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KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
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東南アジアの水資源開発利用に伴なう問題点 : 東南アジ
アにおけるデルタの開発と水利用 : 特に技術的要因と水
資源開発(<特集>水資源利用に関するシンポジウム特集号
)
出口, 勝美
東南アジア研究 (1966), 3(4): 20-26
1966-03
http://hdl.handle.net/2433/55147
Right
Type
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Journal Article
publisher
Kyoto University
3 東 南 ア ジ アに お け るデ ル タの 開 発 と水 利 用
-
特 に技 術 的 要 因 と水 資 源 開発-
農林省八郎潟干拓事務所
は
し
が
出
口
勝
美
き
東南 ア ジア諸 デ ル タの現状 は,一般 に開発 の初期段 階 にあ り,低位 の農業, と くに米 の生 産
と流通 に社会経 済全般 が依 存 して い る。 そ して, その開発 の可能性 は, い まの ところほ とん ど
農業 部門 にお ける土地 と水 の利用 と農業 技術 の面 に限定 されて い る。 その開発 には,技術 的,
経 済 的 に外 部 か らの助力が必要で あ る。 日本 の科学技 術 は, この分野 にお いて も重要 な地位 を
占め, 欧米諸 国 に比 し有利 な立場 にあ りなが らも, その責 を完 うすべ き準備 に立 ち遅 れて い る
といわざ るをえない。
筆者 は, 1
96
2-`
6
4の問,ECAFE や UNESCO の活動-
FAO を も含 む国連諸機 関が これ
らの地域 の調査開発 ,デル タの実態調査 と開発計画 に関す る ことに活発 に動 いて い る-
に参
加 す る機会 を もったので, これ らのデ ル タの実情 を紹介す る とともに少 しくその開発 につ いて
の見解 を述べ る。
Ⅰ デ ル タ開 発 の現 状 と諸 間蔑
筆者 が実 際 に調査 したのは,Gange
s (イ ン ド・
東パ キ スタ ン),I
r
rawaddy(ビル マ), Chao-
Phraya (タイ) の 3つの大デル タで あ る。 この 3デル タの開発 の現段 階 に 相 当の 差異 が あ る
s,
のは もちろん,各デ ル タ内の各 部 にお いて もまた相違 が あ る。概括的 には,
西 の方 か ら Gange
I
r
r
awaddy,ChaoPhr
aya の順 に束 に向か うにつれて, 開発 は進 んで い るとみて よい。 その
Gange
sデル タの うちで も, と くに原始的段 階 に留 ま って い るのが,海 岸部 の Sundar
bansで,
反対 に Chao
Phraya の海岸 部 (
Bangkok以南 の地 区) は,木 曽川河 口付近 の海 部郡 の戦 前 の
bans と I
r
r
awaddy河 (中流部)
状態 にはぼ近 い と思 われ る程度 に開発 が進んで い る。Sundar
に例 を と って, おお よその現状 とその開発 の問題点 に触れてみ よ う。
1 Sundar
bans (
Ganges デル タの海 岸部)
感 潮河川 の満潮位 (
大潮差 5m) すれす れ の低 い地盤 の土地が米作 に供 されて い る。 そ こは
一種 の輪 中 (または干拓地 ,po
l
de
r
)で あ って, その外周 の高 さ 1m∼2m の土堤 は河岸 の侵食
や高潮 によ って,常 に決壊 の危 険 に さ らされて い る。各種 の用水 は天水 とその溜 ま り水 だ けで
まかなわれ,地 区外-排 水 の必要 が あれ ばその都 度人力で堤防 を切 り開 くので あ ったが,近年
-2
0-
東南 ア ジアの水資 源開発利 用に伴 な う問題 点
よ うや く木 製 や コ ンク リー ト製 の水 門 が設 け られ た り,堤 防 が補 強 され た り して い る。 これ ら
の施設 は以 前民営で あ った ものを,戦 後 国営 に移 して局部 的 に補 強工 事 を実 施 して い る。 パ キ
0
0万 ha に及 ぶ 7
3ヶ所 の ポル ダ ーを 囲む延長 5,
0
0
0
km の堤 防 の補 強 と 5,
20
0ヶ
スタ ン政府 は 1
96
2-'
7
4の 1
3年 の
所 の水 門 の新 設 を含 む大 事業計 画 を たて,徐 々に実 施 して い る。 この計 画 は 1
2億 ドルで あ るが完 成 は多分 に遅 れ るで あ ろ う. ポル ダー 内には,堤 防上 の
工 期 で総 事業 費 1.
