日本経済情報 2017 年 2 月号

Feb 22, 2017
伊藤忠経済研究所
日本経済情報 2017 年 2 月号
Summary
【内 容】
1. 景気の現状
10~12 月期の成長
率は 4 四半期連続プ
ラスながら減速
賃金の伸び悩みか
ら個人消費は停滞
機械受注は設備投
資の伸び悩みを示
唆
デフレ脱却に向けた
動きは足踏み
2. 今後の見通し
日米首脳会談は為
替問題に触れず
春闘賃上げ率は昨
年並み確保も
設備投資は拡大に
向かうが牽引役とは
ならず
成長率は 2018 年度
に 1%台半ばへ
景気の現状と見通し~2017 年度中に需給ギャップ解消
2016 年 10~12 月期の実質 GDP 成長率は 4 四半期連続の前期比プラス
成長となり、景気は緩やかながらも持ち直しの動きを続けた。しかしな
がら、成長率を押し上げたのは専ら輸出であり、個人消費は賃金の伸び
悩みから停滞、設備投資も機械受注は主に製造業での伸び悩みを示唆す
るなど、国内民間需要は不調である。
さらに、GDP 成長率は鈍化傾向にあり、10~12 月期の前期比年率+
1.0%は概ね潜在成長率程度にとどまっているため、デフレ脱却に向けた
動きは足踏みしている。そのうえ、好調な輸出は中国向けを中心に反動
落ちが懸念されるなど、日本経済は力強さに欠き、先行きに懸念材料を
抱えた不安定な状況にある。
そうした中で、米国からの経済面における政治的な圧力が懸念されると
ころであるが、先般の日米首脳会談では貿易や為替など経済問題の議論
が今後立ち上がる「経済対話」で行われることが決まった。ここでは、
より現実的な議論となり、日米貿易不均衡の是正策として日本の輸入促
進策が検討される一方で、為替問題は不問とされる可能性が高い。
国内に目を転じると、注目の春闘賃上げ率は、物価の下落が下押し要因
となる一方、需給が一段と逼迫している雇用情勢や企業業績の回復見通
しが押し上げ要因となり、前年並みの 2%台の伸びを実現、所得環境の
改善が堅調な株価とともに個人消費の持ち直しに貢献するとみられる。
設備投資も、海外景気の改善や円安などから更新需要を中心にしばらく
拡大を続けるが、期待成長率がさほど高まらないため、景気を力強く牽
引するほどではないと予想される。
伊藤忠経済研究所
主席研究員
武田淳
(03-3497-3676)
takeda-ats
@itochu.co.jp
以上を踏まえると、2017 年 1~3 月期の実質 GDP 成長率は、民間需要
が総じて低迷する中で景気対策の執行が本格化し、かろうじてプラスを
維持、2016 年度通年では概ね前年並みの前年比+1.2%となろう。
2017 年度は住宅投資が大きく落ち込むが、個人消費が持ち直し、輸出
は増勢を取り戻し、設備投資も拡大傾向となり、実質 GDP 成長率は前
年比+1.2%に、2018 年度は個人消費が徐々に底堅さを増し、輸出や設
備投資は増勢を維持し、前年比+1.4%へ高まると予想する。需給ギャッ
プの解消は 2017 年度終盤、年内にもデフレ脱却への期待感が強まろう。
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
1. 景気の現状
10~12 月期の成長率は 4 四半期連続プラスながら減速
2016 年 10~12 月期 GDP の 1 次速報値は前期比+0.2%(年率+1.0%)
、4 四半期連続の前期比プラ
ス成長となり、景気は緩やかながらも持ち直しの動きを続けていると評価できる。
しかしながら、7~9 月期の+0.3%(年率+1.4%)から成長が減速した。個人消費(7~9 月期前期比
+0.3%→10~12 月期+0.0%)の足取りは重く、設備投資(▲0.3%→+0.9%)は増加に転じたとは
いえ小幅増にとどまり、これまで成長を牽引してきた住宅投資(+2.4%→0.2%)が失速するなど、
総じてみれば国内民間需要は停滞から脱していない。成長率をそれなりに押し上げたのは前期(7~9
月期)に続いて輸出(+2.1%→+2.6%)くらいであり、依然として輸出頼みの成長という状況が続
いている。また、予想通りではあるが、公共投資(公的固定資本形成)は 7~9 月期が前期比マイナ
スに下方修正(+0.1%→▲0.7%)、10~12 月期は▲1.8%へ落ち込みが加速しており、景気対策の効
果は未だ確認されていない。
