バイオマス利活用施設でさまざまなコスト縮減 北広島市・北広島下水

バイオマス利活用施設でさまざまなコスト縮減
~ LOTUS Project「グリーン・スラッジ・ エネルギー技術の開発」技術を一部転用~
北海道・北広島市
消化槽
札幌市に隣接し,新千歳空港や苫小牧港などへの交
通アクセスに優れる北広島市。工業団地が造成され,
バイオマス利活用の経緯
多くの企業が生産・流通施設を置くなど今後の発展が
見込まれる同市の下水処理センターでは,バイオマス
北広島市は昭和45年に下水道事業に着手。同47年に
利活用の取り組みが行われています。既存の下水処理
は処理場が稼働を開始し,面整備の進捗に合わせて処
センター内にバイオマス混合調整棟を設置し,生ごみ
理施設の整備を進めてきました。基幹施設である北広
とし尿・浄化槽汚泥等を下水汚泥と混合し消化槽に投
島下水処理センター(愛称:あしる)の計画処理量は
入,回収した消化ガスは燃料に,また汚泥は乾燥後,
32,600m3 /日,現有処理能力は24,933m3 /日。処理
肥料として利用を図るものです(初期から消化ガスの
方式には標準活性汚泥法を採用。センター内で発生し
場内利用,下水汚泥は緑農地還元を実施)
。同技術は
た汚泥は濃縮,消化,脱水,乾燥工程を経て,肥料と
LOTUS Project(下水汚泥資源化・先端技術誘導プ
して全量を緑農地に還元しています。
ロジェクト)の「グリーン・スラッジ・エネルギー技
同センターでは,平成23年度から生ごみ,同25年度
術の開発」にも資するものとされています。今回の
からし尿・浄化槽汚泥等の地域のバイオマスの受け入
ユーザーリポートでは,稼働後約5年が経過するバイ
れを開始しました。それは,ごみ処理問題が契機と
オマス混合調整棟の現在の運転状況と課題,今後の展
なっています。
開をお伺いしました。
北広島市の廃棄物処理は,北海道が示した「ごみ処
32 —— 下水道機構情報
Vol.11 No.24
理の広域化計画」に基づき,北広島市をはじめ2市4
た。平成23年度からごみの中に4割ほど含まれていた
町からなる道央地域ごみ広域化ブロックによる可燃ご
生ごみを分別回収し,それを受け入れ前処理し,下水
み広域化処理をめざしていました。しかし,焼却施設
汚泥と混合処理するバイオマス利活用施設を導入。平
建設予定地が,国が進める千歳川遊水地の計画地と重
成25年からはし尿・浄化槽汚泥等の受け入れも開始し
複することが判明し,焼却施設の供用開始が延期とな
ました。
りました。一方,資源ごみ以外は最終処分場で埋め立
て処理していましたが,延期に伴い,焼却施設の稼動
処理フロー
前には最終処分場が満杯になるとの予測から,その延
命が急務となっていました。
最初・最終沈澱池で発生した汚泥は濃縮槽で沈殿・
し尿・浄化槽汚泥等は市内にあった一部事務組合で
濃縮され,バイオマス混合調整棟に送られます。調整
ある道央地区環境衛生組合で広域処理していました
棟では,家庭などから排出される生ごみ,し尿・浄化
が,施設の老朽化が進み,下水処理場への受け入れも
槽汚泥等の地域のバイオマスを下水汚泥と混合・調整
含め早急な対策が求められていました。
し,消化槽へ送ります。
そんな中,平成18年に開かれた「クリーン北広島推
生ごみやし尿・浄化槽汚泥等に含まれる異物は異物
進審議会」において,
「生ごみ減量化のためにメタン
ホッパで一時貯留し,パッカー車で最終処分場へ搬出
発酵による処理により,減量化,有効利用する施設を
されます。
建設することが求められる」との中間答申が出されま
一方,消化槽では汚泥中の有機分を分解・ガス化し
した。これを受け,市民にごみ対策への意識を浸透さ
て容量を小さくし,発生したガスは,消化槽の加温ボ
せるとともに,まずごみの減量化と最終処分場の延命
イラーと乾燥機の燃料として利用。消化槽で発生した
対策として平成20年度から家庭ごみを有料化しまし