水路 とあぜ道 の外 には道 路 も,水 路 もない。 稲作 は直 ま きまた は移植 と刈取 だ けに人 力 をか け
,
3
0
0
kg(
モ ミ)
ると ころ の極端 な省力栽 培 で, 無肥 料 ,塩害 その他 の悪 条件下 で 収量 は ha当 り 1
程 度, わ が国 の それ の 1
/
5に過 ぎな い。 この地方 の産業 と して は,米 作 のほか には海岸原 始林
の採 木 が あ るだ けで ,産 業 とか生 活 とか い うよ り, 米 作 を生業 と して ただ生 きて い るだ けの原
始 的な人 間社会 が い まで もみ られ る。
海岸 に は, 耐塩性 水生 植物 の原 始林 が数 十 万 haの広 大 な面 積 を 占めて い る。 これ は,海面
undar
i
,Ge
wa,To
malな どの密林 で,樹 高 20
m に も及 ぶ樹林 は
す れす れ の干潟 に繁茂 す る S
ま ことに壮 観 で あ る。樹 林 の r
F
l
には大小 の流路 が通 じてお り, それ らによ って樹 林 は数千 また
dar
bansは イ ン ド領 とパ キ ス タ ン領 に分 かれ
は数万 ha の多 くの 島 々に区切 られて い る。Sun
ngal湾 の高 潮や波浪
て いて,いず れ も政府 が海岸 保安林 と して管理 し,その背後 の開拓 地 を Be
か ら守 る役 目を与 えて い る。土 砂 の 堆積 や植物 の残 骸 によ って密 林 の地盤 が次第 に高 め られ る
と,樹 木 は衰 えてゆ き, 地盤 が満 潮 位以上 にな る。 そ こで, は じめて政府 は そ この開拓 を許可
す る。他方 ,樹 林 は, 逐次海 中- 仲島 を続 けて い る。 このよ うな密林 が過 去 数百年 にわ た り開
拓 されて,現在 の数十 万 ha の耕地 にな った ので あ るが, そ こは国家 的 には ほ とん ど無価 値 の
辺 境 で,多年文 明か らと り残 され た ままで現 代 に及 んで い る。 日本 や オ ラ ンダの干拓 地が最 も
意 欲的 な新 開地 と して成 長 して い るの に反 して, ここの開拓 地-
po
l
de
r
-
は信 じられ ない
ほ ど最低 の状 態 に留 ま って い る。
undar
bansの開発 の方 途 が ま った くない ので はない。 パ キ ス タ ン政府 は,
しか しなが ら, S
l
l
na には工業 開発
治水 ・利 水 ・農業 改良等 の 雄 大 な開発計 画 を もち, また地方 の 中心地 KuI
(ジュ- ト ・発電 ,造船 等 々) の事業 を進 めて は い るが, それ は局地 的 であ って, この地方 の
全般 的開発 には遺 達 しの観 が あ る。 開発上 の問題 点 と して は
a 海 岸 樹林 の縁 したた るばか りの活力 に対 して, その背後 の耕地 の稲 とそ この農民 の しお
れ加減 は ま った く対 照 的で, いか に も塩 枯 れ た とい う感 じがす る。 い うな らば,耐塩性 植
物 な ら生 え る と ころに無理 に非 耐塩性 の稲 を栽 培 す る ことの不 自然 に由来 す る もので あ る
とい って よか ろ う。 そ この感 潮河 川 に囲 まれ た低 い土 地 には しば しば塩 水 が流入 す る し,
不 断 の漏水 もあ るの に, その塩分 を除去 す るだ けの十分 な淡水 がえ られ ないので あ る。
b 人畜 も作物 も不足 が ちの天水 に依 存 しなが ら, あ る時期 には余分 の水 を,河川-放 流 し
て しまい, またた とえ くぼ地 に水 が潜 って いて も, それ を ポ ンプな どによ って積極 的 にか
-2
1-
東 南 ア ジア研究
第 3巻 第 4号
ん が い に利用 す る ことを しな い。溜 り水 は飲 ,雑用水 と苗代 に使 うだ けで あ る。砂 地盤 の
