ミクロ経済学第1回

0 経済学の目的と方法
0.1 ミクロ経済学の方法
社会で解決すべき問題
1. 誰が
2. 何を
3. どれだけ
4. どうやって作るか?
5. 誰が
6. 何を
7. どれだけもらうか?
1∼7 をまとめて資源配分 (resource allocation) の問題といい、5∼7 をとくに分配 (distribution) の問題と
いう。
経済学が答えるべき問題
社会制度・ルールの下で、
•「どんな結果がもたらされるか」:事実解明的 (positive) な問題
•「その結果が良いか悪いか」:規範的 (normative) な問題
に答える。
どう答えるか
1. 社会の生産能力(技術)を定式化する
2. 個人の好み(選好)を定式化する
3. 資源配分を決めるためのルールを定式化する
4.「各人は、自分にとって可能な行動のなかで最も好ましいものをとる」という合理的行動原理に基づい
て、統一的に考える
5. 実現する資源配分の良し悪しの判断も、選好に基づいて民主的に行う
0.2 事実解明的な問いとミクロ経済学(とばします)
0.3 規範的な問いとミクロ経済学(とばします)
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1 消費者行動の理論
1.1 合理的行動:選好と効用関数
選好
•「x は y に比べて同等以上に好ましい」ことを
x⪰y
とかく。
•「x は y と同じくらい好ましい(無差別である)」ことは、
x ∼ y ⇐⇒ x ⪰ y and y ⪰ x
と表現する。
•「x の方が y より好ましい」ことは、
x ≻ y ⇐⇒ x ⪰ y and y ⪰x
/
と表現する。
選好の首尾一貫性
X を、選択しうるものすべての集合とする。
個人の好みが首尾一貫しているというためには、その選好について、次の完備性と推移性が成り立つことが
(最低限)必要。
完備性:「どんな選択肢も比べられる」
どんな x, y ∈ X についても
x ⪰ y or y ⪰ x
が成り立つ。
推移性:「選好が循環しない」
どんな x, y, z ∈ X についても、
x ⪰ y and y ⪰ z =⇒ x ⪰ z
が成り立つ。
要するに:
選択対象をいちばん良いものからいちばん悪いものまで(同点(無差別)を許しつつ)1列に並べることがで
きればよい。
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合理的行動とは
合理的行動とは、完備性と推移性を満たす選好 ⪰ の下で、最も望ましいものをつねに選択する行動のことを
いう。
効用関数の導入
効用関数は、選好 ⪰ を数字を使ってみやすくする道具。
x ⪰ y ⇐⇒ u(x) ≥ u(y)
となるように約束するときの関数 u(·) を効用関数という。
ちゃんと定義すると:
関数 u : X −→ R が選好 ⪰ の効用関数であるとは、あらゆる選択肢 x, y ∈ X について
x ⪰ y ⇐⇒ u(x) ≥ u(y)
x ≻ y ⇐⇒ u(x) > u(y)
x ∼ y ⇐⇒ u(x) = u(y)
が成り立つことをいう。
合理的行動とは(再)
効用関数を用いると、
合理的行動 = 効用を最大化する行動
とかける。
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1.2 消費者の選好と無差別曲線
財とは
財とは、商品として取引されるモノ(有形・無形をとわない)
。
消費計画
いま、社会に N 個の財があるとして、ある消費者は、
1個目の財を x1 、2個目の財を x2 、…、N 個目の財を xN
だけ消費しようと計画している。これを消費計画 x として
x = (x1 , x2 , · · · xN )
と表現する。
消費計画と選好
・・
・・
消費でなく消費計画についても、選好の首尾一貫性を考える。すなわち、どんな消費計画x, y, z ∈ X N につい
ても、
完備性: x ⪰ y or y ⪰ x
推移性: x ⪰ y and y ⪰ z =⇒ x ⪰ z
が成立していると考える。
無差別な消費計画の集合を考える
同じ効用を与える消費計画の集合を無差別集合という。財を2種類と考えるときには、その集合を平面上に描
