経済広報センター活動報告 経済広報センター活動報告 アクティビストにどう向き合うべきか ~国際IRに関するセミナーとロールプレイングセッションを開催~ アクティビスト研究グループによる説明骨子 ■北米のアクティビストの動向 資本効率を高める観点から、日本企業は、現在手 掛けている事業が、本当に得意分野といえるのか 北米のアクティビストが上場企業に対して行う提 どうかをあらためて問いただすべきだ。コングロ 案は、2010年以降、増加傾向にあり、今や年間200 マリット企業であっても、そうでない事業について 件を超えている。直近では、100億ドル規模の時価 は、売却やスリム化し、メリハリのある資本の再 スの上でも、重要なテーマになっている。そこで、経済広報センターでは、10月3日、世界的なコンサル 総額を持つ世界的な企業に対して、事業構造改革の 配分などを行えば、市場の評価は高まっていくだろ タント会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーの協力を得て、国際インベスター・リレーションズ(I 提案を行ったアクティビストもいる。 う。得意分野に特化する企業は、一般的にコングロ 近年、欧米を中心に、企業に積極的に提言などを行い、企業価値の向上を目指す投資家、いわゆる “アク ティビスト”の活動が注目を集めている。アクティビストとの関係は、わが国の企業のコーポレートガバナン R)の最新状況を聞くセミナーと、アクティビストに関する実際のケースを想定したロールプレイングセッ その一方で、大企業に提案を行うアクティビスト マリットより株主総利益が上回る。この事実を根拠 は、決して多くはない。主要な15のアクティビス に、アクティビストは、事業ポートフォリオの見直 セミナーではマッキンゼー・アンド・カンパニーのピーター・ケネバン氏が概略を説明した後、それを受 トだけで、米国の大企業が関係する全案件の約6割 しにより、得意分野に集中するよう企業に提案する け、同社の研究グループリーダーであるジョー・シリアック氏が講演した。その後、ほかの研究グループメ を占める。仮にアクティビストからの提案を受ける 傾向にある。 ンバー4人が、アクティビストの最新状況について説明した。以下は、その内容の概略である。 事態に至った場合には、まずは、当該アクティビス ションを開催した。 トの過去の実績や傾向を分析し、対策を検討するこ とが肝要である。 国際IRに関するセミナー 企業価値の最大化を積極的に進めるべき ピーター・ケネバン マッキンゼー・アンド・カンパニー シニアパートナー 欧米を中心にアクティビズ ムが活発化しており、その影 セミナーに先立ち行われたロールプレイングセッ 事業ポートフォリオ戦略は、アクティビストの提 ションでは、ドキュメントソリューション事業を 案に最も多く見られるテーマである。この場合、経 持つ、時価総額約100億ドルの多国籍企業が、アク 営陣にとっては、自発的に付加価値の高い事業を見 ティビストから「同事業を売却し、業務プロセスや 極めることが重要になる。また、財務戦略、ガバナ ICTのアウトソーシングに資源を集中させるべ ンス、経営者報酬などについても、アクティビスト き」との要求を突きつけられるケースを想定した。 は提案することが多い。加えて、資本市場に対して このシナリオの下で、セッションに参加した24名 企業の成長のための適切なストーリーを示すべき、 がアクティビスト側と企業経営者側に分かれ、想定 といった提案が寄せられるケースもある。 した多国籍企業の事業部別の業績の推移や同業他社 過去の事例を分析すると、アクティビストの提案 との経営指標の比較データを駆使し、企業価値向上 クティビスト自体には様々な のうち、75%はなんらかの形で、実現に至ってい の方策について、白熱したやり取りを展開した。参 る。経営陣がアクティビストの提案を拒否した場合 加者からは 「会社や立場を超えて、企業価値の向上 でも、数年後に、この提案と軌を一にする経営戦略 の観点から、アクティビスト対策の議論を繰り広げ が実施されたこともある。 るのは、とても有意義であった」(内田 章・東レ顧 ■日本市場の状況 問)といったコメントがあった。 資本利益率)を高めるべき時 企業に対して、積極的に提案をするようになっている。 代においては、日本企業とし アクティビストの関心は戦略的に企業の株主価値 てもアクティビストの考え方を理解した上で、企業 を高め、その結果として自らの投資リターンを拡大 価値の最大化を検討する契機にすべきである。企業 することである。ただし、彼らは短期的な利益を追 日本では1990年代後半以降、企業経営 価値の最大化を積極的に進めることが、アクティビ 求するだけでなく、長期的な視野からも利益を追求 における資本市場の重要性が高まり、直 ストに対する最善の対策である。 している。彼らの提案のほとんどは、ほかの株主に 接金融がより積極的に活用されるように とっても有意義なものであることから、実現する なってきた。株主構成に占める外国人投 ケースも多い。経営陣としては、アクティビストの 資家が増加する中、コーポレートガバナ 提案を自己変革の良い契機と捉え、株主価値を高める ンスコード、スチュワードシップコード ために積極的に議論し行動に移すことが必要である。 の制定など、日本企業にとって株主や投 アクティビストスタイルを取る投資ファンドの運 資家との積極的な対話が不可避な状況に アクティビストの活動は今後も拡大する ジョー ・シリアック マッキンゼー・アンド・カンパニー エキスパートパートナー (アクティビスト研究グループリーダー) 〔経済広報〕2016年12月号 ロールプレイングセッション 響は日本にも及んでいる。ア 評価があるが、ROE(株主 12 ンゼー試算)。 用資産は拡大傾向にあり、パフォーマンスも大変良 k なってきた。 米国のアクティビストの提 好になっている。アクティビストの提案を受けた企 この20年間、東証1部企業の売上高や 案するアイデアの多くは、企 業の株主価値は、彼らが関わることで同業他社の平 営業利益率は上昇しているが、他国に比 業の価値向上の観点から、意 均に比べて上回って推移することが示されており、 べ、株価の上昇は見られない。今重要な 味のあるものである。当初、 世界的にも一般投資家の間でアクティビスト的手法 のは、資本効率に対する経営者の意識向 アクティビストは、米国の小 が株主価値の向上に有効な方法であるという意識が 上であり、資本効率の観点から事業ポー 規模企業に対して提案をして 広がっている。このため、アクティビストの活動対 トフォリオの再構築を行えば、東証平均 きたが、今や大規模な多国籍 象は、業界的にも地理的にも拡大していくだろう。 株価は1.6倍に上昇すると見ている(マッキ (文責:国際広報部主任研究員 別所達也) 2016年12月号〔経済広報〕 13
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