汚泥はスクリュープレス脱水機により水分を80%程度
フロー図
下水道機構情報 Vol.11 No.24 ——
33
混合調整棟外観
生ごみの受け入れ
破砕分別機
に絞り,乾燥機へ移送します。
乾燥機で含水率を20%前後に乾燥した後,下水汚泥
し尿の受け入れ
課題と今後の展開
肥料「あしるのめぐみ」として市内の農家へ無償で配
布し,一部の汚泥肥料は袋詰めをして,市民への販売
稼働して5年ほどということもありますが,大きな
や公共緑地用として無償配布を行っています。なお,
トラブルはほぼ無いとのことです。生ごみの投入開始
平成27年度の下水汚泥肥料は704t,うち102tが市民
直後には消化槽内で発泡現象が発生しました。この間
や公共緑地等への配布分となっています。
は投入量を増加できないため,二次槽への直接投入を
実施。濃度や投入量を調整するなど半年後には解決し
34 —— 下水道機構情報
Vol.11 No.24
袋詰めされたあしるのめぐみ
ゴミの分別は色分けされている
ました。
与することです。実際に類似施設を一元化したことに
また,計画受入量は生ごみは18t/日,し尿・浄化
よる建設費・維持管理費の削減や消化ガス活用による
槽汚泥等は35t/日ですが,生ごみは現状で計画受入
重油使用量の削減効果が出ています。特に重油に関し
量には至っていません。生ごみの収集率が上がり,消
ては導入前と比較して100kℓ/年の重油を削減でき,
化ガスの発生量を高めることができれば,
「当然発電
購入費のコストをはじめ,地球温暖化の抑制(計算上
も視野に入ってきます」
(北広島市水道部下水処理セ
では年間約1,500tの温室効果ガス削減効果)に資す
ンター)と展望されています。
ることができたという結果が出ています。
生ごみを受け入れ処理している他都市では,破砕分
別機以降にごみ袋のビニール片が残るケースがある
最後に
そうですが,同市の場合は,破砕分別機により,分
別,除去されています。そのほか沈降物除去装置によ
下水処理センターで生ごみやし尿・浄化槽汚泥等の
り卵の殻や種など固いものをはじめ,消化不適物を事
バイオマスを受け入れ,一元的に処理することでバイ
前に除去しています。また,トウモロコシの皮や貝殻
オガス・汚泥の有効利用を効率的に行うことが可能な
など,受け入れできない生ごみについてはごみ袋に表
汚泥処理システム。今後については「国土交通省や環
示し,普通ごみに投入してもらうよう,市民にお願い
境省の補助で整備はしていますが,いずれ更新期が来
しています。当初はスプーンなど異物の混入もありま
ますので,その時にどう対処すべきか考えていく必要
したが,徐々に市民にもごみ分別の方法が浸透してい
があります」(同)と財政面での課題はありますが,
き,最近では異物混入のトラブルは少ないそうです。
今後,汚泥の緑農地還元に加えて発電が可能になれ
機械の点検は1カ月に1回,行っています。「さま
ば,下水処理場をバイオマス利活用の拠点に位置付け
ざまな生ごみを投入するので,破砕分別機等の消耗品
る「北広島市モデル」としてさらなる脚光を浴びるか
が破損することもありました。その都度取り替えや修
もしれません。下水汚泥は約8割が有機物であり,そ
理を行っています。何より定期的な点検のお陰で大き
の特性を活かしたエネルギー利用推進が図られていま
な事故はありません」(同)ということです。
す。循環型社会の形成推進に取り組む同市に今後とも
同市におけるバイオマス利活用施設の最大のメリッ
期待したいところです。
トは,発生源が異なるバイオマス(下水汚泥,生ご
最後になりましたが,取材の際にご協力いただきま
み,し尿・浄化槽汚泥等)を一括して混合処理するこ
した北広島市水道部下水処理センターの方々にこの場
とにより,維持管理の効率化や最終処分場の延命に寄
をお借りして御礼申し上げます。
下水道機構情報 Vol.11 No.24 ——
35