地 区で は 当然 地下水 が求 め られ るはず で あ るが, わず か に飲料 に用 いて い るにす ぎない。
C
最 も重要 な 問題 で あ ろ うが,農 民 に生 産 を増 して生 活 を豊 か にす るだ けの力が ない こと
であ る。 国家 に も,住民 に もその窮状 を打 開す るだ けの意欲 も経済 も不足 して い るよ うに
み え る。
2 I
r
r
awaddy デル タの中間部
I
r
r
awaddy デ ル タは ビル マの 中央部 に位 置 し,政 治経済 上 の重要 な地位 を 占めて い る。 その
比較 的恵 まれ た 自然 条件 の うちで もデ ル タの 中間部 は最 も有 利 な部分 で あ る。
そ こで は,地形 が平坦広 かつ で, 地盤 は高水 位 と低水位 の 中間 にあ り,洪水 は平 地 の全域 に
広 く浅 くはん濫 し 水 は一面 の湖 の よ うな状 態 で緩 や か に流下 す るか ら, 高水位 は耕 地上 せ い
,
c
m しか上 昇 せず , 理 想 的 な 自然 かんが い とな る。 したが って耕 地 を 河 川洪水 か
ぜ い 40-50
ら守 るための堤防 やか んが い排 水 の ための水 門,水 路 な どの人工 的な, 治水 ・利水上 の施設 を
加 え な くとも, 自然 の ままで も安 全 な米 の産 地 とな って い る。
乾季 の, 稲が実 る項 に,洪水 は徐 々にひ き,水 位 は 田面 以下 に低下 し, 降雨 もや むか ら, 田
面 の水 は ク リー クか ら河 川へ,氾濫 とは逆 の コ- スをた ど って, 自然 に排 除 され る。 そ う して
黄 熟 した稲 は乾 季 の長 い期間 に緩 慢 に収穫 され,牛 に踏 まれて脱穀 され る。
こ う して,播 種か ら移植 ・刈取 ・脱穀 にい た る問,土 地 ・水 ・天候 の いず れ もが理 想 的 な稲
作条件 を与 え る。裏返 しにいえ ば, これ らの 自然条件 に完 全 に適合 した生 業 が稲作 で あ り,栄
以外 の作物 あ るい は他 の植物 は, モ ンスー ン圏デ ル タの低平 地 には 自然状 態 で は生 育 しえ ない
とい って もよか ろ う。農民 の生 活 が全面 的 に依 存 して い るモ ンスー ンが順 調 に反 復 す る限 りで
は, これ ほ ど恵 まれ た米 の天 国 はないで あ ろ う。
しか しその安易 さのゆ え にで あ ろ う。現在 まで ほ とん ど人為 的 な努 力が な され な い ままで,
農民 は ま った く自然 の恩恵 に頼 りす ぎて い るよ うで あ る。 その結果 と して, かんが い排 水 の施
設 を もたないか ら, 降雨が不調 の年 には他 の部分 よ りかえ って大 きな打 撃 を受 け る こと もあ り,
米 の生 産 も低位 で あ る。
米産 は, もみで 2,
00
0kg/
ha 程 度 ,濃尾平 野 の 6,
500
kg/ha に対 して は 1
/3以下 の低位 にあ
る。 その原 因 は,土 壌 の貧弱 ・粗耕 ・無施肥 ・原 始 的な 品種 ・病 害等等 にあ るが,要 す るに,
1
,
000年 も昔 の稲作 も今 と同様 で はなか ったか と思 われ るほ どに, 原始 その ま まの稲作が現在
まで続 け られて い るとい う事 実 が,すべて を説 明す るので あ る。
ビル マ政府 は, 育 種 ・施肥 ・機械化 な どに関 して試験 場 を設 けた り, 奨 励普 及 を 図 った りの
努力 を試 みて は い るが,実 際 には まだ農民 に浸透 して い ない よ うに見 え る。
稲 作 には絶好 の 自然条件 を備 え, ビル マの米 びつ といわれ るこの地域 で さえ も, 稲作が この
よ うに低調 な ことは,理解 しが たいので あ るが, それ は外 部 か ら一見 した感 想 にす ぎないのか
