大 - NHK

「大」相撲の「大」横綱
毎
ひのした かいさん
だい
だい
場所,相撲中継を楽しみに見ている。
とをいう「日 下開 山」や「大 力 士」「大 剛」
ひいきの力士の取組が 楽しみなのは
という語が使われた。「大横綱」は,昭和に
もちろんだが,相撲は,ことばの面でも興
入ってから使われ始め,昭和30年代に定着
味深い。例えば,
「大相撲」と「大横綱」。ど
した。ちょうど大鵬の横綱時代前後のこと
う読むだろう。放送では[オーズモー]と[ダ
だ。読みが[オー]から[ダイ]に変わったの
イヨコズナ]と読んでいるが,どちらも「大
がいつごろなのか,はっきりしない。相撲中
+和語」だ。
「大◯◯」の「大」は[ダイ]と
継では,音声を確認できた昭和59年以降は
読む場合と[オー]と読む場合がある。例外
[ダイ]が使われている。現役の横綱には「大
もあるが,原則として「大+漢語(音読みの
横綱を目指して」などと使い,引退後には
語)
」の場合は[ダイ]
,
「大+和語(訓読み
現役 時 代の活 躍をたたえることばとして使
の語)
」の場合は[オー]と読む。
「相撲」も
われることが多い。
「横綱」も和語なのでどちらも[オー]にな
「大横綱」の「大」は「偉大な」という意味
りそうだが,読み方が違うのはなぜだろう。
だ。どういう人が「大横綱」なのか,明確に
実は「大横綱」は,もともと[オー]と読
は決まっていない。しかし,「大横綱」と呼
まれていたようだ。
『子供のための日本美術
ばれる常陸山,双葉山,大鵬は,強いだけ
おほよこづな
家物語』
(栗原登著・昭5)に「大 横綱谷風
でなく,相撲界の精神的支えになるような
との力くらべ」とある。昭和初期の文章に
度量があると言われた横綱だ。そこが「大横
は,このほかにも[オー]と読まれている
綱」の「大」につながる。近年は,千代の富
用例はあったが,
[ダイ]と読む用例は見あ
士や白鵬の連続勝利や優勝回数といった記
たらなかった。そもそも明治や大正の文献
録が注目される。「大」が「大記録」など「大
には「大横綱」のことば自体が出てこない。
小あるもののうちの大」という意味でとらえ
「大横綱」は,古いことばではない。江戸
だい
だい
られ,[ダイ]と読まれるようになっている
時代,
「大関」の中で特に強い力士に「綱」
のだろう。一方,「大相撲」は「中心の」とい
が贈られた。この「綱」を「横綱」と言った。
う意味で江戸時代から使われており,
[オー]
これが 転じて「偉大な力士」という意味を
で定着している。
込めた「称号」として使われるようになり,
おお
だい
「大 奄美」と[オー]
しこ名も,
「大 砂嵐」
のちに「大 関」の上の地 位として「横 綱 」
であったり[ダイ]であったりだ。「大」の
が固定しておかれるようになった。当初「大
読みには大いに悩まされる。
横綱」は使われず,天下に並ぶ者のないこ
山下洋子(やました ようこ)
FEBRUARY 2017
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