自助を促し全市的に 災害用トイレを整備

自助を促し全市的に
災害用トイレを整備
横浜市・災害時下水直結式仮設トイレシステム
(災害用ハマッコトイレ)
平成23年には東日本大震災,28年には熊本地震と巨
カ所整備をする予定です。最終的には市内の地域防災
大地震が発生していますが,その度に問われるのは
拠点458カ所,市役所および区役所19カ所,液状化被害
「トイレ」の必要性です。地震動による断水や停電,
想定区域内の災害医療拠点病院3カ所に整備します。
下水管きょの破損等が発生すれば,もちろんトイレは
このように多くの場所に設置しているため,緊急時
使用できません。そうすると,衛生状況が悪化し感染
に職員が駆けつけて設置することはもちろんできませ
症の温床になるほか,トイレに行く回数を減らすと脱
ん。そこで緊急時に地域住民が組み立てと運営ができ
水症状やエコノミークラス症候群といった症状に陥
るよう,自助を促す工夫がなされています。
り,命の危険にもつながります。そこで,今回は,下
水道とトイレを結んだマンホールトイレ「災害時下水
直結式仮設トイレシステム(通称:災害用ハマッコト
ハマッコトイレの設置・使用方法
イレ,以下「ハマッコトイレ」)」を全市的に取り組ま
ハマッコトイレは1拠点に5基を設置しています。
れている横浜市環境創造局下水道管路部管路保全課に
設置・使用方法は,①トイレ設置用のマンホール蓋
お話しを伺いました。
をバールで外し,中にある塩ビ製内蓋と(トイレ設置
時に邪魔になるため)蓋の蝶番を外す→②仮設トイレ
阪神・淡路大震災時に必要性実感
を組み立てる。まず便器部分を組み立て,シューター
横浜市では,平成7年に発生した阪神・淡路大震災
ルを組み立てトイレの上から覆いかぶせる→③注水口
で復興支援のために職員を派遣していました。当時は
のマンホール蓋
トイレの備蓄が不十分で,断水してしまうと水洗トイ
をバールで開け
レが使用できなくなりました。また,バキュームカー
る→④注水口に
の台数も少なかったために,汚物が回収できず不衛生
ホースを差し込
な状況で被災者は排泄に我慢を強いられていました。
み,水を供給す
横浜市では99.9%水洗化している上,地震時の道路状
る。一度に必要
況も分からないことから,通常の仮設トイレに頼らな
な水量はおよそ
い,下水直結式仮設トイレの設置に平成21年から取り
800 ℓ で 水 は
組み始めました。
プールや河川水
現在は年間30カ所を目標に整備しています。平成27
が 使 用 で き る。
年度末時点で110カ所,28年度は31カ所,29年度は33
水は手押しポン
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Vol.11 No.24
の先をマンホール穴に設置する。次に目隠し用のパネ
災害用トイレと書かれている蓋が目印
プや電動ポンプで注水口に送水して
使用する→⑤500回程度トイレを利用
するごとに下水道管に汚物が溜まる
ので,貯留弁の取手を15秒ほど引き
上げトイレ下に溜まっていた汚物を
下水道管に流す。流したら貯留弁を
閉 じ 再 び ポ ン プ で 水 を 汲 み 入 れ る,
という手順で行います。
28年度にマンホールトイレが整備
された横浜市立仲尾台中学校でトイ
レの上屋組立てとマンホール蓋を開
けてもらいました。上屋はアルミで
作られているため軽く,男性2人程
で持ち運べる程でした。男性4人(う
設置方法は分かりやすく絵で解説している
ち生徒2人)で上屋の組み立ても30
分もかからず終了でき,「中学生でも
組み立て方法が分かりやすく安心した。ただ,トイレ
の組み立てやマンホール蓋の開け閉めなど,普段やっ
ていないと忘れてしまうので,万が一のために1年に
1回の防災訓練で継続して訓練していきたい(指原信
一校長)」とのことでした。
また,仲尾台中学校では,防災備蓄庫は既にほかの
防災用品で満杯状態のため,別の場所にハマッコトイ
レを入れています。「備蓄庫の隣に新たに倉庫を作っ
たほうが,非常時に場所が分かりやすいのでは(同)」
との意見を頂きました。
トイレの組み立てに挑戦!
コツをつかめば中学生でも蓋を開けられる
地震が来ても大丈夫!
