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【発信】国立大学法人
富山大学総務部広報課
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平成 29 年 2 月 28 日
報 道 機 関
各位
神経軸索を包み込むミエリンの
異常が、統合失調症様症状の原
因となることを解明
要旨
富山大学大学院医学薬学研究部(医学)分子神経科学講座の森寿教授、
石本哲也助教らは、京都大学、順天堂大学との共同研究を行い、神経細
胞軸索を取り囲むミエリンと呼ばれる構造が薄くなることで、統合失調
症様の症状が出ることを、マウスを用いた実験で明らかにした。
この症状は、ミエリンに発現している BCAS1 という蛋白質を発現させ
なくする(遺伝子ノックアウト)ことで誘導された。ミエリンが薄くな
る現象は統合失調症患者の脳でも見られており、今回の結果はミエリン
の異常が統合失調症の発症と深い関係があることを示している。将来的
には、ミエリンを標的にした統合失調症の診断や治療に発展する可能性
がある。
今回の研究成果はアメリカの科学専門誌 GLIA において、2 月 23 日付
でオンライン掲載されたものである。
実験結果
筆者らは、Breast Carcinoma Amplified Sequence 1(BCAS1)という蛋
白質に注目して研究を開始した。BCAS1 は、乳がんに関連する蛋白質だ
と考えられてきたが、実際には脳に多く発現していて、その役割はわか
っていなかった。研究開始時の目的は、この BCAS1 蛋白質の脳での役割
を解明するということであった。
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(結果1)まず BCAS1 蛋白質が脳内のどの細胞で発現しているかを詳細
に調べた。その結果、マウスにおいて BCAS1 は、ミエリンと呼ばれる神
経細胞の軸索を取り囲む構造を形成するオリゴデンドロサイトと呼ば
れる細胞に特異的に局在していることが分かった。
(結果 2)BCAS1 の脳での役割を突き止めるため、BCAS1 を発現しないマ
ウス(BCAS1 ノックアウトマウス)を作製した。BCAS1 ノックアウトマ
ウスの行動を調べると、野生型のマウスとほとんど同じ行動を示したが、
ただ一点、野生
型マウスと異な
る行動が観察さ
れた。それはプ
レパルスインヒ
ビションと呼ば
れ る 行 動
で、BCAS1 ノック
アウトマウスに
おいて統合失調
症様症状 が出る
ことを示してい
る(図 1)
。
(結果 3)電子顕微鏡を用いた解析によって、BCAS1 ノックアウトマウ
スの脳内では、神経細胞の軸索を取り囲む ミエリンが薄くなっている
ことが分かった。この結果は、BCAS1 ノックアウトマウスで神経伝達に
異常がある可能性を示す(図 2)
。さらに BCAS1 ノックアウトマウスの脳
内では、炎症に関連する遺伝子の発現が上昇しており、脳内で炎症が起
きている可能性が高いことが分かった。
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結果の解釈
現在、統合失調症
の原因としていく
つかの要因が考え
られているが、一つ
の要因として、脳内
で神経細胞の軸索
を包み込んでいる
ミエリンの異常が
挙げられる(図 3)
。
今回の発見によ
って、BCAS1 遺伝子
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のノックアウトによる、ミエリンの異常が、遺伝的要因や、ストレスな
どに関係なく、統合失調様症状を引き起すことが分かった。つまり ミエ
リンの異常は単独で統合失調症を引き起こす ことが示唆される。
ただし
今回の研究では他の統合失調症の原因候補を排除するものではなく、引
き続き統合失調症の発症メカニズム解明に向けた研究が望まれる。
雑誌名: GLIA
論文題名:
Mice lacking BCAS1, a novel myelin-associated protein, display
hypomyelination, schizophrenia-like abnormal behaviors, and
up-regulation of inflammatory genes in the brain
著者:
Tetsuya Ishimoto, Kensuke Ninomiya, Ran Inoue, Masato Koike, Yasuo
Uchiyama, and Hisashi Mori
掲載 URL:2 月 23 日付でオンライン掲載されました。
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/glia.23129/full
【本件に関する問い合せ先】
富山大学 大学院医学薬学研究部
分子神経科学講座
教授 森 寿 、助教 石本哲也
TEL. 076-434-7231