-2
2-
東 南 ア ジアの水 資 源開 発 利用 に伴 な う問題 点
も しれ な い。 いか な る米 の増産 もそれが生 活 の改 善 に役立 たない限 りは,農民 の生 産意欲 を促
す ことはで きな い し, また増産 にはそれ相 当の資金 も組織 も必要 で あ るの に, 努力 して増産 し
て も収入増 にはな らな い とか, あ るい はた とえ収入 が増 えて もそれ以上 に家族 数 が増えて生 活
はかえ って苦 しくな るな ど,社会 経済 的 さ らに票数 的環 境 が地域農 民 を現状 に甘ん じさせ,耽
溺 させ て い るよ うに感 じられ る。 この よ うな現状 は, 断片 的 な技術 指導 や経済援 助 な どによ っ
て,効果 的 に改善 され る とは考 え られ な い。技 術 開発 と社会経 済 開発 は,人 間改造 を伴 って 進
め られ るべ きもので あ る と考 え る
。
以上 の よ うに概観 して くると, これ らのデ ル タの開発 には現 にあ ま りに多 くの 困難 な問題 が
あ りその将来 はい ささか悲観 的 で あ る。 しか し, それ は性 急 に開発 を実現 しよ うとす るか らで
0
0年, 2
0
0
年 の将来 にお いて そ
あ って, も しこれ を長期 にわ た って試 み,遠 い将来 , た とえ ば 1
0
0年 の歴 史 t
h
黒
の成果 を期待 す るので あれ ば,決 して そ うで はない ので あ るoわ が国 の過去 1
船o以来 の歴 史 を観 るな らば, い ま政 治 的不安 定 の なか で重要 な位 置 にあ る これ らのデ ル タに
将来性 が ないわ けで は決 して ない と思 われ る。 この意 味 で は, 欧米諸 国 は この ことを承 知 の上
で現 に活動 して い るので あ って,必 ず しも近 い将来 にお け る開発 の成 功 を期 して はいな いので
あ るが, 日本 人 だ けが あ ま りに親 身 にな るた め性急 に効果 を期待 しす ぎるとい う見方 を して も
よい と思 う。
Ⅲ
デ ル タ 開 発 の 将 来
前述 の よ うにデ ル タの開発 は,重点 を農業 開発 , そ して まず その生産基盤 と して の土 地 と水
の利 用 に関す る分 野 に向 け るべ きで あ ると考 え る。 とい うの は
a 熱帯デ ル タの豊 富 な潜在 資源-
土 ・水 ・日射 ・人 口-
の い ず れ も農 業 に不可欠 の要
素 で あ って, これ らが近代技術 によ って改 善 され るな らば, お そ ら く他 の どんな地域 の農
業 も これ には対抗 で きないほ ど高 い生 産 をあげ る ことが で きよ う0
b 歴史 的 にみれ ば,現 代 の第 2 ・第 3次産業 の拠 点 とな って い る世 界 の都 市 や工業 地 の多
くが農業 か ら出発 して発展 して きたが, これ らのデ ル タの開発 の順 序 も例 外 で はあ りえ な
い し, また それ が妥 当で あ ろ う。 も しそ こに例 え ば軽工業 を起 こ して も, それが成 長 して
国民経済 を支 え るよ うにな るに は,農業 よ りは るか に長 い期 間 を要 す るに違 いない。
C
農業 開発 は,農地 開発 と農 業改 良 だ けで はな く, それ に必 要 な他 の産 業 ・運 輸交通 ・教
育等 の開発改良 を伴 い, それ は 当然 地域全 般 のBF
・
3
発 を誘 発 す る。た とえ ば肥料工 場 を建 設
す るには発 電,農 用資材 や農産物 の輸送 には船 舶 ・車 輪 ・道 路 ・運河等,農 業技術 の普 及
には学 校教育等 が整 備 され るとい うよ うにそれ らは社会経 済 全般 の開発 に連係 が あ る。
もっと も,デ ル タの農 業 開発 に先 行 すべ き もの に治水 が あ る。 内陸 と外海 か らの水害 を防止