実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%)
家計消費の財別推移(季節調整値、2013年Q1=100)
125
10
耐久財
120
実質GDP
5
設備投資
半耐久財
115
非耐久財
純輸出
0
105
個人消費
▲5
サービス
110
その他
公共投資
100
▲ 10
95
90
▲ 15
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2012
2016
( 出所) 内閣府
2013
2014
2015
2016
( 出所) 財務省
賃金の伸び悩みから個人消費は停滞
停滞感の残る個人消費(家計消費)の財別内訳を見ると(右上図)
、販売統計で好調さを見せていた耐
久財(+2.8%→+1.4%)は 4 四半期連続で増加したものの、持ち直しが期待された半耐久財(7~9
月期前期比▲0.8%→10~12 月期▲2.1%)は落ち込みが加速し 5 四半期連続の減少、食品などの非耐
久財(▲0.2%→▲0.4%)も減少が続いた。全体の約 6 割を占めるサービス消費(+0.5%→+0.1%)
も横ばい程度にとどまり、回復には程遠い状況にある。
個人消費を取り巻く環境を確認すると、平均賃金は 7~9 月期の前年同期比+0.5%から 10~12 月期
は+0.2%へ伸びが鈍化した(次ページ左図)
。所定内給与(基本給)が伸びを高めた(+0.3%→+0.4%)
ものの、特別給与(ボーナス)が前年比横ばいにとどまったことが伸びを押し下げた。また、消費マ
インドの代表的な指標である消費者態度指数(次ページ右図)は 11 月の 40.9 から 12 月 43.1、1 月
43.2 と改善を続けたが、
「収入の増え方」
(12 月 41.9→1 月 41.6)が悪化し改善の勢いは鈍化してい
る。
これらの指標は個人消費の先行きを占う上で賃金の動向が重要であることを示しており、その観点か
ら、まずは本格化しつつある春闘の行方が最大の注目点と言える。
2
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
平均賃金の推移(前年同期比、%)
消費者態度指数の推移(季節調整値)
52
1.5
1.0
0.5
消費者態度指数
50
収入の増え方
48
雇用環境
46
0.0
44
▲ 0.5
42
▲ 1.0
40
▲ 1.5
特別給与
所定外給与
所定内給与
総額
38
36
2013
▲ 2.0
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
( 出所) 厚生労働省
2014
2015
2016
2017
( 出所) 内閣府
機械受注は設備投資の伸び悩みを示唆
国内民間需要のもう一つの柱である設備投資は、前述の通り 10~12 月期に増加に転じたとはいえ、
先行指標の機械受注が 10~12 月に前期比▲0.2%とほぼ横ばいにとどまっており、
先行きは心許ない。
機械受注の減少は前期 7~9 月期の大幅増(+7.3%)の反動という面があるものの、その前の 4~6
月期が大幅に減少(▲9.2%)していたことも踏まえると、基調としては弱く、少なくとも 1~3 月期
に設備投資が大きく盛り上がることは期待できない。業種別に見ると(下左図)
、非製造業は増減しな
がらも拡大基調を維持しているが、昨年初からの円高進行などにより業績が悪化した製造業は下げ止
まった程度であり、回復が遅れている主因となっている。
機械受注の 1~3 月期の内閣府予想は、為替相場が円安方向に振れたことから業績回復が見込まれる
製造業を中心に前期比+3.3%と持ち直しを見込んでおり、その先についての明るい材料ではあるが、
欧米の政治情勢や中東・朝鮮半島における地政学的リスクなど不透明感が根強い中で、この通り実現
するか予断を許さない状況にある。
機械受注の推移(季節調整値、年率、兆円)
輸出数量指数の推移(季節調整値、2010年=100)
6.5
115
6.0
110
5.5
105
5.0
100
4.5
95
4.0
90
※当研究所試算の季節調整値で最新期は1月単月
3.5
製造業
3.0
非製造業
85
80
※最新期は内閣府予想
2.5
米国
EU
合計
アジア
75
2010
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
( 出所) 内閣府
