「裁判所に対する送達証明書の送付について」及び「捜査共助」

諮問庁:外務大臣
諮問日:平成16年3月3日(平成16年(行情)諮問第89号)
答申日:平成17年1月18日(平成16年度(行情)答申第500号)
事件名:「訴訟関係書類の送達について」,「裁判所に対する送達証明書の送付
について」及び「捜査共助」の一部開示決定に関する件
答申書
第1
審査会の結論
在ドイツ日本国大使館作成の行政文書ファイル「国際司法共助」
(作成時
期:1989年3月5日)に属するすべての行政文書(以下「本件対象文
書」という。)につき,その一部を不開示にした決定については,別紙に掲
げる部分を開示すべきである。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律
(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対
し,平成15年10月20日付け情報公開第01647号により外務大臣
が行った一部開示決定(以下「本件決定」という。)について,その取消
しを求めるというものである。
2 異議申立ての理由
異議申立人の主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記
載によると,おおむね以下のとおりである。
(1)本件異議申立ての前提は,異議申立人が何らかの監視下にあり,圧力
を受けていることである。異議申立人は,ヨーロッパ人権裁判所に対し,
ドイツ連邦共和国による「公正な裁判を受ける権利」の侵害について提
訴したが,その事件に関し,国際司法共助により,東京地方裁判所を経
由したベルリン中央簡易裁判所からの特別送達があった。これも異議申
立人の提訴に対する圧力である。
(2)ドイツ連邦共和国からの司法共助要請書等は,「他国からの送達依頼
に関する情報であって,公にすることにより他国等との信頼関係が損な
われるおそれがあるため」不開示とされたが,法5条3号及び4号の「相
当な理由がある」という基準の拡大解釈によっては,邦人の権利を侵害
することになる。その点を再考願いたい。
(3)作成時期等の内容が分かる範囲での法6条を適用した部分開示を要求
する。取り分け,捜査共助に関する書類については,異議申立人本人に
1
係るものか否かの判断が可能になる範囲での開示を求める。
(4)上記(3)の捜査共助に関する書類については,もし,これが本人に
関するものである場合には,法5条1号ロ又は行政機関の保有する個人
情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」という。)16条の
裁量的開示の規定により個人情報であっても開示を求める。
(5)諮問庁の情報公開担当部署からは,法38条1項による措置は講じら
れなかったばかりか,あえて要望を回避したと考えられる。
(6)異議申立人が本来得たいのは,異議申立人本人の受けた司法共助に関
する書類等であり,その開示を請求する。
(7)諮問庁の主張する法5条1号の個人情報とは,氏名や生年月日を指す
のか。本件対象文書のうちの判決書の部分開示において,諮問庁は既に
個人の権利利益を害するおそれのあるものを開示しているのではない
か。
(8)諮問庁の情報開示の基準の妥当性を判断するためにも,当該文書の総
ページ数及び各文書1から32までのページ数の提示を求める。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 諮問に至る経緯
諮問庁は,異議申立人が平成15年8月20日付けで行った「国際司法
共助 1989年 3年間 2004年.行政文書ファイル管理簿 欧州
地域1 564ページ在ドイツ日本大使館作成文書」の開示請求に対し,
在ドイツ日本国大使館作成の行政文書ファイル「国際司法共助」(作成時
期:1989年3月5日)に属するすべての行政文書を特定の上,下記2
に該当する部分を不開示とする本件決定を行った。
2 不開示情報該当性の判断の理由
(1)本件対象文書について
ア 本件対象文書は,在ドイツ日本国大使館作成の行政文書ファイル
「国際司法共助」(作成時期:1989年3月5日)に属する,
1 領事送達(送達報告書の書式変更)
2∼8 訴訟関係書類の送達について その1からその7まで
9∼31 裁判所に対する送達証明書の送付について その1から
その23まで
32 捜査共助関係書類
までの32件の行政文書であって,そのうち全部開示とされた文書1
