リサーチ TODAY 2017 年 3 月 1 日 『2020年 消える金融』 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 このたび日本経済新聞出版社より『2020年 消える金融』を刊行した1。同書の各章の見出しは、窮地、断 絶、展開、縮小、実験、出口、停滞、進化の8単語である。これらは、今日の金融が抱える論点であり、長引 く超低金利環境の副作用を論じたものである。我々の問題意識は、未曾有の金融緩和環境のなかで金融 機能が蝕まれることにあり、こうした状況は持続性に不安を生じさせるのではないかとの点にある。 下記の図表は銀行の実質業務純益を2020年まで展望したものである。大手行では2割強の減益となる が地銀では4割近い減益になるものと試算される。銀行の活動領域である10年までのイールドカーブがマ イナス金利化し「金利水没」となるなか、銀行は「水中生活」を余儀なくされている。しかし、水中生活に耐え うる「エラ」を持ち合わせていない金融機関は絶滅危惧種になるのか、それとも生き残るべく進化を遂げら れるのか、もしくは環境自体をマクロ的に変えることができるのかを本書は問うた。 ■図表:邦銀の実質業務純益試算(業態別) 30,000 (億円) 【実額推移】 都市銀行 110 地方銀行 第二地銀 (16/3期=100) 【16/3期=100とした推移】 都市銀行 地方銀行 第二地銀 100 25,000 試算値 試算値 90 20,000 80 76 15,000 70 10,000 64 62 60 5,000 50 0 2016/3 17/3 18/3 19/3 20/3 (年/月) 40 2016/3 17/3 18/3 19/3 20/3 (年/月) (注)試算の前提:マイナス金利政策の邦銀への影響について、国内業務部門の資金利益(金利収支)の増減を試算。 前提は、①貸出金残高、預金残高は、近時の残高増減動向を勘案。②貸出金利回りの低下幅は、マイナス金利政策 が導入された 2016 年 2 月以降の貸出約定平均金利を参考に、2017 年 3 月期に前年度比▲12bp、以降は 2020 年 3 月期まで同▲2bp。③預金金利は 2017 年 3 月期から 2018 年 3 月期にかけて同▲1bp となり、以降は横ばい。 ④国内債(国債、地方債、社債)は残存期間中(都市銀行:3 年、地域銀行:4 年)に、0.05%の債券に均等に 入れ替わり。 (資料)全国銀行協会資料を基にみずほ総合研究所試算 1 リサーチTODAY 2017 年 3 月 1 日 2020年に向けて金融機能は崩壊に至り「消える金融」になるのか、それとも再生して進化を遂げていくの かが問われている。それは、新たな時代の金融モデルによる成長戦略を考えることでもある。次の図表は 邦銀のビジネスモデルの変遷を示す。主力銀行が日本の産業のインデックスファンドのようになり、産業と 一体であった状況が、バブル崩壊後には資本の制約が生じて機能が分化し、「アンバンドル」化せざるを得 ない状況になった。今日は、改めて、様々な金融機能を再構築する「リバンドリング」の状況にある。この中 には、投資的なものに加えて、FinTech等を含めた新たな機能も取り込むことになる。金融業にはこれまで 以上に多様な参加者の参入が予想され、金融と事業の垣根も低くなっていくだろう。こうしたなか、金融に は「リアルビジネス化」というべき変化が必要ではないか。金融仲介を拡大するためには、川下から川上へ、 リアルアセットを取り込み、企業経営に直接関与するハンズオン型の金融仲介モデルへのシフトが望まれる。 同時に、それは金融庁の「金融レポート」の中で、地域銀行のあり方としても示される「目利き力」を発揮し た金融仲介モデルへの進化でもある。 ■図表:邦銀のビジネスモデルの変遷 金融機関=運命共同体 1 9 9 0 年 代 前 半 ま で メインバンクが担った機能 「非市場性金融仲介」 ・貸出 ・疑似エクイティ ・株式保有 ・事業再生 M&A 市場化した金融機能 を再び取り込む動き 株式保有 金融機能の リバンドリング 金融持株会社 銀行の投資ファンド化 LBO/MBO ビジネスモデルに応じた 事業ポートフォリオの構築 2 0 1 0 年 代 メザニン ファイナンス ファイナンス DIP 不動産 ファイナンス ABL ストラクチャード ファイナンス プロジェクト ファイナンス シンジケート ローン 決済サービス等 相対ローン 金融機能の アンバンドリング 2 1 0 9 0 9 0 0 年年 代代 後 半 か ら 銀 行 デットとエクイティの垣 根を越えた投資 非金融機関 (商社・FinTech等) 機関投資家 (保険・年金・ファンド等) 投資活動を通じて 金融仲介機能を強化 (資料)みずほ総合研究所作成 本書は、金融機関の「水中生活」が続くことで金融崩壊に至る不安を指摘しつつも、同時に「水中生活」 の対処策について述べている。その進化の方向性は、LED戦略(長期化・海外戦略・分散戦略の拡大)、リ バンドリング、商社化、リアルビジネス化等多岐にわたる。ただし、基本は金融が生み出す情報生産機能で ある。銀行には銀行なりの情報生産があり、機関投資家には投資家としての情報生産がある。こうした機能 を存分に発揮することを通じた金融機関の進化が問われる状況にある。今や金融機関経営において最も 重要な課題となっている「マイナス金利でも稼げる経営」への進化を考えていく上で、本書が示す問題意識 や今後の方向性・アイディアが少しでも役立つものとなればと思っている。 1 『2020 年 消える金融』 (高田創、柴崎健、大木剛著 日本経済新聞出版社 2017 年 2 月) https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/book/170224.html 筆者の都合により、3 月 2 日(木)から 3 月 17 日(金)は休刊とさせていただきます。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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