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
( 出所) 財務省
デフレ脱却に向けた動きは足踏み
また、実質 GDP 成長率が 2016 年 1~3 月期の前期比年率+2.3%から 4~6 月期+1.8%、7~9 月期
+1.4%、10~12 月期+1.0%と減速傾向にあることも気になる点である。その結果、10~12 月期の
成長率は内閣府が試算する潜在成長率(前年比+0.8%~+1.1% 1)と概ね同程度にとどまり、需給ギ
ャップは 7~9 月期の GDP 比▲0.5%(内閣府試算)から縮小せず、デフレ脱却に向けた動きは足踏
内閣府の試算(2017 年 1 月 25 日「中長期の経済財政に関する試算」の前提)によると、潜在成長率は 2015 年度の 0.8%
から 2016 年度には 1.1%へ高まる見込み。
1
3
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
みしたことになる。
その上、好調な輸出も反動落ちの兆しが見られる。2016 年 10~12 月期の通関輸出数量指数(前ペー
ジ右図)は、当研究所試算の季節調整値で前期比+3.4%となり、7~9 月期の+1.0%から増勢が強ま
ったが、1 月は前月比▲5.1%と大きく落ち込んだ。その結果、1 月の水準は 10~12 月期を 2.7%下回
っており、1~3 月期は前期比でマイナスとなる可能性がある。仕向地別に見ると、中国向け(前月比
▲11.4%)の落ち込みが目立ち、米国向け(▲5.0%)
、EU 向け(▲5.4%)も減少した。中国向けに
ついては非鉄金属やプラスチックなど素材関連が、米国向けについては部品を含む自動車や鉄鋼の落
ち込みが目立った。1 月は日本の正月休暇や中国の春節など営業日の変動が大きく、単月の数字によ
る基調判断は困難であるが、少なくとも 10~12 月の増勢加速を牽引した中国向けの自動車部品や米
国向けの自動車(完成車)は、中国の自動車減税縮小や米国からの貿易黒字縮小圧力などによる反動
減の可能性を意識しておく必要はあろう。
以上を踏まえると、成長率は 4 四半期連続でプラス成長となったものの、日本経済は力強さに欠き、
先行きに懸念材料を抱えた不安定な状況であると言える。
2. 今後の見通し
日米首脳会談は為替問題に触れず
前号では年内にも「デフレ脱却宣言」が射程圏内に入る可能性は十分あるとした 2が、前章の通り足
元の景気情勢は、その見方に逆行するものである。さらに、米国からの政治的な圧力が、デフレ脱却
への道筋を模索する日本経済に与える影響も懸念されるところである。
2 月 10 日にワシントンで行われた日米首脳会談、その翌日のフロリダでのゴルフなどにおいて、安倍
首相はトランプ大統領と幅広く日米間の問題について話し合ったようである。ただ、事前に懸念され
た日米貿易収支や為替相場の問題に関しては、報道によると両者の間では突っ込んだ議論はなく、こ
れら日米間の経済問題については、麻生副総理とペンス副大統領がトップを務める「経済対話」にお
いて議論されることが決まるにとどまり、事実上、先送りされた格好となった。
初回の「経済対話」は、ペンス副大統領の来日に合わせて 4 月にも開催される見通しであり、①財政・
金融などマクロ経済政策の連携、②インフラ・エネ
為替介入実績の推移(四半期合計額、兆円)
ルギーなどでの経済協力、③2 国間の貿易に関する
16
枠組み、の 3 分野で協議を行う予定とされている。
14
懸案のうち貿易赤字問題については、
「経済対話」に
12
10
おいて米国製品の輸入拡大など具体的な対応策が協
8
議されるとみられるが、為替問題に関しては、①日
6
本が 2011 年 11 月を最後に為替介入を行っていない
4
こと(右図)
、②安倍政権下の円安は日米の景気格差
2
0
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
( 出所) 財務省
詳細は、2017 年 1 月 27 日付「日本経済情報 2017 年 2 月号(景気動向と物価の見通し~「デフレ脱却宣言の可能性」参
照。
2
4
日本経済情報
伊藤忠経済研究所
を反映したに過ぎないこと、③円高が米国の対日赤字縮小につながるとは限らないこと、から協議の
対象とならない可能性が高いと考えられる。