を除く31件の文書について異議申立ての対象とされたものである。
イ これらの文書の内容は,①領事送達として,在ドイツ日本国大使館
が訴訟関係書類をドイツ在住の受送達者に対して送達したことに係
る行政文書(文書2から8まで),②我が国がドイツの関係当局から
2
の要請を受託し,国内の受送達者に対し訴訟関係書類の送達を実施し
た旨の通知書類を在ドイツ日本国大使館が送達要請者に対して送付
したことに係る行政文書(文書9から31まで)及び③捜査共助に係
わる行政文書(文書32)に分類される。
(2)不開示とした部分について
ア 上記①に分類される文書(文書2から8まで)について
(ア)上記①に分類される文書には,送達の対象となった訴訟関係書類,
受訴裁判所から在ドイツ日本国大使等をあて先とする送達嘱託書,
最高裁判所より諮問庁領事移住部長あての送達嘱託書等の送付に
ついての依頼書,在ドイツ日本国大使館作成の在ドイツ連邦共和国
特 命 全 権 大 使 名 の 送 達 報 告 書 , ド イ ツ の 郵 便 機 関 ( Deutsche
Bundespost)の配達に係る受領(配達)証明書,在ベルリン日本国
総領事館から受送達者本人への直接の照会に係る文書等,その他公
信(在ドイツ大使館発本省あて)の表紙及び本文が含まれる。
(イ)これら文書には,当該送達の受送達者,送達の対象となる文書に
係る訴訟の原告又は被告,その他の個人に関する情報が含まれてお
り,これらは法5条1号に規定する個人を識別できる情報に当たる
ため,該当部分を不開示とするのが妥当である。
(ウ)文書2には,送達の対象である判決書が含まれているが,民事に
係る判決書を含む訴訟記録については,民事訴訟法の規定により,
事件番号により事件を特定の上閲覧を申請することにより初めて
閲覧可能となる。したがって,訴訟記録の個人情報は,法5条1号
ただし書イに規定する法令の規定により公にされ,又は公にするこ
とが予定されている情報には該当しないため,不開示とするのが妥
当である。
(エ)文書4には,家事事件に係る訴訟関係書類が含まれているが,家
事記録は,民事記録と異なり,一般に閲覧を認める規定はなく,ま
た,身分関係に係るものである。したがって,家事事件の訴訟関係
記録については,特定の個人を識別できる情報を除いた部分につい
ても,なお,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれ
があるため,法5条1号により不開示とするのが妥当である。
(オ)公信の表紙,在ベルリン日本国総領事館から受送達者本人への直
接の照会に係る文書には,諮問庁職員の氏名についての記載がある
が,諮問庁職員の氏名については,行政職俸給表(一)における職
務の級が6級以上に相当する者の氏名は財務省印刷局(現在は独立
行政法人印刷局。以下同じ。)編の職員録に掲載されており開示対
象となるが,当時職務の級が5級以下の職員の氏名については,慣
3
行として公にされ,又は公にすることが予定されていない個人情報
であるため,法5条1号ただし書イに該当せず,その部分について
は不開示とするのが妥当である。
(カ)ドイツの郵便機関(Deutsche Bundespost)の配達による受領(配
達)証明書については,「Postleitzahl(Einlieferungsamt)」欄に
は文書を受付けた郵便局の番号,「Empfänger der Sendung」欄に
は受領者(受送達者)名,
「Stra ・ e und Hausnummer oder Postfach」
欄 に は 受 領 者 ( 受 送 達 者 ) の 住 所 , 「 Postleitzahl,
Bestimmungsort」欄には受領者(受送達者)の住所の郵便番号,
「Sendung erhalten (Unterschrift)」には受取者の署名が記載さ
れており,これらは法5条1号に規定する個人を識別できる情報,
又は公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがある情
報に該当するため,不開示とするのが妥当である。また,その他受
領(配達証明書)証明書の記載事項で不開示とした部分についても,
受送達者の住所を推定させる記述があるため,同様の理由で不開示
とした。
イ 上記②に分類される文書(文書9から31まで)について
(ア)上記②に分類される文書には,我が国地方裁判所により受送達者
に送達が実施された旨の郵便送達報告書,送達が実施されなかった