しない限 りデ ル タのいか な る部面 の発 展 も望 みえな いので あ るが,デ ル タにお け る治水 は きわ
ー 23-
東 南 ア ジア研 究
第 3巻 第 4号
めて密接 に利水 に連 係 す る。 とい うよ り治水 は利水 その もので あ る。 た とえ ば I
r
r
awaddy デ
r
r
i
gat
i
on embankme
nt とは洪水 防止 の ための 河 川堤 防 その もので あ
ル タの上流 部 にお け る i
o-Phrayaデ ル タの海岸 にお け る洪水排 水 門 は その ま ま農 業用水 の調 節水 門で あ
り, また Cha
るな ど,デ ル タに独特 の地形 や水 理 の関係 で治水 と利水 とは同一 物 と考 え られ る。
デ ル タは大河 によ って その流 域 の水 が集 中す る ところで, その水 の動 きがデ ル タ特有 の地形
・土質 ・水理 をつ くるので あ るか ら,治水 や利水 の 目的 で河 川 をい じることは,デ ル タの水 理
hydraul
i
c wo
r
ks
) を施 せ ば, 必 ず その上下
条件 を変 え る ことにな り, なん らか の水工 事業 (
流 に影 響 を及 ぼす 。 それ は,デ ル タ形 成 の原 動力 と して の水 の作用 の変 化 を意味 し, と くに大
規 模 の水 工 事業 はデ ル タ開発 の重要 な地位 を 占め る 自然 改造 事業で あ る。 したが って,デ ル タ
の現在 の 自然 条件 (
水 理 ・水質 等) は,将来 ,水工 事業 によ って変 化 す る性 質 の もので あ る。
水工 事業 は, それ が単一 目的で あ ろ うと多 目的で あ ろ うと,本来 の事 業 目的以外 の種 々の結果
を生 み, その結果 は さ らに別 の結果 を生 む。 これ はデ ル タの土 地 と水 の諸条件 が互 い に複雑 微
妙 な調和 を保 って お り, も しその調和 が破 れ ると, 予想外 の時 と して は 目的 とは逆 の新 しい現
象 を生 じるこ とさえ あ る。 それ でデ ル タの水 工 事業 が よ くその 自然条 件 と事業 目的 に適合 す る
よ うに周到 に計 画 され るな らば, その事業効果 はデ ル タの潜在 価値 を発 掘 しそれ を高 度 に活用
す るこ とにな ろ う。
これ らのデ ル タの利用 開発 につ いて は, それ らが所 属 す る国 をは じめ世界各 国お よび国連諸
機 関が戦 後 多年 にわ た り,社会 ・経済 ・科学 ・技術 の諸 分 野 にお いて,異 様 な ほ ど活発 な行 動
を続 けて い るが, それ らの活動 は必ず しも満 足 すべ き成果 をあげて い るとはいえ な い よ うで あ
る。 そ こには技 術 や経 済 だ けで な くその ほか の開発要素 に注 目すべ き点 が あ る。 その よ うな,
デ ル タ開発上 一般 的 に留意すべ きこ とと して次 の ことを あげ ることがで き る。
a 各デ ル タの所 属す る諸国 は 自力で 開発 を進 め うる段 階 にはないか ら, それ らの政府 や指
導 者層 は国連 や先 進諸 国 の援 助 を熱望す る. が その反面 , 国民一般 には開発 意 識 が強 くな
いよ うで あ る。 これで は開発 事業 の効果 は期待 され ない。他 力本 願 的開発 熱 を冷却 し, 自
発 的な開発 意 欲 を助長す るよ うな方 法 で今 後 の技 術 開発 が進 め られ るべ きで あ ろ う。
b 各デ ル タの間 には, 自然 と経済 の面 で は多 くの共通 点 が あ るが,政 治 ・社会 ・宗 教等 の
面 で の相違点 が少 な くな いので,技 術 開発 の方 法や順序 は各 デ ル タご とに個 々に論 じられ
るべ きで あ ろ う。