なお、米国が「為替操作国」と認定する基準は、①対米貿易黒字(年間)が 200 億ドル以上、②経常
収支黒字(年間)が GDP 比 3%以上、③為替介入規模(年間)が GDP 比 2%以上、であり、これら
3 条件の全てに当てはまれば制裁発動、うち 2 条件に抵触すれば「監視リスト」入りとなる。この監
視リストは米財務省が年 2 回(4 月、10 月)発表する為替報告書で更新されるが、2016 年 10 月時点
では、日本のほか、中国、韓国、ドイツ、スイス、台湾が名を連ねている。
日本に関しては、2016 年の対米貿易黒字が 689 億ドル、経常収支の黒字幅が GDP 比で 3.8%に達し
ており、いずれも米国の定めた基準に抵触しているため監視リスト入りとなっている。しかしながら、
為替介入については、前述の通りここ数年実施していないため、現在の基準では「為替操作国」とは
ならない。一部には、量的金融緩和を為替介入の実績とみなすのではないかという見方もあるようだ
が、米国側が勝ち取りたい果実は対日貿易赤字の縮小であり、為替相場そのものではない。貿易交渉
で一定の成果が得られれば、トランプ大統領よりも現実的・常識的な判断が期待できるペンス副大統
領が、物価安定のための金融緩和と為替操作とを区別するという G20 での合意事項、すなわち国際的
な常識を無視してまで日本を為替操作国に認定することはないと考える。
米国の「為替操作国」基準(2016年)
項目
基準
日本
中国
判定
対米貿易黒字
200億ドル以上
689
経常収支黒字
GDP比3%以上
3 .8
為替介入( 年間)
GDP比2%以上
0.0
×
韓国
判定
3 ,4 7 0
×
×
1.9
〇
〇
2 .8
×
ドイツ
判定
233
7 .2
N.A.
×
×
〇
スイス
判定
649
8 .6
N.A.
×
判定
139
〇
×
9 .2
×
〇
1 3 .0
×
参考
経常収支
(億ドル)
1,899
2,103
1,003
3,014
612
名目GDP
(億ドル)
49,402
113,619
13,996
34,949
6,625
(出所)各国統計、IMF (注)中国の為替介入額は外貨準備減少額、スイスの為替介入額は2015年の実績、名目GDPは見通し
以上を踏まえると、米国の政治的圧力によって、米国からの輸入はエネルギー(LNG)や食品を中心
に拡大する可能性は十分にあるものの、円高圧力が高まることは避けられよう。そのため、今後のド
ル円相場は、トランプ政権の政策運営が軌道に乗るにつれて米国経済への期待感が再び強まり、徐々
にドル高円安基調に戻るという従来からの見方を修正する必要はないと考えている。一方で、英国の
EU 離脱交渉が本格化することのほか、朝鮮半島や中東などで昨今高まりつつある地政学的リスクや、
イタリア銀行の再建やギリシャの政府債務など欧州で再燃する金融問題により、一時的に円高が進む
可能性が従来以上に高まっており、為替市場がより一層不安定化している点には留意が必要である。
春闘賃上げ率は昨年並み確保も
目を国内に転じると、日本経済の先行きを左右する最大の要因は、先にも指摘した通り、賃金の動向
であろう。今春闘は、2 月中旬にかけて主要産業で組合側の要求提出が本格化しており、総じて前年
並みの賃上げ要求となっている。
一方、経験則上、春闘賃上げ率に影響を与える変数である、物価動向、雇用情勢、企業業績について
見ると、まず、物価動向は、消費者物価(総合)が 10 月以降、前年比プラスに転じてはいるものの、
5
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それまでのエネルギー価格下落や円高進行によるマイナスを反映して、2016 年度通年では前年比で小
幅マイナスとなる見通しであり、賃上げ率を下押しする要因となりそうである。
しかしながら、雇用情勢については、12 月の有効求人倍率(1.43 倍、季節調整値)が 1991 年 4 月以
来の水準まで上昇する中、失業率は 3.0~3.1%から下落が足踏みし限界失業率 3に近づいている可能
性を示唆、12 月調査日銀短観の雇用判断 DI(全産業、▲21)は 1992 年 3 月調査(▲31)以来の不
足超過となっており、歴史的な雇用不足、需給逼迫の状態にあることは周知の通りである。
就業者数と失業率の推移(季節調整値、万人、%)
6,500
有効求人倍率の推移(季節調整値、倍)