ことを証明する郵便関係書類,送達証明書の送達要請者に対する送
付についての外務大臣発在独大使あて訓令公信,送達証明書の送付
の報告に係る在ドイツ日本国大使発外務大臣あて公信,ドイツの郵
便機関(Deutsche Bundespost)による送達証明書の配達に係る受
領(配達)証明書が含まれる。
(イ)これらの文書には,受送達者の住所,氏名,押印又は署名,受取
人の氏名等が記載されており,これらのうち,受送達者が個人であ
るものについては,法5条1号に規定する個人を識別できる情報に
当たるため,該当部分を不開示とすることが妥当である。
また,受送達者が法人であるものについては,該当部分には訴訟
の当事者である特定法人に係る情報が記載されていることから,こ
れを開示すれば,当該法人が訴訟の当事者であることが明らかにな
り,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそ
れがある。
したがって,該当部分については,法5条2号イの不開示情報に
該当すると認められ,不開示とすることが妥当である。
(ウ)我が国地方裁判所より受送達者に送達が実施された内容を記す郵
便送達報告書には,郵便局の配達担当者の氏名等が記載されている
4
が,これらは法5条1号に規定する個人を識別できる情報に当たる
ため,該当部分を不開示とすることが妥当である。
(エ)送達要請者に対する送達証明書の送付についての外務大臣発在独
大使あて訓令公信には,送達要請者についての記載及び送達要請書
が添付されているが,これは他国からの送達要請に関する文書等で
あり,司法共助の事案ごとに送達要請者及び送達要請書を明らかに
することは,国際慣行上想定されておらず,公にすることにより,
他国等との信頼関係が損なわれるおそれがあり,法5条3号の不開
示情報に該当し,不開示とするのが妥当である。
なお,文書23には,訴訟関係書類の返送先に送達要請者名(ド
イツの裁判所名)が記載されているが,同様の理由で法5条3号の
不開示情報に該当するため,該当部分を不開示とするのが妥当であ
る。
(オ)公信の表紙には,諮問庁職員の氏名についての記載があるが,諮
問庁職員の氏名については,行政職俸給表(一)における職務の級
が6級以上に相当する者の氏名は財務省印刷局編の職員録に掲載
されており開示対象となるが,当時職務の級が5級以下の職員の氏
名については,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定さ
れていない」個人情報であるため,法5条1号ただし書イに該当せ
ず,その部分については不開示とするのが妥当である。
(カ)ドイツの郵便機関(Deutsche Bundespost)の配達による受領(配
達 ) 証 明 書 に つ い て は , 上 記 ア ( カ ) と 同 様 ,
「Postleitzahl(Einlieferungsamt)」欄には文書を受付けた郵便局
の番号,「Empfänger der Sendung」欄には送達要請者名,「Stra ・
e und Hausnummer oder Postfach 」 欄 に は 送 達 要 請 者 の 住 所 ,
「Postleitzahl, Bestimmungsort」欄には送達要請者の住所の郵
便番号,「Sendung erhalten (Unterschrift)」には受取者の署名が
記載されており,上記(エ)の理由から,法5条3号の不開示情報
に該当し,不開示とするのが妥当である。また,その他受領(配達)
証明書の記載事項で不開示とした部分についても,送達要請者を推
定させる記述があるため,同様の理由で不開示とした。
ウ 上記③に分類される文書
文書32は,捜査共助に関する行政文書であり,公にすることに
より,捜査の維持等に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条4号
により不開示とするのが妥当である。また,当文書には,特定の個
人を識別できる情報が含まれており,当該箇所については,併せて
法5条1号により不開示となる。
5
(3)異議申立人の主張について
異議申立人は,法5条3号及び4号が「・・・おそれがあると行政機
関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」として規定する行政
機関の判断の許容範囲について,「基準の拡大解釈によっては,邦人の
権利を侵害すること」になるとし,不開示とした部分について再考を請
