Feb23, 2017 No.2017-009 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 主席研究員 武田 主任研究員 須賀 淳 03-3497-3676 [email protected] 昭一 03-3497-3678 [email protected] 中国経済:輸出増で景況感は良好ながら乗用車販売の減速が鮮明 に(2017 年 1 月主要指標) 2017 年に入ってからの中国経済は、主に輸出の好調により製造業は良好な景況感を維持、春節期 間の消費もサービスを中心に底堅いが、輸出増は春節の影響もあり、自動車販売は前月比で大幅 減、過剰生産設備の解消も継続されるため、成長ペースは減速に向かう見通し。 1 月は輸出増により良好な景況感を維持 例年 1 月は工業生産、小売販売(社会商品小売総額)、固定資産投資といった主要な経済指標が公表され ないことに加え、年によって日程が変わる春節(旧正月)の影響を受ける 1ため、景気動向の詳細な把握 は困難である。そうした制約の下、現時点までに発表された経済指標から判断する限り、2017 年に入って からの中国経済は、改善傾向は維持しているものの一部に陰りも見られる。 まず、月初に発表された、企業の景況感を表す PMI(担当購買者指数)は、製造業で国内需要は弱含むも 輸出は好調、在庫調整は進展しており、良好な景況感を維持していることを示した 2。 実際に通関統計を見ると、1 月の輸出金額(ドルベース)は前年同月比+7.9%(12 月▲6.1%)と 2 ヵ月ぶり の増加に転じ、持ち直しを見せた。当研究所試算の季節調整値で見ても、前月比+1.0%(12 月▲0.7%)と増 加に転じている。ただし、今年は春節の開始時期が 1 月末に近 仕向地別の通関輸出の推移(季節調整値、百万ドル) く、通常であれば 2 月に出荷されるものの一部が 1 月に前倒し 1,200 6,500 され、1 月の輸出を押し上げた可能性がある点に留意が必要で 1,000 6,000 ある。輸出の基調は 2 月以降の数字も含めて判断すべきであろ 800 5,500 う。 600 5,000 なお、主な仕向地別の 1 月の動向を 10~12 月期との比較で見 400 4,500 ると(当研究所試算の季節調整値) 、日本向けは 5.3%増加し急 200 回復を見せたものの、米国向け(+0.6%)、EU(+0.1%)は 0 小幅増加にとどまり、ASEAN 向け(▲1.0%)は減少した。 日本 EU 輸出全体(右軸) 米国 アセアン 4,000 3,500 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 (出所)中国海関総署 (注)当社試算の季節調整値。最新期は1月単月。 春節消費は好調ながら自動車販売は反動減 乗用車販売は小売販売額の 1 割強を占め、2016 年中は小型車減税を追い風に大幅に拡大し、個人消費を 下支えした。しかしながら、1 月の乗用車販売台数は前年同月比▲0.5%(10~12 月期前年同期比+15.7%) と昨年 2 月以来のマイナスとなった。なかでも、乗用車販売の 66.4%(2016 年)を占める排気量 1.6ℓ以 下で伸びが大きく鈍化しており(12 月前年同期比+20.4%→1 月+0.8%) 、2015 年 10 月の導入以降、乗 用車販売を支えていた減税 3の規模縮小の影響が顕著に表れた。なお、乗用車全体の数字を当社試算の季 2017 年の春節期間は 1 月 27 日~2 月 2 日であり、前年 2016 年の 2 月 7~13 日と比べると 10 日程度早かった。 詳細は、2017 年 2 月 1 日付 Economic Monitor「中国経済:企業景況感は改善続くが内需はやや弱含み(2017 年 1 月 PMI)」 参照。 3 2015 年 10 月に、排気量 1.6 リットル以下の小型自動車購入時の減税措置(取得税率 10%を 5%に半減)が導入され、2016 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 1 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 節調整値で見ると、1 月は前月比▲13.5%(年率 2,220 万台)もの大幅減、12 月も▲9.8%と大幅に落ち 込んでおり、2 ヵ月合わせて 22%も減少しており、減税縮小前の駆け込み需要とその反動落ちが極めて大 きいことが分かる。 一方で、春節休暇期間の個人消費は総じて好調であった。