けるので、無差別曲線という。(
「曲線」は「直線」や「折れ線」を含む概念)
なぜ無差別集合(曲線)を考えるのか
集合(曲線)の形をみれば、選好パターンがわかるから。
選好パターン:総量だけが大事な人
ビールだったらサッポロでもアサヒでもいい。量が大事なんだ。
サッポロ:中ジョッキ4杯 = アサヒ:中ジョッキ4杯 = サッポロ・アサヒ:中ジョッキ2杯ずつ
サッポロを x1 、アサヒを x2 だけ消費したときの効用を u とすると、
u = x1 + x2
が無差別曲線を表す式(1次式なので直線)
。
このときサッポロとアサヒは完全に代替的なので、完全代替財の関係
にある。
4
選好パターン:あまった分は無意味と考える人
そばとそばつゆは片方だけ大量にあっても困る。そば 200g に対してそばつゆ 50g なんだ。
(そば 200g、そばつゆ 50g)=(そば 200g、そばつゆ 100g)=(そば 300g、そばつゆ 50g)
そばを x1 、そばつゆを x2 だけ消費したときの効用を u とすると、
u =(そば:そばつゆ = 4:1)の比率よりあまった分は無意味
= x1 と 4x2 の小さい方に合わせて消費
= min{x1 , 4x2 }
が無差別曲線を表す式(折れ線になる)
。
• 例えば x1 = 200, x2 = 50 だと:
u = min{200, 200}
なので
u = 200
• 例えば x1 = 200, x2 = 100 だと:
u = min{200, 400}
なので
u = 200
• 例えば x1 = 300, x2 = 50 だと:
u = min{300, 200}
なので
u = 200
このときそばとそばつゆはお互いを補完し合っているので、完全補完財の関係にある。
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選好パターン:だいたいの人
と
の間なので、
となる。
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無差別曲線の傾きが意味するもの
無差別曲線の傾きとは、第1財の消費を1単位増やすためにあきらめる
第2財の消費量。言い換えると、第1財の価値を第2財で表したもの。
これを第1財の第2財に対する限界代替率といい、MRS12 と表す。
限界代替率は、右に行くほど小さくなる
これを限界代替率逓減の法則という。
限界代替率逓減の法則が言っていること
たくさんあるもののありがたみは薄れる
凸性
限界代替率逓減の法則の言い換えとして、
• 「無差別曲線が原点にむかって凸」とか
•「無差別曲線の上側が凸集合になっている」とか
•「選好が凸性をもっている」とか
ということがある。
凸とは: ある方向にでっぱっていることで、
凸集合とは: 集合の要素 x, y の間をとった要素もその集合に含まれるような集合のことで、
凸性とは:
凸集合の性質をもっていることである。
凸集合をきちんと定義する
すべての x, y ∈ X とすべての 0 ≤ λ ≤ 1 に対して、
λx + (1 − λ)y ∈ X
であるとき、X は凸集合であるという。
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1.3 最適消費
財は2種類とする。消費計画は x = (x1 , x2 )。
それぞれの価格は p1 , p2 として外生的に与えられたとする*1 。
まとめて p = (p1 , p2 ) とかく。
所得を I とする。
所得 I を使い切る消費計画は、
p1 x1 + p2 x2 = I
をみたす。左辺はベクトルの内積の形なので、単に
px = I
とかくことにする。これを予算制約(式)という。
最適消費計画問題の定式化
max u(x)
x
s.t. px = I
最適消費計画問題の解
最適消費計画問題の解とは、最適な消費計画 x∗ のこと。言い換えると、
予算制約下で最も高い効用を与える消費計画が x∗ である。
1.4 重要な補論(ここは本をよく読んでください)
*1
ちょっと気持ち悪いですがとりあえず受け入れましょう。価格が内生的に決まるパターンももちろんあり得ます。
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