求するとしている。しかしながら,諮問庁は上記(2)イ(エ),(カ)
及びウの通り判断したのであって,異議申立人の主張には理由がない。
3 したがって,諮問庁としては本件決定を維持することが適当と考える。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
①
②
③
④
⑤
平成16年3月3日 諮問の受理
同日 諮問庁から理由説明書を収受
同年3月30日 異議申立人から意見書を収受
同年6月17日 本件対象文書の見分及び審議
同年7月27日 諮問庁の職員(外務省大臣官房総務課情報公開室長
ほか)からの口頭説明の聴取
⑥ 同年9月8日 異議申立人から意見書(資料)を収受
⑦ 同月14日 異議申立人からの口頭意見陳述の聴取
⑧ 同年12月1日 諮問庁から補充理由説明書を収受
⑨ 同月2日 審議
⑩ 同月27日 異議申立人から補充意見書を収受
⑪ 平成17年1月14日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
異議申立ての対象となった本件対象文書は,在ドイツ日本国大使館作成
の行政文書ファイル「国際司法共助」
(作成時期:1989年3月5日)に
属する
①文書2∼8 日本からドイツへの訴訟関係書類の送達に関する文書
その1からその7まで
②文書9∼31 ドイツから日本への訴訟関係書類の送達に関する文書
その1からその23まで
③文書32 捜査共助関係書類
の3種類の類型に属する合計31件の行政文書である。
当審査会において本件対象文書を見分したところ,これらの行政文書の
内容は,おおむね以下のとおりであることが認められる。
まず,①の類型に属する文書は,領事送達として,在ドイツ日本国大使
が訴訟関係書類をドイツ在住の受送達者に対して送達したことに係る行政
6
文書であって,我が国の特定裁判所の作成に係る判決文等の訴訟関係書類,
当該裁判所の作成に係る当該訴訟関係書類の送達嘱託に関する文書,外務
大臣から在ドイツ日本国大使に当該訴訟関係書類の受送達者への送達を要
請する公信,当該訴訟関係書類をドイツ在住の受送達者に送達したことに
つき,在ドイツ日本国大使から外務大臣に報告した送達報告書,当該報告
書に添付された送達を実施したドイツの郵便局の作成した受領(配達)証
明書等から構成されている。
また,②の類型に属する文書は,我が国の関係当局がドイツの関係当局
からの要請を受託し,国内の受送達者に対し訴訟関係書類の送達を実施し
た旨の通知書類を在ドイツ日本国大使が送達要請者に対して送付したこと
に係る行政文書であって,ドイツの裁判所からの送達要請につき,外務大
臣から在ドイツ日本国大使あて送達が実施された旨の送達要請者への通知
を要請する公信及びその添付資料として我が国地方裁判所を介して国内の
受送達者に送達を実施した日本の郵便局の郵便送達報告書,在ドイツ日本
国大使から外務大臣に上記送達要請者への通知を実施した旨の報告文書及
びその添付書類として在ドイツ日本国大使から送達要請者に対する上記送
達実施に係る通知に際してドイツの郵便局の作成した受領(配達)証明書
並びに当該送達要請者が作成した国際司法共助に係る送達要請書及びその
附属書類(以下「送達要請関係書類」という。)等から構成されている。
③の類型に属する文書については,文書32の1件であるが,外務大臣
から在ドイツ日本国大使あて,捜査共助の要請に係る公信(付属書類を含
む。)から構成されている。
異議申立人は,上記本件対象文書の不開示部分すべてを異議申立ての対
象としていることから,以下,各不開示部分の不開示情報該当性について
判断する。
2 不開示情報該当性
(1)法5条1号該当性
ア 訴訟関係者の氏名等について
本件対象文書の上記①及び②の類型に属するすべての文書を通じ
て不開示とされている,外務大臣から在ドイツ日本国大使あてに発出
された交信,郵便送達報告書,受領(配達)証明書及び判決文等に記
載された訴訟関係書類の受送達者,訴訟の原告及び被告等の訴訟関係
者の氏名,住所,郵便番号及び署名等(以下「訴訟関係者の氏名等」
という。)の情報は,法5条1号の個人に関する情報であって特定の
個人を識別することができるものに該当する。
そこで,以下に,訴訟関係者の氏名等につき,法5条1号ただし書
イからハまでの該当性について検討する。
7
まず,法5条1号ただし書イについて検討すると,訴訟に関係して
いる特定個人に関する情報は,たとえ,特定の裁判所等において特定
の日時に公開されることがあるとしても,これを一般に公にすべきと