1.6
6
1.4
失業率
(右目盛)
1.2
6,400
5
1.0
0.8
6,300
0.6
4
0.4
0.2
就業者数
6,200
2007
0.0
3
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
1990
2016
( 出所) 総務省
1995
2000
2005
2010
2015
( 出所) 厚生労働省
残る企業業績についても、為替相場が円安に振れたことから、主に製造業で業績回復が見込まれてお
り、雇用情勢と併せて賃上げ率を押し上げる要因となりそうである。以上を踏まえると、2017 年度の
春闘賃上げ率は、昨年実績(2.14% 4、定昇込み)程度は確保できそうな状況にある。政治的な要請が
なくとも、4 年連続の 2%は達成できるのと考えられる。
さらに、企業業績の改善が続けば、昨年冬は賃金の伸びを抑制したボーナスが再び増加に転じること
も期待される。その結果、今後も賃金は緩やかながらも上昇傾向を維持し、底堅く推移する株価とと
もに消費者マインドを改善させ、個人消費
の復調に貢献すると予想される。
設備投資は拡大に向かうが牽引役とはな
らず
ただ、設備投資には多くを期待できそうも
民間企業設備ストック循環図
設備投資の前年同期比(%)
15
1.0%
期待成長率
1.5%
2014年Q1
10
2012年Q1
ない。設備投資が一進一退の推移となって
久しい 5が、設備の更新需要や企業の成長
期待に基づく投資サイクルを表現した「ス
トック循環図」(右図)を用いて最近の設
備投資の状況を確認すると、2014 年 1~3
月期に消費増税前の駆け込み需要もあり
設備投資は 2%を大きく上回る期待成長率
2.0%
2018年Q1
2011年Q1
5
2019年Q1
0
2013年Q1
2015年Q1
▲5
▲ 10
2017年Q1
2016年Q1
0.0%
10.0
10.5
11.0
11.5
(出所)内閣府公表資料を基に伊藤忠経済研究所にて試算
3
12.0
0.5%
12.5
13.0
前期のIK比率(%)
求人と求職のミスマッチにより、これ以上下がらない失業率。言い換えると、完全雇用状態における失業率。
厚生労働省「平成 28 年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況を公表します」による。
5 GDP ベースの実質設備投資は、2015 年 1~3 月期に前年同期比で 1%台へ減速して以降、2016 年 10~12 月期までの 2
年間、前期比でプラスとマイナスを繰り返し、前年同期比で概ね 1%前後の低い伸びが続いている。
4
6
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に相当するほどの拡大を見せたが、その後は反動もあって減速、2015 年 1~3 月期以降は期待成長率
1.5%乃至はそれを若干下回る程度相当の緩慢な拡大にとどまり、半ば足踏み状態が続いた。つまり、
1%程度という実際の成長率に比べて少し高い成長を期待して設備投資をやや積極的に行っていたが、
伸びは低かったという評価になる。
こうした分析に基づいて今後の設備投資の行方を展望すると、米国を中心とする海外景気の改善や、
円安進行を背景とする企業業績の改善、国内景気の回復期待など外部環境の好転を受けて、更新需要
を中心に設備投資はしばらく拡大を続けよう。人手不足を受けた機械化需要など前向きな投資も動き
出すとみられる。しかしながら、実際の成長率は 1%台半ば程度までの加速にとどまるため(詳細後
述)、既に 1%台半ばの期待成長率を織り込んでいる設備投資の拡大余地は小さく、2018 年度後半頃
にはピークアウトする可能性が高い。さらに、ピーク時における設備投資の伸びも、期待成長率がさ
ほど高まらないとみられるため、景気を力強く牽引するほどには至らない 6であろう。戦後最長とな
ったリーマン・ショック前の景気拡大局面(2002 年 1 月~2007 年 10 月)では、中国を筆頭とする
新興国への投資ブームを追い風に輸出と設備投資が成長を牽引したが、今回はそうした姿を期待でき
そうもない。
成長率は 2018 年度に 1%台半ばへ
これまで見てきた景気の現状や為替相場、個人消費、設備投資における注目点を踏まえ、景気の先行
きを展望すると、2017 年 1~3 月期の実質 GDP 成長率は、輸出が反動減、住宅投資は前期比で減少