各デ ル タの開発 の過去 と将来 とは, わが 国の小 さなデ ル タの それ とは もち ろん軌 を異 に
C
す る。 日本 的 な技術 開発 の セ ンスで, それ らの開発方 途 を即断す るべ きで はない 。
d
欧米 の近代 的 な技術 や文 化 は, わが 国 に入 る以前 に各 デ ル タに入 り, 局部 的断片 的 には,
わが国 よ りもさきに近代 化 されて い ることに も留意 す る必要 が あ る。
e 各デ ル タにみ られ る前植民 地 的 ・民族 的 ・宗 教 的 ・階級 的特 質 には, それ らが社会経済
-2
4-
東 南 ア ジアの水 資 源 開 発 利 用 に伴 な う問題 点
開発 の障害 にな ると思 われ るほ ど, 多 くの前時 代 的 ・因襲 的色彩 が あ る。 これ らを打 破 し
な けれ ば改 善 は望 みえないで あ ろ うが, しか しこれ らを無視 して も成 功 しないで あ ろ う。
Ⅲ
デ ル タ の 水 利 用
デ ル タの豊富 な水 資源 は, 自然 の氾濫 や水 潜 の形 で,農 業用 に も雑飲 f
馴こも利 用 され るほか,
ayaの場合
人工 的な利用 も程 々試 み られて い るが,全 般 的 には まだ低調で ,例外 的 な Chao-Phr
で も,近 代的 な水利施設 とその利用方 法 とが まだマ ッチ して いない感 が あ る
。
い ま施設 の和 則
別 に概観 す ると,
a デ ル タの海 岸部 にお いて,河川や入江 の 口を締切 り,水 門 を設 けて海水 の侵入防止 と淡
水 の貯 滑を かね た水 利 開発 の方 法 が あ る。 この方 法 は Chao-Phraya の海岸 の一 部で 1
800
年代 に採用 され た ものが あ り,現在各 デ ル タの海 岸部 にお いて計 画 されて い るもの も少 な
くな い。 これ はいわゆ る河 口ダ ムの類 で,デ ル タ海岸 部 にお け る水 利施設 と して もっとも
効果 的 な もので あ るが, 大河 の河 口にお いて は,水理 や土質上 の困難 な工 事条件 や ば く大
な経費 か ら, 実現 の可能性 は きわ めて小 さい。 また,淡水 化 され た河道 や湖 水の 内水 位 の
上 昇 に対 して,新 た に排 水施設 (
水 門 ・ポ ンプ ・堤防等) が必要 にな るな ど, その地域全
体 の水利 系統 を再編 成 しな けれ ば効果 が十 分 で な い か ら, この種 の事業 の調査計画 には多
大 の年 月 を要 す るで あ ろ う。
各デ ル タの海岸 部 の本格 的 な水利 開発 の ため には, いつ の時代 か に,本流河 口の締切 り
計画 が具体 化す るで あ ろ う し,す で に関係技術者 の問 の話題 にな って い ることで はあ るが,
この種 の事業 がわが国の主要河 川 に も近年 や っと通用 され よ うと して い ることか ら考えあ
わせ ると, これ らデ ル タの原 始河 川の場合 この種 の事業 の現 実性 には問題 が あ る。
b 低平 地 にお け る水利 開発 には, ポ ンプが もっ とも有 効 な手段 で あ る。各デ ル タにお いて,
従 来 か ら人 力 ・風 力 ・機械 力利用 の各 種 の揚水手段 が用 い られて い るが, いず れ もきわめ
て小規 模 の可 搬式 の もの にす ぎない。 しか し唯一 の 近代 的施設 と して, 東パ キス タ ンの
Ganges
-Kobadak事業で は,水 田33万 ha の水利改良 のための ポ ンプ設 置の計 画 が あ り,
3基 の低揚程 ポ ンプが稼 動 中で あ るが, まだ実際的 な効果 を
その うち 5万 ha にはす で に 1
あ げて いない といわれ,水利費 や配水 組織 に問題 が あ るよ うで あ る。
C
か んが い排 水 開発 は,乾 季 に も全面 的 な稲作, したが って 2毛作, 3毛作 を可能 にす る