の法令の規定又は慣行が存在しているとまでは言えないことから,同
号ただし書イに該当しないものと認められる。また,同号ただし書ロ
及びハに該当すべきとする事情も存しないことから,訴訟関係者の氏
名等については,法5条1号の不開示情報に該当するものと認められ
る。
イ 公務員の氏名について
本件対象文書の不開示部分には,各文書に係る国際司法共助手続の
決裁事務等に関与したドイツ又は我が国の公務員の氏名又はサイン
(以下「公務員の氏名等」という。)も記載されており,これら公務
員の氏名等に係る情報についても,上記アの訴訟関係者の氏名等と同
様に法5条1号の個人に関する情報であって特定の個人を識別する
ことができるものに該当することから,以下,法5条1号ただし書イ
からハまでの該当性について検討する。
まず,諮問庁の職員,郵便局の配達担当者等の我が国の公務員の氏
名等については,当該不開示とされた公務員の氏名等は,いずれも財
務省印刷局作成の職員録には登載されておらず,慣行として公にされ
ているものとは認められない。また,公務員の職務遂行情報はあくま
で職名を対象とするものであって氏名までを対象とするものではな
いことから,法5条1号ただし書ハに該当するものとも認められず,
同号ただし書ロに該当するとすべき事情も存しないことから,当該公
務員の氏名等については,法5条1号ただし書イからハまでのいずれ
にも該当せず,同号の不開示情報に該当するものと認められる。
次に,本件対象文書に記載されたドイツ国の公務員の氏名等につい
ては,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすること
が予定されておらず,また,法5条1号ただし書ロ及びハに該当すべ
きとする事情も存しないことから,同号の不開示情報に該当するもの
と認められる。
ウ 家事事件の記録について
本件対象文書のうち,文書4に含まれる家事事件の記録については,
上記アと同様に当該事件に関係する特定個人の氏名,住所等の記述か
ら特定の個人を識別することのできる情報であって法5条1号ただ
し書イからハに該当しないものと認められることから,以下,特定の
個人を識別することができることとなる記述等の部分を除いてなお
開示することのできる部分があるか否かにつき検討する。
8
当該事件の記録のうち,特定個人を識別することのできることとな
る記述部分を除いたその余の部分は,当該家事事件の審判の具体的内
容を記載した部分であって,これを公にすることにより,当該事件に
関係する特定個人の権利利益を害するおそれのある情報であると認
められることから,法6条2項の規定により部分開示をすることはで
きない。
以上のことから,当該事件の記録については,法5条1号の不開示
情報に該当し,法6条2項の部分開示をすることもできない。
(2)法5条2号該当性
本件対象文書中②の類型に属する文書のうちの文書13,16及び1
9については,国際司法共助に係る書類の送達を受けた者が法人であっ
て,受送達者の氏名等の欄には当該法人の名称,所在地,郵便番号等が
記載されており,したがって,これらの情報は,法5条2号の法人に関
する情報である。
これらの情報は,これを公にすることにより,当該法人が,特定の訴
訟の当事者であることが明らかとなるが,法人にとり,特定の訴訟の当
事者である事実を明らかにすることは,一般には,当該法人の権利又は
資産関係につき不確定要素が存在することなどを明らかにすることであ
って,これを秘匿しようとするのが通常であることから,当該情報は,
法5条2号イの法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するお
それのある情報に該当するものと認められる。
(3)法5条3号該当性
ア 送達要請者の名称等について
諮問庁は,本件対象文書中②の類型に属する文書に記載された司法
共助書類の送達要請者の名称,所在地及び郵便番号等の送達要請者に
関する情報(以下「送達要請者に関する情報」という。)については,
一般にこれを明らかにするような国際慣行等は存在しないことから,
これを公にすれば他国との信頼関係が損なわれるおそれがあり,法5
条3号に該当すると説明する。
しかしながら,当審査会において本件対象文書を見分した結果によ
れば,当該送達要請者はすべてがドイツの裁判所であり,かつ,本件
対象文書中②の類型に属する文書は,いずれも民事又は商事訴訟に関
するものと認められるところ,当該裁判所が特定の訴訟関係書類の送