小売 販売 4は前年同期比+11.4%と昨年の実績 (+11.2%)を上回り、 主な観光都市における旅行関連産業収入額 5も+15.9%(2016 自動車販売台数の推移(季節調整値、年率、万台) 3,200 3,000 自動車販売台数 うち乗用車 2,800 2,600 2,400 年+16.3%)と堅調な伸びとなるなど、自動車以外の小売・サ 2,200 ービス消費は底堅く推移している。 1,800 2,000 1,600 物価上昇圧力はやや強まる 1,400 1,200 2011 輸出の拡大や底堅い個人消費により、在庫調整が進展している 物価からも見て取れる。1 月の生産者物価は前年同月比+6.9% 中心とした鉱物資源(12 月+21.1%→1 月+31.0%)が大幅に伸 びを高めた影響が大きいが、衣料品や日用品などの消費財(+ 0.8%→+0.8%)もプラスの伸びを維持しており、需給環境が改 善している様子がうかがわれる。 消費者物価も 1 月に前年同月比+2.5%(12 月+2.1%)へ伸びが 2013 2014 2015 2016 (出所)中国汽車工業協会 (注)当社試算の季節調整値。最新期は1月単月。 様子は、PMI のみならず製品需給のバロメーターである生産者 (12 月+5.5%)と伸び率が一段と高まった。石炭や原油ガスを 2012 生産者物価の推移(前年同月比、%) 10 8 工業製品 うち生産財 うち消費財 6 4 2 0 ▲2 ▲4 ▲6 ▲8 2011 高まった。春節期間が昨年より早く 1 月から始まったため、春節に 2012 2013 2014 2015 2016 2017 (出所)中国国家統計局 上昇する傾向のある食料品(+2.4%→+2.7%)の伸びが高まった ほか、エネルギー価格上昇などによって交通通信(+0.9%→+ 消費者物価の推移(前年同月比、%) 2.3%)や居住(+2.1%→+2.3%) 6でも伸びが高まった。ただ、 12 前月比で見ると 1 月の上昇率は+1.0%であり、最近 5 年間の春節 10 月における上昇率(1.0~1.6% 7)の下限にあることから、1 月の物 8 価上昇は春節の影響による部分がかなり大きいと考えられる。物価 6 の基調判断においても 2 月以降の動向を注視すべきであろう。 4 消費者物価 消費者物価(除く食品エネルギー) 消費者物価(除く生鮮食品) 食料品 2 牽引役の減少により成長ペースは減速へ 2016 年の中国経済は、年後半にかけて住宅、自動車、インフラ 0 2012 2013 2014 2015 2016 2017 (出所)中国国家統計局 投資の 3 分野が牽引役となり、景況感の改善が広がったが、1 月の 経済指標は、これら 3 つの要因のうち自動車が景気の下押し要因に転じたことを明確に示した。中国の自動車 需要を中長期的に見れば、世帯普及率が 30%(2015 年)にとどまり、日本などの先進国と比較すると依然低 水準につき、拡大余地は大きいとみられるが、当面は 2016 年後半の駆け込み需要の反動により、自動車販売 年末まで実施された。2017 年は減税規模を縮小(取得税率 7.5%)して減税措置を延長し、2018 年から通常税率に戻すことと なっている。 4 内訳は通常の小売統計(社会消費品小売総額)と同じであるが、春節休暇終了後すぐに公表されることなどから調査対象のサ ンプル数は少ないと見られる。 5 飛行機や鉄道の利用、観光スポット、ホテル、飲食店などの売上げ。 6 光熱費を含む。 7 最近の春節月の物価上昇率(前月比)は、2016 年 2 月+1.6%、2015 年 2 月+1.2%、2014 年 1 月+1.0%、2013 年 2 月+1.1%。 2 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 は伸び悩み、個人消費の伸びを抑制、関連業種の企業活動へもマイナスの影響を与えると見込まれる。 また、過剰設備解消については、2017 年の政策目標が間もなく発表される見込みであるが、石炭、鉄鋼に加え て、対象業種をセメント、ガラス、電解アルミニウム、船舶など業種を拡大して目標を設定するとの見方もあ るなど 8、過剰設備分野における投資や生産の抑制は 2017 年も景気を下押しする大きな要因となろう。こうし た動きは、2017 年の成長率が 2016 年より減速するとした当研究所の見通しに沿ったものである。 8 2016 年 12 月 30 日付「明年煤钢去产能指标或增一成」 (経済参考報) 3
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