する考
察」都市計画論文集, No.34, pp.115-120
2)光吉健次ほか(1985)「副都心(香椎)における土地利用の動向 : 地区の動向と
大規模跡地利用予測(その 1)」学術講演梗概集. F, 都市計画, 建築経済・住宅問
題, 建築史・建築意匠 1985, pp.181-182