達を日本の関係当局に依頼したという事実は秘匿すべき情報とは認
め難いこと及びこの種の情報を公にしてはならないとの慣行が存在
しているとまでは認められないことから,送達要請者に関する情報に
ついては,これを公にすることにより他国との信頼関係が損なわれる
9
おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある
情報とは認められない。
イ 送達要請関係書類について
諮問庁は,本件対象文書中②の類型に属する文書のうちの文書1
0,12から21まで及び28から30までに含まれる送達要請関係
書類について,上記(1)及び(2)により不開示情報該当性が認め
られる訴訟関係者の氏名等の訴訟事件の内容にかかわる情報を除い
たその余の様式部分及び形式的記載事項部分(送達要請者及び当該要
請の受託者に関する情報を含む。以下同じ。)につき,その内容にか
かわらず,これを開示すれば他国との信頼関係を損ねるおそれがある
として一律に全部不開示とした。
しかしながら,上記アにおける送達要請者の名称等の不開示情報該
当性の判断の理由で述べたとおり,送達要請に関して,一律にその内
容を検討することなくこれを公にしてはならないとの国際慣行は存
在しないばかりでなく,例えば,当該文書の様式部分については,「民
事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及
び告知に関する条約」に基づいて原則として各国共通の様式を使用
し,現にウエブサイトで自由に閲覧可能であることから,これを公に
することにより他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると行政
機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報とは認められな
い。
また,文書17の送達要請関係書類のうちに,訴訟当事者の氏名及
び住所のほか,当該訴訟の係属する特定裁判所の名称及び送達された
文書の性格を示すものであって訴訟の具体的内容までを明らかにす
るものではない記述が存在するが,当該書類の特定裁判所の名称及び
当該記述部分については,上記の様式部分と同様に実質的な内容を含
まない形式的記載事項部分であって,これを公にすることにより他国
との信頼関係が損なわれるおそれがあると行政機関の長が認めるこ
とにつき相当の理由がある情報とは認められない。
よって,本件対象文書中②の類型に属する文書のうちに記載された
送達要請者に関する情報並びに文書10,12から21まで及び28
から30までに含まれる送達要請関係書類の記載内容のうちの様式
部分及び形式的記載事項部分については,法5条3号の不開示情報に
該当するとは認められず,開示すべきである。
なお,送達要請関係書類につき,上記の開示すべき様式部分及び形
式的記載事項を除いたその余の部分については,前記のとおり訴訟関
係者の氏名等の情報が記載されている部分があるが,上記(1)及び
10
(2)において不開示情報該当性を判断したとおり,当該記述部分に
ついては,法5条3号該当性について判断するまでもなく,それぞれ
同条1号又は2号の不開示情報に該当するものと認められる。
(4)法5条4号該当性
本件対象文書中③の類型に属する捜査共助に関する文書32につい
ては,日本国内における平成6年以前に発生した特定の刑事事件に係る
捜査共助の具体的な内容が記載されていることから,これを公にするこ
とにより,犯罪の捜査に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認
めることにつき相当の理由ある情報に該当するものと認められる。
(5)その他の不開示部分について
本件対象文書中②の類型に属する文書のうちの文書10,12,14
及び26に含まれる受領(配達)証明書のうちの,ドイツの特定の裁判
所によって押印された最下部に「Gebuhrenstempler」との記載のある四
角の枠内の記載内容の一部につき,諮問庁は,上記(3)で検討した送
達要請者に係る情報のほか,受送達者の住所等を推測させる情報を記載
した法5条1号の不開示情報に該当する部分があるとして当該各部分を
不開示としたが,当該各部分の記載内容は,送達文書の料金収納に係る
形式的記載であって,受送達者に関する情報とは認められないことから,
法5条各号のいずれの不開示情報にも該当せず,開示すべきである。
また,本件対象文書中①の類型に属する文書のうちの文書3及び5並