とい う稲作 の革命 を実現 す るもので あ るが, そのほか にデ ル タ中間部以下 の塩害 地域 に除
塩 効果 を もた らす。 いず れ の場合 に も,気 候 ・土壌 ・水 質等 の稲 の生 育環境条件 が変 わ る
ので あ るか ら,施肥 や耕 作等 の他 の条件 の変 化 を も含 めて, それ らに対応す る稲 の品種改
良 が必要 にな る。 これ らのデ ル タの 自然条件 の もとに育 って きた稲 は,新 しい条件 の もと
で は満足 に育 ちえな いので あ る。
- 2
5-
東 南 ア ジア研 究
第 3巻 第 4号
d か んが い排 水 開発 の算 2の効果 は熱帯デル タの農 業 に本格的な畑作 を導入す ることで あ
る。従来 , 自然 堤防 な どの高地盤 にだ け局地的 に栽培 され た畑作物 がデル タ全域 に広 が る
な らば, デ ル タの農 業 は一大変貌 を きた し,原始農業か ら近代農業- と発展す るだろ う。
e か んが い排 水 開発 によ る農業発展 の大 きな可能性 は, それ にかかわ る役人 を も含 め た農
業者 の人 間改造 に裏付 け られなけれ ばな らない。農 業 に も生産費がかか るもので あ り, そ
の生 産費 が利益 を生 む もので あ るとい う単 純な理屈 を体得 す るまで はは,農民 は生産 ・流
通 ・購 買 ・生 活 の諸条件 か ら変 えてかか るとい う大 きな試練 を経 る必要があ り, それ は政
治 ・社会 ・経済全般 の改 革 につなが る。
f 水利 開発 の影響 は,デ ル タ住民 の生活面 に も及ぶ ところが大 きい。塩 っぽい泥水 を飲 み,
ゆあみ して きた人 たちは,淡水 にはな じみ に くいで あ ろ う。 また,水質 の改善 によ るマ ラ
リヤの消滅 も水 利 開発 の偉大 な社会へ の贈物 とな ろ う。
g
広大 な湿 田地域 の排 水 改良 の結果 と して,米 の生産 が減退 した事例が Cha
o
Phr
ayaに
あ る。 この現 象 はわが国で もみ られ た ことで あ るが,土壌 の乾燥 によ る酸性 化が その主原
因で あ るO そ して, その酸性土 の改良 は経済的 には絶望で あ るとさえいわれて い るO用排
水 のバ ラ ンスを維 持 す ることの困難 さは どこで も同 じで あ る。
h 用水 改良 が排水 不良 をひ きお こす ことは大 い に懸念 され る。 自然排水 だ けに頼 って きた
これ らの地域 で は,排 水 に コス トをか け ることには用水 に もま して強い抵抗 が あろ う。
む
す
び
最後 に, これ らの地域 の技 術者 たちの知識や意見 の うち,われわれ に とって意外 で あ り, し
か し重要 であ ると思 われ るものをあげて モ ンスー ンデル タの特質 を再 認 しよ う。
a 洪水 防止 の ため堤防 をつ くるのはよいが, それで は排水 が悪 くな るので はないか。 (
排
水 門や排 水 ポ ンプを設 け ることに対 す る一般 的認識不足)0
b
同 じく, 堤防 によ って肥効性 シル トの耕地面- の堆積 が妨 げ られ る。
C
水利 開発 の ための諸施設 によ って舟運 が阻害 され る。
d デ ル タの河川 の水 は泥分 と塩分 を含んで い るものなので あ る。 したが って締切堤等 を設
けて も, その 内部 はす ぐシル トで埋 る し, その水 か ら塩分 を分離で きるはず はない。
e ポ ンプは た しか に有 用で あ る。 しか し金がかか るで はないか。
f 開発 とは そ もそ も何 で あ るか。住民 は現状 に満足 してお り,開発 され ることを望んで い
ないのに,外 国人 はなぜ 開発 に熱心 なのか。
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