9 研究紹介 統合失調症罹患同胞対のエクソーム解析に 基づくリスク遺伝子の同定 新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野 保谷智史、渡部雄一郎、染矢俊幸 統合失調症とは、主に思春期から成人前期に陽 この研究成果を発展させ、統合失調症のリスク 性症状や陰性症状と呼ばれる特徴的な精神症状を 遺伝子を同定するために、今後は候補リスク遺伝 呈して発病する疾患で、慢性の経過をたどること 子のリシークエンスと関連解析を進めていく予定 が多い。治療法の進歩により回復可能な疾患とな である。候補リスク遺伝子内の異なる変異も統合 りつつあるが、現在の治療法は必ずしも十分なも 失調症の発症に関わる可能性があるため、候補リ のではない。統合失調症の根本的治療法を開発す スク遺伝子のタンパク質コード領域をリシークエ るためには、その病態を正確に理解する必要があ ンスし、稀な変異を網羅的に検索する。さらに、 る。統合失調症の病態はいまだ明らかにされてい 十分な検出力をもった大規模な症例・対照サンプ ないが、遺伝要因と環境要因が相互に影響し合っ ルを用いて関連解析を行い、リシークエンスによ て発症に至る多因子疾患であり、遺伝要因の関与 り同定された候補リスク遺伝子内の稀な変異が、 が大きいと推定されている1)。 統合失調症の発症リスクに関与していることを確 統合失調症の遺伝要因には、頻度は高いが影響 認する。 力の小さいリスク多型と、頻度は稀だが影響力が 統合失調症の発症に大きな影響力をもつリスク 大きいリスク変異の両方が関与している 。ゲノ 遺伝子を同定できれば、病態解明の分子基盤を得 ムワイド関連解析によって多くのリスク多型が同 ることができる。すなわち、リスク変異をノック 定されたが 、個々のリスク多型が発症に与える インしたマウスを作成し、動物モデル研究につな 影響力は小さく、その成果を病態解明へとつなげ げることができる。病態を解明できれば、それに ることは難しい。統合失調症の病態を解明するた 基づく根本的治療薬の開発が期待される。 2) 3) めには、頻度は稀だが影響力の大きいリスク変異 を同定することが重要である。ゲノム中の全エク 謝辞 ソンをシークエンスするエクソーム解析が行われ 本研究に対して平成28年度新潟県医師会学術研 るようになり、統合失調症の発症に大きな影響力 究助成金を賜りましたことを、この場をお借りし をもつ稀なリスク遺伝子として SETD1A 遺伝子 感謝申し上げます。 が同定された 。しかし、遺伝要因の一部が明ら 4) かにされたに過ぎず、 さらなる研究が必要である。 文献 統合失調症の発症に大きな影響力をもつ稀なリ 1)Owen MJ, Sawa A, Mortensen PB : スク遺伝子が存在する場合には、家系内に複数の Schizophrenia. Lancet 2016 ; 388 : 86-97. 罹患者が認められる可能性が高いと考えられ 2)Kavanagh DH, Tansey KE, O’ Donovan る 。そこで我々は、複数の罹患者がいる家系を MC, et al : Schizophrenia genetics : 対象としたエクソーム解析に関する先駆的な取り emerging themes for a complex disorder. 組みを行い、いくつかの候補リスク遺伝子を見出 Mol Psychiatry 2015 ; 20 : 72-76. 5) している 。 6、7) 3)Schizophrenia Working Group of the 新潟県医師会報 H29.2 № 803 10 Psychiatric Genomics Consortium : 6)Egawa J, Hoya S, Watanabe Y, et al : Rare Biological insights from 108 schizophrenia- UNC13B variations and risk of associated genetic loci. Nature 2014 ; 511 : schizophrenia : Whole-exome sequencing in 421-427. a multiplex family and follow-up 4)Singh T, Kurki MI, Curtis D, et al : Rare resequencing and a case-control study. Am loss-of-function variants in SETD1A are J Med Genet B Neuropsychiatr Genet 2016 ; associated with schizophrenia and 171 : 797-805. developmental disorders. Nat Neurosci 2016 ; 19 : 571-577. 7)Watanabe Y, Nunokawa A, Shibuya M, et al : Rare truncating variations and risk of 5)Homann OR, Misura K, Lamas E, et al : schizophrenia : Whole-exome sequencing in Whole-genome sequencing in multiplex three families with affected siblings and a families with psychoses reveals mutations three-stage follow-up study in a Japanese in the SHANK2 and SMARCA1 genes population. Psychiatry Res 2016 ; 235 : 13- segregating with illness. Mol Psychiatry 18. 2016 ; 21 : 1690-1695. 10 新潟県医師会協力テレビ放送 新潟県医師会では県内の放送局と協力し、病気予防・健康相談・検診案内など、県 民向けの健康情報を提供しております。是非ご覧ください。待合室などでもご利用く ださい。 ■ NST「みんなのニュース」ローカル枠内 「医師に聞く」コーナー 放送時間:18:15 ~ 19:00 放 送 日 テ ー マ 出 演 者 新潟市民病院救命救急・循環器病・ 3月31日 (金) 急性アルコール中毒 脳卒中センター センター長 広瀬 保夫 先生 *放送日、内容は予告なく変更になる場合がございます。予めご了承ください。 新潟県医師会報 H29.2 № 803
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