びに②の類型に属する文書に係る受領(配達)証明書中
「Postleitzahl(Einlieferungsamt)」欄に記載された郵便番号並びに文
書20の受領(配達)証明書に押印された受付印に記載された郵便局名
について,諮問庁は,受送達者又は送達要請者に関する情報として不開
示としたが,当該郵便番号は,在ドイツ日本国大使館の所在地を管轄す
る郵便局に係るものであることから,法5条各号のいずれの不開示情報
にも該当せず,開示すべきである。
3 異議申立人のその他の主張について
(1)本人情報の開示請求の主張等について
異議申立人は,異議申立人本人の受領した司法共助に係る文書の開示
を求めており,本件対象文書中に含まれる文書についても,取り分け全
部不開示の文書32につき,異議申立人本人の情報が含まれる場合には,
法5条1号ただし書ロにより開示すべきである旨主張するが,法におけ
る不開示情報該当性の判断は,客観的に法5条各号に該当するか否かの
みをもって判断されるものであることから,異議申立人の上記主張は,
当審査会の判断を左右するものではない。
また,異議申立人は行政機関個人情報保護法16条の規定による裁量
11
的開示を主張するが,本件開示請求が法に基づくものであることから,
これを採用することはできない(なお,同法は,平成17年4月から施
行されることとされている)。
異議申立人は,その他にも種々主張するが,いずれも当審査会の判断
を左右するものではない。
(2)法38条の情報提供等の措置について
異議申立人は,その他にも諮問庁が法38条の開示請求者に対する情
報の提供等の適切な措置を取らなかった旨を主張するので検討する。
異議申立人の主張及び諮問庁の説明のいずれによっても争いのない事
実として,異議申立人が自らに係る司法共助の関係書類を開示請求する
意思が明確であったこと,諮問庁の窓口に何度か直接来訪して担当者と
面談をしていること及び異議申立人が入手したい文書が本件対象文書3
2件中31件までに含まれていないことが認められる。
一方で,諮問庁は,本人情報の開示請求は一般に存否応答拒否になっ
てしまう旨などを教示し,一般的なファイル検索等について教示した旨
を主張し,異議申立人は,一般的なファイル検索等についての教示は受
けておらず,自力で本件対象文書を特定して開示請求した旨を主張し,
そのそれぞれの主張について微妙に異なるものである。
以上の状況にかんがみれば,諮問庁において,法38条の情報提供等
の適切な措置がされなかったと認めるに足る証拠はないと言うべきであ
るが,その可能性を完全に否定することもまたできないことから,諮問
庁には,本件開示請求に伴う上記のような状況を踏まえ,今後とも,法
38条の情報提供等の措置の規定の趣旨を損なうことのないよう,開示
請求人に対応されることを望むものである。
4 本件決定の妥当性
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を不開示とした決定に
ついては,不開示とされた部分のうち,別紙に掲げる部分以外の部分は,
法5条1号,2号イ又は4号に該当すると認められるので不開示としたこ
とは妥当であるが,別紙に掲げる部分については,法5条1号,2号イ,
3号又は4号のいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。
第6 答申に関与した委員
寳金敏明,髙木佳子,戸松秀典
12
別紙
開示すべき部分
1
本件対象文書中②の類型に属する文書のうちに記載された送達要請者に関
する情報並びに文書10,12から21まで及び28から30までに含まれ
た送達要請関係書類の記載内容のうちの様式部分及び形式的記載事項部分
2
本件対象文書中②の類型に属する文書のうちの文書10,12,14及び
26に含まれる受領(配達)証明書のうちの,ドイツの特定の裁判所によっ
て押印された最下部に「Gebuhrenstempler」との記載のある四角の枠内の記
載内容のすべて
3
本件対象文書中①の類型に属する文書のうちの文書3及び5並びに②の類
型 に 属 す る 文 書 に 係 る 受 領 ( 配 達 ) 証 明 書 中
「Postleitzahl(Einlieferungsamt)」欄に記載された郵便番号並びに文書2
0の受領(配達)証明書に押印された受付印に記載された郵便局名
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