下水道機構情報 Vol.11 No.24 ——
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めておき,約500回使用後に800ℓの水で排水するた
め,1回当たり1.6ℓと,通常の5分の1から6分の
1で使用できます。
緊急時には住民がすぐ組み立てられるように,防災
訓練で市職員がレクチャーを行うほか,ハマッコトイ
レ付近には看板でお知らせしています。トイレの設置
方法は映像を作成し,DVDで配布したりYouTubeに
載せるなど,被災時でもすぐに方法を知ることができ
ます。「広報の工夫として住民の方に親しみを持って
もらうために『ハマッコトイレ』という愛称も防災訓
練参加者からの公募で決めました(横浜市環境創造局
下水道管路部管路保全課)」。
さらに地域防災拠点を運営する市民や関係者に広く
技術を習得してもらうために,ハマッコトイレマイス
パネルでトイレを囲んでいるので
光が洩れず,風にも強い
ター制度を創設しました。研修では実際にトイレを組
み立ててもらい,使用方法を理解した方にはハマッコ
トイレマイスターの称号を授与しています。
ハマッコトイレの特徴
トイレは全て洋式で,5基のうち一つは車いすで中
連携して整備促進
に入れるよう横幅を広くしています。通常の仮設トイ
ハマッコトイレの整備は,複数の部局で連携して進
レには下部に貯留するタンクがあるので,どうしても
めています。まず,下水道工事の設計・発注,環境創
段差ができてしまいますが,ハマッコトイレでは,下
造局で行います。下水道工事の現場監督,平時の点検
部に貯留するタンクが無いためトイレ内がフラットに
(管内,看板,トイレなどを目視で確認)は区の土木
なっており,高齢者でも安心して使用できます。パネ
事務所で行い,点検も行っています。トイレの上屋・
ルで囲い鍵もかけられることから,風にも強くプライ
便器部分の発注と購入は公衆トイレを管轄している資
バシーが守られるように配慮されています。
源循環局で行い,トイレ組み立てや利用方法のレク
また,通常の水洗トイレの配水には1回当たり8ℓ
チャーは環境創造局と資源循環局が合同で行っていま
~ 10ℓの水が必要ですが,このトイレでは汚物を溜
す。地域防災拠点を管理する運営委員会は地域の自治
プールが地上にあるタイプでは電動ポンプ(左)で,校舎の屋上にあるタイプでは
高低差を利用して水が流せるため手押しポンプ(右)でプールから汲み入れる
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会で行われているため,住民との窓口は区役所が行っ
ています。
また,横浜市管工事協同組合と災害協定を締結し,
緊急時には地域防災拠点の排水設備の点検を行って頂
いています。
設置費用は下水道工事が800 ~ 900万円で,トイレ
が100万円強。つまり,1カ所あたり1000万円程度か
かります。下水道工事では,トイレ下の下水道管(φ
450mm)の布設,また水再生センターまでの下流枝
線・幹線の耐震診断を行い,地震動による抜け出しや
液状化で浮上しないか等を確認。該当部には耐震補強
防災訓練時には地震時の下水道使用についても教えている
工事を施しています。
今でこそ分担して行えていますが,当初は調整に苦
い(同)」とのことでした。
労したと言います。
「防災と考えれば総務局,地域防
東日本大震災時には仮設トイレが行きわたるのに3
災拠点に学校が多いのでそう考えると教育委員会,ト
日以内は34%,一方で8日以上は49%と,すぐには配
イレと考えると資源循環局と,どこが担当するかで調
置されませんでした(日本トイレ研究所HP)。一方,
整が必要でした(横浜市環境創造局下水道管路部管路
熊本地震時には熊本市にマンホールトイレを20基設置
保全課)
」
。
しており,発災後すぐに使用でき,被災者からも好評
ハマッコトイレの設置は震災時に被害が大きいと想
だったそうです。それを受け国土交通省でも29年度予
定される地域から進めており,特に臨海部は液状化の
算の下水道総合地震対策事業の拡充項目に地域防災計
危険性があるため,優先して設置していました。「地
画に位置付けられた敷地面積0.3ha以上の防災拠点ま
震が多発していることや様々な報道から,市民の方か
たは避難地にマンホールトイレシステムの整備を推進
らトイレは重要視されており,設置要望の声も聞いて
していくことが盛り込まれています。
います。今後は郊外にも積極的に整備を進め,全箇所
横浜市ではハマッコトイレだけでなく,携帯用トイ
で整備していきたいです(同)」。
レや汲み取り式仮設トイレを既に整備しており,併用
することで,ライフライン普及までの排泄問題解決を
スピードアップを目指して
目指していきたいとしています。災害時は行政全体で
横浜市環境創造局ではハマッコトイレ整備に4名の
携して進めていくこともできるのではないでしょう
職員で対応しており,他の業務も抱える中でこれ以上
か。また,緊急時に自助を促すために常日頃から公助
のスピードアップを図ることは難しい状況です。そこ
を行っていくことも必要だと感じます。
で,現場監督と維持管理を行っている土木事務所と設
最後になりましたが,取材の際にご協力いただきま
計・発注に関する協力を依頼することも視野に入れて
した横浜市環境創造局下水道管路部管路保全課,横浜
います。
市立仲尾台中学校に御礼申し上げます。
対応する必要があり,横浜市のように複数の部署で連
地域防災拠点に施工している管きょは,公共下水道
であるため,維持管理が必要であり,こちらも民間事
業者に委託することも検討しています。
広報では,
「横浜防災ライセンス」の講習会プログ
ラムに「ハマッコトイレマイスター」の内容を組み込
んで,市民間での技術向上も図っていき,
「整備して
終わりではなく,継続して運営できるよう,訓練に組
み込むことで,職員の入れ替わりにも対応していきた
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