に転じるほか、設備投資は横這い推移が続き、個人消費は緩慢な拡大にとどまるなど、民間需要は総
じて低迷が見込まれる。そうした中で、今年
日本経済の推移と予測(年度)
度 2 次補正予算で具体化された景気対策の執
行が本格化することから公共投資が大幅に増
2014
2015
2016
2017
2018
前年比,%,%Pt
実績
実績
予想
予想
予想
加し下支え役となり、かろうじてプラスを維
実質GDP
▲0.4
1.3
1.2
1.2
1.4
国内需要
▲1.0
1.1
0.6
1.2
1.3
民間需要
▲1.3
1.1
0.6
1.1
1.5
個人消費
住宅投資
▲2.7
0.5
0.6
0.8
1.0
▲9.9
2.7
5.6
▲3.5
▲0.7
設備投資
2.5
0.6
1.5
2.5
2.3
(0.4) (▲0.2)
(0.1)
(0.2)
持する程度にとどまると予想される。その結
果、2016 年度の実質 GDP 成長率は 2015 年
度の+1.3%から若干減速し+1.2%程度にな
る見通しである。
在庫投資(寄与度)
(0.5)
2017 年度は、住宅投資の落ち込みが本格化す
政府消費
0.4
2.0
1.0
1.0
1.0
公共投資
▲2.1
▲2.0
▲0.5
2.7
▲1.1
るものの、個人消費は所得環境の改善を受け
純輸出(寄与度)
輸 出
(0.6)
(0.2)
(0.5)
(0.0)
(0.1)
8.7
0.8
2.2
3.0
3.7
4.2
▲0.2
▲1.1
2.7
2.9
て徐々に持ち直し、輸出は海外景気の好転や
輸 入
円安傾向を背景に増勢を取り戻し、設備投資
名目GDP
2.1
2.8
0.8
1.2
1.6
も緩やかながら明確な拡大傾向となろう。そ
実質GDP(暦年ベース)
0.3
1.2
1.0
1.1
1.4
の結果、実質 GDP 成長率は前年比+1.2%と
鉱工業生産
▲0.5
▲1.0
0.8
3.5
2.0
前年並みを維持すると見込まれる。
失業率(%、平均)
3.5
3.3
3.1
3.0
2.9
経常収支(兆円)
8.7
18.0
20.1
13.6
14.1
消費者物価(除く生鮮)
2.8
▲0.0
▲0.3
0.7
1.0
2018 年度については、住宅投資の落ち込みが
(出所)内閣府ほか、予想部分は当研究所による。
昨年 12 月に行われた GDP や資本ストック統計の大幅な改定により、GDP を 1 単位産み出すために必要な民間資本スト
ック、すなわち資本係数(資本ストック/GDP)がマイナス・トレンドであったことが示された。これが意味するところは、
資本効率の上昇であり、生産性の向上により、GDP1 単位を産み出すために必要となる生産設備などの資本ストックが以前
よりも少なくなったことであり、裏返せば成長を高めるために必要な設備投資は以前よりも少ないということになる。
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日本経済情報
伊藤忠経済研究所
一巡、個人消費が徐々に底堅さを増し、輸出や設備投資は増勢を維持し、実質 GDP 成長率は前年比
+1.4%へ高まると予想する。
こうした景気動向と 1%程度の潜在成長率を前提とすると、2016 年 7~9 月期時点に GDP 比▲0.5%
(内閣府試算)であった需給ギャップ(需要-供給)は、2017 年度終盤に概ね解消することになる。
一般に需給ギャップが解消に近づいた段階で物価上昇圧力は高まり易くなると考えられることに加え、
当研究所が想定する通り、為替相場が円安基調を取り戻し、原油価格が現状程度を維持すれば、消費
者物価上昇率(コア)は 2017 年度後半には前年比で 1%近くまで高まり、デフレからの完全な脱却
への期待感が強まる状況となろう。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊
藤忠経済研究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負い
ません。見通しは予告なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と
整合的であるとは限りません。
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