2 在宅における緩和ケアネットワークづくり~多摩緩和ケアカンファレンスの変遷から

在宅における緩和ケアネットワークづくり
~多摩緩和ケアカンファレンスの変遷から~
公益財団法人東京都保健医療公社
多摩南部地域病院 患者支援センター 地域連携部門
○秋和彩
はじめに
根本信子
開業医:医師・歯科医師・看護師・歯科衛生士
当院は南多摩医療圏に位置する地域医療支援病
訪問看護:看護師
院で、平成5年に開院し「救急医療」と「がん医療」
地域調剤薬局:薬剤師
を重点医療として掲げている。平成 25 年 7 月に緩
居宅介護支援事業所:ケアマネージャー
和ケア病棟を開設した。
地域包括支援センター:ケアマネージャー
平成 25 年 3 月から、当院の緩和ケア科医師をは
保健師
じめとする多摩市内の病院・在宅往診医が、緩和医
訪問介護:介護士
療に関する課題等について多摩緩和ケアカンファ
行政:市役所職員等 ※登録施設数:41 施設
レンス(以降、カンファレンスとする)を開始した。
その後、緩和ケア医療に関係する多職種職員も参加
(4)カンファレンステーマ
し、職種ごとの課題をテーマに話し合うようになっ
毎月、緩和ケアに係る全ての参加施設に輪番制
た。カンファレンスは、地域の医療・介護の問題、
で症例発表を依頼している。事例の内容から課題
各々が関わる事例についてディスカッションがで
を提示し、グループディスカッションのテーマと
きる場となっている。また、情報共有や意見を交換
している。
することで、病院と地域の医療・介護連携強化とネ
2 実績
ットワークづくりが可能となった。
当院は前年度まで事務局としてカンファレンス
(1)カンファレンス開催回数:33 回
(平成 25 年 3 月~平成 28 年 11 月)
の企画・運営を担っていたが、今年度はこれに加え、
地域連携部門職員が看護師という立場で参加する
平成 27 年度(計 11 回)の参加者は職種別に
ようになった。カンファレンスに参加し地域の現状
みると、看護師が一番多く、次いで医師、ケア
を知ることで、緩和ケアに関する病院側の課題を考
マネージャー、薬剤師、歯科衛生士、医療ソー
える契機となったため報告する。
シャルワーカー、臨床心理士、歯科医師等とな
っている。
(図1)
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カンファレンス開催概要
(人)
(1)開催日
毎月第 2 金曜日 19 時から
1 時間半程度
(2)開催場所・運営
当院と日本医科大学多摩永山病院で交互に担当
(3)参加者
多摩市内(八王子市・町田市等)で勤務する緩和
ケアに関わる職員
病院:医師・看護師・栄養士・薬剤師・理学療法
延 303 人
士・作業療法士・臨床心理士・医療ソーシ
図1 平成 27 年度職種別参加者数(院内・院外)
ャルワーカー・事務職員
1
(2)カンファレンステーマ
問題について各々が情報を得て、現場(職場)で患
当初は医療に関するテーマが殆どであった。医師
者サービスの提供に活かすことができる「きっかけ
が講義しその後討議するという形式であったため、
作り」の場となっている。
発言者は医師や看護師が中心になることが多かっ
もう一つの課題として、カンファレンスに参加す
る当院職員は毎回 3~4 名であり、同じメンバーに
た。
このため平成 27 年から、事例を通して互いの立
限られている。患者が病院から地域へ移行する際、
場でディスカッションする形式に変更した。在宅調
適切なサポートとサービスを提供するためには、緩
整困難事例や在宅での看取りなどの実例をとおし
和ケア病棟に関連する職員だけでなく、その他の職
て、それぞれの立場で知りたいことや共有したい情
員参加が必要である。地域の在宅医療・介護の現状
報を、グループワーク方式で議論している。1 グル
を知ることで、患者・家族の希望や社会背景にあっ
ープのメンバーは 5~6 名とし、職種が偏らないよ
た意志決定のサポートに役立てられると考える。
うに調整した。また、司会・書記・発表者を決める
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ことで、より活発な意見交換がおこなえるようにな
った。発表者は視点を変えるため、介護職やケアマ
おわりに
在宅療養を推進するためには、カンファレンスで
ネージャー等にも依頼した。
共有した情報を活かし、病院と地域でケアの標準化
を図る必要があると感じた。また患者を取り巻く病
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考察
院と地域の職員が、互いの活動エリアを行き来でき
終末期のがん患者が、住み慣れた地域で家族に見
るようなフリーアクセスの仕組みや、当院の緩和ケ
守られながら在宅療養を続けるためには、地域連
ア認定看護師による在宅訪問など、病院と地域が協
携・病診連携・看看連携の強化が必要である。カン
働できる体制を整える必要があると考えた。
ファレンスの参加者で最も多い職種は看護師であ
そのために、活発な情報交換がおこなえるよう、
った。緩和ケア領域は、看護の力がより発揮される
今後も多摩緩和ケアカンファレンスを運営し、コー
分野でもあるため、カンファレンスによる地域の看
ディネートしていきたいと考える。
護職員との交流が、在宅療養の質を左右する大きな
鍵となっている。在宅であっても病院であっても、
常に患者・家族を中心に据えて、関わっている医療
職や関係者が同じ土俵で話ができることで、信頼関
係の構築ができていくと考える。当初からの目的で
あった“顔の見える連携”が可能となり、互いの立
場や考え方を理解し共有することで、尊重し合うこ
とができる。その結果、患者家族が安心して在宅療
養ができる環境作りにつながる。
カンファレンスで話し合う中で、課題も明確にな
ってきた。病院の看護師は、患者を生活者としてと
らえ、自宅(地域)に帰ってからの姿を具体的にイ
メージすることに、まだ充分習熟していない。入院
中に患者の家屋状況や生活パターン、家族の支援体
制の状況、医療介護材料等の選定ついて十分介入で
きていないケースもあった。そのため在宅療養移行
後に支障をきたし、在宅スタッフによる多くの調整
業務を必要とした。カンファレンスは、このような
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